大熊笹、ひょっこり現れる
敵の防衛隊長が騎士たちを連れて引き返そうとした、その時、
びちゃ! ぬるぅぅうう
びちゃ! びちゃ!
ぬるぅぅううぅぅううう
「うわ何だ! すべる!」
「くそ! なんだこれ!」
「いって! 立てないぞ」
ヒュッ ヒュッ ヒュッ ヒュッ ヒュッ ヒュッ ヒュッ……
ドドドドドドドドド!
シャァァアアアア……ガン!
シャァァアアアア……ドガン!
シャァァアアアア……ボコッ!
「聖なる雷を司る者たちよ。我にその慈悲と慈愛を与えたまえ。清く正義の力をもって嘆願する。あの者に裁きの雷を!」
ガガァーーーン!!
「「うわぁぁあぁぁあああ!!!」」
山口たち3人も加わり遠距離武器が中心になったおじいさんたちの分隊は、通路の左右の山の上から通路に向かって総攻撃を仕掛けていた。
びちゃ! ぬるぅぅうう
そこへ大熊笹が抜群に滑る油を投げつけて足を止めると、遠距離攻撃がどんどん敵のHPを削っていった。
敵の防衛隊長は油の中を腹ばいで進みながら必死に叫んだ。
「おい! 油から逃げ出せ! 早く!」
「は、はい! しかし!」
ぬるぅぅうう
バサッ バサッ バサッ
ズゥゥウウン
なんと、そこへ目を覚ましたドラちゃんが大きなドラゴンの姿で着地した。
「うわぁあ! ドラゴンだ!」
騎士たちが慌てふためくと、ドラちゃんは騎士たちに言った。
「はっはっはっは! 私が炎を吐けば、みなさん一瞬で居なくなるでしょう!」
「「うわぁぁあぁぁあああ!!!」」
ほとんどの騎士たちがヌルヌルから抜け出せない中、気合でヌルヌルから抜け出した防衛隊長はドラちゃんに走り込んだ。
「この野郎! やられっぱなしには行かねぇんだよ!」
「私は野郎ではありません。高貴なドラゴンです!」
はむっ
「うわぁあ!」
ドラちゃんは素早く防衛隊長を咥えると、空高く飛び上がった。
バサッ バサッ バサッ!
防衛隊長はドラちゃんに咥えられ、武器も出せない状態でドラちゃんに叫んだ。
「おいドラゴン! どこへ連れていくつもりだ!」
「ふごふごふごふご (どこにも連れていきませんよ。楽しんでください)」
「え? なんだって?」
するとドラちゃんは高い高度から一気に地面に向かって急降下する「ドラゴン・フリーフォール」をお見舞いした。
「うわぁぁあぁぁあああ!!!」
バサッ バサッ バサッ!
そして地面スレスレでまた飛び上がると、一気に高い高度まで飛び上がった。
ヒュゥゥウウ!
そしてまたドラちゃんは高い高度から一気に地面に向かって急降下した。
「いやぁぁあぁ! やめてくれー!」
防衛隊長は絶叫マシンの何十倍もの恐怖に大声で叫んだ。
「ふごふごふごふご (まだまだ行きましょう!)」
「……」
「ふごふごふごふご、ふごふごふご (動かなくなってしまいましたね。許してあげましょう!)」
ヒュゥゥゥ…… ズゥゥウウン
ドラちゃんが通路に着地すると、すでに敵の騎士たちはおじいさんたちの攻撃で全員消滅していた。
ドラちゃんは動かなくなった防衛隊長を下ろすと、山の上から見ていたイリューシュが呟いた。
「あら。あの方、戦闘中にログアウトしてしまったみたいですね。よっぽど怖かったのですね……」
めぐも一緒に下を覗き込むと、動かなくなった騎士を見てイリューシュに尋ねた。
「イリューシュさん。戦闘中にログアウトすると、どうなるんですか?」
「しばらく動かなくなって、その間にプレイヤーが戻らなければHPが0になって消滅してしまいます」
「あ、ほんとだ! 消えてく!」
防衛隊長は静かに消滅していった。
すると消滅した場所に白くぼんやりと光る球体が残された。
それを見ためぐは再びイリューシュに尋ねた。
「イリューシュさん、何か白くて丸いものが……」
「あれはステータスポイントです。戦闘中にログアウトするとステータスポイントを全てその場に落としてしまうんです」
「え? じゃあ、わたしが拾ったら……」
「ええ。めぐさんの物です。ですが戦闘中にログアウトした場合は10秒だけしか残らないので近くの人だけしか獲得できないのですが……」
イリューシュがそう話しているうちに、ステータスポイントの白い球体は消滅してしまった。
ドラちゃんは消滅した白い球体を不思議に思っていると、山口が走ってきた。
