~その8~ 副社長就任
結婚式まであと1か月と迫ってきた。私のウエストも、順調に細くなり、体重もすでに3キロ減。
「一臣さん!」
ジムで、目標を達成した日、お屋敷に戻ってきた一臣さんに抱き着いて報告をした。
「へえ。すごいな、弥生。じゃあ、あと2キロ落としてみるか?」
「え…」
「嘘だよ。それ以上痩せたら、抱き心地が悪くなる」
そう言って一臣さんは、私を抱きしめた。
「でも、まだ結婚式まで気をつけろよ。リバウンドなんかするなよな」
「はい。そこはもう、食事制限もジムもエステも続けるから大丈夫です」
「プラス、エッチもな?」
「え?」
また、スケベなこと言ってる。
「最近、していないもんな」
「そうでしたっけ」
「そうでしたっけ…じゃない!10日はしていないんだぞ!!」
「だって、一臣さんが忙しくて、夜は遅いし、朝は早いし、休みの日もいないし。おかげで、エステやジムに連日通えたおかげて、こんなに早く結果が出せたんですけど…」
「わかってる。俺が忙しくって、弥生をかまってあげられなかったことも。でも、副社長になるまでだ」
「本当に?」
「ああ。来週、副社長の就任パーティが終わったら、少し落ち着く。あ、そうだった。そのあとは、結婚式の準備か」
結婚式の準備…。今迄、ふわふわと結婚式を楽しみにしてきた。でも、いざ近づいてくると、だんだんと怖くなってきた。婚約パーティの時だって、すごく緊張したし、その何倍もの人が来るんだよね。
「式って…、どんななんでしょうか」
「さあな。俺だって結婚するのは初めてだからわからないな。まあ、親戚の結婚式だったら出たことがあるが」
「親戚?」
「緒方機械の社長の息子の結婚式だ。そりゃもう、すごい豪華だったな。有名人もやってきていたし」
「そうなんですか」
「ああ。だけど、俺の場合は、緒方財閥、総帥の息子だからな。緒方機械の社長の息子の結婚式なんて、比べられないくらいすごいだろうな」
うそ。
「どどど、どうしましょう」
「何がだ?」
「私、どうしたら」
「別に、椅子に座っていたらいいだけだろ。あとはまあ、へらへら笑っているか…」
「へらへら?」
「だから言ったろ?結婚式なんて面倒なだけだって」
そうか。そう言われてみるとそうかも。
「緒方財閥の連中に、上条グループの連中、他にも取引先も来るし、そういう連中から見られるんだ。で、にこやかにしていないとならないんだぞ。な?うんざりするだろ」
「うんざりはしませんけど、ものすごく緊張すると思います」
「緊張なんかしないでもいい。俺の隣に座ってへらへらしていたらそれだけで」
「そういうわけにはいきません。この前のパーティだって、いろんな人に挨拶して、大変でした」
「結婚式は大丈夫だ。ずっと座っていたらいいだけだからな」
「……そうでしょうか」
「ああ。それで、くっだらないスピーチを延々と聞くことになるんだ。ああ、今から考えても憂鬱だよな」
思い切り嫌そうな顔をしているなあ、一臣さん。
「今夜は何も予定がないからな。思い切り楽しめるぞ」
「え?何を?」
「夜の営みだ。楽しもうな?」
いきなり、話が飛んでる!もう~~。
夕飯を食べ終わり、一臣さんはニコニコ顔で私の腰を抱き、部屋に行った。そして、そのままベッドに連れて行かれた。
「お風呂…」
「あとででいい」
やっぱり。相変わらず強引だよなあ。
ポイポイと服を脱がされ、下着だけになると、
「あ、本当だ。お腹の肉、なくなってる」
と、お腹をつまんで言ってきた。
「くびれ、ありますよね?」
「ああ。ある。よく頑張ったな」
嬉しい。褒めてもらえちゃった。
「うん。腹筋割れてもいないし、腕や脚に筋肉もついていない。触り心地はいいままだな」
そう言いながら、一臣さんは腕や太ももを撫で、胸まで触ってきた。
「胸の肉も落ちていないな。ん?逆に大きくなったんじゃないのか?」
「はい。バストアップもしっかりとしたから。あ、ヒップアップもしたんです。お尻も持ち上がったかも」
