紫陽花と雨に濡れた女
雨の日。
傘を差して歩いていると、
路地裏にずぶ濡れになっている一人の女が立っていた。
濡れたウェーブがかった長い髪に濡れた衣服。
それと、虚ろな目をしていた。
唇の右側の赤い口紅が乱れていた。
20代半ば・・・
同い年くらいだろうか。
出会った女の隣には紫陽花が咲いていた。
私はその人を紫陽花さんと呼んだ。
ある人が言っていた。
紫陽花には毒があるなら気を付けなさい、と。
「大丈夫ですか?」
「私は、捨てられたの。」
「それは恋人に、という意味ですか?」
「ええ。」
「理由は何です。」
「私の愛が重いと振られたの。
家族や親戚とも縁を切って、友達もいない私にはその人だけ。
だから最後に唇を奪ってやったのよ。」
ああ、やはり紫陽花には毒があったのか。
「私ならあなたをこんな風に悲しませたりはしないのに。」
女は俯く。
「あなたもきっと私を捨てるわ。
私はそれに耐えられないの。」
一目惚れだった。
「命を賭けましょう。
もし、私があなたを捨てる日が来たら、この身を引き裂かれてもいい。」
「約束、してくれるかしら?どれだけ重い愛でも受け入れてくれると。」
雨が先程よりも強くなる。
「もちろんです。あなたのような美しい方にならいくらでも。
愛は重いほどいいですから。」
手を差し出すと、女はその手を取った。
「とにかく、濡れた体を乾かしましょう。
私の家、すぐ近くですから。
女と女、何も怖がる必要はないでしょう?」
「そうね。まだまだ夜は長いわ。」
雨が霧に変わる。
二人は路地を抜けると霧の中へと消えて行った。




