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~その3~ 惚れた女

 夕飯の時間まで、二人で部屋でゆっくりした。部屋まで、上田さんが呼びに来て、私と一臣さんはダイニングに移動した。


「何?今まで二人で部屋にいたわけ?」

 リビングのソファに横になりながらテレビを観ていた戸倉さんが、そう一臣さんに聞いた。

「お前、くつろぎ過ぎだ。…あれ?一人か?」

 戸倉さんの質問には答えず、一臣さんは眉をしかめ、そう聞き返した。


「美里はシャワー浴びると部屋に行ったきり戻ってきていない」

「…美里も具合悪い…とか?」

「心配?」

「俺が?お前が心配しろよ。彼氏だろ?」


「だから、違うって。俺ら付き合っていないからさ」

「付き合っているようなことを前に言っていなかったか?」

 一臣さんは腰に手を当て、戸倉さんに聞いた。戸倉さんは、ソファから立ち上がり、ダイニングに来ながら、

「言った。お前にとられたくなかったからな」

と、一臣さんの方も向かずに答えた。


「俺に?美里を?」

「わざと、性格悪そうな、遊んでいる女と付き合ってただろ?」

「ああ」

「絶対に惚れないような女としか付き合っていなかっただろ?」


「ああ。俺にはフィアンセがいたし、本気で惚れても困るだけだからな」

「美里にお前が近づいたら、お前、惚れるだろうなって思ったからさ」

「俺が?美里に?なんでだ?」

「……男の直観ってやつかな」


「はあ?わけわからん」

「もし、本気で惚れるような女が現れてたら、お前、どうしてたんだ?」

「付き合わない。そばにも寄らない」

「え?まじで?」


 ダイニングの椅子にみんな腰かけた。でも、まだ美里さんが来ないので、夕飯を食べないで私たちは話しながら待っていた。


 テーブルの上には、小さなサラダと、スープが用意されている。

「じゃあ、もし美里に惚れてたら、一臣は美里を避けていたってことか?」

「そうなるだろうな。まず、付き合おうとは思わないし」

「…なるほどな。それって、今でもか?」

「今?弥生がいるのに、他の女と付き合うわけないだろ?」


「……へえ。そうなんだ。さっきの質問の答え、まだ聞いていないよな。ずっと部屋に二人でいたのか?」

「ああ。それが?」

 一臣さんは、なんでそんな質問をするんだという目で戸倉さんを見ながら、あっさりとそう答えた。


「いいや。仲いいんだなと思ってさ」

 戸倉さんがそう呟いた時、

「お待たせしてごめんなさい」

と、美里さんがやってきた。


 うわ。可愛いサンドレスを着ている。小麦色に焼けた肌にすごくよく似合う。それに、髪。ショートの髪に可愛い髪飾りもしているし、何か甘い香りもしている。うっすらと綺麗に化粧もしていて、口紅はピンク色。きらっと輝くピアスやネックレス、ブレスレットもしている。


