第三十話 『フェイク』 OP
光の射し込まない部屋の中、数人の厳つい取り巻きを従えた恰幅のいい初老が直立していた。
「目障りだからやめさせろ」
その眼前でぞんざいに腰かける火刈聖宜の一言で、室内の空気が凍りつく。
「時期はこちらから伝えると言い含めておいたはずだ。何度同じことを言わせる気だ。役に立たない駒は必要ない」
「ですが、彼の父親は……」
「父親がどうした。従わぬと言うのなら、地盤ごと取り上げろ」
「……。いえ、あの男の機嫌を損ねれば、国がひっくり返るほどの騒動になりかねません。国民の動揺も憂慮されます。それが後々まで響くようなことにでもなれば、かえって……」
「政治家が一人や二人消えたところで、国民には何の影響もない。動揺させているのは、それを煽っている連中がいるからだ」
「しかし……」
「わからんのなら、貴様も国民の目線にかえってみたらどうだ。本当に自分が必要とされているのかどうか、よく考えてみればいい」
「……」
火刈の苦言の前に、白を黒に染め上げるうるさがたの権力者が顔色を失う。
従う他はないその決定を受け入れ、彼が足早にそこを立ち去ろうとした時、火刈からの待ったがかかった。
「スキャンダルなら国民へのサービスにもなるな」
彼の顔が青ざめる。
それすらまるで顧みようともせず、火刈は己にとって塵芥のような些事を、その口調ほども興味のなさそうな表情で続けた。
「ネタはいくらでもある。なるべくおもしろいもので誘導しろ。すでに消費期限の切れたまがい物でも役に立つこともある」
その時、部屋がゆがみ、核爆弾の直撃をも無効化する室内が激しく揺れ始める。
震度五以上の強震に懸命になって逃げ場所を探す来訪者達の中、火刈は微動だにせず、その地下深層の部屋から映るはずのない彼方へと目線を向けていた。
「すでに小細工を労する段階は終わりを告げ、大局を見据える時期にきている」
火刈がにやりと笑った。
「さて、どう動くか……」
どこへもつながらない目線を、見えない何かに向けたまま。