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【15】使い魔の真実

「以前頼まれた、フェザーの兄かもしれない少年が見つかりました!」

 執務室で書類を片付けていたら、クロードが嬉しそうにそんなことを言ってきた。


「本当!?」

 思わず、ひったくるようにして調査書を受け取って確認する。


「フェザーが兄と別れた街で聞き込みをしたところ、シアード商会のトップに立つ男が鳩の獣人を連れていると多くの人が証言しています。その鳩の獣人が見かけられるようになった時期からしても、フェザーの兄である可能性は大きいかと」

 クロードは褒めて欲しそうだったけれど、私はシアード商会という名前が気になってそれどころじゃなかった。


 シアード商会は、水と貿易の街ウンディーアを仕切っている大規模な商会だ。

 ゲームの攻略対象である上級生、セスタ・シアードの生家でもある。


 セスタには従者であり親友のヴィーという子がいて、彼もまた攻略対象の一人。

 人のふりをして学園に通っているヴィーの正体は、鳩の獣人だったりする。


 ヴィーの獣姿は、カワラバトとか言われる種類のものに近く、灰青色の体の鳩。

 胸の部分には緑とピンクの光沢があり、庭先にいる普通の鳩なのけれど、胸のピンク色の部分がハートの形をしていた。

 

 ヴィーは主人であるセスタのお使いで、よく主人公のバイト先である錬金術ショップに鳩の姿で現れるのだけれど。

 主人公は胸のピンクの部分がハートに見えるからと、ヴィーに『ハートちゃん』というセンスの欠片もないあだ名を付け可愛がるのだ。


 庶民でありながら、魔法の基本六属性を持つ異質な主人公は、周りからは奇異の目で見られ、友達がなかなかできない。

 そんな主人公の心の癒やしとなるのが、ヴィーことハートちゃんだ。

 彼は主人公のよき談相手となり、かけがえのない友達になっていく。


 主人公が二年生に進級したところで、ヴィーは大人姿で主人公の前に現れる。

 冒険のしすぎで出席日数が足りず、留年した主のセスタと一緒に主人公と同じクラスになるのだ。


 初めて会うはずなのに、ヴィーは主人公に好意的で友達になってほしいという。

 主人公は戸惑いながらも人の姿をしたヴィーと打ち解けていき、段々と気持ちを自覚していく。


 けれどヴィーは自分が獣人で、ハートちゃんであることを隠していて。

 それを言い出せずに……みたいなストーリーとなっている。

 セスタの好感度によっては切ない三角関係もプラスされ、やきもきする甘さたっぷりのこのルートは人気があった。


 まさか、ヴィーって……フェザーのお兄さん?

 そんな偶然があるのかと思いながら、報告書をめくる。

 鳩とその少年姿と思われる絵が描かれていて、これはヴィーだなと確信する。

 

 そういえばゲーム内で、ヴィーは弟がいると言ってたっけ。

 ヴィーの弟はアベルの屋敷で働いていて、それでアベルのことは学園に入る前から知ってるんだって、言ってた気がする。


 もっと早く気づこうよと脱力する。

 こんな身近にフェザーの兄がいるなんて、思ってもいなかった。


「シアード商会は貿易商で、手広く色んな国と商売をしています。ちょうど、三日後に近くの港にやってくるみたいですよ。フェザーと行ってみてはどうでしょうか」

「うん、そうしてみるよ。ありがとう、クロード!」

 お礼を言って執務室を出て、フェザーの姿を探す。


 庭にも部屋にもフェザーはいなかった。

 もしかしてと思って図書室へいけば、フェザーは勉強をしていた。

 

「フェザーまた魔法のお勉強?」

「あぁ。我は主の使い魔として、胸を張れるくらい強くなりたいからな」

 最近のフェザーは、魔法の腕を磨くことに一生懸命だ。

 その頑張りはとても嬉しいことなのだけれど……どこか焦っているようで、余裕がないようにも見える。


 魔法関連の書物を読みあさり、暇があれば魔法の練習。

 私とのお茶の時間以外は、こうして勉強しているんじゃないだろうか。

 どことなく疲れているというか、顔色も悪かった。


「フェザー、頑張るのはいいけど息抜きも覚えなきゃ」

 本を読んでいるフェザーの横に座る。


 よくも悪くもフェザーはまっすぐで、これと決めたことに全力を注ぐ。

 それ以外は目に入らなくなることがあるから、ちゃんと見てなきゃ無理をする。

 私にはよく休めと言って、お茶に誘って無理矢理休憩を取らせたりする癖に、自分のこととなると無頓着だ。


 主と使い魔になって、フェザーは私の側にいることが多くなった。

 そういう性格も、ちょっとわかってきたつもりだ。


「焦らなくてもフェザーは十分やってくれてるわ。ゆっくり頑張っていけばいいのよ。フェザーは十二歳で、これから時間はたっぷりあるんだから」

「……それでは遅いんだ。我は主を守れるようになりたい」

 フェザーは本に目を落としたまま呟く。


 どこか苦しそうな声。

 どうしてそんなに思い詰めてしまっているのか、私にはわからなかった。

 