「ドラゴン殿、わたしを乗せて上空へおねがいします」
「承知しました!」
ドラちゃんは尻尾を伸ばすと、山口を背中に乗せて飛び上がった。
バサッ バサッ バサッ
山口は上空から戦況を確認すると、北の通路以外は順調に進軍しているのが見えた。
しかし山口は、上空から一台のモービルがおじいさんたちの通路近くの山へ向かっているのを確認した。
山口はボイスチャットでイリューシュに連絡した。
「イリューシュさん、そちらへモービルが向かっています。通路ではなく山へ向かっています。気をつけてください」
「はい、ありがとうございます。だいたい誰かは察しはついています。お任せを」
「宜しくおねがいします」
イリューシュはボイスチャットを切ると、大弓から普通の弓に持ち替えた。
そして、向こうの山に居るおじいさんと大熊笹にボイスチャットを繋いだ。
「ひろしさん、大熊笹さん、通路に降りて歩いてもらっても良いでしょうか」
「はい」
「わかりました」
「宜しくおねがいします」
イリューシュはボイスチャットを切ると、近くに居た大槻と木下に待機するようにお願いした。
「大槻さん、木下さん、あちらの岩陰で待機をおねがいします」
「「はい!」」
「これから来る敵は厄介です。卑怯かもしれませんが背後から狙ってください」
「「はい!」」
するとイリューシュはわざと敵本陣が見える山の端へと移動した。
モービルを運転して移動してきたのはベンドレの参謀ルルだった。
ルルはおじいさんたちの通路の裏へ回ると、1人で山を登っていった。
「イリューシュと戦わなきゃならないなんてね。うふふ、イリューシュならきっと通路の敵を殲滅して本陣を狙ってくるはずよねー」
その時ルルは通路を歩くひろしと大熊笹を見つけた。
「え!? なにあれ。おじぃちゃん2人が通路歩いてる。え!? なんで?」
ルルが気になって通路を覗こうとした瞬間、
ヒュッ
「しまっ!」
ドッ!
イリューシュが放った矢がルルにヘッドショットを決めた。
ルルは慌てて防御魔法を展開すると、イリューシュが姿を現してルルの元へ近づいていった。
「お久しぶりですね、ルルさん」
イリューシュは笑顔でルルに挨拶をした。
「イリューシュ、ひさしぶりね」
「ルルさん、できればあなたとは戦いたくはないのですが」
するとルルは腕を組みながら答えた。
「そうねー。わたしだって、あなたと戦いたくはないわ。でも今はベンドレの参謀やってるからさー」
ルルは親指で自分の背後を指すと、笑いながら続けた。
「それで後の2人は、わたしを狙ってるのかなぁ」
バン!
ルルは足を踏み鳴らすと、自分の背後に氷の壁を作った。
そして素早く詠唱すると、ルルの背後に潜んでいた木下と大槻の上に大きな魔法陣が現れて2人を狙った。
イリューシュは慌ててルルに矢を放ったが、ルルは笑いながら矢を避けた。
「うふふ」
魔法陣が大きな炎の塊を作り出すと、なんと木下と大槻が岩陰から飛び出し、走り出してルルにしがみついた。
ガシッ! ガシッ!
驚いたルルは慌てて叫んだ。
「え! なんなの!?」
すると木下が必死にしがみつきながら声をあげた。
「我らがしがみつけば、あなたの魔法はあなたにも放たれる!」
「ちょっ! あなたたち自爆する気!? 馬鹿な事言ってないで離れてよ! もう詠唱しちゃったんだから!」
「離しませんよ!!」
「体当たりでダメージを与えられるなら本望!!」
ブォォアアアアア!!
「きゃー! なんなのよー!」
「木下さん! 大槻さん!」
木下と大槻はルルの炎で一気にHPを減らすと、イリューシュに敬礼しながら消滅していった。
そしてイリューシュは即座に弓を構えると、ルルに向けて矢を放った。
ヒュッ……、ドッ!
矢は綺麗にルルにヘッドショットを決めたが、ルルはニヤリと笑いながらイリューシュに言った。
「残念ねー、イリューシュ。仲間を守れなかったわねー。うふふ」
「くっ」
イリューシュがルルの言葉に怯むと、ルルは両手を上げて素早く詠唱を始めた。
しかしその時、通路から戻ったおじいさんの石がルルを狙った。
シャァァアアアア……ドガッ!
「いたっ!」
おじいさんの石はルルの腕に当たり、詠唱が止められた。
するとルルの前に大熊笹がひょっこりと現れた。




