102/130
第三十八話 『テスタメント』 OP
おうまがときの山凌市上空に突如として現れた光の塊は、今にも空竜王を包み込もうとしていた。
「夕季、逃げろ!」
叫ぶ桔平の隣には、心配そうに成り行きを見守る忍の姿があった。
『逃げろ! 夕季! 逃げろ!』
桔平の声が、脳天に突き刺さる鉄杭のごとく鳴り響く。
それでも夕季は逃げられなかった。
逃げようとすれば逃げられたはずなのに、身体が動かなかったのである。
プログラム名を持たず、アンノウンプログラムとだけ告げられたそれに対し、わずかな油断があったことも確かだった。
だがそれすらも何ら意味さえ認めないほどに、異なる感情に支配されていたのだ。
理由はわからないが、それを受け入れなければならないような気がしていた。
あらかじめ定められた取り決めであるかのように。
身動き一つ取ることなく、白銀の翼が光の闇の中へと次第に閉ざされていく。
自分の名を呼ぶ忍の絶叫に、夕季が振り返りながら。
「……お姉ちゃん……」
時は、午後六時六分六秒を刻んでいた。