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~その1~ 避暑地へ!

 12月大安吉日。私と一臣さんは結婚した。

 すでに、婚姻届は出していたので、私はもう緒方弥生になった。

 緒方弥生だ。


 緒方弥生………。


 きゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!


 皆様、お久しぶりです。わたし、緒方弥生でございます!!!!!!


 婚約をしてから、ものすごい速さで時間が駆け抜けました。どんなことがあったか、報告したいと思います。


 6月末で婚約をして、7月、出社すると会う人会う人に、おめでとうございますと言われました。婚約パーティの写真や動画が、緒方財閥のホームページに載り、中には、「一臣様にお似合いでもなんでもないわ」なんて、そんな厳しい言葉も聞こえてきましたが、ほとんどの人があたたかく祝福してくれました。


 それは、とっても嬉しかったんですが、女性社員からはほとんど、

「大変だと思うけれど、頑張って。一臣様が浮気しても、頑張ってね」

とか、

「一臣様のハートを射止めるのは、ものすごく大変な奇跡的なことだと思うけれど、応援しているわ」

とか、

「一臣様に冷たくされたとしても、めげないでね」

とか、そんな言葉ばかり。


 う~~~~ん。やはり、ほとんどの人は、仮面フィアンセだと思っているらしく。


 婚約発表をしてからは、一臣さんはどこにでも私を連れ歩きました。他社への挨拶の時も、自社の工場も、緒方財閥の子会社にも、大阪支店にも。


 どこに行っても、一臣さんは私の背中に腕を回し、エスコートしてくれていたし、

「わたくしの婚約者の上条弥生です。以後、よろしくお願いします」

と丁寧に私のことを紹介してくれていたし。


 私はどこに行っても歓迎されていました。でも、たま~~に、

「一臣様、とうとう婚約されちゃったのね」

なんて、嘆いている女性たちの言葉も耳に入ってきましたが。


 そんなこんなで、私と一臣さんは、と~~っても仲睦ましくしていたのにもかかわらず、仮面フィアンセの噂は消えることなく…。


「なんでだ?」

 一臣さんは、8月に入っても、まだ仮面フィアンセの噂が消えないことに、首を傾げ、

「人の噂も49日だろ?6月頃から噂が立ったんだから、もう消えてもいい頃だろ?」

と、そんなことを私に聞いてきたことがありました。


 あれは確か、一臣さんと夏休みを取り、避暑地に行こうとしていた前日のこと…。

  

 以下、回想………


 念のため、言っておいた方がいいよね。うん。わざとぼけていると思うけれど、念のため。

「あの、一臣さん。人の噂は75日です…けど?」

「え?!」

 うそ。本気で間違っていたのか。わざとぼけていたわけじゃないのね。


「ってことは、2か月半か?は~~~~、そんなに続くのか」

「………75日で、消えたらいいんですけど。結婚したら、仮面夫婦とか言われたりして」

「……」

 一臣さんが片眉をあげた。


「さっさと子供でも作るか。な?弥生」

「結婚してからですよね?」

「ああ。結婚したらすぐだ。わかっているよな?」

 なんか、目つきが怖いんですけど…。


「それより弥生、いよいよ明日からだぞ」

「はい!支度もばっちりです!!テニスだって、一臣さんに鍛えてもらったし」

 かなりのスパルタだったけれど。

「ああ、一応、ダブルスの試合くらいはできるようになったな」


「向こうでも試合をするとか?」

「ああ」

「誰とですか?」

「大学時代の友人だ。たま~~に会って、テニスをしている」


「もしかして、サークル仲間?」

「ああ、そうだ」

「でも!でもですね、向こうは男の人ですよね?そんな人と試合しても太刀打ちできません」

「安心しろ。向こうも女連れだ」


「…え?」

「大学時代のサークル仲間の女だ。あんまりテニスは上手な方じゃなかったし、お前とどっこいどっこいだろ」

「き、綺麗な方ですか?」

「綺麗かどうかを俺に聞くな」


「どうしてですか?」

 きょとんとしてそう聞くと、一臣さんは私のことを抱き寄せ、鼻の頭にキスをした。

「えっと?」

「お前のことしか可愛く見えないんだ。他の女が可愛いとか、綺麗とか、そういう感覚が俺にはまったくわからない。だから、そんなことを聞いても無駄だ。どの女も、俺にはどうでもいい」


