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後半

翌朝、いつもより少し早めに目が覚めた。着替えをしてリビングに向かう。すると既に舞が起きてリビングの椅子に座っていた。舞は俺よりも更に早く起きていたようだ。

「おはよう。今日は早いね?」

声をかけると俺に気づいていなかったのか、びっくりしていた。

「お、おはよう。そんなことないよ? いきなり声をかけてびっくりさせないでよ」

明らかにそんなことあるのに、たまに舞の言動を理解できない。まあ、舞の通常運転だろうと考えて、ツッコミは入れないでおく。

「そか。朝食どうする? 作り置きないし」

「パンとコケコッコーの卵で。ゆで卵を作ろうか」

食材を取り出して準備を始める。簡単な料理だから、俺一人でやっても良かったのだが、いつも通り二人で準備をした。配膳が終わると食事を始める。

「「いただきます」」

そして、食事をしながら今日の予定を確認する。

「今日の予定は? 早速、ギルド価を見に行く感じ?」

「そうね。生産職ギルドなら毎日見なくても、変動が緩やかだけど、冒険者ギルドだと上下動が激しいからね」

「そっか。上がっているといいな」

簡単な食事だったのですぐに食べ終わった。

「「ごちそうさまでした」」

「じゃあ、俺が食器を洗うわ」

「うん、お願い。私はギルド情報誌を確認しているね」

俺が食器を洗い終わると、出かける準備をして、ギルド証券取引所に向かった。

ギルド証券取引所のギルド価掲示板を見て、俺は眉をひそめる。

「うーん、少し下がっているな?」

「まあ、新興ギルドだから、買う人が少なくて、上がらないのかもね?」

「でも、高騰待ちだな」

「高騰するかなー?」

「するだろ? 俺の目に狂いはない」

「下がっている時点で、目が狂ってない?」

相変わらず、舞はたまに辛辣な言葉をかけてくる。まあ、冗談で言っているのはわかってはいる。一応、反論はいれておく。反論と言うか単なる戯れだが。

「ちょっとの下がりなんて誤差だよ」

「まあ、いいけどね。負けたらちゃんと働いてお金返してよね?」

「……はい」

ぐうの音もでない反撃を受けてしまった。敗北を受け入れるのを拒否するかのようにごまかす。

「他のギルド価も見てみようぜ。有名どころは、クイーンズ・トラストとドラゴン・バスターズだっけ? この二つも下がっているな?」

「なんでこの二大ギルドが下がっているんだろう? 依頼に成功してない……ということはあり得なさそうだけど」

二大ギルドが下がっているのを見て、舞は慌てて自分が投資しているギルドの価格を見る。

「私の投資しているマーメイドギルドは? あ、よかった。前日と同じギルド価だ」

ほっと息をついて、二大ギルドの話題に戻る。

「二大ギルドが下がっているのは、大きな討伐がまだ完了していないのかな? 不安材料になっているのかもしれないね」

「そう言うこともあるのか。じゃあ、俺が投資したギルドも、討伐が完了してないのかもしれないな」

舞は不思議そうに呟く。

「小さなギルドが、一日で討伐完了しない依頼をやるとは思えないけどな~? 思い切って報酬高めの依頼を受けたのかな?」

「なるほど……それなら成功してくれれば、ギルド価は高騰しそうだな」

「そんなに都合よくいくかな……」

俺的には自信があるのだが、舞からすると俺の考えは楽観的に見えるらしい。

「まあ、明日のお楽しみだな。後はどうする? こっちで投資家をやるって暇だな」

「また、街をぶらつくか、家でごろごろするかね」

朝の用事が終わると、残りの時間を家でごろごろするのは、一種の苦行に感じる。俺はその案を却下する。

「せっかく表に出たんだから、散歩がてらにぶらつこう」

「そうね」

舞も家に帰ってもやることがないせいか、あっさりと賛成してくれた。街中を歩いていると、舞が小声で話しかけてきた。

「ねえ、拓哉。あの人って私と拓哉が初めて会った日に、拓哉と一緒にいた人じゃない? あの人が投資信託詐欺師?」

俺はその言葉に慌てて周囲を見渡す。

「え? どこ?」

「ほら、あそこを歩いている男性」

まじまじと顔を確認してみる。確かにあの詐欺師であった。

「あー! あいつだ!」

俺は言葉を放つと同時に走り出した。

「ちょっと! 拓哉!」

俺は舞が何かを言おうとしたのを聞かずに、走って詐欺師を追いかける。

「待てー! 誰かそいつを捕まえてくれ!」

だが、周りの人間は我関せずだ。詐欺で騙し取られたお金は、100万ジェニ。舞に借りて投資をしているのは、10万ジェニ。100万ジェニでは投資出来ないと言われて、詐欺にあってしまったが、実際は十分な資金であった。それを騙し取られたことが腹立たしい。詐欺師に対しても自分自身に対しても。

詐欺師に気づかれてしまい、相手も走って逃げだした。いくつも角を曲がって俺はまかれた。

「どこに逃げやがった?」

俺は息を切らしながら辺りを見渡す。あとから、舞も息を切らしながら追いついてきた。

「諦めなよ。捕まえた所で、契約書もないんだから、あいつが自分のお金だって言ったら、何も言い返せないでしょ? それに投資は自己責任。誰も助けてはくれないよ」

舞に諭されて俺は、自分の不甲斐なさに腹を立てる。

「くそぅ!」

しばらくは舞と街中を散策した。散策というよりも俺自身が諦めきれずに、詐欺師を探している感じである。舞にバレないように装っているつもりではあるが、恐らくわかった上で付き合ってくれているのであろう。そんな舞に申し訳ないと感じた俺は、家に帰ろうと言った。

家に帰ると夕食の時間まで、ベッドでゴロゴロとしていた。今の俺はイラつきを隠す余裕がない。そんな俺を舞に見せたくなくて、部屋にこもっていた。夕食の時間になり、舞に呼ばれる。

二人で夕食の準備を始めて食事にする。食事をしながら舞が話しかけてきた。

「詐欺のことは忘れて、元気出しなよ。いや、忘れちゃいけないのか。授業料と思って割り切っちゃいなよ」

「そうは言っても、そのせいで舞に迷惑をかけてしまっているし」

舞にカッコいい所を見せたいのに、情けない所しか見せることが出来ていない。

「べ、別に迷惑してないわよ。むしろ、今まで一人だったから、毎日が楽しいわよ」

舞が俺の言葉をフォローしてくれる。楽しく思っていてくれることを嬉しくも感じるが、気を遣わせて出た言葉なのか、本心かは分からない。深呼吸をして心を落ち着ける。

「今まで一人って、どのくらい前からこっちの世界に来ていたの?」

「ん~? 拓哉が来るよりも一年くらい前からかな?」

「それから投資で資金を増やして、生活していたのか」

「いや、最初の頃は食堂で接客の仕事をしながら投資をしてたよ。少しでも資金を増やしたかったから。食堂だと賄いも出るしね」

賄いの話を出したのは、舞なりの気遣いであろう。そんなにバリバリと働いていたわけではないよって。いや待てよ? 舞のことだから素で節約のために賄いが出る仕事を選んで働いていたかもしれない。まあ、それも舞がここまで投資家としてやってきたことも、その努力の積み重ねの賜物だが。

「舞はえらいな……それに引き換え、俺は楽な道を選ぼうとしてこのざまか」

「そんな気にしなくても。人生で幸せや不幸の波があるのは、当たり前のことなんだから」

舞は苦労して生きてきたのに、楽な道を選んでいた俺を励ましてくれる。自分が情けなく感じながら、そんな舞に感謝する。

「慰めてくれてありがとうな。ところで舞はその一年の間で、どうやってこの世界のことを学んだの?」

「勤務先で教えて貰ったり、図書館を利用したりかな」

「図書館があるの? 俺も行くべきかな? この世界のことを知らなすぎだと自覚してるんだよね」

舞が優しく微笑みながら言葉を口にする。

「私が教えてあげるから、図書館に行かなくていいわよ。この世界の一般常識は、どちらかと言うと、図書館よりも勤務先で学んだことの方が多いから」

何となくだが、舞の言わんとしていることを理解できる。本を見るより実践。そして、図書館というと専門的な本が置いてあり、一般常識の本をわざわざ置いているようにも思えないな。いや、現実世界ならマナー本とかはありそうだけど、異世界だとどうなんだろう?

