第1章
7年間も恋人でも友だちでもなく、不思議な関係を保った美沙と、いつもの居酒屋の個室のような席で向かい合いながら、よく外国車中心のファッション雑誌ENGINEのページを捲った。
ENGINEには、定期的に自動車評論家が選ぶ自動車のランキングが掲載されていた。ポルシェやフェラーリが上位を占める中、スポーツカーでもなくミニバンにさえ見える外観のルノー・カングーが必ずベスト10に食い込んでいた。
オシャレで外観からは想像できない上質な走り……
自動車評論家のおおよその評価だ。
価格もポルシェやフェラーリに比べれば格段に安く、普通の日本車と変わりない。
貯金をすべて叩けばなんとか買える。しかも、もう時期モデルチェンジしてしまう。
最後のチャンス……
購入を決意した。
王蟲カングーは、通勤に使った。仙台市内へ向かう国道4号線バイパスは、通勤時間帯はひどく渋滞する。
オレは、渋滞を避け国道と並行して走る有料の東部自動車道を利用した。こちらはスムーズに走れる。
朝陽が昇り、まっすぐ伸びるアスファルト道路はあたたかなオレンジ色に輝く。
まるで光の路を走るかのように……
エンジン音だけが、静かな朝に響く。
路面を掴んで走る王蟲のように……
カッ カッ カッ!
職場の近くの晩翠通りにある5階建の「大仙台駐車場」を利用していた。朝の7時から夜の19時の間なら、ビジネス料金で900円。螺旋階段を登るような屋内駐車場なので、冬場に雪が降っても影響はない。フェラーリ、ランボルギーニ、ポルシェ、メルセデスやBMWなど多くの外車も停まっていた。
一度いつもの居酒屋で飲む前に、「大仙台駐車場」で待ち合わせをして、ルノー・カングーを美沙に紹介した。とても美しいGreenish blueの小さなバスのような外観。大きなフロントガラス、鉄板がむき出しになった室内。たくさんの収納スペース。
美沙は、驚いた様子だった。
──とてもキレイなブルー。不思議な車。ユッキーらしいオシャレな車! アハハハ。
美沙の感想だ。
その年の秋が深まった11月……
オレの誕生日祝いを最後に、美沙はオレの前から姿を消した。しかし、いつかこのような別れが訪れる予感は、ずっとあった。
おそらく初めて出会った時から……
美沙の勤める夜のお店で、エレベーターの前まで見送りに来てくれた刺繍のある白いドレスの美沙の顔に、決意がみられた。
──ユッキー、またね!
美沙は美しい笑顔で手を振った。しかし、それはほんとうのサヨウナラのバイバイだった。
──美沙は白いドレスがよく似合った──




