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【10】黄昏の城とままならない想い

 錬金術師によれば、準備も含めて一週間は欲しいとのことだった。

 クロードとジミーは錬金術師の身の回りの世話を。

 私とイクシス、それとフェザーは採取を担当しようと話はまとまった。


「まずは黄昏の城に行ってみるか。エルザと俺とメイコの三人は決定として。リストにあるこの魔草は比較的どこにでも生えてるから、フェザーはその辺りの森でコレを集めていてくれ」

「ちょっと待て! 我も黄昏の城に行くぞ!」

 イクシスにフェザーが抗議する。


「そんなこと言われてもな。城に入るパーティは三人までだってメイコが言ってただろ。エルザがいないと入れないし、材料の場所はメイコしかわからない。あと俺とお前で言ったら、絶対俺のほうが強いしな」

「くっ……」

 フェザーが悔しそうな顔で、唇を噛みしめた。


「そのことなんだけど、フェザーも一緒で大丈夫よ。パーティの人数制限に使い魔は含まれないことになってるから」

「本当か!」

 ぱぁっとフェザーの顔が輝く。

 

 黄昏の王冠では、主と使い魔は一セットで数えられる。

 だから城に入る際、使い魔がいればいるほど有利だ。

 ゲームでは使い魔との契約の仕方を二年生になってから習うのだけれど、主人公は六属性を持っているため、理論上は最大で五体まで使い魔を持つことが可能だった。


 まぁ、実際は使い魔を作るにも色々条件があるから、ゲーム内では三体が限界だったんだけどね。

 使い魔さえしっかり育てていれば、パーティを組む必要もなかったくらいだ。

 恋愛がメインだからか、戦闘のゲームバランスは甘かった。


 外に出て、黄昏の城が出現するのを待っていたら、澄んだ鐘の音が鳴り響く。

 見上げれば空の向こうに、逆さになった城が見えた。


「これが黄昏の城……!」

「今の時期だと夕方が長いので、十六時から十九時まで入ることができます」

 ほのかに光りを放つ、時計付きの腕輪に目をやりながらエルザが言う。

「ではいきますよ――《アーベント》!」

 エルザが呪文を唱えれば、次の瞬間には城の前にいた。


 城の入り口にある石像に腕輪をかざし、階を指定すれば門が開く。

 横の石柱には三十の文字が刻まれていて、そこには森が広がっていた。


「これは……本当に城の中なのか? 空があるんだが……」

 フェザーのいうとおり、木々の間から茜色の空が見える。

 とても城の中とは思えなかった。

「精霊は竜族よりも空間を作り出す能力に長けてるからな。色々いじって作ってあるみたいだ。しかし、これはすごいな」

 イクシスもこれには驚いたようで、感心した声を上げていた。

 

 イクシスに頼んで抱き上げてもらい、上空から森を見下ろす。

 マップはゲームと変わらないことがわかった。


「まずは四十階まで行こうか。そこで採取したほうが楽だし」

「はい、よろしくお願いします!」

 言えばエルザが頭を下げてきて、頭につけている大きめのリボンが揺れた。

 さっそく歩こうとすれば、フェザーがそれを止める。


「どうしたのフェザー」

「歩くよりも飛んで行ったほうが早いのではないか?」

 確かにそれもそうだ。

 ゲームでは飛んでいくという選択肢がなかったから、失念していた。


「じゃあ俺がメイコを抱えて飛ぶから、フェザーはエルザを抱えて飛べ」

「メイコは我の妻だ。飛ぶなら我が抱きかかえる」

 イクシスが私を抱きかかえようとすれば、フェザーがそれを止める。

 ははっとイクシスは笑った。


「いやフェザーじゃ無理だろ。こいつ物凄く重い……って、殴るなよ! 本当のことを言っただけだろうが。しかもお前、前より太っただろ」

 背中を小突けば、イクシスがさらに失礼なことを言ってくる。


「女性に対して太ったとか禁句だからね!? ほんのちょっぴり、ほんのすこーしだけ、ぽっちゃりとしただけよ!」

「ぽっちゃりって意味一緒だろうが。何が違うんだよ」

「そこは乙女心だから! それに、栄養は全て胸にいくから大丈夫!」

「なんだその妙な自信は。しっかりお腹に肉ついてるくせに」

 根拠はないけれど、堂々と胸に手をあてて言い張れば、むにゅっとイクシスがお腹の肉をつまんできた。

 

