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少女たちの物語

仕事と撮影。前日。

作者: 雪野つぐみ

「……」

午前9時20分。

あたしは駅で待っていた。

今日は写真部の仕事。

六時間写真を撮るだけの簡単なお仕事……だけどな。

あたし、部長、同級生の高田の三人で、中学の同窓会の写真を撮るという、プレッシャーのでかい仕事だ。

しかもあたしは今回が初めての仕事。

一応、中学の場所を調べて現地まで行って様子見たりはした。家近かったからな。

だから迷子になるこたないとは思う……

でもなあ……あたしは二年で一番実績が少ないってのもあって、現場仕事は少し不安だった。


「遅刻だぞ遅刻!」

同級生の高田が集合時間に遅刻してきた。部長はちゃんと来た。

「デコピンするぞ!あ、ここでやったら落ちるか」

階段上。降りて、変わりかける信号をダッシュする。

遅刻した奴がいたとはいえ、これなら間に合うだろう。


9時45分……

現地、中学校に着いた。

部長の方向音痴スキルを多少発揮してこれである。

すでに中にはおじさん、おばさんが集まっている。

…あたしらより四十は年上だもんな。おじんおばんで当たり前か。

あたしらはいわゆる“代打”。本職のカメラマンが来られなくなったからあたしらに回ってきたってわけ。

つまり、プロの技術力が求められる。

プレッシャー重た……

ちなみに部長と高田は一度こういう仕事を経験済み。

あとソラって後輩が経験あるが今回は来てない。部長曰く、「言ってすらない」そうだ。

まあ、その話された時にその場にいたってだけで入ったしな……

「おはようございます」

「あ、おはようございます」

この人が今回の仕事の依頼人(同窓会会長)か……多分。

ぱっと見、普通のおじさんだ。

ま、普通のおじさんだけどな。

簡単に自己紹介する。

ギャラは一人頭3000円。

ま、高校生のバイトだからな。そう高値は出んだろ。

一日使うSDカードをカメラにセット。向こうが用意したもので、終わったらこれごとデータ提出する。

そして、あたしらの仕事は始まった。


中学校の中を歩きまわる。

懐かしの校舎を一週する様子を、あたしらが撮影する。たまに部活中の中学生と出くわしたり。

普段在校生がいけない屋上にも行った。高くて怖かった。

校舎の外で、記念撮影。

まず部長が撮る。次に高田。

あたし?同窓会の会長からカメラ預かって順番待ってたよ。

部長は難なく撮り終えて、高田の番。

「はい、んじゃ撮りますよー。3、2……」カシャッ。

……は?こいつ何やってんだ?

「おっまえ、何やってんだよ!1どこに消えたんだ1は!」

「いやぁ、やってもうたわ……」

「……あたし撮るぞー」

あたしは高田みたいなミスはやらかさんかった。

撮影したら、いったん解散。

ここからまた移動だ。確か、万博記念公園のホテルで食事会。


「……」

「初原さん、どしたの?」

ヤバい。封筒忘れた。

あたしは財布に小銭しか入れない。札はお小遣いもらったときの封筒にいれっぱだ。

そして……18円しか入ってない。

交通費はあとでまとめて“経費”として請求する予定になってる。

つまり……非常に困るシーンだ……

「……無い」

「……もしかして、交通費ない?」

高田の察しの良さ……今はちょいと助かる。

「すまん……」

結局高田に借金するはめに……最悪パターン(家に一旦戻る)よりはマシだがな。


ホテルの二階、まだ準備中のホール。

ホテルの人がテーブルのセッティングやら何やらで忙しく動きまわっている。

その隅、喫煙スペースの横に、あたしらの昼飯(コンビニの弁当)が用意してあった。

さっさと食べて、後半に備えねーとな。

っと、その前に経費請求の紙書かなきゃだな。

「お前ら先食っといて。その間に書くから」

部長、お前が一番食べるの遅いだろ。

ちょっと申し訳なかったりするが、先にいただきます。

一番マシな弁当がこれなぁ……貰えるだけマシだけど。


「そういや、給料どうする?ここに置きっぱもアカンと思うし……誰が預かる?」

「部長はアカンな。持たせたら横取りしそうやしな」

机の上に置かれた給料袋。三人分まとめて入ってるらしく、そこそこ重い。

「お前がいうな。あたしは誰が持とうと構わん」

「じゃあ初原が預かってて」

「……はいはい」

結局あたしか。


「お前ら、頑張っとるかー?」

出た、目城先生!

