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【16】兄との再会と、提示された条件

 シアード商会がやってくる日、その港街はかなりの賑わいを見せていた。


「まるでお祭り騒ぎね……」

「お祭り騒ぎっていうか、お祭りなんだろ? 明日は収穫祭だからな。シアード商会の目当ては、刈り取った穀物を安くで大量に仕入れることなんだろうな。安くで買って、他のところで高く売るのは貿易の基本だ」

 一緒についてきたイクシスが説明してくれて、なるほどなと思う。

 色んなところを旅してきたイクシスは、こういう知識が豊富のようだった。

 

「兄上はどこにいるんだろうか……こう人が多いと、探し出せない」

「相手は商売に来てるからな。たぶん、賑わってるところにいると思うぞ。おっ、このイベントはいいんじゃないか?」

 人の多さにうんざりしたようなフェザーに、イクシスがポスターを指さす。

 シアード商会主催、魚の解体ショーと書かれていた。


「さぁさぁ皆さんお立ち会い! ここにいる少年がこの巨大魚を見事さばいてごらんに入れます!」

 のびのびと通る男の声がして、そちらに目を向けるけれど人が多くてよく見えない。


「様子を見てくる!」

 いても立ってもいられないという様子で、鷹の姿に変身したフェザーが空を飛んで前の方へと行ってしまった。

 ぴょんぴょんと飛び跳ねていたら、イクシスが私を高く抱き上げる。


「なっ、イクシス!?」

「このほうが見やすいだろ。どうだ、いるか?」

 手を広げたくらいの巨大魚を前に、包丁を構えているのは十歳そこらの少年だ。

 やんちゃそうなその顔は、ゲームの攻略対象のセスタ・シアードだった。


「ゲームにでてきたシアード商会の子がいる。今から彼が魚をさばくみたい……」

 イクシスに説明しながら、フェザーの兄の姿を探す。

 横にそれらしき少年の姿を発見した。


「いた、いたわ、イクシス!」

「わかった、わかったから。頭を叩くな!」

 つい興奮してペシペシと頭を叩けば、怒られてしまう。


「なんなら、俺達も空飛んで近くで見学するか?」

「いや……それはいいかな。絶対解体ショーより、皆こっちに目が行っちゃうと思うし」

 ここは人が多い街で、今日のイクシスは翼や角を隠す魔法を使い人のふりをしていた。

 竜が現れたら、ショーどころの騒ぎじゃなくなるのが目に見えている。


 セスタ少年は、ゲームと同じく風を第一属性としているらしい。

 その力と包丁をうまく合わせて、魚をさばいていた。

 横にいるフェザーの兄・ヴィーが、時折水の魔法を使って、魚から出る血を上手く除去しているみたいだ。


 解体が終わった魚は、無料で食べられるらしい。

 食べたいな……と思ったところで、フェザーが兄であるヴィーの肩にとまったところが見えた。


「どうやらうまく接触できたみたい!」

「そうか、それはよかったな。待ち合わせ場所と時間は決めてあるし、放っておいてもそこにくるだろ。取りあえず、魚でも食べるか」

 イクシスと一緒に列に並び、魚を堪能する。


 炙りよりは生の刺身の方が美味しかっただろうなと言えば、イクシスは驚いていた。

 魚を生で食べるのは一般的ではないので、私がその食べ方を知っているとは思わなかったらしい。


「メイコの国では魚を生で食べるんだな。竜族もそうなんだ」

「何を付けて食べるの? 私の国では醤油っていう、豆を発酵させてつくった調味料に付けて食べるんだよ」

 竜族の国の食文化は、日本とよく似ているようだった。

 共通点を見つけると楽しくて、色んなことを話しながら街をまわる。


 待ち合わせの時間近くになって、噴水前でイクシスとおしゃべりしていたら、私達の前に馬車が止まった。

「ヒルダ様と、イクシス様ですね。シアード商会の者ですが、主人が別荘に案内したいとのことです」

 招待を受けて馬車に乗り込む。

 着いた先は、それなりに豪華な屋敷だった。


「よくいらっしゃいました。僕の弟が世話になったようで……ありがとうございます」

 礼儀正しく挨拶してきたのはヴィーだ。

 青灰色の髪は、耳元の一房だけ赤と緑が混じる色。

 おっとりとした雰囲気で微笑まれて、いえいえこちらこそと返した。


「主、こちらは我の兄上のヴィクターだ」

「はじめまして、ヒルダ・オースティンです。フェザーからお兄さんの話は聞いてました」

 フェザーに紹介されて、微笑みながヴィーと握手を交わす。

 ゲーム内のキャラだったあのヴィーが目の前にいて、握手してるんだと思うと……少し変な感じがした。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 夕食をごちそうになりながら、シアード商会の屋敷で過ごす。