 そうか。きっとシャワーを浴び、お化粧をし直し、髪も綺麗にセットしてアクセサリーまでつけてやってきたんだな。


 それに比べて私は、シャワーは浴びたけど、髪はぼさぼさのままだし、化粧なんかしていない。顔洗ってそのままだから、すっぴんだ。

 服だって、Tシャツにキュロットパンツ。生足がにょっきり出ちゃっているけど、まったくお洒落でもなんでもない。アクセサリーだって、何一つしていないし。


「遅い。スープが冷めただろ」

 うっわ~~。そんな美里さんに一臣さんが、例のごとく冷たく言っちゃったよ。

「ごめんなさい」

 にっこりと微笑んでいた美里さんの顔から笑顔が消えた。


「上田さん、ワインついでくれ。あ、弥生はジュースでいい。こいつ、酒弱いからな」

 そう一臣さんは、キッチンのほうに向かって言った。上田さん…のご主人かな?白髪頭の男の人がワインを持ってやってきた。


「戸倉様、美里様もワインを飲みますか?」

「ああ」

 戸倉さんは頷き、

「はい」

 美里さんもそう答えた。


 私には、オレンジジュースを持ってきてくれた。そして、みんなで軽く乾杯をして、夕飯を食べだした。

「美味しい」

 スープもサラダのドレッシングも美味しい。

「だろ?喜多見コック長とはまた違った、家庭的なフレンチを作ってくれるんだ」

「家庭的な、フレンチ…」

 それだけ聞いても、わくわくしちゃう。ってことは、あの堅苦しいフォークやナイフを使って食べるフレンチのコースとは違うんだよね。


 そして、一臣さんが言うように、出てくるもの、出てくるもの、家庭的なあったかい味のするものばかりだった。

「おいひい~」

 嬉しくて、一品、一品、ほおばりながらそう言うと、一臣さんが半分呆れたような顔で見ながら、くすっと笑った。


 ふっと、戸倉さんも私の顔を見て笑った。でも、一臣さんの微笑とは違い、明らかにバカにしているように鼻で笑われたみたいだ。


「弥生さんって確か、上条グループのお嬢様…じゃなかったっけ?一臣」

「そうだ」

「一風変わった子育てしてるって有名だけど…。普通のお嬢様とは偉く違うんだな」

「…そうだ。それが?」


 また一臣さんは、クールにそう言い返した。

「美里も美里貿易の社長令嬢だろ?」

「うん。そういう戸倉君だって、戸倉薬品のぼんぼんでしょ?」

 美里さんは、上品に食べながらそう戸倉さんに聞いた。


「戸倉薬品?そうなんですか」

 大手の製薬会社だよね。あれ?そういえば、美里貿易って言ってたな。美里さんって、下の名前ではなくて、苗字だったのか。


 デザートとコーヒーが運ばれてきた。それらも堪能し、満足していると、

「少しリビングでのんびりしないか?」

と戸倉さんが提案してきた。


「ああ。酒飲みながら、のんびりするか」

 一臣さんは、ワイングラスを手にして、そのままリビングに移動した。戸倉さんも美里さんもグラスを持ち、一臣さんの後に続き、私は手ぶらで一臣さんの隣に行って座った。


「あれ?そういえば、樋口さんと等々力さんは?」

「あの二人は、車で温泉入りにいった」

「温泉?」

「あるんだ。車で1時間くらい行ったところに。そこに行くのを楽しみにしていたから、夕飯もそこで食べてくるんじゃないか」


「そうだったんですか」

 いいなあ。温泉、私も行きたかった。

 なんて、羨ましがっていると、突然戸倉さんが、

「弥生さんは、一臣に惚れてる?」

と、とんでもない質問をしてきた。


「え?あ、はい」

「当たり前だろ。フィアンセだぞ」

 一臣さんが平然とそう答え、余裕の顔でワインを飲んだ。


「…まあ、そうだろうな。見ていてもそれはわかった」

 戸倉さんはにやっと笑ってそう言うと、今度は一臣さんに、

「お前は今まで、本気で惚れそうになった女はいなかったのか?付き合ってた女でも、大学時代、周りにいた取り巻きの中でもさ」

と、そんな変な質問を投げかけた。


「そんなの聞いてどうするんだ?」

 眉間に皺を寄せ、一臣さんが聞き返した。

「私も知りたいです。一臣様って、恋をしたことあるんですか?」

 戸倉さんの隣に座っている美里さんが、興味津々で一臣さんに聞いてきた。


「…恋?」

 一臣さんは、思い切り片眉をあげ、少し天井を見上げ、

「ああ。そうだな。大学時代、一回だけ惚れそうになった女はいたが、惚れてもどうにもならないと思って、そんな思いもすぐに忘れたが…」

と、そう戸倉さんと美里さんを交互に見ながら答えた。


 それ、私のことかな。


「そのあと、大学構内で会ったりしなかったのか?」

「会ったのが卒業式だったからな…」

「同じ大学だったんだろ?卒業式の日まで、出会いがなかったのか?」

「ああ」


 一臣さんは、静かにそう答え、またワインを飲んだ。

「もし、また会ったらどうするんですか?また、好きになったりしませんか?」

 美里さんが一臣さんに聞いた。一臣さんは、ちらっと美里さんを見て、そして私のほうを向き、

「ああ。好きになるだろうな」

と、また美里さんのほうを見た。


「本気で惚れる相手とは、付き合わないんだっけ?じゃあ、好きになっても、その女性とは縁を切るってわけだ」

