表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10


 黒い風がひゅうひゅうと歓声を上げた。


 そこに対峙する白猫が一匹。眠りから覚まさない少女が一人。そして黒衣の男が一人。踊り回る黒い炎。男は楽しそうに、萌の元へ近寄る。猫は唸り、威嚇する。


「そう怒るな、偉大なる騎士。今は陳腐な白猫よ。私はお前に力を貸しただろう? その礼としてはあまりな態度だな」


 睨む。楽しげに男は笑った。炎は踊り狂い、雄叫びを上げる。


「その猫を焼き殺せ」


 彼は萌を愛しげに抱きしめ、命令した。

 

 









 

「おじさん、おばさん! 俊!!」


 慌てて外に出た聡一は呆然と立ち尽くす一家に声をかけた。その中に萌の姿はない。


「まさか、萌は中に?」


 コクリとうなずく俊。萌の母は冷静さを失って泣き出す。父は諦めたように火に包まれた我が家を見ていた。


 聡一は何も考えず、本能のままに自分の庭の水道をひねり、水をかぶる。


「やめろ、聡一さん! この炎じゃ無理だ!」


 俊が止めるが、その言葉は聡一には届かない。そのまま全速力で家に飛び込んだ。

 

 

 







 幼い頃から知っている存在を諦めるほど聡一は大人にはなれない。馬鹿げた行動だと思いつつ、階段を上る。


 諦める事は簡単だが、後悔は永遠に残る。


 色々な言い訳をしてきたが、萌が聡一にとって一番大切であるという事にかわりはない。炎が皮膚を焼くが、その痛覚も麻痺したようだ。何でもいい。とにかく萌を助け出す。聡一の頭にはそれしかなかった。

 

 








 

「お客さんのようだな」


 聡一がドアを開けると、黒衣の男が白猫に向かって言葉を投げた。この部屋だけは、黒い炎が笑い声を上げながら、乱舞している。その男に萌は抱かれている。


「萌、ルル!」


「ルルと言う名前をもらったのか、お前は」


 黒衣の男は、ニヤニヤして炎を弄ぶ。その炎が聡一に飛んだ。


「何しにきた、客人? よく目が覚めたな」


 炎を間一髪で避け、状況把握をしようとしたが混乱する。


「起きない方が賢明ではあったな。ま、どちらにせよ、彼女はいただく」


「ふざけ────」


 炎がまた飛び、それを避ける。


「発言権を許していない」


「許可してもらう必要もない」


「……身の程知らず、と言うんだよ。そういうのはな」


 炎が固まり、膨らむ。


「みんな死ねばいい。彼女は私のものだ」


 炎を投げ放つ瞬間、白い猫が跳躍した。

 

 







 

 私を守ってくださいね、かの龍を征伐した時のように────。


 それはすでに死んだ記憶の断片にすぎないが、彼を強くするのには充分だった。

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