 フェザーはヴィーの隣で嬉しそうだ。

 兄上、兄上と甘えた表情を見せていて、ヴィーはそんなフェザーを慈愛に溢れた瞳で見つめていた。


「仲のいい兄弟だね」

「あぁ本当にな」

 私の呟きに、横にいたイクシスがふっと笑みを漏らす。


「……もしかして、イクシスも兄弟がいたりする?」

「言ってなかったか? 俺は九人兄弟の丁度真ん中なんだ」

 九人って結構な数だ。

 しかも、聞けば全部男兄弟らしい。

 そもそも竜族は男しか生まれないとのことだった。


「男しか生まれないって、それだとお嫁さんはどうするの?」

「……人間の女を竜族にして、それから娶るんだ」

 へぇそうなのかと思っていたら、ふと視線を感じた。

 ヴィーと喋るのに夢中になっていると思っていたフェザーが、こちらを不機嫌な顔で睨んでいる。


 何でそんな顔をされてるんだろうと思ったところで、ヴィーが今晩は泊まっていってくださいと言ってきた。

「領土に帰るまでには遅くなってしまうでしょうし、用事がないのならぜひ」

「じゃあそうさせてもらおうかしら」

 行きはともかく、帰りは空間を通ってさくっと帰ることができたのだけど、その申し出を受けることにした。


 折角お兄さんに会えたんだから、フェザーも語り合う時間が欲しいはずだ。

 案内された部屋へ行けば……普通にイクシスと同室だった。

「えっと……これは?」

「夫婦だと思われてるみたいだな。ダブルベッドだし、気をきかしてくれたんだろ」

 動揺する私に対して、イクシスはあまり気にした様子もない。

 魔法を解いて竜族の姿に戻ると、無造作にソファーへと座った。


「お酒も自由に飲んでいいらしい。これ珍しい奴だぞ? 飲むか?」

「なんでそう楽しそうなの! 一緒のベッドなんだよ!?」

 イクシスはテーブルの上に置いてある酒瓶を手にとっている。

 私が叫べば、少し驚いた顔をしてから、あぁそういうことかと言って近づいてきた。


「な、何よ」

 ちょっと距離が近んじゃないか。

 思わずドキドキとしていたら、イクシスがつっと人差し指で私の鼻を押してきた。


「俺に何かされるかも、って思ったか? 安心しろお子様には全く興味がないから。自意識過剰ってやつだ」

 イクシスは意地悪くニヤニヤとしている。

 

 思わずドキドキしてしまった気持ちさえ、伝わってしまっていたんだろう。

 恥ずかしいし、何よりも悔しかった。


「もう本当、性格悪い! お子様って何よ。私二十歳は超えてるんだからね!?」

「ははっ、ちょっとからかっただけだろ。お前ってすぐ顔にでるな……って、尻尾を引っ張るな!」


 ムキになるのは子供の証拠だろうがと言ってくるイクシスに構わず、尻尾をぐいぐい引っ張っていたら、ガチャリと部屋のドアが開いた。

 入ってきたフェザーが、じゃれる私達を見てむすっとした顔になる。

 ずかずかと割り込んできたかと思ったら、私達を引き離した。


「手違いで同じ部屋になっていたようだが、イクシスの部屋は隣だ!」

 それをわざわざ伝えにきてくれたようだ。

 ほっとした私に、別にこれでよかったのにとイクシスがとんでもないことを呟いた。


「な、ななっ……何を言ってるのイクシス!」

「貴様……」

 動揺する私と苛立つフェザーに、そういうことじゃないとイクシスは肩をすくめた。


「竜族は異空間に自分の部屋を持ってるんだ。だから、部屋なんて用意してもらわなくてもいいんだよ。屋敷にだって俺の部屋はないしな」

「えっ、イクシスの部屋……屋敷にないの?」

 思わず呟けば、知らなかったのかと呆れた顔をされてしまった。


 そもそも呼べば空間から現れるイクシスなので、部屋をわざわざ尋ねる必要が今まで全くなかったのだ。

 学園近くの街に滞在したときも……思い返せば、イクシスの部屋はなかった気がする。


「だったら最初からそう言ってよ!」

「いや、メイコってからかうと面白いからつい」

 イクシスときたら、全く悪びれる様子がなかった。

 