でも、舞が教えてくれると申し出てくれているので、ありがたくそうすることにする。


翌朝、俺は起床すると気を取り直して、日課のハーブに水やりをする。そして、舞と二人で朝食の準備をして、食事にした。

「昨日は、全体的にギルド価が下がっている感じだったけど、今日は上がっているといいな。って言うか反動で上がりそうな気がするけど」

「まあ、冒険者ギルドだと安定はしてないから、下がってそのまま上場取り消しとかになることもあるけどね」

「マジか! え? でも、上場取り消しギルドが、再上場したらどうなるの?」

「初めからやり直しだよ。だから、たまにだけど詐欺が行われる場合もあるの。投資家から資金を集めて、上場を取り消しにする。そして、また上場すると再び資金を集められる。当然、ギルドの名前は変えて上場してくるのよ」

「取り締まってないの?」

「もちろん取り締まりはあるわよ。でも、ギルドメンバーの構成が大幅に変わっていると、取り締まりのしようがないの。同じギルドだったと判断出来ないから。だから、共謀してメンバーを入れ替えて、ギルドを作る所もあるらしいよ?」

少し思案して、はっと気が付く。

「あれ? そう考えると、新興ギルドより中堅ギルドの方が安全ってこと?」

「まあ、そういうことね」

「それを先に行ってくれよ!」

俺の不安を察してか、不安にならないように言葉を足してくれる。

「まあ、見学した時に様子がだいたいわかるから、ファニー・フェアリーズならそんな詐欺はしないと思うよ? 犯罪者は顔つきも犯罪者っぽくなるし」

それを聞いてなんか納得してしまう。

「あー、それはあるよね。謎理論だけど」

そんなことを話していると食事を食べ終えて、俺は食器を洗った。洗い終わると舞に声をかける。

「それじゃあ、朝食も食べ終わったことだし、お楽しみのギルド証券取引所に行きますか」

「本当に投資が好きなのね。傍から見ると、どちらかというとギャンブラーに見えますけど」

舞に呆れ顔で見られてしまった。

「直感で行動するから、そこは仕方ないだろ!」

舞と二人で雑談しながら、ギルド証券取引所の建物に入って行く。

「さてと。ギルド価はどうなっているかな?」

二人でギルド価掲示板を見に行くと、舞が悲痛な声を上げた。

「嘘! マーメイドギルドのギルド価が暴落している!」

「ギルドで何かあったのかな? 前日値はいくらだったの?」

「508ジェニ。354ジェニまで落ちている……」

マイナス154ジェニか。大きいな。

「舞は、ギルド券は何口買っているの?」

「10万くらい」

「じゅ、10万口!」

10万口と聞いて驚いた。俺みたいに舞は一気に買うタイプではなく、分散してコツコツ買いためてきたのであろう。舞のこれまでの努力を無駄にしたくはない。それを聞いてなんとか助けてあげたいと思い、考えを張り巡らせる。

「……この世界でインサイダー取引が禁止とかってあるの?」

元の世界ではインサイダー取引は禁止となっている。会社内部の人間が家族や知り合いに事前に有益な情報を流して、その情報を得た者が株を買い、値上がりをして不正に利益を得る方法だ。だが、この世界にはそこまで取り締まっていないのではないかという考えにまとまった。

「いや、ないけどどうして?」

「それなら、マーメイドギルドに直接聞きに行こう」

俺は舞の腕を掴んで、冒険者ギルド組合に向かった。そして辿り着くと勢いよく扉を開ける。だが、喧噪でその音に気付き振り向く者は誰もいなかった。俺は辺りを見渡しつつ舞に聞く。

「どの人達がマーメイドギルドか分かる?」

「あそこにいる女性達」

舞は少し動揺しつつ指を差す。舞の動きが鈍い。動揺しているせいなのか、インサイダー取引がこの世界で取り締まっていなくても、罪悪感があるのか。それは分からないが、とにかく舞を救うために、その人たちに近寄って、俺が話しかける。

「おはようございます」

「おはようございます。どちら様でしょうか?」

「すみません。マーメイドギルドに投資している者ですが、ギルド価が暴落しているので、状況を教えて頂いてもいいですか?」

「ああ、投資家の方でしたか。この度は申し訳ありません」

投資している者という言葉に反応して、複雑そうな笑顔で状況を話してくれた。

「私たちは水辺の魔物を主に討伐しているのですが、依頼を受けた討伐エリアが、自然災害の影響で、依頼を達成出来ていないのですよ」

「自然災害?」

「はい。台風の様でして、雨風が激しく水位も上がっています。水辺の魔物は水の量が多いほど強くなりますが、こちらは不利になります。危険ですので台風が過ぎて水位が下がるまでは、依頼を達成できません」

リーダーと思われる人は、困りつつ首を横に振った。

「なるほどね。それで依頼が達成出来ていないということで、ギルド価が下がっているのか」

「状況が戻り次第、討伐を再開致しますので、その時にはギルド価は戻ると思います」

「了解です。情報ありがとうございました。頑張って下さい」

俺たちはお辞儀をしてその場を離れる。この様子だと話通りに、台風が過ぎればギルド価は戻るであろう。だが、舞はまだ不安があるようで、それを口にする。

「ギルド価が戻る前に、上場取り消しにならないかな……」

青ざめている舞の肩に手を置き、元気づける。

「大丈夫だよ。台風なら数日で去るだろうし、中堅ギルドなら実績もあるんだろ?」

「まあ、それはそうだけど、その間にどんどん下がっていくのが怖い」

「今までは、マーメイドギルドに投資はしていなかったの?」

「いや、していたよ。なんで?」

「舞は俺よりも、一年くらい前からこっちの世界に来ていたんだろ? それなら台風も予測できたんじゃないの?」

「日本だと台風は季節で来るけど、こっちの世界では稀みたいなの」

「そうなのか」

俺はその言葉を聞き、再び考え込む。そして、舞を救うために決意する。

「……舞、俺に資金を更に貸して貰うことって出来る?」

「何をやるの?」

「マーメイドギルドが、上場取り消しにならないようにする」

「どうやって?」

「台風は数日で去るんだろう?」

「うん、そういう風に聞いたことはある」

「それならその数日の間、毎日買い足して、下がるのを少しでも防げばいい」

「それをやって、上場取り消しになったら、余計に大損だよ?」

舞は俺の提案に焦る。それは当然のことであろう。余計に損失が膨らむ可能性がある。だが、不思議と俺には負ける気がしない。ピンチはチャンスだ!

「だから、俺に貸してくれと言った。もし、失敗したら俺は投資をやめて、働いて返すから」

「働いて返すって、普通に働いても返すのに何年もかかるよ?」

「俺も冒険者になればいいんじゃないかな? ギルド価の上下動が激しいということは、一攫千金も狙えるということだろ?」

「それはそうだけど、拓哉に危険なことはして欲しくないよ。唯一、元の世界のことを話し合える人に何かあったら……」

不安気にしている舞の顔を見つめて、目でも優し気に訴えかける。

「大丈夫だよ。元の世界でのファンタジー知識もあるんだから何とかなるさ。それに舞の悲しむ顔を見たくないから。舞には笑顔でいて欲しい」

舞は不安気な顔から、悲しげな顔になった。

「拓哉が冒険者になったら、結局は毎日心配で悲しいよ?」

「大丈夫。投資には自信がある。前世では運が悪かったけど、この世界に来てからは、運が良くなった気がする」

「投資信託詐欺に引っかかったくせに……」

相変わらずプレゼン力の無さのせいで、痛い所を突かれた。

「ぐっ! でも、そのおかげで舞と出会えたんだけどな」

反論をする。嘘はついていない。舞と出会えてよかったと思っている。

舞は、少し目が涙で滲んでいるが、微笑みを浮かべた。

「わかったわよ。拓哉を信じるわよ。いくら貸せばいい?」

「逆にいくらなら貸して貰える?」

「500万ジェニってところね」

「わかった。それで大丈夫」


翌朝、起きると舞はまだ起きて来ていなかった。俺はハーブの水やりをした後、一人で朝食を作る。今までなら遅くても、もう起きている時間なのに起きてこない。昨日のことがショックで寝込んでいるのだろうか。そっと舞の部屋の扉をノックする。

