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7/11

~その7~ ダイエット始まる

 夏のバカンスは本当に幸せだった。甘々のラブラブの3日間。それが、ずうっと続くものだと思っていた。

 が………。


 バカンスから帰ってくると、試練の毎日が待っていた。


「弥生。ウェディングドレスの寸法を測りに来るぞ」

「え?」

 それはバカンスから一週間が過ぎた土曜日のこと。


「ジョージ・クゼが直々にやってくるからな」

「今日ですか!?」

「ああ」

「でも、まだ私、ダイエットも何もしていない」


「だよな。だから、サイズは一回り小さいものにしてもらう」

「え?!」

「ジョージ・クゼは直接お前に会って、ドレスのデザインを考えたいんだとさ。ちゃんとお前のイメージにあうものを作ってくれるらしいが、俺からは一つだけ注文をしてある」


「…ど、どんな注文ですか?」

「体の線にピッタリの、ちゃんとウエストのくびれがあるドレス」

 どへ~~~~~~~~~~~~!


「そんなの着れるわけないじゃないですか!だいたい私、くびれなんてないです!」

「だから、結婚式までにくびれを作れ」

 どへ~~~~~~!!!


「無理無理無理。ちょっと痩せるくらいなら、できるかもしれないけど」

「今、なんて言った?」

「え?」

 一臣さんの顔、怖い。


「ちょっと痩せるくらいだと?」

「はい」

「阿呆!何がちょっとだ。思い切り痩せろ!ダイエットをしろ!いいか。緒方財閥の御曹司の結婚式なんだぞ。国内だけじゃなく海外でも注目を浴びるんだ。お前の花嫁姿も、海外のメディアも注目しているんだぞ。気合を入れろ!気合を!!」


 ど、どうしちゃったの?こんなこと今迄言ったことなかったのに。お前が頑張るとろくなことにならないから、頑張るな。そのままでいいって、そう言っていたよね?


「ジムとエステに通え。食事はダイエット食をコック長に頼んである。これからは、外食はしないぞ。甘いものも控えろ。今迄みたいにバカ食いするな」

「あ、あの。どうしちゃったんですか?私が頑張ったらみょうちくりんになるんじゃないんですか?」


「それはお前が一人で頑張ったらの話だ。だけどな、よく考えてみろ。緒方財閥の力を持ってしたら、お前のことだっていくらでも変身させられるんだよ」

「は?」

「ジムでは超一流のトレーナー、エステも一流のエステシャンを準備する。緒方財閥の力で、お前を超一流の女にすることだってできるんだ」


 超、一流?!

「無理です。無理無理!」

「無理じゃない」

「でも、一臣さん、このまんまの私でいいんじゃなかったんですか?」


「俺はいい。だが、世間がいいとは言わないだろ?」

 え~~~~~~~~~~~~~~~~!!!


 突然、なんでだか知らないけど、一臣さんの考えが一変し、私は試練の道を突き進まなくちゃならなくなった。もちろん、一臣さんのために綺麗になりたい。その気持ちは前からある。

 でも、甘いものが食べられない。食事制限があるっていうのは、とってもきつい。貧しい時、衣食住で一番重きを置いていたのは食だった。


 とはいえ、よく大家さんに分けてもらったりしていたから、そんなにお金はかけていない。お金をかけず、いかにして美味しいものを食べるか。そこに力を注いでいたくらい、食べることが好きだった。

 そんな私が、ダイエット?!


 そして、今迄はどこに行くのも一臣さんに引っ付いていられたのに、別行動をすることが多くなってしまった。

「じゃあ、弥生は4時からエステの予約が入っているから、もう帰っていいぞ」

「え。仕事は?」

「結婚式までお前の仕事は痩せることだ」


 ガーーーン。

「あの…。とっても言いにくいことを言うようですが…」

「もし、痩せられなかったら、どうするんですか…とか、そんな質問か?」

「え」

 なんで、わかったんだ。


「そんなことは許されない。ドレスも一回り小さくオーダーしたしな」

 ぎゃひ~~~~~。鬼だ。

「わかりました。頑張ります」

「ああ、俺のことだと頑張れるんだろ?俺に惚れ直させるくらい頑張って見せろよ」

「惚れ直す?」

「………。まあ、これ以上惚れられるかどうかわかんないけどな」


 え?

 何それ。

 もう私に飽きちゃったってこと?!


「どうした?暗い顔して」

 真っ暗になって立ちすくんでいると、一臣さんが私を抱き寄せ聞いてきた。

「え…。だって。もう惚れられないって」

「ああ。今でも、ものすご~~~~~~~~~~く惚れているからな。これ以上惚れるなんて、考えられないほど惚れているからなあ」


 ぼわっ!

 顔、熱!そういう意味か。


「でも、私もものすご~~~~く惚れてますけど、きっとまだまだ一臣さんに惚れると思います」

「やめろ。寒気がするだろ」

 またそういうことを言う…。


 がっくりしながら一臣さんの顔を見た。すると、耳が赤くなり、口元がにやけていた。

 え?え?え?!