「そうか。それはあとで、風呂で確認するよ」
そう言って、下着もさっさと脱がされた。
「やっぱり、くびれのないお腹は嫌だったんですか?」
一臣さんの首に両腕を回してそう聞くと、
「別に」
とあっさりとした返事が返ってきた。
「でも…」
「どうせなら、綺麗にドレス着たかっただろ?」
「え?はい。そうですけど」
「結婚式では、メイクもヘアーも一流を呼んである」
「祐さんじゃないんですか?」
「祐さんに頼んだんだ。そうしたら、自分よりもっとすごい腕の人を紹介すると、プロのプロを紹介してくれた」
「プロのプロ?」
「ああ。モデルや、女優のヘアメイクをしているらしい。海外でも活躍している人だって言ってたぞ」
「そ、そんな人が…」
「ドレスも、今、世界でも注目されているジョージ・クゼだし、俺たちの結婚式はすでにメディアで取り上げられているんだ」
「そうなんですか?」
「俺も、このとおり、色男だしなあ」
「………」
自分で言うかな。それも、色男って…。言い回しが古い気もするんだけど。
「弥生は大変だな」
「何がですか?」
「そんな世界でも注目されている男に、こうやって抱かれるんだから」
は?
「きっと、世界でも抱かれたい男ナンバー5くらいには入っているぞ」
「そうなんですか?!」
「なんてな」
なんだ。冗談か。もう、びっくりした~~。
冗談を言って、ははって子供っぽく笑ったかと思ったら、一臣さんはいきなり熱い眼で私を見つめ、熱いキスをしてきた。
はう。溶けた。スイッチ入った。
そのまま、甘美な世界に連れて行かれた。
目の前の一臣さんは、セクシーだし、体も綺麗な筋肉がついているし、うっとりだ。確かに、こんな麗しい人だったら、抱かれたいって思う女性も多いかもしれない。
「弥生…」
私の耳たぶを甘噛みした後、耳元で一臣さんが話し出した。
くすぐったい。
「お前、綺麗になったな」
「え?」
「どんどん、綺麗になっていくな…」
うそ~~~。
「本当に?」
「ああ。綺麗だよ」
嬉しい。でも、照れくさい。照れくさくて思わず、一臣さんの胸に顔をうずめて隠した。そんな私を優しく一臣さんは抱きしめてくれた。
はう。幸せだ。10日ぶりに一臣さんの腕に抱かれた。
「私も」
「ん?」
「10日も一臣さんに抱いてもらえなくって、本当は寂しかったです」
「俺もだ。帰ってくると、お前、グースカ寝ていたし」
「ごめんなさい。起きて待っていようと思っていたんですけど」
「いい。寝ていたとはいえ、お前が隣にいれば、俺も眠れるからな。さあ、汗かいたし、風呂に入りに行くぞ」
素っ裸のまま腕を引かれ、バスルームに行った。そして、一臣さんは私の体を洗ってくれた。
「うん。くびれもあるし、胸も形良くなったな」
ドキ。
「あんまり、見ないでください。恥ずかしい」
そう言って胸を隠すと、くるりと一臣さんに後ろを向かされ、
「うん。尻も確かに、あがっているな」
と、今度はお尻をじっと見られてしまった。
「だから、そんなに見ないでください」
どこをどう、隠していいものやら。
「なんだよ、隠すなよ。今さら照れなくてもいいだろ?何十回と一緒に風呂も入っているんだから」
「そうですけど」
いまだに、素っ裸を見られるのは恥ずかしいんだってば。
「肌も綺麗になったな。エステのおかげか?」
「はい。オイルマッサージしていたし」
「そうか。すべすべツルツルだもんな」
「あんまり、撫でないでください」
「いいだろ?減るもんじゃなし」
もう~~~。お風呂で疼いちゃうからやめてほしいのに。
体も髪も洗い終え、一緒にジャグジーバスに入った。ブクブクと泡に当たりながら、二人でしばらくボケッとした。
「は~~。気持ちいいなあ」
「はい」
最近は、お風呂でこうやって、二人でのんびりと浸かっている。一臣さんがお風呂の中で欲情することもなくなった。それより、のんびりと寛ぐ方がいいようだ。それだけ、疲れているのかもしれないけど。
