第三十五話 『ブレイク・アウト』 OP
彼は旗艦のブリッジから勇壮と連なる艦隊を見渡した。
彼らが世界に誇る無敵の艦隊は、いくつもの国を易々と灰にするだけの力を持つ。
それは万全の構えのもと、今まさに出陣を待つのみとなっていた。
*
学園祭の準備は着々と進みつつあった。
サッカー部の目玉企画、シュート・ターゲットのパネルに赤いペンキを塗り、光輔が満足そうに鼻をこする。
「そっち終わったの、光輔」
白いペンキでフレームを塗っていた夕季が顔を上げる。
その顔を見た途端、光輔がぷっと噴き出した。
「夕季、ほっぺにペンキついてるよ」
「う!」
「サッカーのサポーターかよ」
「しぇんぱい、私が拭いてあげますよ」
一緒に作業していた女子マネージャーが、照れ固まる夕季の頬からペンキを拭き取る。
それを嬉しそうに眺めていた光輔に気づき、大声をあげた。
「あ~、ホムしぇんぱい、鼻真っ赤ですよ」
「え! マジ!」
「ピエロみた~い!」
*
「よし!」
司令官の号令のもと、米海軍無敵艦隊が出撃する。
「目標はメガル。総員、各々の誇りのもと、祖国への想いを胸に抱いて、魂を捧げよ」
司令官が誇らしげに笑う。
今ここに、世界を手中に収めんとせんほどの表情で。
*
「よし!」
青いペンキで看板の文字を塗り終わり、光輔が満足げに腰に手を当てる。
「これで一段落ついたな」
仲間の部員に言われ、真顔で振り返る光輔。
「まだまだこれからだよ。景品用のマスコットももっとたくさん作らなきゃいけないし、チラシとかもさ」
「ホム、チラシ、これでいいか」
「あ、もうできてたのか」
別の仲間に確認を求められ、ざっとチェックする光輔。
「ばっちりじゃん。んじゃ、川地。生徒会室に持ってくの手伝ってくれ」
「はい~」
マネージャーとともにマスコット作りをしていた夕季が、針と糸を手にしながら真剣そうな顔を向ける。
「あたしが川地さんと持っていくから、光輔はみんなとマスコットを作ってて。縫うところは後であたし達がやるから」
「あ、うん。じゃ、頼む、夕季。……眉間に糸がついてるよ」
「う!」
「しぇんぱい、私が取ってあげますよ」
「あ、シワか」
「光輔!」
「シワじゃ取れませんね~」
「……」
「あっははは。あ~、やることいっぱいだな」
伸びをしながら、嬉しそうに鼻の下をこすった。
「忙しくなってきたぞ~!」
「ホムしぇんぱい、鼻の下が真っ青ですよ」
「え! マジ!」
「コントみた~い!」




