影の英雄
あっ、こんにちは。
はい。
あなたの想像している通りです。
あなたはつい先ほど天寿を全うしてこの場所に来ました。
早い話が輪廻転生のためにね。
話が早くて助かります。
そうです。
あなたは前世の記憶を完全に無くして生まれ直すんです。
ついでに言うとこれからどんな人生を生きるかも決められます。
さて、あなたは何になりたいですか?
――えっ?
英雄になりたい?
あー……残念ですが英雄として生まれることが出来る人生は残っていないんです。
理不尽だって――仕方ないじゃないですか。
この世界に生まれる人は皆、何かしらの役割を持って生まれるんですから。
そりゃ、皆さん真っ先に『英雄』だとか『勇者』だとか『聖女』辺りを望みますよ……。
他に残っているものですか?
そうですねえ……あとはまぁ『教師』だとか『パン屋』だとか他には――え? ありきたりで嫌だ?
私は普通とは違う存在になりたいんだ?
……そんなこと言われましても。
それじゃ、いっそ人間を止めてライオンにでも生まれてみますか?
あー、人間として生まれたいんですね。
はい。
分かりますよ、百獣の王と言ってもぶっちゃけ人間の天下となった現代では虚しいばかりですもん。
はぁ……まいったなぁ……そんなに英雄が良いって言っても――あっ、あれがあったな。
ご希望の『英雄』として生きる人生。
まだ残っています。
まぁ、本物の英雄ではなくて――言わば、影の英雄ですが。
はい。
影の英雄って言うのはつまり『表には出ない英雄』ですね。
華々しい活躍はない。
しかし、彼らのおかげで人々は『一つ』になるんです。
そして一つになった人間の強さは言わなくても分かりますよね?
何せ、人間は古来から一つになることで進化してきたのですから。
――いかがですか?
はい!
あなたは影の英雄として生きることになりました!
では、人生を楽しんで来てください!
***
僕は今日も一人、ベッドを涙で濡らしていた。
毎日のように続く虐めに耐えかねて、僕は今日ようやく勇気を出して先生に虐めの事を話したんだ。
――だけど、返って来た言葉は一つだけ。
『クラスの皆のために我慢しろ』
それじゃ、僕は虐められるためだけに生まれたっていうの?
意味が分からない!!
そんな人生なんて誰が歩みたいと思うんだよ!!
「ちくしょう……」
――そんな理不尽な思いに包まれながら僕は今日も一人で泣き続けるばかりだった。
***
影の英雄として生きる魂を見つめながら私は呟いた。
「前世で人を虐め殺したんですから、それくらいは少し我慢しなさいな」