「舞、まだ寝てるのか?」

少しすると部屋の扉が開く。

「おはよう」

「……おはよう」

二人向かい合って、リビングで食事を摂る。食事をしながら舞の顔色を窺うが、あまり寝付けなかったようである。

今日の予定を話す。

「今日はギルド証券取引所に行こう。もし、ギルド証券取引所に行くのが怖いなら、俺のドッグタグに送金してくれれば、俺だけで行ってくるけど? どうする?」

舞は少し考えて返事をする。

「私も行くわ。家にいても悶々と悩んで、余計に落ち込みそうだし」

いくら俺が責任取るというようなことを言っても、取引は運要素があるので、どうしても気分が沈んでしまうようであった。逆の立場だったら、俺もへこんでいただろう。せめて少しでも舞の苦痛が減ればと思うが、慰めにもならない程度の言葉しか考えつかない。

「そか……じゃあ、せめてギルド価は見るなよ?」

「なんで?」

「もし、更に下がっているのを見てしまったら、余計に不安が増すだろう。俺を信じてギルド価が上がることを待っていてくれればいい」

舞が元気なく返事をする。

「……うん、わかった。じゃあ、拓哉のドッグタグにお金を送金するよ。私のドッグタグから支払うと、受付の人がギルド価を確認で言ってくるから」

「それもそうだな。じゃあそれで頼む」

二人とも食事が済むと、俺は食器を洗った。舞はリビングの椅子の上で膝を抱え込んでいる。

「そろそろ行くか」

二人でギルド証券取引所に向かう。舞の足取りは重そうに見える。

ギルド証券取引所に辿り着くと、舞を待合用の椅子に座らせておいた。もちろん、ギルド価掲示板や受付から離れた所だ。舞が見聞きをしないための苦肉の策である。

とりあえずギルド価掲示板で、ギルド価を確認する。やはり下がっている。

俺は一人で受付に並ぶ。順番が来ていよいよ取引をするのだが、俺でも緊張してきた。

「いらっしゃいませ」

「マーメイドギルドのギルド券を買いたいんだけど」

「現在、ギルド価は312ジェニとなっております。何口買われますか?」

俺は前もって考えていた方法を取ることとしている。舞が言っていた分散での投資である。俺の性格的には合わないけれど、今回はそうは言っていられない。確実に勝つ必要がある。

「3000口でお願いします」

「かしこまりました。合計で93万6000ジェニになります」

俺はドッグタグを渡して、受付の女性が魔道具で取引処理をしている姿を固唾を飲んで見守る。

「では、こちら。ドッグタグをお返しします。ありがとうございました」

翌日からも、受付でマーメイドギルドのギルド券を連続して買う。

二日目はギルド価287ジェニ。

三日目はギルド価277ジェニ。

四日目はギルド価264ジェニ。

五日目はギルド価254ジェニ。

毎回、3000口買っているが、この程度だと下落を抑えきれず下がっている。だが、資金にも限りがあるので、まとめて買うというのは得策ではない。そろそろ資金的にも厳しくなってくる。あと一回くらい。甘く見積もっても二回が限度だろうな。

六日目の朝、舞と二人で証券取引所に向かう。

舞をここ最近のお決まりの席に座らせて。俺はギルド価掲示板を見に行く。マーメイドギルドのギルド価が485ジェニまで戻っている。これなら今日は買う必要はない。むしろ、また下がったときの為に取っておくべきである。取引はしないでおいて、舞にギルド価を報告する。

「舞! マーメイドギルドのギルド価が485ジェニまで戻ったぞ!」

だが、俺の予想とは反して、舞は表情を曇らせている。

「元の所まで上がるかな? また下がったりしないかな?」

ここ最近、いつになく舞が弱気なので、なんか調子が狂ってしまう。舞を励ますために言葉をかける。

「大丈夫。台風が来るのは稀なんだろ? 連続で来ない限り、後は上がるだけだから」

「そうだといいな……ううん、きっとそうだよね」

今日の俺は少しくらいましなプレゼンが出来た気がする。心なしか舞の笑顔が少し戻った気がしてほっとする。

翌日もギルド証券取引所でギルド価掲示板のギルド価を確認する。舞と二人でマーメイドギルドのギルド価が値を戻しつつあることを確認した。俺は安心して、自分が買っているファニー・フェアリーズのギルド価を見て驚いた。

「ファニー・フェアリーズのギルド価が高騰した!」

「え? いくらになったの?」

「137ジェニ。売り時だな」

「おー、凄いね」

「何があったのだろう? もう少し上がりそうだから、二日くらい様子を見ようかな。舞、ファニー・フェアリーズに情報を貰いに行きたいのだけどいい?」

「うん、いいよ~」

舞の声色は、安心した感じであった。ギルド価が戻りつつあるので、冷静さを取り戻したのであろう。舞と二人で、ファニー・フェアリーズに会うために、冒険者ギルド組合に向かう。

「「おはようございます」」

二人でファニー・フェアリーズのメンバーに挨拶をする。

「おはようございます」

早速俺は、ギルド価が高騰した原因を聞いてみる。

「ギルド価が高騰していましたけど、何かあったのですか?」

「ああ、詐欺師ギルドを捕まえたのですよ」

「詐欺師ギルド?」

疑問に感じて思わず声に出た。詐欺師集まりのギルドが正式にあるの? ファンタジーの職業が盗賊ですみたいに許されているのか?

「はい。投資信託で詐欺をしているギルドがあったのですけど、今まで中々尻尾を掴ませなかったのですよ」

俺はてっきり、詐欺で上場を繰り返すギルドのことかと思っていたが、俺が投資信託詐欺にあったのが、ギルドぐるみだったらしい。

「詐欺師ギルドって少人数なのですか?」

「いや、規模的には中規模ですね。だから、うちのギルドだけでは人手が足らなくて、他のギルドと共同で捕まえたのですけどね」

俺は期待の眼差しで質問をする。

「その投資信託で詐欺をされた場合って、その詐欺ギルドが捕まったらお金は返ってくるのでしょうか?」

「捕まえた時には、ほぼ所持金は無かったように見えました。被害者の方にその僅かな所持金を分散して、返金することになるでしょう。でも、手続きの手間を考えると、私なら諦めますね」

「なるほどです」

どうやら俺の期待通りにはいかないようであった。しかも少額で手間がかかるのなら、流石に俺でも諦める。

「まあ、少しは溜飲が下がりました」

その言葉を聞き、魔法使いのリーダーは気の毒そうな顔をした。

「貴方も被害者だったのですか?」

「ええ、まあ……」

余計なことを言ってしまった。強欲な人間の末路とでも思われただろうか。

「それはお気の毒に。まあ、今後も同じ手口が現れる可能性はあるから、気を付けて下さいね」

とりあえず、事件の被害者ということで同情の言葉を頂けたようだ。

「はい。ありがとうございました。ではまた」

「こちらこそ投資をありがとうございました。今後もよろしくお願いします」

お互いに社交辞令の言葉を述べて、舞と俺は冒険者ギルド組合の外に出た。

「良かったね~。少しは恨みが晴れたでしょ?」

「まあな」

二日後、俺と舞はギルド証券取引所のギルド価掲示板を見ている。

「思った通り、ギルド価がまだ上がったな。でも、そろそろ天井だろう」

「そうね。私でも、もう売るわね」

「それにしても、ここまでギルド価が上がるってことは、投資信託詐欺の被害者が結構な人数いたのかな? それで支持をされたとか?」

「うーん? どうだろうね? 拓哉が被害を受けたのもここだから、他の被害者もここを利用している投資家が多かったんじゃない?」

まあ、ひとまず解決したことだし良しとするか。

そして、ギルド価が天井であろうということに関しては、舞も同意見のようである。ここは欲を出さずに売ることにする。

「それじゃあ、ちょっと売りに行ってくる」

「いってらっしゃい」

「舞は売らないのか?」

「冒険者にしては、安定しているギルドだから、配当を貰う方が得かと思って。まあ、この前みたいに台風が来なければね」

舞は笑顔で答えた。もう安心して悩みは吹っ切れたようである。そんな舞を見て俺も安心した。

「じゃあ、ちょっと行ってくる」

俺は早速受付に行き、受付の人に売り注文をする。

「いらっしゃいませ」

「ファニー・フェアリーズとマーメイドギルドのギルド券を売りたいんですけど」

「はい、どの程度売りますか?」

「全部でお願いします」

「かしこまりました。少々お待ち下さい」

俺は受付の女性に、ドッグタグを渡す。舞に借りていた元の10万ジェニ以外に、500万ジェニの投資で稼いだ分もあるので、思わずそわそわしてしまう。

「お待たせしました。合計で797万9696ジェニになります」

「はい。ありがとう」

俺は舞がいる所に戻りつつ、頭の中で計算をした。舞に返す分が510万ジェニ。残りが俺の取り分とすると、280万ジェニはある。この世界に来てそうそうに失った100万ジェニの倍以上を取り戻した。

