ある平凡な日の夜、婚約者が突然訪問してきたので何事かと思ったのですが……? ~これからは手に入れた幸せを護って生きていきます~
ある平凡な日の夜、婚約者である彼ディネスが突然訪問してきた。
「急にすまないな」
「いえ」
「伝えておかなくてはならないことがあって来た」
「そうなのですね」
彼が自ら私の前に現れるなんて珍しいことなので何事かと若干動揺していると。
「お前との婚約、破棄とすることにした」
そんな言葉を投げられた。
誰かが亡くなった、とか。何が大事件が起きた、とか。そういった話かと思い不安を抱いていたが、出てきたものは想像していた範囲には収まっていなかった。斜め上、というか。人生が終わるほどの衝撃、というほどではないけれど、想定外な感じが胸を抉ってくるような感覚があって。その怪しげな感覚に、大きな戸惑いを抱えてしまう。
「婚約破棄、ですか……?」
「ああそうだ」
「何か問題がありましたでしょうか」
「素晴らしい女性に出会い、お前がそれほど価値のない女だと気づいたからだ」
ディネスは真顔でさらりとそんな風に言う。
「分かりやすいだろう? それだけだよ、理由は」
「え、えええ……」
「まさか、分かっていないのか? お前はそんなにも馬鹿だったのか? 嘘だろう。お前がそこまでは馬鹿だとは思わなかった」
こうして、私と彼の関係は終わった。
◆
ディネスに婚約破棄を告げられ生活が変わった。自由時間が増えたので図書館に通うようになり。そんな中で一人の青年と知り合う。名はルールという。彼は私より二つ年上だったのだが、本に関して豊富な知識を持っている人物だった。そんな彼に色々教わっているうちに本への想いは強まっていって、それと同時に、彼との絆も深まっていった。そしてそれはこちら側だけのことではなくて。向こうは向こうで私を大切に思ってくれるようになっていっていたよう。
そして、やがて、想いを告げられる。
私は彼と生きる道を選んだ。
ディネスとの関係では想定外の終わりを迎えてしまった。それゆえ、新たな関係を築くことへの不安も若干はあった。だが、彼を大切に思っていることは事実だったので、勇気を出して踏み出してみることにしたのだ。
もし失敗に終わっても構わない。
もし悲しい結末を迎えても仕方ない。
それでも、すべてを諦めたくはなくて。
だから私は差し出された手を取ったのだった。
◆
図書館での出会いから二年、私は、ルールと正式に夫婦になった。
知り合ってすぐの頃はこんな未来があるなんて思わなかった。
けれど運命の流れは私を彼をこの場所へ誘った。
自然な流れに乗るように生きていたところ、手を取り合う場所、ここへたどり着いた。
週末、二人で過ごす読書タイムは、今も私たちの大切な時間だ。
夫婦になって、いつかもっと深い意味で家族になっても――変わらないでいられればいいなと思う。
そうそう、そういえば、だが。
あの時私を一方的に切り捨てたディネスは、惚れて追い掛け回していた女性に厳しい言葉で拒まれ、酷く落ち込み、そこからの流れで心を病んでしまったそうだ。
心が折れたディネスは立ち直ることができなくて。
眠ることすら十分にできないような状態となってしまい、体調も崩し、心身ともにボロボロになり、やがて風邪をこじらせて命を落としてしまったそうだ。
……まぁそんなことはどうでもいい。
今こんなに大きな幸せを手に入れられているのだから、私がすべきことは一つだけ。この幸せを、幸せを構成するものを、護ること。ただそれだけだ。
誰にも邪魔はさせない。
誰にも壊させはしない。
いや、べつに、誰かが壊そうとしてきているというわけではないのだけれど……でも、万が一ということはあるので、二人の幸福を潰そうとする者が現れたなら必ず追い払う覚悟でいる。
強い心を持って、光に満ちた未来を護る。
今ここに在る愛おしい空間と関係を、大切に抱き締めながら生きていく。
◆終わり◆