 戸倉さんは、少し嫌味な感じで一臣さんに聞いた。

「それって、悲しくないですか?」

 それを聞いた美里さんは、悲しげな表情を浮かべた。


「そうだな。でも、俺の場合、惚れた女と結婚もするわけだから、別に悲しくもなんともないけどな」

 きゃあ。一臣さん、ズバッと言ってのけちゃった。

「惚れた…女?その大学の時の?」

 美里さんはきょとんとした顔で、そう一臣さんに聞き返した。


「ああ。そうだ。大学の卒業式で惚れそうになった女。やっぱり俺はその女性と再会して、その女性に惚れた。で、結婚する。それが?」

「え?!」

 しばらく、美里さんは意味が分からないといった表情をして一臣さんを見ていた。


「え?結婚相手って、そこにいる弥生さんだろ?ってことは、その卒業式に出会ったって言うのは…」

 戸倉さんが、私をじっと見ながらそこまで言うと、

「ああ。そうだ。弥生のことだ」

と、一臣さんは、しれっとした顔をして戸倉さんに答えた。


「…え?じゃあ、何。お前、弥生さんに惚れているってことか?じゃあ、あの、仮面フィアンセって言うのは」

「噂だ」

 一臣さんは、また淡々とそう答えた。


 一臣さん、まったく酔っていないように見えるけど、酔っているかも。あっさりとすごいことを答えているよなあ。

 ああ、私のほうが顔が赤くなっていっちゃうよ。


 ん?鋭い怖い視線…。あ。美里さんだ。怖い顔で私を見てる。

「じゃあ、その弥生さんより魅力的な女性が現れたらどうするんですか?一臣様」

 威圧的な声で、美里さんは一臣さんに聞いた。


「……。魅力的な女っていうのが、どんな女なんだか俺にはわからん」

 一臣さん、やっぱり、酔ってる。そう突っぱねるように言うと、私の太もも触ってきた!

「あ、あの。ダメです」

 ものすごく小声でそう言って、私は一臣さんの手をバシッと叩いた。


「いてえなあ。いいだろ、別に。減るもんじゃなし」

 わあ、わあ。そういう問題じゃないのに。恥ずかしいよお。顔が火照っていっちゃうよ。

「仲いいんだなあ」

 また、嫌味な感じの声で、戸倉さんが笑いながらそう言った。


 美里さんは、もう私を睨んでいなかった。下を向き、悲しそうな顔をしている。そして、いきなり立ち上がると、

「酔ったみたいです。私はこれで、部屋に戻ります」

とそう言って、すたすたとリビングを出て行った。


「酔ってないだろ。あんだけ、しっかりと歩けていたら」

 一臣さんはそう言った後、

「戸倉も部屋に行けば?俺はまだ、弥生とここで二人でのんびりしたいんだけどな」

と、戸倉さんまで追い出した。


「仲いいところ、見せつけてくれてサンキュー。一臣」

 戸倉さんはなぜか、そんなことを一臣さんに言った。すると、

「まあ、お前も頑張れば?」

と、一臣さんも意味不明なことをぼそっと呟いた。


 戸倉さんが2階に上がってから、私は一臣さんに、

「何を頑張るんですか?」

と聞いてみた。

 

「お前、鈍いな。戸倉は美里に惚れていて、なんとかしたいんだろ?」

「へ?なんとかって?」

「美里は俺に惚れているようだけど、俺とお前が仲いいってわかって、諦めるとでも思ったんだろ?それで、ここに連れてきたんじゃないか」


「……」

 一臣さんって、何気に鋭い。しっかりとわかっていたんだ。

「だから、俺はお前と仲がいいってことを、もっと見せつけてもいいんだよ。だから、太もも撫でるくらい、どうってことないんだ」

 そう言うと、また一臣さんは私の太ももを撫でた。


「明日も俺らが仲いいところを見せて、戸倉に協力しないとな?」

 そう言って、私の耳たぶまで甘噛みしてきた。

「ここではダメです」

 慌ててそう言うと、

「じゃあ、部屋に行くか」

と、一臣さんは私の背中を抱き、ソファから立ち上がらせた。


 ……。戸倉さんのために、仲いいところを見せつける?ただ単に、太もも触りたかっただけじゃないの?

 多分、きっとそうだ。


 でも、美里さんには、一臣さんを諦めてほしいのは私も同意見だ。宣戦布告されたけど、戦う前に諦めてほしい。ぜひとも。

 よし。明日、私も頑張るぞ!


 と意気込みながら、一臣さんと部屋に行くと、部屋に入った途端に抱きしめられ、そのままベッドに連れて行かれた。

「え?あ、あの?」


 ドスン。ベッドに押し倒された。そして、

「さあ。夜の営み、始めような?」

と、にやつかれながらそう言われた。


 どスケベ一臣さんに変身?もう~~~!

「シャワー…」

「さっき、浴びたろ?」

「でも…!」


「でももくそもない」

 ああ、また口悪くなってる。もう、ムードも何もない…。なんて思っていると、思い切り熱いキスをしてきて、私はすぐにノックダウンになってしまった。


「はう…」

「スイッチ、入ったな?」

「はひ」

 そして…。


 ムードも何もないどころか、一臣さんはとろとろにとろけるくらい、私の全身を愛してくれた。

 今日も、思い切り優しく、そして熱く。


 



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