「お待たせ」

「お帰り。どうだった?」

「舞に借りていた510万ジェニを返しても、異世界に来た時の初期金額よりも増えた。今度からは自分のお金で、投資が出来るようになったよ」

「お~! よかったね。じゃあ、今日の夕ご飯は拓哉の奢りね。レストランで食べよう」

俺がうきうきと喜んでいる所に、舞がとんでもないことを言い出してきた。

「え? なに急に? 何の話?」

俺は舞の発言に戸惑う。何のことか直ぐに思い浮かばなかった。

「拓哉が勝ったら、フレイム・シェフズのレストランで食べようって話をしたじゃない」

俺は思い出して驚きつつ聞いた。

「あの話、有効だったの?」

「当たり前じゃない。大勝ちしたんだし、お祝いは必要でしょ。それにフレイム・シェフズのレストランの見学もするって話になったじゃない」

「いや、お祝いって俺のお金で食べるってどうなの?」

「細かいことは気にしない。拓哉だって私のお金で散々食べてきたんだから」

そんなことを言われ、俺に反論の余地はなかった。諦めて夕食の時間まで街中をぶらついた。そして、いよいよ夕食の時間。俺は舞の方を見て聞いてみる。

「そろそろレストランに向かうか? フレイム・シェフズのレストランはどこにあるんだ?」

「……本当にギルド情報誌で、生産職ギルドの情報を見てないのね。地図が書いてあったでしょ」

そう言われて思わず視線を逸らす。でもまあ、誰でも興味ないことをわざわざ見ようとしないよな。俺は悪くないはずだ。うん。

呆れ顔の舞の隣を一緒に歩いて行く。するとレストランと思われる看板が見えてきた。

「ここよ」

立派な建物で高級感が溢れている。

「外見が高級レストランじゃないか……もしかして王族や貴族も来たりするの? 本当にここに入るの? 食事をするのはいい。奢るのもいい。でも、高くないよね?」

その言葉に舞がにやりと悪魔のような笑顔になる。

「人気店だからもちろん高いよ? 王族も貴族も来たりするよ。でも、拓哉の稼ぎからすれば僅かだよ?」

「本当かよ? 舞が食べたかっただけじゃないのか? そういえば、舞はフレイム・シェフズのレストランで食べたことはあるのか?」

「ない……投資に資金を回したかったから」

今度は俺が舞に呆れた。

「ストイックな投資家だな? 俺に500万ジェニを簡単に貸せるくらいなら、普通に毎日レストランで食べられるくらい稼いでいるんじゃない?」

いつもとは逆で舞が反論する。

「あんたも投資家ならわかるでしょ。投資資金が多いほど稼ぎやすいのよ」

「まあ、そうだけど……」

舞が諦めないかと思い、念のため確認する。

「王族や貴族が来るような場所だとドレスコードがあるんじゃない?」

「ドレスコードはないから平気だよ」

俺の僅かな希望は砕かれた。

「そんなことはいいから、早く中に入ろうよ」

扉を開けるとドアベルがチリーンとなる。その音で店内の全員が視線をこちらに向けるのではないかと緊張したが、俺の被害妄想です。音に反応した店員だけがこちらに寄って来た。

「いらっしゃいませ。二名様ですか?」

「はい」

逃げ場を無くすかのように、舞が直ぐに返事をする。

「では、こちらの席にどうぞ」

店員は、席に案内すると離れていく。俺は高級レストランのマナーを知らないので、とりあえず舞のそばの椅子を引いてキザに感じる言葉をかける。

「どうぞ」

「ありがとう」

舞が微笑みつつ、俺が引いた椅子に座る。そして、俺も舞の向かいの椅子に座った。

「景色のいい席だね。よかった~」

「ああ、沈みつつある夕日に、それに照らされる街並み。日が沈んだら星空も見えるのかな?」

「見えるんじゃないかな? この辺の建物は二階建てだし、お店自体が大通りに面しているから、少しは見えるはず?」

舞も来たことがないので分からないようだ。せっかくの高級店でのデートならば、いい雰囲気になりたい。でも、舞はデートと思っていないかもしれない。俺の独りよがりにならないと良いのだが……。先ほど案内してくれた店員が再びやって来た。

「こちらがメニューになります」

俺と舞はメニューを受け取る。店員はメニューを渡し終えると、お辞儀をしてまた去っていく。

店員が去ったことを見計らい、俺は料理よりも真っ先に金額を確認した。高いものでも1万ジェニ前後。二人なら3万ジェニ以下で食べられる。先ほど投資で勝ったばかりのせいか、金銭感覚が狂っているかもしれないが、舞にいい所を見せることは出来そうである。会計の時に、お金足らないから出してくれない? ということは回避できた。そんなことを考えていると舞は何を食べるか決めたようだ。

「私はビーフシチューのコース料理ね」

フルコースを選びやがった。二人で料理に差があると変な感じがするので、俺も舞に合わせてフルコースにする。

「マジか……容赦ないな」

「せっかく来たんだから一番美味しそうなものが食べたいし、人の奢りで食べる食事は美味しいからね」

悪魔のようなことを言ってるよ……

俺の方はというと、この前の屋台で肉串を食べそびれたから、肉をがっつりといきたいな。

「まあ、俺も初勝利記念でステーキコース料理でも食べるかな。なんかコース料理だと、色々なものがあるんだけど? アミューズ・ブーシュ? 聞いたことないけど、お通しみたいなものか? それにフロマージュ? フロマージュってなんだ?」

「チーズばかり書いてあるみたい? 食後のお口直しかな?」

舞も困惑している。

「舞も知らないで来たのかよ?」

「高級レストランとか憧れるじゃん?」

「俺より稼ぎがいいんだから、いつでも来られただろう」

「もう! グチグチ言わないの! 折角の高級レストランを楽しもうよ」

諦めることにした。舞と言い合いをしても勝てる気がしないし、折角来たのだから楽しもうという舞の考えも理解できる。

「ああ、じゃあ注文しようか。俺はステーキコースで、舞はビーフシチューコースでいいな?」

「うん」

俺は手を上げて合図をして、店員を呼んだ。

「ご注文はお決まりでしょうか?」

「ステーキコースとビーフシチューコースをお願いします」

「ステーキコースとビーフシチューコースですね? 食後のデザートとお飲み物は何になさいますか?」

「舞は何がいい?」

「私はクレームブリュレと紅茶」

「俺もクレームブリュレで、飲み物はコーヒーでお願いします」

「かしこまりました。静水と炭酸水はどちらがよろしいですか?」

急に分からないことを言われて二人で慌てる。

「私は炭酸水で」

俺も分からんから舞に合わせておく。

「俺も炭酸水で」

店員はお辞儀をして去って行った。その後、テーブルにお互いの顔を寄せて小声で話をする。

「こういう店って水も選ぶのか? そもそも炭酸水ってこの世界にあるのか?」

「私もよく分からないけど、キッチン系の魔道具であるのかな? どんなものかは見たことがないけど」

二人でこそこそと話をしていると店員が、トレイの上に、ガラスのコップに入った炭酸水を持ってきた。コップを舞と俺の前に置いて、店員は去って行った。二人でそれぞれのコップに口をつける。

