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【9】いざ学園へ

「うわぁ……本当にゲームと同じだ!」

 走る馬車の窓から、ゲームの舞台であるトワイライト学園地区が見える。


 山々に囲まれた湖の中心にある、大きな浮島が学園地区だ。

 偉大な魔法使いと精霊が作り出したという遺跡が周囲にはいくつもあり、自然の多くあふれる場所にある。

 島を回るようにゆっくりと道を下っていけば、学園地区の入り口に辿りついた。


「嬉しそうだな、メイコ」

「だって大好きだったゲームの舞台だよ!? やっぱりテンションあがっちゃうよ!」

 勢い込んで言えば、イクシスが面食らった顔になる。


 綺麗に整備された石畳。並ぶ家々は色とりどりだけれど、統一性があってまるでテーマパークのよう。

 いかにも魔法使いという格好の人達や、トワイライト魔法学園の制服を着た少年少女達が街を歩いていた。


 本当にあの乙女ゲームの世界なんだなぁ。

 主人公が放課後にデートしてたのって、このあたりかなと考えるだけで楽しい。

 これで私が本編前に殺されている悪役じゃなくて、用事できてるわけじゃなければもっと堪能できたのに。


 残念に思いながらも、魔法人形の体を解体してくれそうな人と直接会う。

 狂気の錬金術師・ジュメールは顔が広く、研究の傍ら、学園の高等部と大学部で長い間教鞭をとっている。

 そのため、魔法人形に詳しい人を探せば、ほとんどがジュメールの教え子だった。


 彼らが滅多にない依頼で戸惑い、先生であるジュメールに相談されると困る。

 なので、外国から学園に赴任してきたばかりの、高名な錬金術師の先生にお願いすることにした。

 

「おい、なんであいつらは我らの後をついてくるんだ」

 学園側に許可をとり彼の研究室へ向かおうとすれば、私達の後をぞろぞろと生徒達がついてくる。

 興味深々という視線を向けられて、フェザーは居心地が悪いようだ。


「多分竜の俺がいるからだろ。この地区には色んな種族がいるみたいだったから、そのままでも平気かと思ったんだが……人間のふりをするべきだったな」

 失敗したというイクシスは、注目されることに慣れっこのようだった。

 けど私の勘が正しければ……イクシスが見られてる理由は、本人が考えているものとは大分違っていると思う。


 ここは大学部の錬金術学科の研究棟。

 魔法を使った物作りを好む生徒や教師が集まる場所。

 彼らは珍しい材料を集めることに熱意を燃やし、よりよいものを作り上げることに生きがいを感じる。


 つまりがだ。すれ違う生徒達は皆、イクシスの角に熱い眼差しを送っていた。

 彼らの目にはイクシスが歩くレア素材に見えてるんだと思う。

 竜の角はゲーム内でも一度しか手に入らない特別なアイテムだった。


 まぁ、イクシスに本当のことは言わないけどね!

 絶対不機嫌になるのが見えてるし。


 ヒルダが竜の角目当てに異空間で寝ていたイクシスを起こし、無理やり誓約を結んだ。

 その可能性に気づいたときのイクシスは、苛立ちが抑えられない様子だったしね。

 角の話題は、イクシスのトラウマボタンを連打するようなものだ。


 イクシスが彼らの話題の中心に気づかないうちにと、早足で研究室へ向かう。 

 研究室は雑然としているというか、怪しい品で埋め尽くされ薄暗く、妙な香りがする。

 中にいた男は髪もボサボサで、先生と呼ばれるような要素は羽織った白衣くらいのもの。

 胡散臭いというのが第一印象だった。


 これ頼んでも大丈夫かな……?