写真部の技術顧問、学校最強の先生!

今回の仕事を紹介してくれた人でもある。

今日、こっちで合流して、一時間だけ手伝ってくれる……って話だったはず。


それからちょっとして、会場に同窓会の参加者たちが入ってきた。

さー、仕事だ仕事。

とりあえず、「すべてのテーブルの写真を一枚ずつ撮影」が全体の第一目標か。


みんな散らばって、撮影。

席に全員が集まったタイミングを狙って声をかける。

「すみません、写真いいですか?」

「お願いします!」

何回聞いたかな。大方まわりきったところで、ちょっと携帯を出した。

あれから一時間か……少し疲れたが弱音は吐いてられない。

ボトルのお茶をひとくち飲んで、また撮影。

会場全体を撮ってたら、集合写真を撮るらしく、「戸根小学校出身の方は前に出てきてくださーい!」とホテルの人が声を張り上げていた。これは撮らないわけにはいかん。

舞台の前で皆と合流。順番に一組ずつ、一人で撮ることに。


出身小学校から始まって、今度は部活別だ。

それが終わる頃には、あたしは酒と煙草の匂いに耐えられなくなってきていた。

会場の外に出て、座り込む。幾分か涼しい空気を吸い込んで、リフレッシュ。

あんまり長く抜けてるわけにもいかないけどな……

お茶も全部飲んじまったし……ジュースもらうかな……(実は会長さんの計らいでドリンク飲み放題)

数分して、また中に戻る。

根詰めすぎたらいけないのはわかってるけどな、仕事だからしっかりやりたい。


全体の集合写真撮るまでは少し猶予はある。

イコール、ちょっと暇。

三人プラス会長さんはドリンクのところの脇で話しこんでいた。ひとりでいるのも寂しいし、話聞くだけ程度に合流。

会長さんにオレンジジュースいただいた。普段飲んでるのと違う。凄く美味い。

いただいた一杯目はすぐに飲んでしまい、二杯目ももらった。

美味いから飲み過ぎ注意だな。

二杯目を飲み終わった頃、全体集合写真を撮る準備が始まった。


五分はかかっただろうか。

テーブルはほとんどどかされ、広くなった宴会場。

全体の集合写真の撮影だ。

これはあたしはパス。というよりなんもする事がなかった。

カメラ預かって持ってる程度。

この大仕事が終わればあたしらの仕事も終わり。

携帯を見ると、もうすぐ4時。時間の流れって意外と早い。


そして、会もお開き、会場外のソファーにみんな座って、休憩。

……結局目城先生が最後までいた件について。

そして、給料の分配。

経費分もまとめて入ってたようで、一万より多かった。

「一人四千円取り。端数は俺が出したるわ」

目城先生気前いいな……部員に甘いというか。

「で、交通費いくらや?千円越えとるやろ」

正味モノレールって高い。病院前駅と万博記念公園駅往復だけでも600円超えるしな。

地下鉄も使う高田とか交通費すごいことになるぞ(その上あたしに貸してる金あるし)。

唯一あたしだけ超えてなかった(結果的にその分も黒字に)。

「……高田、すまん、細かいの結局無いから明日なんとかして返す」

「いや別にええって」

「明日のお小遣いも確保できたことやし、また明日撮影頑張れよ!」

目城先生の一言。そうだ明日撮影会だった。

今日はもうさっさと帰って寝て、明日の体力回復だな。

そんで明日、帰りに雑貨屋寄って麻美の入学祝い買おう。


どうも、雪野つぐみです。

今回、以前連載していた長編、「初原姉弟の変わってるようで当たり前な日常」の番外編として書きました。

一応企画で書いてますが、相方の文群氏と比べて極端に短いです。いつものことですが。


相方(リア友)の文房群氏、面白いネタ提供してくれた部活の方々、読んでくださった皆様に、最大級の感謝を…

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