「大変ですね。本当に副社長に就任したら、楽になるんですか?」
「いや。楽にはならない。かえってもっと、大変になるだろ」
「そうなんですか?」
「弥生も俺と結婚したら、忙しくなるかもな。あ、でも、子供ができたら、あんまり忙しく動くなよ。な?」
「はい」
「今度、弥生とゆっくりできるのは、新婚旅行だな」
「10日間も本当に休めるんですか?」
「ああ。だから、今こうやって、働きづめなんだ」
「ごめんなさい。私のために」
「いいんだ。俺だって弥生とのんびりしたいんだから。ハワイで10日間、のんびりしような?」
「はい」
わくわく。嬉しい。また、夏のバカンスの時みたいに、二人でべったりできるんだよね。楽しみだなあ。
ゆったりとジャグジーバスで寛いだ後、一臣さんとお風呂を出て、髪を乾かしあい、そのあとベッドの上でまた寛ぐ。この、ゆるゆるとした時間が大好きだ。
私のことを一臣さんが抱きしめ、髪や頬にキスをする。私も一臣さんに抱き着き、思い切り甘える。
そんな時間を過ごしているうちに、二人して眠気に襲われ、そのうち寝てしまう。一臣さんとの幸せのひとときだ。
翌日から、また一臣さんは忙しくなった。そうして、一臣さんが副社長に就任する日があっという間にやってきた。
就任式では、一臣さんのスピーチもあり、それは緒方財閥のホームページに掲載された。
その一臣さんも、すっごくかっこよくって、その後社内を歩くと、
「副社長、おはようございます」
と、社員が挨拶をするようになった。女性陣はもちろん、顔を赤らめ、なぜか若い男性社員までが、一臣さんを見て顔を赤らめていた。
なんで?
「一臣様、前にも増して男っぽくなりましたね。髪も切って、一段と大人の男性になったというか」
就任式の翌日、秘書課に行くと、そう江古田さんが言った。その横で矢部さんも、うんうんと頷いている。
「ホームページ見たけど、麗しいもんねえ」
そう言ったのは大塚さんだ。
「最近、忙しくって秘書課にも顔を出さなくなったから、一臣様を直に拝めなくなって寂しいわ。上条さんは、毎日会えていいわねえ」
「そりゃ、一緒に住んでいるんですもんね」
大塚さんの言葉に、江古田さんがそう言うと、
「いいなあ」
と、大塚さんは羨ましがった。
「そういえば、いまだに仮面フィアンセって言われているの?」
「え?はい。そうなんですよねえ。特に最近、一臣さん忙しくて一緒にいる時間も減って、結婚前から、愛想つかされたんじゃないか…なんて、そんな噂もあるらしく」
私がそう言うと、矢部さんも江古田さんも、
「そんなのただの噂ですから、気にすることないですよ」
と必死にそう言ってくれた。
「あ、はい。気にしていません」
そうにっこりと笑って言うと、
「強くなったわね、上条さん」
と大塚さんに背中を叩かれた。
「いっときは、鴨居さんのことで悩んでいたのにねえ」
「鴨居さんと言えば、全然見かけなくなったけど、まだ緒方商事にいますよね?」
「いるいる。ただ、部署が違うと会える確率が減るよね。一臣様なんて、この会社に入っても会ったことはないっていう人もいるんじゃない?ホームページを見ながら、ああ、本物に会ってみたい…って思っている女性社員もいると思うよ」
「そうですよね。一臣様って、15階とたまに14階にいるだけで、エレベーターも最近は役員専用を使っていらっしゃるみたいだし」
「私たちだって、会えなくなっちゃったしねえ」
大塚さんはまた、寂しそうにため息をつき、
「こんな素敵な人に一回は抱かれたい…って、みんな思っているんだろうねえ」
と、突然、ものすごい発言をした。
「はあ?!」
「そう思っている女性社員は、たっくさんいると思う。まあ、その中には本当に抱かれたことがある人もいるだろうけど」
グサリ。
「でも今は、上条さんが独占しているんだもんねえ、いいなあ」
何を言い出すんだ。大塚さんは!