 もしかして、照れてる?

 もしかして、照れ隠しだったの?


「車は等々力のを使え。今日はエステ、明日はジムだ。わかったな?」

「はい」

 寂しいけど、夜は一緒にいられるんだもんね。


「あ、弥生。言ってなかったが、明日の朝早くに大阪に行かなきゃならないんだ。大阪の工場視察、龍二と行ってくる」

「え?」

「朝早いから、今夜のうちから大阪に行く」


「私も?」

「いや。お前はエステとジムがあるから、東京にいろ」

 うそ。

「じゃあ、行って来い。俺はこれから、取引先の会社行ってくるから」


 ガーーーン。ガーーーン。

 今夜、一人ぼっち?


「おふくろも大阪に今いるし、夜、寂しかったら寮に行ってもいいぞ」

「…はい」

「1日だけだろ。そんなに暗くなるな」

 ギュウっと一臣さんに抱きしめられた。


「はい…」

 私も一臣さんを抱きしめた。

 1日だけだって、寂しいよ…。と心の中で呟きながら。


 一臣さんは、私がいなくても寝れるの?もう、一人でも眠れるようになったのかな。


 エステに向かい、痩身とオイルマッサージをしてもらった。それからお屋敷に帰り、一人で夕飯を食べた。寂しかったけれど、亜美ちゃんやトモちゃんが時々話しかけてきてくれた。


「夜は、寮に行ってもいいって、一臣さんのお許しが出たんです」

「じゃあ、私たちの部屋に来てください!お菓子も揃えておきます」

「あ!それはいいです。私、ダイエット中だから」

 亜美ちゃんの言葉にそう答えると、

「あ、そうですよね。ごめんなさい。食事もダイエット食ですもんね」

と、謝られた。


 今夜からダイエット食。でも、さすがコック長。とっても美味しかった。ただ、ほんのちょっと物足りなさがあるけど。夜中にお腹が鳴りそうだ。


 軽く自分の部屋でシャワーを浴び、パジャマを持って亜美ちゃんの部屋に行った。そして、12時までガールズトークに花が咲いた。亜美ちゃんは、コック見習いの人とお付き合いをしている。年下の彼だ。

「どっちから告白したんですか?」


「私から」

 亜美ちゃんは真っ赤になりながらそう答えた。

「亜美ちゃん、積極的なんですよ。びっくりしちゃった~~」

と、トモちゃんがひやかすと、亜美ちゃんはますます顔を赤らめた。


 お相手の人はとっても真面目な青年。東北から去年東京にやってきて、今年の4月からこのお屋敷に来た。話をしているうちに、亜美ちゃんが惚れ込んだらしい。彼のほうが2歳年下。

「まだまだ、結婚とか考えられる年齢じゃないんですけど。でも、一人前になったらお嫁さんに来てって言われたんです」


「きゃ~~~~~~~!素敵!」

 いいなあ。プロポーズ。私はないもんなあ。だって、すでにフィアンセだったわけだし。告白ならあった。でも、そんな可愛らしい言葉じゃなかったなあ。


「羨ましいです!私にも出会いがないかなあ」

 トモちゃんがうっとりと、宙を見つめた。

「トモちゃんの好みはどんな人?」

 亜美ちゃんが聞いた。


「亜美ちゃんは?」

 私が聞くと、

「誠実な優しい人」

と、顔を赤くして答えた。


「彼、誠実で優しいですもんね?」

 トモちゃんがそう言うと、亜美ちゃんはテレながら、

「私のことはいいから、トモちゃんはどういう人がタイプ?」

と聞き返した。


「私は…。けっこう、面食いで。一臣様も一目見た時、素敵だなって思ったんですけど、だけど、性格が…。あ、ごめんなさい、弥生様」

「いいえ。性格に思い切り難ありっていうのは、私も知っているから」

 そう言うと、トモちゃんは、

「でも、弥生様が来てからは、ぐっと丸くなられましたけど」

と、内緒話をするように声を潜めて言った。


「私、顔がよくって、性格は、穏やかな物静かな人がいいんです。私、おしゃべりだから、私の話をうんうんって聞いてくれるような」

「へえ、そうなんだ」

「でも、なかなかいないもんですよねえ。ここにいると出会いもないし」


「だけど、わかんないよ。まだ、トモちゃん10代じゃない」

「はい。頑張っちゃいます。ってことで、今度のお休みの日、コンパに行くんです」

「コンパ?」

「高校の時の友達に誘われて!」


「コンパなんて行ったことない」

 私がぽつりとそう言うと、

「一緒に行きます?」

とトモちゃんが聞いてきた。


「ま、まさか!一臣さんに怒られちゃうよ」

「ですよね?えへ。冗談です」

「もう。びっくりした」

「だいたい、一臣様以上の男性なんていないでしょうしね?」

 亜美ちゃんがウィンクをしながら私に言った。

「え?う、うん。いないかも」

 照れながらそう言うと、

「もう、ラブラブ~~~!」

と、トモちゃんにひやかされた。


 そのあとも、私たちはきゃっきゃとはしゃいでいた。

 だから、一臣さんがいなくても、寂しくなかった。ただ、布団に入って寝る時になり、私を抱きしめてくれる腕がなくて、胸がキュンと苦しくなった。


 ああ、一臣さんが恋しいよ~~~!