「なっ!!」

「ほらな。大体食い過ぎなんだよ。朝ご飯あんなに食べたのに、馬車の中でもサンドイッチ間食してたろ。むしろあれだけ食べて、見た目が変わらないのが奇跡だな」

 絶句する私のお腹の肉を、イクシスがむにむにと指で挟む。


「クロードもお前が美味しそうに食べるからって、甘やかすんだよな。メイコが食べてるとき、あいつ凄い幸せそうな顔してるし。どんどん与えるからこうなるんだ。頬もこころなしかコロコロしてきた気がするな?」

 呆れたような声を出しながら、イクシスが頬をつねってくる。

 顔はニヤニヤとしていて、私をからかって楽しんでいるのがわかった。


「まぁでも、さわり心地はいいな。嫌いじゃない」

「ちょっとイクシス! そういうのセクハラっていうんだからね!」

 イクシスの距離は近い。

 以前よりも打ち解けたためか、気軽にこういうことをしてくるようになった。

「せくはら? なんだよそれ」

 言い合いをしていたら、間にフェザーが入ってきてイクシスと引き離される。


「……っ! いい加減にしろ。我を差し置いて、竜とイチャイチャするな!」

「そんなのしてないだろ!」

「イチャイチャなんてしてないからね!?」

 全くの誤解だ。

 すぐさまイクシスと声を揃えて否定したけれど、フェザーは余計不機嫌になってしまった。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 結局イクシスの案通り、イクシスが私を、フェザーがエルザを抱きかかえて飛ぶことになった。

「……? お前、妙に軽くないか?」

「そ、そうですか?」

 エルザを抱き上げたフェザーは、いぶかしげな顔をする。


「メイコが重すぎたから軽く感じるだけだろ」

「本当、イクシスって失礼ね!」

 叩こうとすれば、さっとイクシスがよける。


 ムキになればムキになるほど、イクシスが楽しそうなのがもう本当腹が立つ。

 今日の夕食はクロードが美味しいと噂のレストランを予約してくれたみたいだし、まだ食べてない名物料理もあるから、しばらくダイエットは無理だけど……絶対に屋敷に帰ったら痩せて、見返してやると心に誓う。

 

