#4
英は必死になって自転車を悠太と共に暗い夜道を懸命に進ませる。
寂しい夜道は彼にとって那智の命に比べたらどうって事なかった。
病院へ入ると今だ灯りのつく受け付けへ走り寄る。
愛童 智那 と言う名前を出せば看護婦は頷き案内をしてくれた。
「おばさんっ!!智那は!?」
「・・・英君・・・来てくれたの・・・?」
英の声に気付いた智那の母は顔を上げる。英はその顔に思わずぎょっとした。
いつもは笑いがたえず美人と近所から言われていた母親は泣き腫らし脱力感が溢れ見るも無残な姿でまるで光と影。
ごくんと英は喉を鳴らした。
「今は手術中よ・・・。でも・・・た、助かる確率は・・・少ない、って・・!!」
最後は今にも泣き崩れそうと言うより消えそうな掠れた声で言えば顔を伏せて声をあげはじめ、
後ろに居た悠太もうわぁと泣き崩れ冷たい廊下に座りこんだ。
「・・な、泣くなよ!!死んだみたいに扱いやがって…!!」
ぎりっと唇を噛締めると彼は悠太に怒鳴る。
目にはもう涙が溢れそうだけれど英は走り出すとオペ中の手術室の扉を思いきり開けた。
「智那はまだ生きてるよ!!!」
***
「待てよ!!ガブリエル!!」
波動が続く中ルシファーは大声を上げる。ガブリエルは振り返る事もせず白い壁に手を当てると扉を作り始めた。
「…。ルシファー、一度自分の落ち度に目を見張るべきです。」
扉へと手をかけ中へ足を運ぼうとするがガブリエルは入る前に一言呟いた。
「はぁ?」
波動から身を動かせまいとするルシファーはガブリエルの言葉に苛立ちを覚えた。
「貴方が戻って来ると言うなら私がいつでも席を空けときましょう」
「…うるさいな、俺は戻る気なんてこれっぽちもねぇよ。」
智那はと言うと意味を理解せずに光の壁へ自分の身が半分まで満たされた。
微かだけれど、光の奥は温かい気がする。
「全く貴方の素直じゃない所には悩まされますよ…。さて、では時間ですね。」
再びガブリエルは歩き出し智那はガブリエルと共に壁へと消えて行きそうになる。
それを見たルシファ―は小さく舌打を打つと
「しゃーねーな」
と一言。
ガブリエルは聞き逃さずに振り返って。
「天国へ権力を渡すぐらいなら時間を与えた方がまだマシだ。」
「何…?」
ペロリと口端を舐めると意地の悪い笑みを浮かべ、両手の手のひらをガブリエルに向ければ小さく呪文を呟き手の平に黒い円が描かれた。
かと思えば其処から数十億の蜘蛛が吐き出るように波動の中を逆へ進んで行く。
その蜘蛛は宙に舞って。
「この子の体を戻すつもりでっ…―!!」
智那の足元から蜘蛛が智那を包み込むように体を這い上がる。
その蜘蛛から異様に漂う邪気にガブリエルは思わず声を言葉を無くし手を離した。
「う、うわぁぁ、やめろっ!!嫌だ!!クモはいやっ…う゛っ…」
智那は数十億の小さな蜘蛛に体を包まれ動く事もできず顔も全てが埋もれてしまう。息を止め肌から感じる動く何本もの足に恐怖に潰されそうになって。
「今、返してやるよ。」
ルシファーはその2つ円から銀色に輝く一本の光を作り上げその光は智那へと飛んで行けば心臓の辺りへ突き刺すように。すると蜘蛛も銀色に輝き出し弾けるように飛び散った。
「ル、ルシファ―!!」
智那は彼の名前を呼んで瞳を開けると体は何時の間にか夜の空へ、蜘蛛の姿は無くまるで体が浮かび上がり月が真横にいるような錯覚に襲われもう一度短い瞬きをする。その間に物凄い風圧を感じた。
ツヅク