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~その2~ 一臣さんもストーカー?

 夕方になり、少し日差しが弱くなってきたので、私たちはテニスをすることになった。


 私はTシャツと、膝丈のスェットを履いた。テニスウェアの短いスコートを履くのは、抵抗があったので、一臣さんに勧められたが勝手にスェットを買った。


「つまんねえなあ」

 その恰好を見た一臣さんが、そう一言言った。もう~~~。私の太い太ももわざわざ見たがらなくたっていいのに。


 一臣さんは、しっかりとテニスウェアを着ている。とても似合っていてかっこいい。何を着ても似合っちゃうんだなあ。なんて、ほれぼれとしていると、

「お待たせしました」

と、美里さんと戸倉さんが現れた。


 わ。美里さん、綺麗な色のテニスウェアだ。それもスコート履いてる。スコートからは小麦色に焼けたすらっと長い脚!かっこいい!


 それに比べて、私のなんともお粗末なかっこう…。


「じゃあ、ダブルス組むぞ。俺と弥生と、戸倉と美里だ」

「え?私、戸倉君とですか?」

「そうだ。何か文句があるか?」

 一臣さんは、すでにコートの中に入り、やる気満々だ。


「いいえ」

 美里さんは、少し口を尖らせてそう答え、戸倉さんとコートの中に入った。

「弥生、俺がサーブをする。お前、前衛だ。ちゃんとボレーしろよな?練習したからできるよな?」

「はい!」


 頑張るぞ!


 と、身構えてみたが、ほとんど、一臣さんと戸倉さんのラリーが続いた。前で構えていても、まったくボールがテニスラケットに当たることもなく…。と思っていたら、チャンス!これなら打てる!


 バシッ!ボレーをした。相手のコートの中にボールが飛んで行って、それを素早く美里さんが打ち返してきた。それも私の真正面に。

「ぎゃあ!」

 慌てて顔をラケットで隠し、私はしゃがみこんだ。ラケットの縁にボールが当たり、ボールはコートの外へとすっ飛んで行ってしまった。


「弥生!!!なんで、ボールよけてるんだよ!打ち返せ!!!」

 怒られた…。


 その後も、打ち返しても、美里さんに拾われたり、美里さんに私めがけてスマッシュを打たれたり、さんざんだった。

 美里さんと私が、どっこいどっこいだって?冗談じゃない。全然美里さんのほうが上手だよ。


「わあい。勝ったわ!」

 美里さんが跳ねながらそう言って喜んだ。

「あ~~あ。弥生、お前なあ…」

 うわわ。一臣さん、思い切り眉間に皺が寄ってる。怒ってる?


「しょうがねえな。おい、戸倉、1対1で勝負だ」

「おお。いいぞ」

 私と美里さんはベンチに座り、一臣さんと戸倉さんの試合を観戦することになった。


「はあ…」

 ペットボトルの水を飲みながら試合を見ていると、隣から甘いため息が聞こえた。ふと横を見ると、美里さんがうっとりと一臣さんの姿を見つめていた。


「かっこいいですよね、一臣様」

「え?あ、はい」

「弥生さんって、一臣様のフィアンセなんですよね?」

 ふっと視線をこっちに向けて、美里さんは聞いてきた。


「はい」

「いいなあ…」

「え?」

「羨ましいです」


「……」

 何と答えていいか…。

「いろんな噂は聞いていますけど」

「え?」

 噂?


「大学時代から、一臣様にフィアンセがいるっていうことみんな知っていました。もちろん、私も。だから、真面目に誰かとお付き合いもしないって。でも、一臣様はフィアンセのことを嫌がっていて、多分、結婚したとしても、ずうっと、他の女性と付き合うんだろうとか、浮気ばっかりするんだろうとか、そんなことも言われていました」

「……」


「私は正直に言うと、その頃はフィアンセの人が気の毒だなって思っていました。だって、結婚したって、一臣様はずっと浮気をするわけでしょ?ずっと悲しい思いをしないとならないじゃないですか」

「そうですね…」


「だけど、今は…。まったく、私は一臣様に相手にもされなかったから、そばにいられるだけでも、弥生さんが羨ましいです」

「………」

「はあ~」


 甘いため息ではなく、寂しそうなため息を美里さんは吐き、

「一臣様の近くにいたくて、テニスのサークルにも入ったんです。それから、一臣様と仲良かった戸倉君と仲良くなれば、一臣様ともっと近づけるって思って、戸倉君とも仲良くなりました」

と話を続けた。


「でも、一臣様、私と戸倉君が付き合っているって、やっぱり勘違いしちゃったんだなあ」

 暗い顔をして、美里さんは、また「は~~~~っ」とため息をついた。

「一臣様は、遊びで付き合える女性でないと、付き合わなかったし。私、そういうタイプに見えないから、お声もかからなかったし」


 だろうなあ。健康的な可愛らしい人だもの。とても、遊びで男の人と付き合えるタイプには見えない。それに、一臣さんと付き合っても、美里さんが本気で一臣さんを好きだってわかった時点で、一臣さん、きっと離れていくはずだし。


「今回、戸倉君が私を誘ったのは、私に一臣様を諦めさせるためだったんです。フィアンセと一緒だから、それを見たらさすがに諦めもつくだろうって」

「え?」

 美里さんは真剣な顔で私を見た。


「私、正直、諦められそうもないんです」

「……は?」

「弥生さんと一臣様が、仮面フィアンセだったら、まだ、私、一臣様のこと諦めなくてもいいかなって」

 どういうこと!?