 一抹の不安を覚えながら、魔法人形の解体をお願いしたいと言えば男は面倒くさそうに髪をボリボリと掻く。


「ワタシ今、研究で忙しいネ。解体してもいいけど、その代わりワタシの研究手伝う、できるか?」

「内容によるな」

 男に見つめられたイクシスが返答すれば、簡単なことネと男は言う。


「ワタシ、外出るの嫌いで劇的に体力ない。だから引きこもれるよう、沢山採取お願いしたい。解体作業が終わるまでの間、部屋の掃除と美味しい食事も欲しイ。報酬はそれでいいネ」

「えっ、それでいいんですか?」

「うん。ただ採取する材料、敵強い場所にある。でも竜いるなら、いけるはずネ。あとその角少し採取させて欲しい」

 確認すれば、期待した様子でイクシスに視線を向けて男は言う。

 あまり、お金に興味がない、根っからの研究者タイプらしい。


「……まぁ、しかたないな。分かった」

「イクシス、いいの!?」

 ため息混じりに了承するイクシスに、思わず声を荒げる。


「別に問題ない。角は切っても一定の長さまで伸び続ける。それにそろそろ長くなってきたんで、整えようと思ってたところだ」

 どうやら角は爪や髪のように、定期的に切ったり削ったりするものらしい。折れても別に痛くないそうだ。


「ただ、切りすぎるとバランス感覚が狂うんだよな。あと格好悪い。角がないのは、人間でいうとハゲのようなものなんだ。なのにヒルダのやつは」

「ところで、採取して欲しい材料って何ですか?」

 前に角を取られたことを連鎖的に思い出したらしい。恨みごとが始まる前にと話を切って目の前の男に尋ねれば、リストを作りだす。


「材料、黄昏の城にしかないものもある。黄昏の城、わかるか?」

 ペンを走らせながら男が尋ねてくる。

 それならよく知っていた。

 乙女ゲーム『黄昏の王冠』のタイトルにも関わる重要な場所だ。


 夕方の時間になると、学園の空には逆さまに浮かぶ城が現れる。

 中には魔物がいて、学園の生徒なら誰でも入ることが可能。

 チャレンジできるのは夕暮れ時だけと決まっていた。


 細かいルールは色々あるけれど、クリアした階から毎回スタートすることができ、夜の時間帯になればチャレンジは終了。

 城の最上階には王冠があり、それを手にすれば、この学園を作った魔法使いと精霊が何でも願いを叶えてくれるという。

 そのため、この王冠を手に入れようと世界各国からこの場所に人が集まってくるのだ。

 