 うわ~~~~~。なんか、すごいことを言われている気が…。

「お前は?他の男を見て、かっこいいとか、素敵とか思うのか?」

「いいえ!まったく思えません。だって、一臣さんが一番だし、一臣さんしかかっこいいと思えないし、一臣さんしか麗しいと思えないし」


「わかった。それだけで十分だ。ほら、鳥肌が立っただろ?」

「ごめんなさい…」

 一臣さんは、私をぎゅっと抱きしめてきた。


「たった3日しか休みが取れなかったが、楽しもうな?弥生」

「はい」

「3日間、いちゃいちゃしまくろうな?」

「……」


「返事は?弥生」

「は、はい」

 恥ずかしいな~~、もう~~~~~~~~~~。なんだって、こういうことを一臣さんは聞いてくるんだろう。そのうえ、そんなことを聞いて、私が「はい」と頷くと、やけに一臣さんはご機嫌になる。


「じゃあ、明日に備えて、今日はやめとくか」

「そ、そうですね」

「ん?抱いてほしかったのか?」

「いいえ。今日は早くに寝たいし、遠慮しておきます」


「だよな。明日、朝早いもんな」

 そうです。それに、ほとんど、連日している気がします。なんだって、こう一臣さんはタフなのか、私にはわかりません。


 そうなんだよね。本当に、いちゃつきまくっているの。屋敷でも、オフィスでも。最近は、何個もガーターベルトを青山さんに買わせて、オフィスの一臣さんの部屋でも、私は襲われている。


 襲われている…。なんて、人聞きが悪いと一臣さんに言われそうだけど、一番しっくりくる言葉だと思う。だって、後ろからいきなり抱き着かれて、そのままソファに押し倒されてみたり、パソコンで仕事をしていたって、スカート思い切りめくってきたり。


「仕事中です~~~!」

と、抵抗しても、

「仕事は後でいい」

と言われ、じたばたしていても、熱いキスで、抵抗できなくなる。


 こんなでいいの?と、たまに疑問に思う。そして、一臣さんに聞くと、

「いいんだよ。忙しくて、屋敷に帰るのも遅くなるんだから、オフィスでいちゃついたって、別にいいだろ」

と、開き直られてしまう。


 えっと~~。確か、誰かに、

「一臣様のハートを射止めるのは、奇跡的なことだから」

と言われた気がする。そうか。奇跡が起きているってことか。でも、スケベ心まで射止めたくなかったような、そんな気もしなくもないが。


でもとりあえず、今夜は早くに寝れそうだ。シャワーを浴び、一緒にジャグジーに入り、早めに二人してベッドに入った。


「ああ、楽しみで、わくわくしちゃって、眠れそうもないです~~」

 そう言うと、一臣さんが、

「そうか。じゃあ、今日もするか?運動したら、ほどよく疲れてすぐに眠れるぞ」

と、私の上に覆いかぶさってきた。


「いえ。いえいえいえ。今のは嘘です。すぐ眠れます」

 って言っているのに、なんで、首筋にキスしているの?

「だから、眠れますから!」

 きゃ~~~~~~~~~。パジャマ脱がしてきた!なんだって、こうも人の話を聞かないかな、この人は。


「今さら何を言っても遅い。俺はもう、その気になった。観念しろ」

 もう!こういう俺様的なところは、まったく変わらないよね。


 そして、結局熱いキスと熱い眼で落とされる。とろとろに溶けてしまう。

 二人して、裸のまま眠った。一臣さんが言うように、ほどよく疲れ、私も一臣さんもすぐに眠りについた。


 翌朝、一臣さんの目覚めがやけに良かった。

「ほら!弥生。早くに起きろ。朝ご飯食うんだろ?」

「はい~~」

 私は眠い目をこすりながら、ベッドから起き出した。

 