「遊びで付き合えないなら、本気で付き合えばいいんですよね」

「本気って?」

「本気で好きになってもらえばいいってことですよね?たとえ、奥さんにはなれないとしても、私、それでも別にいいんです」


 待って、待って。どういうこと!?内縁の妻。不倫。愛人…ってこと?!


「戦線布告みたいになっちゃいましたね。でも、私、裏でこそこそとするのは苦手だから、弥生さんにははっきりと言っておきます。私、今回、ものすごく頑張ろうと思っているので、その辺は弥生さんも、覚悟しておいてください」

「な、なんの覚悟ですか?」


「弥生さんは、一臣様のことお好きですよね?」

「はい。それはもう…」

「じゃあ、堂々と私は勝負しますから、覚悟しておいてください」

 えええええ?!堂々と勝負?!


 ど、どうやって?何をがんばるの?私は、どう覚悟したらいいの!?


 ガビーーーン。なんて、真っ青になっていると、試合はあっさりと一臣さんの勝利に終わった。

「くっそ~~~。なんだって、一臣は昔からテニスがそんなに上手いんだよ。たいして、練習もしていないくせに」

「そりゃ、持って生まれた才能の差だろ?」


「むかつく!」

「テニスは子供の頃からの遊びだ。それも、教えてくれたコーチ陣は、プロを育てるくらいのコーチ陣だ。一度、本気でテニスプレイヤーになれと言われたが、親父が断ったくらい、俺には才能があるんだ」


 ……。一臣さん、ふんぞり返りながらすごいこと言った…。あ~あ。さすがの戸倉さんも、呆れているよ。


 って、そんなこと思っている場合じゃないよ!今、私、宣戦布告されたんだよ?

 どうしよう。


 これは、誰に相談したらいい?今、相談できるのって、樋口さんか等々力さん…。

 無理。二人にはとても言えそうもない。じゃ、戸倉さん?

 そんな会って間もない人に…。じゃあ、上田さん?