「ねえ、どう?ベッドの中の一臣様、優しい?クール?どっち?」
ぎゃあ。何を聞いてくるんだ。
「私、15階にそろそろ戻らないと。じゃあ、お疲れ様でした」
そう慌てて私は言うと、さっさと秘書課の部屋を出た。
「また、逃げちゃった。いい加減、教えてほしいのになあ」
大塚さんの声が後ろから聞こえた。
何回か、ああいう質問を大塚さんにされているけど、一切答えないようにしている。だって、そんなの恥ずかしくて言えないし。
それにしても、一臣さんが言うとおり、一回だけでもいいから、抱かれてみたい…。なんていう女性、多いんだな。あの大塚さんだって、そう思っているだろうし。
でもダメ!ダメダメダメダメ!
だけど、副社長に就任したことで、一臣さんは海外の女性からも注目を浴びることになり、ライバルは緒方商事の女性社員だけじゃなくなった。
海外事業部の取引先の会社の秘書や、女性社員が一臣さんを訪ねてきたり、会うと堂々とハグして来たり、中にはキスまでしてこようとする外人の女性までがいる。
やめて!ここは日本だ。日本式の挨拶にしてよ!
心の中で叫んだ。すると、その叫びが一臣さんに届くのか、
「ここは日本です。日本ではハグやキスの挨拶はしないんですよ。握手くらいですね。まあ、握手ですらそうそうしないですが」
と、一臣さんは相手の女性からのキスを上手に逃れ、手を出して握手をしたり、握手さえしないで、名刺を渡してお辞儀で済ませて見たりする。
「OH!寂しい挨拶ですね、ニッポンは!」
そんなことを言う女性もいたが、一臣さんはそんな言葉に対しては無視をする。そして、
「私のフィアンセの弥生です」
と、私の背中に腕を回して、私を紹介してくれる。
「フィアンセ?フィアンセがいらっしゃるんですか?」
「はい。来月には結婚をします」
たいていの女性は、その言葉で残念がる。でも、目を輝かせ、結婚してもアタックするわ…と、そんなことを言ってくるとんでもない女性もいる。
「アタック?なんのために?仕事のことでしたら、秘書を通してアポを取ってください。それ以外でしたら受け付けられませんよ」
一臣さんは、そんな色気むんむんの危なそうな外人の女性にも、クールにそう言ってのける。
良かった。心底ほっとした。一臣さんが浮気をするわけがないが、相手が押しまくってきたらどうなるかわかったもんじゃないし。
ギュ。
私も負けてはいられない。と、そんな女性の前ではわざと、一臣さんの腕にしがみついたり、腰に腕を回してみる。
「ふん」
そうすると、大人の色気むんむんの外人の女性は鼻で笑い、この小娘、って顔で私を見る。
あとで聞いてみると、私と同じ年だったりする。その色気は、いったいどうやって作られたものなのか。お尻も大きく、くびれもすごい。胸の谷間も半端なく、それも、堂々と男性に見せている。
「ああいう女は一番苦手だ」
その女性が帰ってから、一臣さんはそう言った。
「あの香水の匂いもやめてほしいよな」
確かに、ぷんぷんしていた。
「俺のコロンの匂いと混ざって、気持ち悪くなる」
「ですよね」
「弥生はつけないよな?香水」
「はい。私は、一臣さんのコロンが好きだから、私までつけてミックスさせたくないんです」
「…そうだな。それに、最近、お前、俺のコロンの匂いがするしな」
「え?そうですか?やっぱり?」
「らしいぞ。そう言っているやつがいた」
「どこに?」
「青山も言っていたし、細川女史も。女は鋭いよな」
ドキ。
それって、まさか、オフィスで一臣さんに襲われたあとだったりして?
でも、まあ。そんなこんなで、外国のお色気むんむん女性に狙われても、一臣さんはまったく揺らぐこともなく、いまだに私と一臣さんは、ラブラブなのだ。




