終章
翌年、自宅からすぐの介護施設「しんせん長春館」に入居していた父が亡くなった。若い時から腎臓を患い、50代で週3度の人工透析を余儀なくされた身体は限界だった。
父は仙台市内の社会保険病院で、壊疽のため片脚を膝上から切断する手術を受けた。葬儀屋がやって来て、切断した片脚をを供養すると言った。
しかし父は、そのまま肺炎になり片脚を供養するとともに本人の葬儀になった。
退院したあと、片脚を失くした父をどう慰めるか苦慮していたが不要となった。
ルノー・カングーを購入したもうひとつの理由……
それは車椅子生活の父を、運べる車が必要だったのだ。
オレはもう一台、メタリックシルバーのMINIクーパーも所有していた。車椅子を乗せることは不可能なスポーツカー。
大きな存在意義を失った王蟲カングーを、万感の思いで売却することにした。大切なものを失う悲しさがあった。
しかしその売却代金で、ほんとうに待ち望んでいたものを得ようと決めた。
聖母マリアを……
仙台市近郊の名取市にある巨大なイオンモール「名取エアリ」。そこのペットショップ「ペットプラス」は、いつも買い物ついでに覗いていた。
兄の幼いひとり娘が、シーズーが一番かわいいといつも言っていた。いつの間にかシーズーがオレの心の中で大きくなり、かけがえのない相棒として迎えたい願望が強くなっていた。
夏の激しい日差しが弱まった頃。
メタリックシルバーのMINIクーパーで、イオンモール「名取エアリ」に向かった。澄み切った空に、太陽が輝いていた。
そこには聖母マリア。
そして
僕の頭上に輝く光がある
明日へと導く光
が待っているはずだ。
ペットショップ「ペットプラス」の大きなウインドウガラスの中に、白とゴールドの体毛の小さな小さな聖母マリアがいた。
つぶらな瞳。
シーズーのメス。
お店の若い女性店員に頼んで、ぬいぐるみのような小さな身体を抱っこした。命のぬくもりを感じた。顔を近づけると、すぐにピンク色の小さな舌でペロリとオレの顔を舐めた。
シーだった。
今日は休みだ。
気温がマイナスまで下がっている。東窓の古びたベージュのカーテンが、冬の朝陽で仄かに明るくなっている。
エアコンの暖房がついた部屋で、朝ご飯を食べたあと布団に入ると、すぐにシーが胸に登って来てオレの顔を舐め始める。いつもの儀式だ。しかも執拗に舐め続ける。
その瞳は何よりもまばゆい輝きだ。
──これからもよろしく、シーちゃん!
僕の頭上に輝く光がある
明日へと導く光