 あ、裸だった。大変。と、後ろを向くと、一臣さんがじっと私を見ていた。

「み、見ないでください」

 そう言って、ベッドから床に落ちていたパジャマを急いで拾い、とりあえずそれを羽織って、走って自分の部屋に駆け込んだ。


「プッ!なんだって、そう恥ずかしがるんだか」

 一臣さんの笑い声が隣の部屋から聞こえてきた。

 だって、まだまだ恥ずかしいものは恥ずかしいもの。


 一臣さんに言わせると、私は一臣さんに抱かれている時には、大胆になっちゃうらしい。自覚はない。どうして、その時だけ大胆になれるのか、自分でも不思議なくらいだ。

 その時だけは、一臣さんに裸を見られようが、まったく平気だ。最近は、オフィスでも襲ってくるから、明るかろうが、電気が煌々とついていようが、気にしなくなってしまったようだ。


 だけど、エッチをしている時だけだ。他の時は、まだまだ、裸を見られるのに抵抗がある。お風呂だって、一緒に入るのが恥ずかしいんだから。


 そして、一臣さんはというと、

「スイッチ入ると豹変するお前、なかなかそそられる。いつもは、恥ずかしがりっていうのもいいよな」

と、にやついている。ほんと、悪趣味だと思う。


 そして私と一臣さんは、等々力さんが運転する車に、樋口さんも一緒に乗り込んだ。

 なんだって、夏休みにまで秘書の樋口さんを連れて行くのかというと、一応、私と一臣さんのボディガードっていうこともあるんだけど、それだけじゃない。樋口さんにも、等々力さんにも、避暑地でしっかりと、休んでもらおうという目的があるのだ。


 樋口さんも等々力さんも、ほとんど夏休みがない。特にお二人は、自分の実家や田舎に帰る予定もないらしい。だから、避暑地でのんびりしてもらおうと、そんなことを私と一臣さんは考えたのだ。

 二人とも、緑の多い自然の中は好きらしい。等々力さんと樋口さんは、テニスはしないが、プールでのんびりと泳いだりしながら寛ぎますと言っていた。


 実は、私はまた屋敷の従業員全員で来たいくらいだった。だが、さすがにそれは、お母様が許さないだろうと一臣さんに言われた。

 なので、屋敷のみんなは、順番に夏季休暇を取ることになった。


 そして、車は避暑地に着いた。

 森?っていうくらいの木々に囲まれた道を車は通り抜け、だだっぴろい敷地に辿り着いた。門らしいものがあり、そこから車はしばらく走り、そしてようやく見えてきた。緒方家の屋敷よりは小さいが、十分大きなお屋敷が。


 いや、ホテルといってもいいくらいの造りかな?これ…。

「すご~~~い。素敵!!!」

 高原の中にあるホテルのようだ。到着して、私は一臣さんに連れられ、ホテル…じゃなくて、その別荘に入った。


「一臣お坊ちゃま、お待ちしていました。お久しゅうございます」

 そう言って、60代くらいの女性が出迎えてくれた。


「ああ、上田さん。大学2年の時に来て以来だから、4年ぶりか?」

「お坊ちゃま、その方がフィアンセの弥生様ですか?」

「そうだ。弥生、紹介する。この別荘を管理している上田さんだ。旦那さんと二人で、この別荘を管理して…、あれ?旦那さんは?」


「コックの飯山さんと、買い出しに行っています」

「飯山さんかあ。飯山さんの料理もうまいんだよな。楽しみだな。な?弥生」

「はい!」

「こいつは大食漢だから、たくさん作るように言っておいてくれ」


「まあ、そんなに召し上がるんですか?」

「いいえ!普通です。けして、大食漢なわけじゃ」

「はははは」

 もう!また、こんな冗談を言って!


