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【37】ゆっくりと歩幅を合わせて

 私が帰ってきてから、半年。

 フェザーがトワイライト魔法学園を卒業し、私はヒルダから正式にオースティン家の当主の座を譲り受けた。


 あれからフェザーは休みのたびに屋敷に戻ってきて、私と一緒に過ごしていて。

 恋人らしくデートを重ねたりしていた。

 とはいっても、手を繋ぐまでしかしてなくて……キスは再会した日のあの一度っきりだけだったけれど。


 甘い雰囲気はある。

 でも、少年の頃のフェザーと過ごしていた時間と、そう代わり映えしなかった。


 あのとき、私に覆い被さってきたフェザーは寝ぼけていたんだろうな。

 きっと、そのときのことを覚えてすらいないんだろう。

 そう思うと、ちょっと残念なような……別に不満があるわけじゃないけれど、こう釈然としない。


「主、何か考え事か?」

「ひゃぁ!?」

 いきなり目の前にぬっとフェザーの顔があって、驚いて飛び退く。


「何か悩み事でもあるのか? 折角のデートなのに、最近の主はときどきそうやって上の空だ」

「ううん! 何も悩んでないよ。大丈夫! ぼーっとしてごめんね!」

「それならいいんだが……飛ぶ必要があるから、抱きかかえるぞ」


 よっと軽くフェザーが私の体を横抱きにする。

 こういう瞬間に、フェザーがもう少年じゃないんだなと思い知らされる。

 力強く抱きかかえられて、フェザーが辿り付いた先は木の上だった。


「うわぁ……」

 目の前に広がるのは、私達の領土。

 大きな幹に並んで座って、しばらく街を眺める。

 以前はスラム街だったはずの場所が、今では街灯の灯る商業地域になっていた。

 街には活気が溢れて、薄闇のこの時間はあちらこちらにランプの明かりが灯っている。


「これらはすべて、主が創り上げたものだ。暗い顔をして俯いていた民が、今ではこんなにも明るい顔をしている」

「皆が頑張ったからだよ。私がいたときはこうじゃなかったもの」

「主が皆を変えたから、今があるんだ」

 感謝していると、フェザーが私を見つめてくる。


「我は、主に……メイコに出会えてよかった」

 そっと手を重ねて、フェザーが私の名前を呼んだ。

 それだけで胸がいっぱいになって、息が詰まる。


「これからも我は、メイコの側にいたい。一緒に変わっていくこの領土や人々を見ていたんだ。だから、改めて我の妻になってほしい」

 ゆっくりと私の手をとって、その先にフェザーが口づけを落とす。


「こんな私でよければ……よろしくおねがいします」

 赤くなる頬の熱を感じながら頷く。

 フェザーは嬉しそうに微笑んで、私を抱きしめてくれた。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●

 

 元々奴隷身分のフェザーだったけれど、魔法学園を卒業したことで平民の身分を手に入れていた。

 オースティン家の当主になっている私と結婚するのに、身分の差はありはするけれど、問題はない。


 結婚式の日取りがトントン拍子に決まって。

 ふと、私は気づいたことがあった。


 獣人は想いを寄せる相手と体の関係を結ぶと、完全な大人になる。

 結婚すれば、フェザーは当然大人になるわけで。

 少年の姿のフェザーが見納めかと思うと……結構寂しいものがあった。


「ねぇ、フェザー。今日は一日、少年の姿で過ごさない? もう少しで見られなくなるんだって思うと、ちょっと寂しくて」

「何を言ってるんだ。すでに我はメイコに大人にしてもらっただろう。子供の姿にはもうなれない」


 日曜日の昼下がり。

 のんびりとソファーでくつろぎながらお願いしてみれば、真顔でフェザーがそんなことを言う。


「……えっ?」

「まさか……覚えていないのか?」

 ありえないというように、フェザーが目を見開く。


 私の記憶では、恋人同士になったのに口づけすら満足にしていない、清い関係だったはずだ。

 思い当たるふしが全くない私に、フェザーがむすっとした顔になった。


「再会した日に……床を共にしただろう。体を重ねて、口づけを交わしあった。メイコは……覚えていなかったんだな」

 我にとっては重要なことだったのにと、フェザーが呟く。


「えっ、いや覚えてるけど……」

 けれど、本当にそれだけだ。

 その後すぐに、私の上でフェザーは寝てしまって、それ以上のことは何もなかった。


「最初に床を共にしたとき、メイコは我を愛してはいなかったし、我も……たぶん惹かれはじめてはいたと思うが、今ほどではなかった。だが、あの日は……気持ちを確かめあって、口づけを交わし抱き合って眠ったからな。もう我は立派な大人なのだ」

「……」


 思わず何も言えなくなる。

 まさか、五年も経っているのに……フェザーがピュアなままだとは予想外だった。

 きっと私の元にたどり着くために、脇目も振らずに頑張ってきてくれてたんだろう。


「えっとねフェザー……悪いんだけど、まだフェザーは大人になりきれてないと思うわ」

「それは……どういう意味だ」

 言えば、フェザーが眉を寄せる。


「誤解しないでね! 私はフェザーのこと大好きだし、フェザーの愛情も十分に感じてるんだよ? ただその、抱き合って眠るっていうのは……そういうんじゃないっていうか」


 前にもこんなやりとりがあったような。

 そう思えば、何だかおかしくて笑いがこみあげてきた。


「ううん。やっぱりなんでもない」

 まぁいいや。

 ……少しずつ、進んでいけばいいよね。


 だって、これから先もフェザーと一緒にいられるんだから。

 焦る必要はどこにもなくて、私の居場所はここにある。


 指を絡めて手をにぎれば、フェザーがにぎりかえしてくれる。

 いつだって尊敬の視線を向けてくれるから、それにふさわしい自分でいられる。

 甘やかして、褒めてくれて。

 フェザーの側は、とても居心地がいい。


「フェザー」

「なんだ……んっ!?」

 ちゅ、とその唇に自分からキスをする。


「な、ななっ……主!?」

 驚きすぎて、主呼びに戻ったフェザーが翼をはためかしている。

 戸惑った顔がたまらなく可愛い。


 まぁ……でも、これくらいは進んでもいいんじゃないだろうか。

 もう一度、ねだるようなキスをすれば、フェザーも恥じらいながら応えてくれて。

 初心な子をたぶらかしているような気分だなと思っていたら、いつの間にか攻守が逆転していた。


「ん、ふ……っ!」

「先にしかけたのは……主なんだからな……?」

 ぞくぞくするような、フェザーの艶っぽい声。

 眠っていた何かを起こしてしまったかもしれないという予感はしたけれど。

 頬に添えられた熱い手に、身を委ねた。

ラストまでお読みいただきありがとうございます!

これで一旦フェザーのifルートの方は終了となります。


オウガとイクシスはどうなったのかとか、そういうエピローグ的なのも考えておりますが……公開まで少し時間がかかりそうなのと、ちょっとほろ苦い感じになりそうです。


重ね重ね、ありがとうございました!

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 お相手が別の本編「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」「オウガIFルート」もあります。 よければどうぞ。
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