フィーレリア=エスト 7歳
7歳の時。
将来自分は何になって、どう国に貢献するか。というフィーレリアにとっては人生の最重要課題において、様々な選択肢の中から彼女は魔導士になる道を選んだ。
もちろん、最初から魔道士一択だった訳ではない。
医者になって、人々を病から救うのもいい。
外交官になって、他国のより良いものを学び、この国に持ち帰るのもいい。
発明家になって、皆がもっと便利に暮らすことができる道具を創るのもいい---
無限に広がる可能性。
フィーレリアは年相応に将来を夢見、心を躍らせた。
また、『選べる立場』に置かせてもらえていることに、フィーレリアは深く感謝もしていた。
(私が今何不自由なく暮らせているのも、この国の人たちのおかげ。それを忘れてはいけないわ)
まだ幼いながらも王族たる少女の純粋な思い。
フィーレリア以外の王女が主人公である物語であれば、ありふれた感動話で終わっていただろう。
だが、フィーレリアはこの純粋な思いに囚われすぎていた。雁字搦めと言っていいほどに。
彼女の言動は全て、この思いに帰結する。
決して消えることのない、残酷な呪いのようなものだった。
ある夜、城での晩餐前の出来事。
国王であるイーヴァン=エストは、為政者として厳格な人物として知られていたが、ただ厳しいだけではなく、同時に大層愛情深い人物でもあった。
そんなイーヴァンが決めた「可能な限り家族全員で晩餐を」というルールは、フィーレリアが生まれた時から徹底して遵守されており、逆に言えばそのルールが守られない時は非常事態にあるといえた。
晩餐の準備が進む中、いつもは淡々としている執事が、ほんの少しだけ息を切らして広間に入って来た。
「失礼いたします。現在陛下は、東部地方に出現した魔物討伐の指揮を執っていらっしゃいます。晩餐にはお越しになりません。」
切羽詰まった執事の声が広間に響くと、一気に緊張が走る。
「また…なんということでしょう…」
「大丈夫です母上。我が国には優秀な騎士達がおります。」
王妃であるマリー=エストの不安気な声にすかさず反応する王太子カイル=エスト。だがマリーの顔色は蒼白だ。
そう、この世界には魔法と魔物が存在していた。
魔物は作物を荒らし人を殺す。
だが、魔物を討伐できるほどの魔法が使える魔導士士など、この国には一人もいなかった。
魔物が出現すると、王国騎士団が剣と弓で戦う。
それが、この国の常であった。
一度の戦闘で多くの死傷者が出るという。
エスト王国のほとんどの国民が魔法を使うことはできたが、それは所謂生活魔法と呼ばれるもの。
少し火を起こしたり、少し風を吹かせたり。
温厚な国民性も関係しているのかもしれない。
一昔前は魔法が栄えてた時代もあったようだが…
今のこの国では魔法などあってないようなものであった。
先週も西部地方に魔物が現れたと報告が入ってきたばかりだ。
今度は東部。今までこんなに頻繁に魔物出現の報せが上がってきたことはない。
明らかに何かがおかしいということは、子どもであるフィーレリアも感じ取っていた。
ふと王妃である母を見る。
いつも笑顔を浮かべている母は今にも倒れそうだ。
いつも飄々として、だけど本当に困った時は助けてくれる兄も、母に似て美しく優しい姉も、悲痛な表情を浮かべている。
広間にいる全ての人間が、今後を憂いている。
空気は暗く、重い。
---許さない。
私の大切な人たちを傷つけるモノなど、いらない。私が、どんな手を使っても、この世から失くす。
フィーレリアの中に、沸々と怒りが込み上げてくる。
どうする。どうやって?
騎士として戦うことは無理だ。非力な私は足手まといになってしまう。
---剣が駄目なら魔法…?
魔法なら筋力がなくても使えるし、書庫にある古い魔導書なら読んだことがある。確か、強力そうな攻撃魔法も載っていた。回復魔法も覚えれば、少しは役に立てるはずだ。
---うん。道は決まった。私は、魔道士になる。
確かに。フィーレリアは魔導書を『読むことができた。』
ただの魔導書ではない。
何百年も前の古語で書かれた魔導書を、だ。
その違和感にフィーレリア本人はもとより他の誰も気付いていなかった。
なぜなら、フィーレリアは初めて魔導書を手にした時から問題なく書を読めたし、誰もフィーレリアが「どんな」書物を読んでいるのかまで関心がなかったからだ。
そして読めることをフィーレリアは誰にも話していない。
本人にとっては、読めることが当たり前で、当たり前のことをわざわざ人に話したりはしない。
---後の大魔導士フィーレリア。
才能の片鱗は既に現れていた。
本人のあずかり知らぬところで。
フィーレリアが書物を読んでいる時の周りの反応は「また何かお勉強しててえらいわね〜」
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