「まあ、まあ!弥生様と一臣お坊ちゃまは、仲がよろしいんですね」

 上田さんはそう言って、

「どうぞ、リビングでお寛ぎ下さい。今、飲み物をご用意しますから」

と、私たちをリビングに通してくれた。


「わあ」

 何畳あるの?っていうくらい広いリビングと、その向こうにはダイニングが広がっている。

 リビングには、暖炉があった。それから、グランドピアノも置いてある。そして、ソファ。と、ソファ。と、ソファ。

 それからカウンターもあり、ちょっとした洒落たバーみたいだ。


 ダイニングに行くと、大理石の床に、明るい色のテーブルと椅子が並び、軽く12人くらいは座れそうだった。

「お屋敷のダイニングより、明るいですね」

「そうだな」

 キッチンは、ダイニングの向こうにあるようだ。


 ダイニングとリビングは、大きなガラス窓があり、そこから庭が見ることができた。

「プールがある」

「ああ。お前、泳げないんだろ?まあ、プールサイドの長椅子にでも寝そべっているんだな」

「でも、浮き輪があれば、泳げます」


「浮き輪~~?そんなもん、あるわけないだろ」

「そ、そうなんですか?」

 がっかり。

「まあ、いい。それなりに、プールでも楽しめるしな」

 

 何を?

 まさか、変なことしようと思っていないよね!?


「プールの向こう、見えるか?テニスコートがあるだろ」

「はい」

 木々が生えていて、テニスコートの全貌は見えなかったが、確かにコートらしいものがここからも見えた。


 すごい。やっぱり、リゾート地のホテルみたいだ。

「部屋数はどのくらいあるんですか?」

「ツインの部屋が、何個だったかなあ。なあ?樋口」

「確か、4部屋ですね。あと、家族で来ても泊まれる4人部屋が、1部屋あります」


「ってことは、12人は泊まれるってことですか?」

「ああ。だから、ダイニングも12人座れるようになっている」

 なるほど。それで、リビングにも、ソファが、12人くらい座れるように、あんなにたくさん置いてあるんだな。


「はあ…。素敵ですねえ」

「上条家には、別荘はないのか」

「ないですよ。あ、あるかな?でももっと、古い民家みたいな感じで、避暑地じゃなくって、田舎の中にあるんです。小学2年くらいまで、みんなで泊りに行っていました。ほら、ちょうど、となりのトトロ…、あんな感じでした」

「その映画を観たことがないから、わからん」


 そうなんですか…。

「でも、今は手放しちゃったかも。屋根裏には座敷童が出てきそうな雰囲気のあるわらぶき屋根の民家だったんです」

「すごい別荘だな」


「はい。祖父が気に入って買ったらしく…。あ、ほら、日本大好きな人なので、そういう家に住んでみたかったみたいで」

「なるほどな」

「ただの空き地みたいな庭がありました。そこで、みんなで走り回ったり、剣道の練習をしたり…」


「上条家っていうのは、時代背景が昭和みたいだなあ」

「そういえば、そうですね」

 こことはまったく違う。この別荘はかなりモダンな造りだ。まだ、建ってからそんなに月日はたっていないのかもしれない。


「お部屋に荷物を置いてきました」

 樋口さんがそう言って、2階から降りてきた。

「すみません、そんなことを樋口さんにさせてしまって」

「いえ。秘書ですから、そのくらいは…」


 樋口さんは、ちょっとびっくりしながらそう答えた。

「いいえ。ここでは、のんびりしてくださっていいんです。もう、等々力さんも樋口さんも、どうぞ寛いでください!」

「いえ、そんなわけには…」


「いいぞ、樋口。ここでは、上田さんがいろいろとしてくれるんだし、お前と等々力はゆっくりしてくれ」

「…では、ソファに座らせていただきます」

 そう言って樋口さんは、ようやくソファに座った。等々力さんも樋口さんの前に座った。


「どうぞ、冷たいお茶をお持ちしました」

 上田さんが、お茶を持ってきてくれた。私と一臣さんもソファに座り、ゆっくりとお茶を飲んだ。


 それから、お昼を食べに、等々力さんの車で、一臣さん、樋口さん、そして私は近くのホテルのレストランに行った。そこも、一臣さんはよく来ているレストランだったようで、

「緒方様、お久しぶりです」

と、支配人が挨拶をしにすっ飛んできた。


「婚約者の上条弥生だ。これからは、弥生も一緒に来ることになるからよろしくな」

「はい。よろしくお願いいたします。弥生様」

「あ、こちらこそ、よろしくお願いします」

 