 だがしかし、最上階にいけばいくほど魔物は強くなり難度は当然かなり高く。

 学園創立から今まで、誰も最上階に辿りついた者はいなかったりする。

 攻略キャラのシノノメ先生と隠しキャラの騎士ルート以外は、最上階へ行かなくてもベストエンドへ行けるため、ゲームでは攻略してない人も多い。


 ちなみに私は最上階まで行っている。

 この黄昏の城、時間制限はあるけれど採取にはとても適した場所なのだ。

 夕暮れ時になると、学園から配布された腕輪が光り、念じるだけでどこにいても城へと移動できる。

 学園の外にある採取地と違って、時間をかけていく必要もない。

 階層によって取れる材料が変わるので、城だけで豊富な種類が手に入る。

 帰りも体力を回復させた上で、元いた場所に送り返してくれる……と、錬金術要素を愛する者にとって、とてもありがたい場所だ。


 私のお気に入りである隠しキャラの騎士は、その城で見回りをしていた。

 出会うと回復してくれたり、道具をくれたりするお助けキャラなのだけれど、好感度が高いとパーティを組めるようになる。


 この騎士がまた強くて、パーティを組むと効率がよかったんだよね

 採取ばかりしていると自然と親しくなるというか、愛着が湧くというか。

 大人で渋くて格好よくて……一番好きなキャラだった。


 懐かしいなぁ。

 私がこのキャラと遭遇して喜ぶたび、横でゲームを仏頂面で見てた友達が、これのどこがいいんだなんて言ってたことを思い出す。

 そのたびに魅力を語って聞かせれば、オレのほうがこいつより強いし、お前を守れるだのよくわからないことを言って張り合ってたっけ。


「学園の生徒一人いれば、外部の人間も城に入れる。竜いれば高いところまで行ける思うだろうから、誘えば喜んでオッケーするネ」

 思い出に浸っていたら、リストを書き終えた男がそれを手渡してきた。


「城の何階まで辿りつけたかは、生徒の成績に大きく影響するからね。強い者を連れていきたがる生徒が多いのよ」

「成績に関わるなら、それはズルっていわないか? こういうのは自分の力だけでやるものだろ」

 男の言葉を補足すれば、イクシスが首を傾げる。


「まぁそうなんだけど、そのあたりも考えられてるから大丈夫よ。人の力を借りる子は、一人でクリアする条件のある階層で先に進めなくなるし、実力はすぐにバレるのよ」

 一人でクリアしないといけないルール付きの階層が時折あることを説明すれば、イクシスはそういうことかと納得したようだった。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●


「この採取リストからすると、城の四十階付近が一番効率的ね」

「そんなことまでわかるのか?」

「まぁやりこんだし、最上階まで行ったからね。城の内部もばっちりわかるわ」

 ふふんとちょっぴり得意げになって答えれば、フェザーが思いの外尊敬した眼差しを向けてくる。


「別の世界とはいえ、あの黄昏の城をクリアしたなんて凄いぞ! 前に我に見せた魔法といい、元の世界では優秀な魔法使いだったんだな!」

「まぁゲームの中でだけどね?」

「ゲーム感覚でということか。さすがは我が妻だな!」

 苦笑して言えば、フェザーが大げさに驚く。


「えっとねフェザー、そういうことじゃなくて……」

「謙遜しなくていい。我はお前を誇らしく思う」 

 あれ? なんか会話が食い違ってる。

 どう誤解を解いたものかと考えていたら、私達を遠巻きに見ていた生徒の一人がざっと私達の目の前に立ちはだかった。


「よければ俺とパーティを組んでもらえないでしょうか!」

 大学生くらいの青年が私の前に立って、ばっと手を差し出して頭を下げてくる。

「……えっ、私!? 隣の竜じゃなくて!?」

「はい! 失礼ながら、話は聞かせてもらってました! 城に入りたいんですよね。三十八階までクリアしてますし、喜んでお供させていただきます!」


 意気込んでいう青年の顔は真っ赤だ。

 熱っぽい視線とわかりやすい好意に、今の私はヒルダなんだったと思い出す。

 なるほど、ヒルダの美貌に一目惚れしたらしい。


 パーティを組むのは三人までで、生徒が一人いれば外部の人間を連れていってもOK。

 組む生徒の中でクリアした階層が一番低い者に合わせて、入れる階層が決まる。

 願ってもない申し出だった。


「よかったそれなら」

「ダメだ。こいつは我が妻を見る目がいやらしい」

 渡りに船だと思ったのに、フェザーがむっとした顔でばっさりと申し出を断ってしまう。


「ちょっとフェザー! 折角連れていってくれる人見つけたのに!」

「この中に三十階までクリアしていて、我らとパーティを組んでもよいという者は手をあげろ! 四十階まで連れていってやる。できれば女が望ましい!」

 抗議する私を無視し、フェザーは周りにいる生徒達を見渡して大きな声を出す。

 手が上がった中から、フェザーは三十階までクリアしているという大人しそうな女の子を選んだ。


「これで問題ないな」

 女の子の手を引き私の前に連れてきて、フンとフェザーが鼻を鳴らす。

 彼女はエルザというらしく、高等部の二年生らしい。

 幼い顔立ちで小柄。おどおどした様子が小動物を思わせる女の子で、一見すると十二歳のフェザーより年下に見えた。


「いやまぁそうだけど……よろしくねエルザちゃん」

「は、はいっ! よろしくお願いします!」

 挨拶すれば、恐縮したようにエルザちゃんが深々と頭を下げた。



■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


★本編との違い

◆黄昏の城へ行くことになっている。

投稿遅れてすみません。

ネットの調子が悪いのか、用意したものを修正していたら反映されなくて、手間取ってしまいました。

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 お相手が別の本編「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」「オウガIFルート」もあります。 よければどうぞ。
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