 たった1日だけなのに。


 翌朝、お屋敷に戻り、お屋敷のダイニングで朝食を食べた。朝もダイエット食だ。

 それから、等々力さんの車でジムに行った。

「上条様、お待ちしていました」

 出迎えてくれたのは、どうやら一流のトレーナーさんだ。そして、結婚式までに、4キロ減と、ウエストも6センチ細くします。お約束しますと、宣言されてしまった。


「えっと。もし、細くならない場合は…」

「細くなりますとも。そのために、ちゃんとプログラムも作りましたから」

「はあ」

 ものすごい自信だ。でも、実際それを実行して痩せるのは私なんですけど。


 いやいや。弱気になるな、弥生。一臣さんのためならたとえ、火の中、水の中、ダイエットの苦しみの中だって平気だよ。

「ただ、緒方様から、あまり筋肉隆々にさせるなと言われておりますので、ウエストを絞ることに、重きを置いたプログラムにさせていただきました」


「え?」

「武道をされているとか。武道で痩せるっていうのもいいかなと思ったんですけど、腕や脚に筋肉は付けてほしくないと…。あと、あまり頑張りすぎて、腹筋を割るようなことはするなとも、注意を受けております」

「そ、そうですか」


 もう~~。絶対、触り心地が悪くなるからだ。まったく、注文が多い人だよなあ。


「では、早速、プログラムの説明をさせていただきますね」

 トレーナーさんは、30代半ばくらいの男性。腕にも脚にも筋肉がついている筋肉マンだ。

 もしかして、ボディビルダー?私は一臣さんくらいの筋肉がいいなあ。ここまで筋肉がついていると、ちょっと嫌かも。


 って、私も実は注文が多い?だけど、一臣さんが一番だって思うんだもん。

 一臣さんは違ったのかな。やっぱりこのくびれのないお腹、嫌だったのかな。もっと痩せてほしいって思っていたのかなあ。


 ジムから戻り、11時近くに会社に行った。重役出勤と呼ばれるような時間だよね。とはいえ、緒方商事の重役さんたちは、朝早くに出勤するけど。一臣さん曰く、爺さんになると、どうしても早起きになるんだと言っていた。


 一臣さんの部屋に行っても、一臣さんも樋口さんもいない。とぼとぼと14階の秘書課の部屋に行くと、

「あら、上条さん、今日はお休みなんじゃ?」

と、細川女史に言われてしまった。


「いいえ。すみません。こんな時間になってしまって」

「あら?一臣様から、上条さんは今日、ジムに行ってトレーニングをするから休みだと聞いていますけど?」

「え?」

 休み?


「でも、午前中で終わったし」

 そう言うと、細川女史は手帳を開き、

「午後から、ジムでエアロビクスと、水泳が入っているようですよ?」

と、言われてしまった。


「え?!」

「一臣様から聞いていませんか?」

「はい」

「でも、エアロビクス1時間。水泳1時間って…」


 ガーーーン。

「わかりました。戻ります」

 等々力さんは何も言っていなかったのになあ。


 また、私はお屋敷に戻った。コック長がダイエット食を作ってくれて、それからジムに行き、エアロビクスと水泳をして、へとへとになってお屋敷に帰った。部屋に入ると、ぐったりして、一臣さんのベッドでグースカ寝てしまい、一臣さんが帰ってきたのにも気づけないでいた。


 目が覚めた。すると、横に一臣さんの顔があった。

「目、覚めたか?いびきかいて寝ていたぞ」

「え?」

「よだれまで垂らして…」


「うそ!」

「よく寝てたなあ。さすがに疲れたのか?」

 ガーーーン。一臣さんが帰ってきたら、「おかえりなさい、寂しかったです」と思い切り抱き着く予定だったのに。


 ショックを受けていると、一臣さんの方からギュウっと抱きしめられた。

「弥生」

「はい」

 嬉しい。一臣さんのぬくもりだ。


「ただいま」

「おかえりなさい」

「寂しかったか?」

「はいっ!寂しかったです」


「俺もだ。昨日一睡もしていない」

「寝れなかったんですか?」

 一臣さんの顔を見た。そういえば、顔色あまりよくないかも。


「早くに飯食って、エッチして寝るぞ」

「は?」

 エッチ?


「その体力は残っていないかも」

 そう言うと、ブニッと鼻をつままれた。

「するものはする。これも、ダイエットのためだ」

「は?」


「いい運動になるんだから、するぞ」

 また、暴君になってる~~~。

 でも、一臣さんに抱き着きながら、一臣さんのぬくもりを感じて幸せに浸った。


 やっぱり、一臣さんと一緒が一番いい。


 


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