幕間・渡良辺おでかけ前
「お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんっ!」
「なんだ、はら蔵。やかましいぞ」
階段を転がり落ちるように下りてきた妹がキャミソールに下着などという格好でとりあえず呆れてみる。
「あんた家の中だからって、いくらなんでもぱんつは」
「服、服貸して!」
「……服?」
いまにもべそをかきそうな顔に、なんとなく次第を察する。
「ぎゃああああと25分しかないっ、ねえお姉ちゃん、シャワーって浴びたほうがいいの!?」
「知らないけど、どっか出かけるんだったら浴びれば?」
「ほんと? おかしくない? 髪濡れてたりしたら、なんだこいつ気合い入りすぎじゃないって思われない?」
「はら」
「う?」
「汗くさい」
「うわあああん!」
本当ににおったわけではないけれど、めんどくさかったのでそう言うと予想通り妹はシャワーに駆け込んだ。 まったく何事か、まさか本当に男絡みなのか。そういえば前に言っていた、手紙を出した相手はどうしたんだろう。いつもいつも小説やらまんが映画やらゲームやらで遊び、女の子の友達といるときは本当にうれしそうに笑っている妹が。
「服ねえ」
はらはいつもジーンズにTシャツだが、正直あまり似合っていない。背が低くて貧相な体型の彼女は、ジーンズが余ってラインが美しくない。やせた少年のようだ。おしゃれな雑誌を見るのは好きなくせに実際にそれを自分で着ようと思わないらしく、姉には理解できない思考回路だった。
「こんなもんかなあ」
ともあれ、こういうことに頼られれば腕が鳴る。スクエアの襟にざっくりとしたレースの入った生成りのチュニックに、やわらかいグレーのハーフパンツを合わせた。これならはらの体型にも合うはずだ。時間も時間だから、くすんだグリーンのカーディガンを持たせてやろう。
「お姉ちゃん、入ってきた、服はっ!?」
「着てみ」
「うんっ」
再びキャミソールと下着で現れたはらは、大騒ぎしつつそれを来た。イメージよりもすそが長かったけれど、許容範囲だろう。
「お姉ちゃん、おかしくない?」
「あのへなへなジーンズの数十倍マシ。頭くしゅくしゅにしてやるからこっちおいで」
「ありがと、って、だめ、ああもうだめ、遅刻する……っ」
「どこに何時?」
「Y駅に17時……」
「車でいけば5分じゃない」
「お姉ちゃああああん」
「抱きつくな出来ないだろ!」
ありがとほんとにありがとと繰り返して、車から降りたはらは駅に駆けていく。思ったよりもずっと早くついて、10分前。これなら遅刻はないだろう。そういえば結局誰に会うのか聞き忘れた。帰ったら詳細を吐かせよう。本当に男だったら写真も出させよう。いつもいつも、犬のミミ蔵をばかのように激写している妹のことだから、絶対に持っているはずだ。わんっ、後部座席にいたミミ蔵が一声鳴いた。
「帰ろっか」
ギアを入れ、アクセルをゆっくり踏み込んだ。