花火
自サイトより転載。
友人にお題を振ってもらい、30分程度で書いた作品。
来たる、花火大会。
そう銘打ったキャッチコピーは如何なものかと思うが、そもそも市外から客を呼べるものでもないのでそれでいいか。
それくらい、ウチの花火大会は貧相なものだ。
連続して大玉があがるわけでもない。
技巧を凝らした花火が打ちあがるでもない。
ただただ、普通の花火大会でそれ以上でも以下でもない。
只管地味だった。
「一緒に花火大会、行こうね」
約束したのはいつだったか。
少々自信ないが、多分今月の頭くらいだろう。
時刻は午後6時を回った。
打ち上げ開始は7時ということだからまだ1時間近くある。
空白の時間。
何をするでもなく、出窓に腰掛けて外を見ていた。
まぁ、その、何だ。
こうしているということは察してほしい。
スピーカーから流れる勝手にシンドバッドを聞き流して目を瞑る。
何とも情けない姿だろう。
「今何時?」
「ちょっと待ってって」
そんな会話をしたのは何時だ。
少なくとも、5日以上前なのは確実だ。
あー、もう、クソ。
なんで思い出すかなぁ。
今日に思い出すのは流石にキツイ。
何がって、本当ならアイツと一緒に屋台を回っている時間なのだ。
だが、この通り。
俺は青春を感じているんだ。
出窓から見える世界が俺だけの居場所。
少し、涙が浮かんだ。
ああ、もう!
思い出すなよ!!
自分を強引に奮い立たせる。
こういうときはアレだ。
俺の友人ネットワークを駆使して野郎共と一緒にバカ騒ぎをするしかない。
それに限る。
早速ケータイを開く。
メモリに登録されている気の知れた馬鹿達にメールを一斉送信。
それだけで幾分かはすっきりした。
安いな、俺。
少しだけ自己嫌悪。
それから目を瞑ったまま過ごす。
何分たったのか。
それさえ知れず、というか少し寝てた。
慌てて時刻を確認。
スピーカーから再び夏の男たちが「今何時?」と叫んでいた。
「そうね大体ね~」
返事をしながらケータイを開く。
6時55分。
「まだ早い~」
悲しくなった。
というか、一人も返信ナシかよ。
期待してたことが2回も裏切られると、人間たまったもんじゃない。
鬱になりながら外をのぞき見る。
いつもより賑やかな空。
祭りが行われている証拠だ。
建造物で凸凹になった地平線を一瞥。
あそこに、行きたかったな。
二人で。
……
…………
………………
ピリリリリリリリ
「!?」
いきなり震えたケータイを思わず落としそうになる。
この着信音、電話だ。
慌てた俺は発信者を確かめずに電話に出た。
「もしもし?」
返事がない。
「もしもし?」
呼びかけるが返事がない。
――と、閃光と轟音が耳に届いた。
花火大会。
このタイミングでか。
運営を恨みつつケータイを耳に押し付ける。
こうでもしない花火の音が大きすぎて声が聞き取れない。
「もしもし!」
もう、アレだ。
若干キレつつある。
なんだってこんな場面でこんな電話の相手をしてるんだ。
「……ひゅー、どかーん」
間抜けな声が鼓膜を振るわせた。
聞いたことのある声。
……彼女さんだった。
「やぁ、一人かい? 私の彼氏」
「やぁ、一人かい? 俺の彼女」
間抜けな応酬。
馬鹿と馬鹿はこういう会話が大好きだ。
「こっちまで花火の音が聞こえるよ」
「うん、俺なんか耳ふさぎたいくらいだ」
「そしたら私の声が聞こえなくなるよ?」
「……ま、いいんじゃない」
「強がりはいけないなぁ」
「つ、強がってなんかいませんっ!」
「男ツンデレはどうかと思うよ?」
「……すみませんでした」
「うむ、よきにはからえ」
まったく、俺たちは馬鹿だ。
「で、何で電話?」
「ほら、一緒に行こうって言ったじゃん」
「う、うん」
「私のかわいそーな彼氏さんが一人で勝手にシンドバッドを聞きながら出窓で花火を見ていると思うと、不憫でねぇ」
「見てるのか!? 見てるのかっ!?」
「いや、想像だよ」
「エスパーだ……」
「まぁ、行動が読みやすいからねぇ」
「遠まわしに単純って言うなよう」
「言ってない言ってない。結構ストレートに言ったつもりだし」
「そっち否定しないでよ」
「あはは。ごめんごめん」
明らかに気落ちした俺に上機嫌な彼女さんの笑い声が掛かる。
それから、俺たちは他愛もないバカ話をしつつ花火を見て(聞いて)いた。
最後の一発が大きく夜空を飾るころには通話時間が30分を回るところだった。
「ま、私がいた日々でも思い出してなね~」
最後の台詞。
それで一方的に通話をきられた。
全く、完璧にマイペースな人だ。
「はぁ、帰省……するなよ」
5日前から彼女はいなかった。