「ここの料理はなかなか旨い。な?樋口」

「ええ、そうですね」

 席に案内され、みんなが席に着くと一臣さんはそんな話をしだした。


「女がいる時は、別荘ではなくここに泊まったりもした」

「え?」

 一臣さん、時々、昔の女の人の話をするから、そのたびに胸がチクンと痛む。


「別荘には、連れて行きたくなかったんだ。あそこは、特別な場所だったし」

「特別な?」

「プライベートでゆっくりできるところだ。誰にも邪魔されず、ゆったりできるだろ?」

「そうですね。周りは森みたいだし、とっても静かだし」


「そんなところに、女を連れて行こうとは思わない」

「あの、私も一応、女なんですけど…」

 そう一臣さんに聞くと、

「お前は俺のフィアンセだろ。未来の奥さんだ。遊んでいる女とは別なんだからいいんだよ」

と、頭をこつかれてしまった。


「そんなところに、私や樋口さんが泊まったりしてよろしいんですか?もし、お邪魔なようでしたら、他の宿に泊まりますが」

 等々力さんが、申し訳なさそうにそう言うと、

「等々力と樋口はいいんだ。二人がいても、俺も弥生も気兼ねすることなく、のんびりできるから。な?弥生」

と、私にも同意を求めてきた。


「はい。車の中でも、いつでも私、安心していられるし、お二人のことは大好きですし。一緒に夏季休暇をのんびり過ごせるのは、すっごく嬉しいんです。本当だったら、亜美ちゃんや、トモちゃんや、喜多見さんや、コック長にも来てほしかった」

「おい。そうしたら、賑やかになって俺と二人でのんびりなんかできなくなるんだぞ」


「そ、そうですけど…」

「ふん。屋敷に帰ってから、あいつらとは仲良くしたらいいだろ。おふくろも、8月の後半はヨーロッパに行くと言っていたから、メイドたちと仲良くしてても、誰も怒らないぞ」

「はい。じゃあ、たまに寮に遊びに行ってもいいですか?」


「ああ。でも、泊まるのは無しだ」

「ダメなんですか?」

「当たり前だろ!俺が眠れなくなるだろ!」

 そうだった。私がいないと一臣さん、眠れなくなっちゃうんだった。


 ランチも済み、ホテルを出て別荘に戻った。すると、

「おお!一臣。やっと帰って来たか」

と、リビングで我が物顔で、お茶を飲んでいる男女がいた。


 浅黒い焼けた肌の男性と、ショートカットで、小麦色に焼けた肌の可愛らしい女性だ。

「一臣様、お久しぶりです」

 男性はソファにふんぞり返ったままだったけど、女性の方はすぐに立ち上がり、嬉しそうに一臣さんの目の前までやってきた。


「あれ?なんで、お前ら今日いるんだ?明日来るんじゃなかったのか?」

「仕事休めたんだ。だから、1日早くに来た。明日からホテルの予約とってあるから、今夜はここに泊まらせろよな?一臣」

 え?


「……なんだって?ここに泊まるのか?」

「いいだろ?どうせ、部屋数たくさんあるんだし。美里とツインでいいからさ」

「え?それは困ります。戸倉君とは別の部屋にしてください」

「あれ?お前ら、付き合っているんじゃないのか?」


 一臣さんが、片眉をあげてそう聞くと、美里さんは首を思い切り横に振った。

「大学の時、付き合っていなかったっけ?」

 また、一臣さんがそう聞いた。


「いいえ。やっぱり、一臣様、勘違いしてた。私と戸倉君は、お友達です」

 美里さんは必死にそう一臣さんに訴えた。

「ふうん。それなのに、戸倉とここに来たのか?」

 半信半疑の目で一臣さんは美里さんを見ながらそう聞いた。


「だって、一臣様に会えるって聞いて…」

 ぽっと美里さんは顔を赤らめた。

「美里、ずっとお前に会いたいって言っていたから、連れてきてやったんだ」

 は?


 なんですと?!


「…俺に?」

 一臣さんの眉間にしわが寄った。でも、そんな表情にも気づく様子もなく、美里さんはもじもじとはじらっていた。


 なんだってまた、一臣さんに気がある子がやってきちゃうんだ!それも、とっても可愛らしい女性が…。

 なんだか、嫌な予感がする。

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