 もっと、無理。


 どうしよう~~~~~~~~~~~~~~。


 悩んでいると、頭がくらくらしてきた。頭痛するかも。

「か、一臣さん」

「なんだ?弥生、顔色悪くないか?」

 私のかすかな声を聞き、ベンチに一臣さんが来てくれた。


「はい。頭痛がするので、部屋に戻ってもいいですか?」

「頭痛?珍しいな。いつもくそ元気なお前が…」

 くそはよけいです。


「すみません。慣れないことをしたからかも」

「わかった。戸倉、美里、俺らはもう部屋に戻るから。また夕飯に食堂でな?」

 そう言って一臣さんは、私の肩を抱き、一緒にテニスコートを出た。


「一臣様!私、テニス強くなりましたか?」

 後ろからそう言いながら、美里さんが駆けてきた。そして、一臣さんの横にべたっとくっついた。

「そうだな。上達したんじゃないか?」


「ありがとうございます。私、すごく練習したんですよ。だから、こんなに日焼けもしちゃって。明日はプールで泳ぐんですよね?泳ぎもマスターしたんです」

「…そうか」

 一臣さんは一言だけ答え、私の肩を抱き歩き出した。


「一臣様も泳ぐの上手なんですよね?明日、楽しみだなあ」

「おい」

「はい?!」

 にこにこしながら、美里さんが一臣さんの顔を覗き込んだのがわかった。


「弥生が頭痛いって言っているんだ。そんなにべらべら話しかけるな。うるさいぞ」

「……ご、ごめんなさい」

 にこにこの顔が一気に曇った。そして、ちらっと美里さんは私を見て、ぎろっと睨んできた。


 怖い。


 思わず、ギュッと私は一臣さんのテニスウェアを握った。一臣さんはそれに気が付いたのか、私の肩を抱く力を強め、

「大丈夫か?」

と優しく聞いてくれた。

「はい」

 ほっとした。一臣さんは、ちゃんと私のこと気にかけてくれてる。


「いつも元気なお前が元気ないと、心配になるもんだな」

 部屋のベッドに私が寝ると、横に座って一臣さんがぽつりとそう言った。

「ごめんなさい。すぐに元気になります」

「いい。少し休んでいろ」

「はい」


「俺も、横になるかな…」

 私の隣に寝そべって、一臣さんは伸びをした。

「久しぶりに、試合したな」

「一臣さん、強いんですね」

「まあな」


「すごいですね。泳ぐのも上手なんですか?」

「まあな」

「なんでもできちゃうのは、なぜなんですか?」

「お前も、なんでもできるだろ?」

「私?できません」


「そうか?料理も裁縫も、日曜大工もなんでもできるじゃないか」

「テニスと水泳はできません。他にもできないこといっぱいあります」

「……すげえ、武道も強いくせに何を言っているんだか」

「…武道強くても、女の子らしくないですよね」


「……なんだ?何かあったのか?」

「い、いいえ」

「あったんだろ。言えよ。頭痛はそれが原因か?…ああ、あいつか。美里が何か言ったのか」

 鋭い。意外と一臣さんって、鋭いんだよね。鈍い時もあるけど…。


「なんでもないです」

「言え!こら」

 ムギュウ~~~っと鼻をつままれた。

「くるひいでひゅ」


「じゃあ、言えよ」

「…み、美里さんって、テニス上手だし、スタイルいいし、ウェア似合ってた」

「それで?」

「……可愛い人だったし。遊ぶ感じにも見えないし」

「遊ぶ?」


「男の人と平気で…」

「ああ。俺は戸倉と付き合っていると思っていたけどな」

「……」

「俺に気があるみたいだな」


「はい」

「それで?」

「だから、その」

「なんか、心配事でもあるのか?まさかと思うが、俺が美里に惚れるだの、美里と付き合いだすだの、そんな心配じゃないよな?」


「……」

「こら」

 プニ~~~~。今度はほっぺを引っ張られた。

「いひゃいでふ」


「そんなあり得ないこと妄想して、暗くなるな。お前にしか惚れないから安心しろ…。って、なん百回と言っている気がするぞ、俺は」

「ごめんなさい。そうですよね?」

「…こっちを向け」


 顔を一臣さんのほうに向けた。一臣さんは私の顔を覗き込み、

「俺はなあ、前にも言ったろ?お前しか可愛いって思えないんだ」

と、真面目な顔をしてそう言った。


「は、はい」

 ドキン。

「それも、可愛い…ってレベルじゃない」

「は?」


 どんなレベル?

「すげえ可愛くて食べたいくらい可愛い…ってレベルも越している」

 はあ?!


「わかるか?」

「い、いいえ。あんまりよくわかりません」

「なんだよ。わかるだろ?どれだけ、お前のこと抱いたと思っているんだ。だいたい、すげえ可愛いって思えなかったら、こんなに何度も抱かないし、これだけお前と一緒にいないぞ?」


「え?」

「お前が婚約者じゃなかったら、年中一緒にいたいってほどお前に惚れている俺は、多分、ストーカーになるかもな」

「ええ?!」

 一臣さんがストーカー?


「いつもお前と一緒にいたいだの、いつもお前に触れていたいだの…。やばいだろ?フィアンセだからいいけど…」

「……」

「なんだよ。なんで、そんな目で見るんだよ」


「いつも、私のことストーカーって言っていたのになあって思って」

「そうだよ。それだけお前は俺に惚れているんだろ?」

「はい!」

「だから、俺もそのくらいお前に惚れているってことだ。わかったか?」


「………え?」

「え?じゃない。お前が俺に惚れてるくらい、俺もお前に惚れている。異常に俺が好きなお前なら、俺の気持ちもわかるだろ?」

 い、異常にって…。


「……え?じゃ、じゃあ、ものすご~~~~~~~~~く一臣さんに惚れていますけど、そのくらい私のことを思ってくれているってことですか?」

「ああ。ものすご~~~~~~~~~~くな」


 ひゃあ!ほんとに?!

 顔が熱い!私、真っ赤かも。


「日焼け?それとも、熱でも出たか?顔、真っ赤だぞ」

「それは、その、すごいことを一臣さんに言われたので」

「お前もそのくらいすごいことを俺に言ったぞ?」

「そ、そうですけど」


「俺はそのくらいすごいことを言われると、鳥肌立って寒くなるけどなあ」

 なぜだ。

「安心したか?弥生」

「……えっと。はい。一応」


「なんだよ、その返事は。しょうがないな。こっち向け」

 一臣さんは私の顎を掴み、あつ~~~いキスをしてきた。

 あわわ。とろけた。


 ほわわん。


「どうだ?安心したか?」

「はひ」

「腰も抜かしたか?」

「はひ」


「しょうがないやつだな。でも、言っておくぞ。腰が抜けるほどのキスも、お前にしかしないからな。他の女になんて、キスする気も起きないんだからな」

「は、はひ」


 一臣さんの胸に顔をうずめた。

 頭痛はすっかり治っていた。それどころか、ほわほわして夢心地になっていた。





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