その3・カフェと子供たち
そしてたどり着いたのは、カフェといいつつ、おしゃれというよりは素朴な雰囲気のお店でした。
お城でもそうでしたが、お店にいる店員さんやお客さんも、しおりのような普通の人間とは違う特徴を持った人たちがたくさんいました。
犬や猫、うさぎのような顔立ちをして、頭の上に耳がついていたり、普通の人間のような人でも、耳が長くてとがっていたりします。
「いらっしゃい。お2人様かい?こっちの席にどうぞ。」
お店に入ると、背の高さはしおりくらいですが、見るからに大人のおばさんが声をかけてきました。
「ご注文は何にします?」
席につくと、小さいおばさん店員が注文を聞いてきましたが、しおりはコーヒーは苦くて飲めないですし、他のメニューは見たことのない字で読めなかったので、魔法使いに小声で聞いてみました。
「温かい牛乳はある?」
「大丈夫。それでは、アールグレイの紅茶とホットミルク、それとスコーンを頼むよ。」
「はいよ、では少々お待ちくださいね。」
そう言って小さいおばさん店員がキッチンの方へ歩いていきました。
「頼んだものがくるまで時間もあると思うよ。私はここで待ってるから、ちょっと話を聞いてみたらどうだい?あの人とかちょうどいいんじゃないかな。」
魔法使いが示したのは、窓際で外を見ている、髪の毛が隠れる大きな帽子をかぶった女の人でした。
優しそうな顔をしていて話しやすそうだったので、その人に話しかけてみました。
「こんにちは!ちょっとお話してもいいですか?」
「あら、かわいいお嬢ちゃんね。何かしら?」
女の人は、にっこりとほほえんで迎えてくれたので、しおりはほっとして話を聞いてみることにしました。
「冬の女王様が塔から出てこないって、何でなのかな?みんな困ってるって聞いたんだけど。」
「あの方が自分の意思で塔を出ないというのは、何か塔を出ないことで叶えたいことがあるのではないかしら。それが何かは残念ながらわからないわね。」
「そっかぁ。ところで、あなたもやっぱり冬が終わらなくて困ってる?わたしは冬は楽しいと思うんだけど。」
「そうね、冬が終わらないのは大変だと思うけど、子供は冬が好きだし、春になると仕事が始まって子供と会えなくなるから、子供とふれあえることについてはありがたいと思うこともあるわね。」
「わかった、ありがとう!」
女の人との話を終えて席に戻ると、魔法使いが声を掛けてきました。
「おかえり。いい話は聞けたかな?」
「うーん、お話は聞けたけど、何で女王様が塔から出ないかはわからなかった。」
「それはそうでしょう。あの人が理由を知っていて、それを教えてくれるなら、もう誰かが解決しているだろうからね。」
魔法使いが苦笑いを浮かべたところに、小さいおばさん店員がきました。
「ご注文の品をお持ちしましたよ!」
テーブルの上にホットミルクと紅茶、そして蜂蜜のかかったスコーンが並び、おいしそうな匂いがただよってきました。
「ところであんたたち、王様のお触れを見て女王様を交代させようとしているのかい?」
さっきの話を聞いていたのか、小さいおばさん店員が話しかけてきたので、魔法使いは話を聞くことにしたようです。
「ええ、お時間があれば、少しお話を聞かせてもらえますか?」
「いいとも!いやー、みんな困ってるからね。今はまだ何とかなってるけど、そろそろウチの在庫も心許なくなってきたから、早く春になってほしいもんだよ。」
「やはり皆早く春が来てほしいと思ってるんですね。」
「そりゃそうさ!冬が続いて喜んでるのはほら、外の広場で遊んでいるような子供たちくらいのもんだよ。例えばさ……」
と、小さいおばさん店員はすごい勢いで喋り始めました。
ホットミルクとスコーンを食べ終わってもお喋りが終わる気配がないので、退屈になったしおりは遊んでいる子供たちに混ぜてもらおうと思って外に出ました。
「こんにちは、何してるの?」
しおりが子供たちに声を掛けると、羊の女の子から返事がありました。
「雪で滑り台つくって遊んでたんだ。あなたもやる?」
「いいの?やりたい!」
ほくほく顔で子供たちに混ざるしおりに、うさぎの男の子が話しかけてきました。
「お前、見ない顔だな。どこから来たんだ?」
「わたし、王様のお触れを見た魔法使いと一緒に来たの。」
「へえ、どうなんだ?女王様を交代させられそうなのか?」
「わかんない。冬の女王様が冬を続けたいって思ってるみたいなんだけど、何でかはわからないし。」
「ふーん。ま、大人は困ってるみたいだけど、俺たちはまだまだ冬でいいよな。」
うさぎの男の子の意見に、他の子供たちも続きました。
「冬は大好き!色んな遊びができるし!」
と、羊の女の子。
「冬の間はお母さんといっぱい会えるしね。冬の女王様は話がわかる人だよ。」
しみじみと答えたのはピンクの髪の男の子。
「ちょっとだけ食べるものとか飽きてくるけど、楽しいからな!」
猫の男の子も元気に答えます。
そんなところで、魔法使いがお店の中から出てきました。
「おおい、ひとりで居なくならないでちょうだいよ。びっくりするじゃないか。ちょっと話したいこともあるから戻っておいで。」
「あっ、ごめん。やっぱり遊べなさそう。また今度遊ぼうね。」
「そっか、残念。またな。」
しおりは子供たちと手を振り、お店に戻っていきました。
お店に戻ったしおりに、魔法使いは少し疲れた顔で言いました。
「やれやれ、長い話が退屈なのはわかるけど、遊んでいる場合ではないんじゃないかな。」
「そうでもないよ。ちょっと気がついたことがあるの。」
と、しおりは魔法使いに気がついたことを話しました。
「なるほど、確かに冬の女王様が話に聞いた通りの人なら、そんな事があればこうして塔に長く入っているかもしれないね。でも、どうやったらそんな事ができたのかな?」
「うーん……」
「それに、塔から出ない原因がそれで合ってるとして、女王様の考えを変えるのは難しいんじゃないかな?」
「あ、それはね……」
そうして、しおりと魔法使いはしばらく話し合いをしていました。
「よし、これならうまくいくでしょう。お嬢ちゃんに来てもらったかいがあったよ。」
話し合いの最後に、魔法使いはそう言いました。
「うーん、大丈夫かなあ……」
でも、しおりはまだちょっと不安でした。
魔法使いと話し合いをしている間も、つっかえつっかえで上手に伝えられなかったことが何度もあったからです。
「大丈夫、私にはお嬢ちゃんの言いたかったことは全部わかったから。後は私に任せておいて。」
魔法使いは自信ありげにそう言って、ふたりはもう一度お城に向かいました。
次から解答編になります。
1/17 23:40 人物の描写を修正しました。