「そういうレベルじゃない。まるで綿を抱き上げてるみたいというか……体温も異様に低いし、もしかして人ではないんじゃないか?」

「ふぇ、フェザーさんたら、いくらなんでもそれは言い過ぎです!」

 真顔のフェザーに、エルザが顔を真っ赤にする。


 いくら軽いとはいっても、そこまで言われるとさすがに恥ずかしいみたいだ。

 私だったら喜ぶところなんだけどな……そんなことを言われるエルザちゃんが、うらやましくてしかたない。

 ダイエットしなきゃな。

 今日からしたほうが……いや、やっぱり屋敷に帰ってからで。

 そんなことを考えていたら、エルザが早く行きましょうと私達を急かした。


 フェザーはまだ納得いかない様子だったけれど、イクシスが私を抱きかかえて飛べば、エルザを抱いてその後に続く。

 空なら快適……かと思いきや、魔物の目に付きやすいらしい。

 鳥の形をした魔物に何度か囲まれてしまったけれど、そのたびにイクシスが風の魔法で蹴散らしてくれた。


「イクシスって強かったのね! 魔法凄かったわ!」

「実はって何だ。竜族なんだから当たり前だろ」

 興奮気味にいえば、疑っていたのかというようにイクシスが呟く。


「強いことはなんとなく知ってたけど、ここまでとは思わなかったのよ。目の前で見る魔法って、やっぱり迫力あるわね! 格好よかった!」

 私を抱きかかえたまま、片手で魔法を放つイクシスには余裕があった。

 風属性のイクシスは、広範囲の魔法を得意としているらしい。

 いっきに周りの魔物を排除するので、見ていて爽快感があった。


「そ、そうか?」

「うん! 凄くかっこよかったよ! 私も魔法使いたいなぁ……」

 ぐっと拳を握って力説すれば、イクシスは少し照れたみたいだった。


「その体はヒルダのものなんだから、メイコも魔法は使えるはずだぞ?」

「そのはずなんだけどね……うまくいかなくて」

 フェザーを使い魔にする際に、契約魔法は発動していた。

 だから、私でも魔法は使えるはずだ。

 そう思って、密かに試したりしたのだけれど……魔法のマの字も出てこなかった。


「ゲームに出てくる魔法名を唱えてみたんだけど、どれも発動しなくて。何がいけないのかなぁ? イクシス、コツを教えてよ」

「コツか……魔法なんて、生まれたときから自然に使えるもんだからな」

 尋ねればイクシスは難しい顔をする。

 コツなんて、考えたこともなかったというような顔だ。


「そんなこと言わないで、お願い! できれば私も格好よく魔法使ってみたいのよ! イクシスとの誓約を解除するためにも、いつかはどうせ覚えなきゃいけないでしょ?」

 ここが空の上じゃなければ、手を合わせて拝んでいるところだけれど、うっかり落ちてしまったら怖い。

 なのでイクシスの服をぎゅっと握りしめて、心持ち体を近づけた。


「……それもそうだな、じゃあ明日にでも練習してみるか? どうせ夕方になるまで城に入れないだろ」

「うん、ありがとうイクシス!」

 お礼を言ってつい勢いで抱きつけば、むにゅりと胸がイクシスに当たり、妙な空気になる。

 メイコの体のときは当たるものもなかったので、つい距離感を間違った。


「あのな、お前……」

「っ! イクシス後ろ!」

 何かいいかけたイクシスの背後に、魔物を見つけて叫ぶ。

 勢いよく魔物がこちらに向かってきていた。


「ちっ!」

 体勢をイクシスが整えようとするけれど、敵のスピードが早い。

「イクシス、あっちにもいるよ!」

 さらに背後から魔物がやってきて焦れば、その敵の翼を氷の棘が貫いた。


「我の妻に指一本触れさせはしない。我がの名の下に、思い知れ。静寂せいじゃく輪廻ろんど――《氷のシグリル》」

 フェザーがばっと手を横に薙げば、そこから巨大な氷柱が出現し、敵に向かって飛んでいく。

 いつの間にかフェザーは魔法が使えるようになっていたらしい。


「へぇ、やるじゃないか。初めてにしては精度は大したものだなっと!」

 面白そうにイクシスが笑い、魔法を放つ。

 イクシスは呪文なしで魔法が使えるらしく、魔物達の周りに竜巻を作り、隔離した上で遠くまで飛ばしてしまった。


「ふん、我はメイコの使い魔なのだぞ。これくらい当然だ」

 地面に降り立てば、フェザーが胸を張ってそんなことをいう。

「メイコっていうか、ヒルダのだろ。使い魔ってやつは、レベルを引き継ぐって聞いてたが……初めから難しい魔法が使えるんだな」

 興味深そうな顔をするイクシスに、フェザーが顔をしかめる。イクシスの態度が気に入らないようだった。


「我はメイコの使い魔だ。それにメイコは元の世界で、この城を攻略した実力者なのだぞ。お前はその凄さをわかっていない!」

「メイコがいう攻略っていうのは、そういうのとは違う気がするぞ? まぁ俺もおとめげーむとか、てれびとか理解できてないとこは多いけどな」

 なんだかよくない雰囲気だ。

 突っかかるフェザーをイクシスは相手にしてないようだけれど、その態度も余計にフェザーのかんに障るようだった。


「まぁまぁフェザー、落ち着いて」

「我は落ち着いている! 自分のほうがメイコを知っていて、仲がいいというような……その態度が気にくわない!」

 どうしてそんなにムキになっているのか、私にはよくわからなかった。


「……少なくともこの間和解したばかりのお前よりは、こいつのことを知ってる。この間まで命を狙ってたくせに、夫きどりっていうのは正直どうなんだと思うけどな。夫婦ごっこをするのは勝手だが、相手に自分のルールを押しつけるな。だからお前はガキなんだ」

 さすがのイクシスも頭にきたらしく、低い声で吐き捨てる。

 フェザーは何か言おうとして、結局唇を噛みしめてうつむいてしまった。


「イクシス!」

「メイコもメイコだ。断るならちゃんと断れ。だから面倒なことになるんだ」

 注意するように声を荒げれば、イクシスは溜息交じりにそんなことを言う。

 

「皆さん、とにかく先を急ぎましょう? ねっ?」

 部外者であるエルザが、その場を仕切ってくれて、どうにかその先へと進んだけれど。

 私達の間にある空気は最悪だった。

フェザールートのはずなのに、イクシスとイチャついてるような……?

難しいですorz

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 お相手が別の本編「本編前に殺されている乙女ゲームの悪役に転生しました」「オウガIFルート」もあります。 よければどうぞ。
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