「フェザーはちゃんと守ってくれてるでしょ? この前の王子との魔法対決のときも、王子の攻撃から私を助けてくれたじゃない」

 乙女ゲーム『黄昏の王冠』の攻略対象で、残念なことで有名なレビン王子。

 領土で蔓延していた奇病の元を辿れば、原因は彼だった。


 隣の領土にある山で大量に発生していた、コケガシラという魔物。

 頭にコケが生えていて、一般的には知られていないけれど、頭のコケに電撃を加えると毒性の強い特殊なコケが発生する。

 レビンが倒したコケガシラを放置し、そのコケから流れ出したエキスが奇病の元になっていたのだ。


 そのときのいざこざで、何故か私とレビンが魔法対決をするという話になったのだけれど、レビンは姑息だった。

 試験獣をそれぞれの魔法で倒す。単純明快なルールなのだけれど……レビンのときは大人しかった試験獣が、私の番になって襲いかかってきたのだ。


 私の詠唱は長く、攻撃をかわしながらでは困難で。

 もうダメだと思ったとき、フェザーが乱入して私を助けてくれた。

 レビンには幻獣という魔法を使える生き物がついているのだから、私に使い魔である自分が加勢してもおかしくないはずだ。

 そう言って一緒に闘ってくれて、おかげで無事に試験獣を倒すことができていた。


「それにこう見えて私もやるときにはやるんだから! フェザーは自分の主を信じてはくれないの?」

「信じてはいる。主が強い人だと我は知っている。我が恐れているのは……」


 切なげにフェザーの瞳が揺れて、私を映す。

 どことなく大人びた表情。

 最近のフェザーは、私の知らない顔をする。

 ドキリと胸が音を立てた。


「なぁ、主はどんな男が好きなんだ。イクシスみたいな強いやつか? それともクロードみたいな物腰の優しいやつが好きなのか?」

「な、なんでそこでその二人が出てくるの!?」

「主と親しい大人の男だからだ。どうなんだ」


 フェザーが身を乗り出してくる。

 その瞳は真剣で、はぐらかすなというふうに鋭い色を帯びている。


 私がよく危険な目にあうから、早く大人になってしっかり守らなきゃと焦っているのかもしれない。

 今のところ順調な生活の中でも、暗殺者は月に少なくても二・三人やってくる。

 使い魔の自分が頑張らなくちゃいけないのにと、フェザーは思っているのかもしれなかった。


「ねぇ、フェザー。私はフェザーの頑張り屋なところや、真っ直ぐなところが好きよ。誰かの真似をする必要はないと思うし、そのままでいてほしい」

「主……」

 フェザーが嬉しそうに私を呼んだ。

 少しわかってもらえたかなと、優しく髪を撫でる。


「それにね、イクシスやメアがしっかり守ってくれているから、フェザーはそんな心配しなくていいのよ? それに確かにフェザーは私の使い魔だけど……元々私は、フェザーを使い魔にしようと思っていたわけじゃないのよ」

「それは……どういうことだ?」


 フェザーは責任感の強い子だ。

 いつの間にか、重いものを背負わせてしまっていたんだなと反省する。

 今のフェザーになら、全部を話してもいいかと思った。


 ギルバートへの再会を餌に、命をかけた誓約を私はフェザーに迫った。

 その誓約は、フェザーを処分することなく、私に従わせるための大嘘だったのだけれど……手違いが起きて使い魔にしてしまった。

 包み隠さず全てを話して、フェザーの手の甲にある使い魔の証に手を伸ばす。


「全部偽の契約だったの。だから、私を守って従う義務はフェザーにはないのよ。魔法の力はフェザーにあげたものだから、そのまま使っていいわ。私の使い魔として縛られずに、自由に生きてほしい」


 思っていることを伝えて手を離せば、フェザーは俯いてしまう。

 表情は見えない。

 もしかしたら騙していたことを怒っているんだろうか。


「……主は、いつもそうだ」

 怒ったような声でフェザーが呟き、私を見据える。

 鋭いフェザーの瞳はいつだって力強くて、私を射貫いてくるけれど、今は苦しげに揺れていた。


「我をその気もなく救い上げて、離れがたくしておいて……肝心なところで突き放す」

 ぐっとフェザーが唇を噛みしめる。

 責められていると、強く感じた。

 これ以上無理はしてほしくなくて、私に縛り付けないために口にした言葉が、何故かフェザーを傷つけてしまったようだった。


「フェザー……」 

「そういえば、我に何か用があってここにきたのではないのか?」

 自分でも何を言おうとしたのかわからないまま名前を呼べば、フェザーがあからさまに話題を変える。

 そこでようやく私は、フェザーへの用事を思い出した。


「そうだった! フェザーのお兄さん、見つかったわよ!」

「本当か!?」

 調査書を見たフェザーが、目を見開く。


「これは……兄上だ!」

 フェザーは翼をばたつかせ、興奮した様子だ。

 私が見せたのは、鳩姿の絵が描かれたページだったのだけれど、一目でフェザーには兄だとわかったらしい。


「お兄さんだって、すぐわかるのね」

「当たり前だ。兄上の胸の部分、桃色がハートの形をしているだろう。あと普通の鳩の獣人は茶や黄色、黒の瞳だが、兄上の瞳の色は我と同じ紫だ」


 確認して、なるほどと思う。

 兄であるヴィーは、垂れ目で優しい印象を受ける目をしていて、一方のフェザーは鋭くて切れ長の瞳をしている。

 顔立ちはあまり似ていないけれど、その瞳の色はよく似ていた。

すみません、寝坊しました。

★12/22 文が繋がってない気がしたので、一部文を付け足しました。

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 お相手が別の本編「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」「オウガIFルート」もあります。 よければどうぞ。
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