「久しぶりの炭酸はピリピリするね~」

「そうだな。元の世界で飲んでいたのは、炭酸ジュースばかりだったから、何の味もしない炭酸水は違和感があるけどな」

そして、また店員がやってきた。今度は、トレイに料理をのせている。

「こちら、アミューズ・ブーシュのトリュフ入りのクリームスープです」

先ほどから、舞と俺の順番に置かれる。この世界でもレディーファーストという概念があるらしい。借りてきた猫のような態度を取っていた舞は、店員が去ると目を輝かせた。

「凄い。トリュフの入ったスープ。現実世界のフランス料理と遜色なくない?」

正直な所、元の世界の高級料理のフルコースなど知らん。だが話を合わせておく。

「見た目はな。味はどうだろうな?」

舞がスプーンでスープをすくって飲む姿を、思わず見守る。どうせなら舞に美味いものをご馳走したい。

「美味しい。元の世界でもトリュフを食べたことないけど、こういう味なのかな?」

それを聞いて俺もスープを飲み始める。

「確かに美味いな。俺もトリュフは食べたことないけど、元の世界だとどういう味なんだろうな?」

そしてまた料理が運ばれてきた。

「失礼します。こちら、前菜のテリーヌになります」

俺たちの前に置かれたテリーヌを見る。様々な食材が層を成している。パテの部分をフォークで少しすくって味見をしてみる。なんとなくレバーのような味がするが、グルメな舌を持っていないので、それ以上は判断できない。舞に聞いてみたが、舞も食べたことがないとのことで分からないそうだ。

「おしゃれな料理だね。この世界にもカメラがあれば映えるのに。魔道具でカメラないのかな?」

「どうなんだろうな? 俺よりも長年住んでいる舞が知らないのに、俺が知るわけがない。例えばの話だけど、ないとしたら魔道具を作るギルドとかに依頼をしたら、作れないかな?」

「うーん? 確か銀と光が関係しているんじゃなかったっけ? 詳細は分からないけど」

「俺も分からないな。説明が出来ないんじゃ作って貰うことも出来ないな」

「そうだね」

「上場している魔道具を作るようなギルドに依頼出来れば、ギルド価も上がるから、一石二鳥だったんだけどな」

「そうじゃん! あ~、もっと色々と知識を吸収してから、こっちの世界に来たかった」

「まあ、事前予告なく異世界に来たから仕方がないな」

「あ、でもカメラが売り出されたら、わざわざ資金集めのための上場必要ないから、結局ダメじゃん」

「そっか。魔道具って錬金術師ギルドが作っているんだっけ? 錬金術師ギルドは魔道具で儲かっているから投資してもらう必要がないんだったな」

そんな話をしていると、また料理が来た。

「失礼します。こちら、魚料理になります」

店員が料理を俺たちの席に置くと、お辞儀をして去っていく。俺たちもついお辞儀をする。去ったのを見計らってまた会話をする。

「コース料理だと、肉料理以外に、魚料理も出てくるのか?」

「メニューに書いてあったでしょ? 見てなかったの?」

そう言われて思わず舞から目をそらす。真っ先に金額を確認していたから、メニューの内容をあまり見てはいません。とは言えない。そんな俺の心の内も知らずに舞は料理を見て目を輝かせている。

「白身魚をクリームソースで煮込んだのかな?」

早速舞は料理を口に運ぶ。

「美味しい。魚料理は久しぶりかもしれない」

「確かに美味いが、久しぶりって今まで肉しか食べてないのか?」

「生ものは傷みやすいからね。大体が干し肉を買って、料理に使っていたから。お肉の類は大抵ベーコンとかハムみたいに、少しでも日持ちするやつしか買えないし」

「なるほどね。確かに魚は大変かもしれない。この世界では刺身とかは無縁そうだしな。寄生虫とかがいたら、大変なことになる」

「食事中に変なことを言わないで!」

舞に怒られてしまった。まあ、今のは俺が悪いか。

そしてまた、料理が運ばれてきた。

「失礼します。こちら、メインディッシュのステーキとビーフシチューになります。ビーフシチューはお熱いのでお気を付け下さい」

店員さんが来ると、ついついおとなしくなってしまう。日本人の性だろうか。

店員の後ろ姿を見送ると、料理に目を向ける。この前、肉串を食べそびれたのでやっとがっつりと肉を食べられる。待ち望んでいたよ。ナイフとフォークで肉を切り分ける。時折、キコキコと音が出てしまうが、慌てて周囲を見渡しても気にしている人はいないようでほっとした。切り分けた肉を口に頬張る。

「肉が柔らかくて美味しい。しかも脂ののりも良くてジューシーだ」

「こっちのビーフシチューも美味しいよ。しっかりと煮込まれていて、お肉がホロホロと崩れる」

舞もメインディッシュにご満悦のようだ。ビーフシチューが熱いせいか、それとも女の子だからか、舞が少しずつ食べ進める。俺も舞のペースに合わせて、切り分けたステーキを口に運んで味わう。二人とも食べ終わるとタイミングを見計らったように、店員が次の料理を運んできた。

「失礼します。こちら、フロマージュです」

店員が去ると舞と話し合う。

「チーズだな? なんのチーズだ?」

「わかんない。元々、日本でもそんなに変わったチーズとか食べなかったし」

「俺もだよ」

同意しつつ二人でチーズを食べる。そして食べ終わる頃にまた料理が運ばれてくる。本当にタイミングを見計らっているようだな。

「失礼します。こちら、デザートとお飲み物になります」

緊張のせいか、店員がいる時は、二人とも借りてきた猫のようになってしまう。店員が去ると会話を始める。

「クレームブリュレ? 見た目が少し違うような?」

「味は? 元の世界と同じなのかな?」

舞が食べてみる。

「美味しい。ほぼ同じ味」

その言葉を聞いて、俺も口に運ぶ。

「確かに美味いな。元の世界と同じかどうかは、俺には区別がつかないが」

デザートを食べ終わると、舞が窓の外を見た。

「星空が綺麗だね。東京のネオンとは違う綺麗さがある」

舞の表情に思わず見とれた。

「そうだな。月が綺麗だな」

思わずキザな言葉を口にした。『月が綺麗ですね』は『貴女を好きです』という意味があるということを俺は知っている。なので、少しニュアンスを変えてわざと言った。脈があるかどうかを、探りたかったからである。

「そうだね。月も見えるね」

さっぱり分からん回答が来た。舞はロマンチストではないのかと思ったが、俺の方には顔を向けずに、心なしか頬が赤い。気のせいかもしれないが。

お互いたまに飲み物を口にしながら雑談をする。そして、飲み物がなくなった所で、帰ることにした。

会計をしている間、舞はカウンターから離れている。お金を払う所を見ないように、俺の顔を立ててくれているのかもしれないし、たまたまかもしれない。店員が料金を言ってきた。

「2万5000ジェニになります」

俺はアイテムボックスにお金がないことに気づき困った。舞に言うわけにはいかないので、店員に聞いてみる。

「ドッグタグで支払いって出来ますか?」

その言葉を聞いても当たり前のように店員は答えてきた。

「はい。出来ますよ。ドッグタグ払いですね」

店員は魔道具を出して、何やら操作をしている。どうやらドッグタグでの支払いが可能のようだ。俺は心の中でよしっ! とガッツポーズをした。

「では、こちらにドッグタグをかざして下さい」

俺がドッグタグをかざすと、会計を無事に済ますことが出来たようである。

「毎度ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」

俺は舞と二人で店を出た。店を出てきたところで、舞が俺に微笑みつつお礼を言う。

「美味しかったよ。ごちそうさまでした」

「はいよ。それはよかった」

二人で星空が輝く道を歩いて、家に帰った。

家に帰ると、ランタンに火を灯して、二人でリビングの椅子にもたれかかりくつろぐ。

舞がレストランで食べた料理を反芻していた。

「高級料理、美味しかったなー。また機会があったら行きたいな」

「そうそうはいけないだろう。俺の財布が空になりかねない」

「あれ? 奢ってくれる前提なんだ? ありがとう」

余計なことを言って墓穴を掘った。

「いや、割り勘でお願いします」

「割り勘だと女の子が損だと思うんだけどな~?」

「コース料理をぺろりと食べていたじゃん……。じゃあ、もう寝るからおやすみ」

「ちょっと待てーい!」

自分の部屋に行って寝ようとしたら、舞に引き留められた。何事かと思い舞の方に振り返る。

「何か忘れてない?」

 その言葉を聞いて、考えてみてもさっぱり見当がつかない。

「なんだっけ?」

 俺が質問したことにより、舞はほっぺたを膨らませて怒る。

「私にお金を返すのを忘れているじゃん。送金して返してよ」

 投資で稼いだお金のことか。確かに俺のドッグタグに送金して貰ったままで、舞にまだ返していない。

「ああ、ごめん、ごめん。今、返すよ」

「利子をつけて返してくれてもいいよ?」

いたずらっ子な笑みを浮かべてくる。

「申し訳ございません。そこまでは勘弁して下さい」

舞に仕方がないなーっと言われているうちに送金を済ませる。気が変わらないうちにさっさと返さねば。返し終わって逃げるように部屋に向かう。実際逃げたのだがな。

「それじゃあ、今度こそおやすみ」

「おやすみなさい。今日はありがとうね」

俺は今日の楽しかったことを思い出しつつ、眠りについた。


翌朝、俺は起きるとパジャマから服に着替えて、庭のハーブの水やりをした。

リビングに戻ると舞も起きて来ていた。

「おはよう」

「おはよう。昨日は食材を買わなかったけど、朝食どうする?」

「うちにある食材で間に合わせようか」

「そうだな」

材料を確認する。簡単なスープは作れそうだ。これにパンでいいだろう。作ろうとすると舞も一緒にやろうとして寄って来た。そして、二人で準備をして朝食を食べた。リビングでくつろぎつつ、舞にお願いをする。