●●●●●●●●●●●●●●●●●●


「ん……?」

 早朝、荒々しいノックの音で目を覚ます。

「ちょっといいか、客人」

 こっちが許可する前に部屋に入ってきたのは、セスタ・シアードだった。


 健康的に焼けた肌にオレンジ色の髪がよく似合っている。

 にっと笑う顔は人懐っこく、警戒心を抱かせなかった。


 せめて着替える時間がほしいと言えば、セスタは素直に外で私の支度が終わるのを待っていてくれた。

 散歩に誘われて着いていけば、温室に案内される。

 そこには珍しい草花が咲いていた。


「わぁ……綺麗」

「いいだろ? 南国の植物なんだぜ? 魔法で快適な室温に保たれているから、一年中咲いていられるんだ」

 まぁそれは別にいいんだが、とセスタは本題を切り出した。


「ヴィーは俺の親父が助けた獣人だ。獣人はこの国では人権がないが、俺達の国では尊重されている。大事なパートナーなんだ」

 その言葉の端々からは、個人ではなく動物として扱うこの国への嫌悪が感じられた。

 私もそういう人間じゃないかと、セスタは疑っているらしい。


「ヴィーは俺の兄弟みたいなものだ。そんなヴィーの兄弟も、俺の兄弟といえる。だからできれば、あのフェザーってやつを引き取りたい」

「……えっ?」

 そんな話をされるとは思わなかった。

 戸惑いを口にすれば、さらにセスタは続ける。


「金なら出す。小遣いなら結構もらってるし、商人の息子だから自分でいくらか稼いでもいるんだ。本当は獣人を……金で買うなんてしたくないけどな。俺の全財産、3000万フィリオでどうだ?」

「ちょっと待って! フェザーを売る気はないわ!」

 一般的な家が買える金額を提示されて、慌てて口にする。

 やっぱりそう簡単にはいかないかと、セスタは溜息を吐いた。


「そっちの提示する金額を飲もう。だが、悪いが出世払いにしてくれ」

 真顔で出世払いなんていうセスタは、どこまでも本気なんだろう。

 私が提示された金額に不満があると思っているみたいだ。


「フェザーは大切な家族よ。金で売り買いなんてしない!」

 きっぱりと言った私の剣幕に、セスタが目を見開く。

 それから、ははっと笑った。


「俺はどうやら思い違いをしていたらしい。あんたは、獣人を動物と思っている連中とは違うみたいだな」

 友好的に砕けた雰囲気で、にっとセスタが笑いかけてくる。


「この国の連中は獣人を動物扱いしてるし、フェザーは首輪をしていたからな。酷い目に遭わされてるんじゃないかと勘違いしたんだ」

「首輪は……してないと、他の誰かに持っていかれちゃうのよ。あれがあれば、私のものだってことで、誰も手を出さないから……」


 獣人の子達には、首輪を付けている。

 本当はそんなもの付けたくないけれど、それで彼らが守れるのもまた事実だった。


「あんたは、フェザーのことを大切に思ってるんだな。だったら話が早い。あいつを俺のところによこしてくれ」

「どうしてフェザーを……あなたに渡さなくちゃいけないの?」

 自分でも驚くほどに、不機嫌な声がでた。


「あんたの国は窮屈で、獣人は生きづらい。俺の国には身分制度なんてものはないから、フェザーが自由に生きられる。それに、兄と一緒のほうがあいつにとっても幸せだろ?」

 考えればわかることだと、セスタは口にした。

 自分のいうことに間違いはないという、根拠のよくわからない自信が彼からはあふれ出ている。


 まるで私のところにいると、フェザーが不幸だとでも言わんばかりだ。

 ゲームでは結構好きなキャラだったのに、セスタは思っていた以上に強引で俺様だった。

 確かに彼の言うとおりかもしれないとは思う。

 でも……素直にそれを認めたくはなかった。


「フェザーは、うちの子ですから」

 それだけ告げて、踵を返して。

 私は温室を後にした。

★12/25 本編のほうの設定や、没になったルートの設定が混じっていたため、修正しました。

獣人の国へ行った発言と、ヴィーがお気に入り設定あたりです。すみません。

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 お相手が別の本編「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」「オウガIFルート」もあります。 よければどうぞ。
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