「ギルド情報誌を貸してほしいんだけど」

舞はギルド情報誌を、小さな棚から取ると手渡してくれた。

「はい。昨日全部売りに出したから、買うんだよね? やっとスタートラインに立ったね」

「ああ、やっとだよ」

俺にとっては感慨深い。だが、舞はその気持ちをぶち壊す発言をする。

「やっとと思うのは考えが甘い! 私の苦労をあんたも味わうべき」

舞はこの世界に来た時、誰も頼る人がいなかった。そして、働きつつこの世界を学び、投資資金も少しずつ増やしていった。それに引き換え俺は舞に助けて貰ってばかり。舞の言わんとしていることはわかる。

「そうでした。甘い第二の人生ですみませんでした」

尊敬と自虐を込めて頭を垂れる。舞は得意げに胸を張る。

「わかればよろしい。それで、どこを買うの?」

舞の表情がころころと変わり可愛い。俺は少し思案して答える。

「200万ジェニ使って、なるべく数を増やしたいから安い所かな」

「また新興ギルドですか……」

呆れ顔で見られた。俺が強欲な人間とでも思われただろうか。いや、投資をする人間は、楽して稼ごうとしているのだから、舞も強欲に該当するはずだ。まあ、余計なことは言わないでおくか。

「マーガレットというギルドが気になる」

すると舞が白い目で俺を見る。何で? と思っているとすぐにその理由を答えてきた。

「ファニー・フェアリーズといい、マーガレットといい、女性だけのギルドじゃん。女好きが……女の敵!」

理由を理解したがそんなつもりはない。うん。ないはず。無意識に女性を選んでいた場合は、俺に責任はないはず。とりあえず言い訳はしておく。素直に自分の非を受け入れてはいけない案件だな。

「いやいや、純粋に功績とメンバーのバランスを見た結果だよ。それとギルド価」

「ふん! どうだか」

舞はご機嫌斜めである。これが嫉妬ならいいのだが、そこのところはどうなのだろう?

腕を組みつつそっぽを向いてしまった舞の様子を窺いつつお願いをする。

「今日はギルド見学に行きたいんだけど、一緒に行ってくれる?」

「そうね。私が一緒に行って監視しないと、投資ではなく貢ぎかねない……」

おいおい。どこまで俺の評価が下がっているんだよ。俺のことをキャバ嬢に貢ぐおじさんみたいに言うなよ。昨日、高級レストランで奢って高くなった評価が地の底まで落ちてるじゃねーか。弁明はしておく。

「そんなことしないって」

俺がそろそろ見学に行こうと促すが、舞がジト目で見てくる。裁判長! 冤罪です。

冒険者ギルド組合に向かう。舞の顔色を窺うが、楽しみ半分でもう半分はちょっと怒り気味である。舞の気持ちというか、女心自体わかららないので、見学になったら怒りが消えることをただひたすら祈るだけしか俺には出来ない。

まだ暑くない時間なのに、俺だけが冷や汗を流しつつ冒険者ギルド組合に着いた。

中に入ってマーガレットギルドを探す。

「マーガレットギルドの方、いらっしゃいませんか?」

すると、女性の剣士二人と僧侶一人が寄って来た。僧侶の人がリーダーのようで話しかけてきた。

「おはようございます。マーガレットギルドの者ですが何か?」

「おはようございます。今日は見学させて下さい」

「は~い。よろしくお願いしますね~」

「よろしくお願いします」

「今日の仕事は何の予定ですか?」

「素材集めに行きま~す。レア素材なので、見つかるか分からないし、魔物も出る所なので、気を付けて見学して下さいね~」

リーダーと思わしき人が説明をしてくれたが、なんかのほほんとしている。このギルド、大丈夫なのか? と心配になってしまう。そんなことを考えていただけなのに、また冤罪を受けた。

「鼻の下、伸びているわよ……」

舞に白い目で見られた。普通に会話しただけなのに、どこに軽蔑される要素があった?

「そ、そんなことないよ」

 思わず鼻の下を、手で隠してしまう。突然の冤罪を受けて、俺も思わず挙動不審になってしまった。いや、下心とかはないからね? 見学をしても舞のご機嫌は斜めのようである。まあ、舞の為の見学ではなく、俺の買おうとしているギルドの見学だから、舞が楽しめるというわけでもないかもしれないが……。

そんな空気を読まないリーダーと思われる人が説明を続ける。

「素材集めは洞窟で行いま~す」

「集める素材は鉱石なのですか?」

舞が質問をした。

「そうで~す」

すると舞は俺の耳を必要以上に引っ張る。耳が痛いんですけど。そして小声で囁く。

「あんた向けの一攫千金ね」

「なんで?」

「鉱石の依頼はだいたいミスリルなのよ。ミスリルを手に入れるだけでも評価は上がる。稀にアダマンタイトが出るから、それが出れば確実にギルド価は上がるわ」

「なるほどね。ちなみにオリハルコンは出たりはしないの?」

舞が呆れる。今までのよくわからん怒りが消えるほどに呆れられた。

「あんたね! 宝くじを当てるよりも難しいわよ!」

そんなやり取りをしていると、空気を読まないリーダーが声をかけてきた。

「それでは、出発しましょ~」

今回も、チャーター・キャリッジを借りていた。まあ、採掘したり魔物と戦ったりするのだから、荷物は当然大荷物になるだろう。それにしても女性が鉱石を採掘するとか、違和感を感じる。戦士の人とかであるなら、明らかに俺よりも力がありそうなので、問題はないのだろうな。

しばらく馬車に揺られて目的地の洞窟に辿り着く。馬車を降りると相変わらず俺も舞もお尻をさする。

「ここが今日の作業場所になりま~す」

ギルドのリーダーが、観光バスの添乗員さんみたいに案内をする。本当に緩いギルドだな。魔物現れたら平気なのか? 心配しつつ洞窟の中に足を踏み入れる。

「うへー、蝙蝠とかいそうなところだな」

「あんた、何を蝙蝠くらいでビビっているの? そんなことじゃ、この世界でやっていけないわよ?」

「びびってなんかいない。蝙蝠のフンが落ちてこないかと心配なだけだ」

「あ~、それはわかる」

「ちなみに蝙蝠いたら、血を吸われたりしない?」

「やっぱりびびっているじゃない! 蝙蝠って人の血は吸わないって聞いたことあるけど、実際のところはどうなんだろう? 確か動物の血は吸うという話を聞いた気がするけど」

「舞らしくないな。ファンダメンタルやっているのに、情報収集が甘い」

「投資の情報収集とは別でしょうが!」

そして、マーガレットギルドの人達は採掘を行う。その間、暇である。やることといえば、たまにだが、本当に蝙蝠のフンが落ちてくるので、それを避けるだけだ。

「今日はここまでにしましょうか。なかなか出てきませんね~。何日か、かかるかもしれません」

俺たちが見学しているせいもあるのか、早めに切り上げた。いや、このギルドが緩いから早めに切り上げたのかもしれないけどな。そして、チャーター・キャリッジに揺られて、街に戻る。マーガレットギルドの人達とは、馬車を返した所で別れることになった。

「「見学ありがとうございました」」

「いえいえ、こちらこそ投資を検討して頂いて、ありがとうございます」

俺たちは夕食の材料を買うために市場を歩いている。先ほどの見学会のことを舞に問いかける。

「さっきのギルド、どう思う?」

「私がどう思うじゃなくて、あんたがどう思うかでしょ?」

俺は頭を悩ます。ギルド情報誌の情報で考えると良さそう。そして、いま受けている依頼内容も良さそう。だが、ギルドリーダーの雰囲気が、ほわんとしている。

「まあ、依頼が一日完結でなくていいのなら、いずれは依頼完了するだろうから、ギルド価は上がるだろうな」

「じゃあ、その判断でいいんじゃないの?」

「うーん、しばらくミスリルが出ないなら、それまでの間、下がる可能性もありそうだから、下がってから買うべきか、悩みどころなんだよね」

俺の今現在の悩みの種を、舞に吐露する。

「いつ依頼が完了するか分からないから、早めに買う方がいいんじゃない?」

「だよなー。明日にでも買うか」

「ちなみに何口買うの?」

舞は俺がどういう手管で取引をするのか、興味津々である。

「今日のギルド価が49だった。依頼は今日で終わらなかったから、明日は下がると思うんだよね。とりあえずは200万ジェニで買える分だけ買うつもりだよ」

「全額買うの? 少しは分散して、リスクを回避しないの?」

相変わらず舞に呆れられてしまう。

「俺に守りの戦いは似合わない! 攻めてこその俺だ!」

ふっ、決まったな。

「かっこ良さそうな台詞を言っても、かっこ良くはないから」

お見通しのようである。恥ずかしさで焦りつつ言い訳をする。

「まあ、とにかくいずれは依頼を完了するんだし、それって言い換えれば確実にギルド価が上がるってことじゃん?」

舞が呆れ顔で見てくる。いつも呆れ顔をされているのは俺の気のせいだと思いたい。

「あんたポジティブね……」

「不思議なことに、元の世界よりこっちの世界の方が、運ある気がするんだよね」

舞は呆れ顔のまま答える。

「気のせいでしょ」

「いやいや、ほんとに」

「まあいいわ」

舞は俺に何を言っても無駄と、呆れることを諦めたようだ。

「今度は私が貸したお金じゃなくて、あんたのお金だしね」

舞が納得してくれたようで何より。

「そうそう、自己責任でやるから大丈夫だよ」

「それなら今度は破産しても、私に借りようとしないで働くことね」

「うぐっ!」

釘を刺された。実の所、また破産したら土下座して舞に借りようとしていたのだが……。

とりあえず話を濁す。いやもう濁せないかもしれないけどな。

「まあまあ、ところで今日の夕食はどうする?」

「昨日の魚料理が美味しかったから、魚を食べたいところだけど、そこら辺のお店で売っている魚は鮮度が悪いし、傷みやすいから、結局いつも通りお肉かな? 干し肉より燻製したベーコンとかソーセージとかはどう?」

「ベーコンは厚切りですか? 薄切りですか? 厚切りならベーコンがいいけど、薄切りならソーセージの方がいい」

舞が両手を腰に当てつつ言い放つ。

「贅沢しないので、薄切りです」

その言葉に俺は撃沈した。仕方ないじゃん。肉をがっつり食べるのが好きなんだよ。男のほとんどがそうだよね? 俺だけじゃないよね? 心の中でそんな風に誰かに助けを求めるようにぼやいているが、当然返事は返ってこない。まあ、返って来たらそれはそれでホラーだな。

「じゃあ、ソーセージね。それならポトフにして入れちゃおうか」

「お、それいいね」

ポトフなら俺も好きだ。ソーセージの旨味がスープに出て、全体的に美味い。

買った荷物を俺が持ちつつ、家に向かう途中の話。

「そういえば、あんた稼いだんだから、食費も出してよね」

思わず咄嗟に目を背けてしまった。

「ちょっと~、いつまでもヒモ気分でいないでよね」

視線を戻し、舞と交渉する。

「し、資金的に厳しいから、せめてもう一回勝ってからにしてくれないかな……?」

「もう!」

舞が頬をぷくりと膨らませて怒っている。そんな舞も可愛い。

「今度勝ったら絶対に食費は割り勘だからね。あ! あんたの方が食べるから私の方が少なくていいのか?」

「や、ややこしくなるから、割り勘でいいんじゃないかな?」

不利になりそうな言質を取られそうになる。苦しい言い訳をしたら舞にジト目で見られた。食費交渉戦を繰り返しながら家に帰った。

俺は荷物を棚に片づけた。その後はハーブに水をやって室内に戻った。

二人で夕食の準備を開始する。ポトフを作る過程で意見が分かれた。ソーセージを入れるタイミングである。俺は一番先に入れてスープに旨味を出すと言ったが、舞は最後に入れて、ソーセージから旨味が逃げないようにすると言う。両者譲らずなので、公平にじゃんけんで決めることとなった。いつも思うがなぜじゃんけんとは公平になるのであろうか? そしてその戦いの結果……俺の負けです。

配膳をして食事を摂る。スプーンにソーセージを掬い、まじまじと見る。そして口に運ぶとこれはこれで美味い。俺の味覚はチョロいな。食べ終わると俺が食器を洗って、各自部屋に行き眠りについた。


朝になりまたハーブに水をやる。俺が起きた時間に舞は起きていないが、ハーブに水やりを終えてリビングに戻ると舞が起きてきているということが、最近のルーティンとなってきている。

ふと疑問が浮かんだ。ハーブの水やりとか掃除や食器洗いを俺がやっているのだから、食費出さなくていい? そういう風に舞に言おうと思ったが、よくよく考えると舞の家に住ませて貰っているのだ。食費ぐらいは出さないと、今度は家賃を出せとか、払う気がないなら家を出て行けと言われていたかもしれない。言わなかった俺、ナイス! 一人で暮らしていたら尚更、投資資金が減る所だったよ。

昨日のポトフを温めて、二人で朝食を摂る。ポトフの中に残っていたソーセージの旨味がスープに出て、スープに旨味が増した。図らずして舞と俺の食べたかったポトフを、それぞれ堪能できた。朝食を食べ終わると食器を洗って、ギルド証券取引所へ向かった。

ギルド証券取引所に着くと、楽しみのあまりつい心の声を漏らす。

「早速、ギルド価掲示板を見ますかね」

「随分、お楽しみそうね?」

「下がっていると思うから、買える量が増えると思って。お? 思った通り4ジェニ下がって45ジェニになっているな」

「はいはい。私の方は……うん、安定して少しだけ上がり気味ね。まあ、売るほどは上がってはいないけど」

舞の返事が適当になっている。俺の謎理論の相手をするのが面倒にでもなったか? まあとにかく俺は受付に行くことにする。

「じゃあ俺は買ってくるよ」

「うん、いってらっしゃい」

俺は受付の順番待ちの列に並ぶ。そして俺の順番が来る。

「おはようございます。マーガレットギルドのギルド券を、200万ジェニで買えるだけ買います」

「おはようございます。マーガレットギルドですね。200万ジェニですと、4万4444口になります。よろしいですか?」

「お願いします」

そして、買いの手続きをして舞の所に戻る。

「おかえり。何口買えた?」

「4万4444口。4並びで不吉な数字何ですけど……」

だが、舞は俺の考えとは違い、羨ましそうにしている。なぜだ? その謎の回答を直ぐに舞が答えた。

「よかったじゃん。こっちの世界では、4は幸運の数字だよ?」

「なんで?」

「死なないのしが、4ってことらしいよ?」

「死ぬじゃなくて、死なないで使われているのか。それなら471とか縁起が良さそうだな」

「あ、それも言われているよ」

「マジか!」

数日が経過した朝食時。未だにマーガレッドギルドのギルド価は、上がる気配を見せない。

「まだマーガレットギルドは、成果が出ないのかな?」

「そろそろじゃない? 鉱石を取りに行くと言っても、掘りつくした所を採掘するんじゃなくて、まだ出そうなところを採掘するから、そろそろ出てもおかしくないよ」

「そうか。どれだけ上がるか楽しみだな」

「一攫千金を夢見てるよ……」

舞が呆れる。

「な、舞だってそうだろう? 投資をやる人間は、勝つことしか想像してない。負けることを想像している奴が、投資をやるわけがない!」

俺の投資にかける情熱を力説した。

「まあ、そうだけどね。ごめん、ごめん。それじゃあ、そろそろお楽しみのギルド証券取引所に行く?」

「もちろん行くとも」

ギルド証券取引所に着くと、早速掲示板に向かう。

「さてと、掲示板、掲示板っと」

舞も、俺がどのような結果になるかがお楽しみのようで、横から顔を出してきた。

「おお! 高騰しているよ!」

「ほんとだね。この上がり具合だと、本当にアダマンタイトが出たかも?」

「マジか! 売り時だな」

「はいはい、いってらっしゃい」

舞も笑顔で俺を見送ってくれる。俺は嬉々として受付に向かった。そして、俺の順番が回ってくる。

「おはようございます。マーガレットギルドのギルド券を全部売りで」

「おはようございます。かしこまりました。少々お待ち下さい」

ドッグタグを渡すと、魔道具で取引の処理をしている。待ち遠しいな。

「お待たせしました。337万7744ジェニになります」

ドッグタグを受け取ると、喜びを隠せない。思わず顔がにやける。

「お待たせ」

「顔が緩みまくっているわよ。かなり稼いだみたいね? いくら勝ったの?」

「130万くらい勝った」

「よし、じゃあ今日も拓哉の奢りで、高級レストランに行こうか?」

「いや、行かねーよ……いや、やっぱり行く」

舞が不思議そうに俺の顔を覗き込む。

「うん? どうしたの? 冗談で言っただけだよ?」

「いや、その、俺が行きたいというかなんというか……」

「よくわからないけど、拓哉が行きたいのなら行こうか。まだ朝だから時間がまだかなりあるわね。街中をぶらつこうか」

「ああ」

俺はこれから行おうとしていることに緊張しつつ、舞と二人で街中を散策した。

時間になり、この前行ったレストランを再び訪れる。緊張のあまりドアベルの音にびっくりした。

舞が席に着くとき、またエスコートして椅子を引いた。そして、俺も舞の向かいに座る。

「今日は何にしようかな」

舞がウキウキしている。俺はかっこいい所を見せようとする。

「なんでも食べたいものを頼んでくれ」

「え? 本当に奢り?」

舞が不思議そうに聞いてくる。そりゃあ、以前はヒモだったけど、これでも少しは稼いだのだから、甲斐性はあるだろ? いい所を見せたいんだよ。そんな俺の考えを知らぬ舞に言う。

「ああ、俺が来たいと言ったんだから、俺が奢る」

「どういう風の吹きまわしか知らないけど、お言葉に甘えて。それじゃあ、チキンソテーのコース料理にさせて貰うね」

「ああ、じゃあ俺はこの前、舞が食べていたビーフシチューが美味しそうだったから、コース料理で頼むよ」

「うん、美味しかったよ」

舞が頭をこてりと傾けて微笑んだ。見惚れていたら突然店員に声をかけられてびっくりした。

「いらっしゃいませ。ご注文は何になさいますか?」

「チキンソテーのコースとビーフシチューのコースで」

「かしこまりました。チキンソテーコースとビーフシチューコースですね。食後のデザートと飲み物は何になさいますか?」

「私はフルーツタルトと、紅茶をお願いします」

「俺もフルーツタルトで、コーヒーをお願いします」

「かしこまりました。お水は静水と炭酸水のどちらになさいますか?」

「私は炭酸水をお願いします」

「俺も炭酸水で」

店員は一度厨房の方に戻り、炭酸水を二人分運んできて去って行った。どのタイミングで告白するべきか緊張するな。やっぱり食後がいいのかな? などと考えていると、料理が運ばれてきた。

「お待たせしました。こちら、アミューズ・ブーシュでございます」

料理をしてお辞儀をする店員に、俺たちも思わずお辞儀をする。店員が去ると舞が話始める。

「わあ、スモークサーモンにタルタルソースがかかっている。前に来た時は、トリュフ入りクリームスープだったのに。前回はビーフシチューとステーキのコースは、どっちも同じものが出てきたよね? 拓哉のビーフシチューコースでもスモークサーモンタルタルが出てきたってことは、日替わりなのかな?」

「そうかもしれないな」

そして、持ってこられる料理を次々と食べていき、デザートの番になった。俺がいよいよかと考えていると、俺の後ろの席に、どうやら二人組の若い女性が来たようで騒がしくなった。後ろの会話が聞こえてきた。

「ねえねえ、聞いて。あたし彼氏が出来たの」

「へー、そうなんだ。おめでとう」

「あの噂の場所で告白されたんだ」

「噂の場所? もしかして精霊の丘?」

「そうなの! 精霊がいっぱい祝福してくれて、幸せいっぱいだよ」

後ろの女性の会話が気になった。噂の場所での告白? そんな恋愛スポットがあるのか? 更に聞き耳を立てつつデザートを食べる。後ろの二人が騒がしいのと、気になる情報で、今回は舞への告白を見送ることにした。決して臆したわけじゃないよ? 雰囲気が大事という話だ。

「サラマンダーとノームの精霊が、ウンディーネとシルフの精霊よりもたくさん出てきた。私よりも彼氏の方が、愛情大きいことが分かって嬉しいよ」

惚気を聞かされたようだがどういうことだ? 補足説明を欲しいと思っていたら、もう一人の女性が補足してくれた。

「サラマンダーとノームの精霊は、男性が女性を愛する気持ちに比例して出てくるんだっけ? 逆にウンディーネとシルフの精霊は、女性が男性を愛する気持ちに比例して出てくるんだっけ? え? じゃあ、真希は大して愛してないから、精霊があまり出てこなかったって話?」

次の瞬間、むくれ気味の声が聞こえた。

「そんなわけないでしょ。どっちもたくさん出てきたよ。ちょっとあたしの方が少なかっただけってこと」

どうやら男の方の愛情よりも、女の子が男を思う愛情の方が小さかったということか。彼氏になった人よ。ご愁傷様……。

「でも、羨ましいなー。沢山の精霊に祝福されるほど、幸せになれるって噂でしょ?」

「そうなの。でも、相手側の精霊が沢山出てくる時点で、十分に幸せだよ。愛されてる証拠だからね」

何と言うことだ。そんなロマンチックな恋愛スポットがあるのか? 俺は投資情報ばかりで、そういう情報を集めていなかった。後ろの二人が騒がしくて迷惑と思っていたけど、良い情報を貰ったかもしれない。問題はその精霊の丘とやらがどこにあるかだ。当然、舞が目の前にいるので後ろの二人に聞くことが出来ない。聞いた時点で、実質告白しているような物だしな……。などと考えていると、舞が話しかけてくる。

「ねえ、そういえば言い忘れていたんだけど、そろそろギルドトーナメントが始まる時期だから、ドラゴン・バスターズか、クイーンズ・トラストのギルド券を買わないとだね」

突然、舞がよくわからないことを言い出した。

「何の話? わかるように説明してくれない?」

「ああ、ごめん、ごめん。何のことか分からなかったよね。あと二ヶ月くらいで、ギルドトーナメントというのがあるの」

「ギルドトーナメント?」

「そう。ギルド同士が、トーナメント形式で戦い合うの。主催者がドラゴン・バスターズと、クイーンズ・トラストの二大ギルドで行うから、確実に両方のギルド価が上がるの」

舞が胸を張ってドヤ顔で言うが、疑問を口にする。

「その二つのギルドって、仲が悪いんじゃなかった? なんで一緒に主催してやるの?」

「表向きは交流だけど、実際の所はどちらが最強ギルドかを決着つけたいから、毎年やってるらしいよ」

舞は呆れたように両手を広げる仕草をしつつ、お次はガッツポーズをとり、力説する。

「投資家にとっては稼ぎ時なんだよ!」

「なるほどね。勝った方のギルド価が、爆上がりっと」

「チッチッチッ。甘いね。違うよ」

舞は人差し指を立てて、左右に振る。

「勝敗が決まる前日に、ギルド券は全部売っちゃうんだよ」

「なんで?」

俺の頭は理解が追い付かない。てっきり、勝った方のギルド価が上がって利益を出すものだと思っていた。舞が説明を続ける。

「勝敗が決まってからだと、負けた方のギルド価は下がるでしょ? だから、拓哉は投資家というよりも、ギャンブラーって言ってるのよ。拓哉と同じ考えで投資をする人が増えていくから、勝敗が決まる前に売ってしまえば、確実に利益が出るのよ」

俺はなるほどと思いつつも、爆上がりに後ろ髪を引かれる。

「それで、いつ買うんだ?」

「もう買うべきと思うから、明日にでも買おうか」

「明日? 随分と急な話だな?」

「だから、言い忘れてたって言ったじゃん。開催は二ヶ月後だからね。この投資に、他の人が参戦し始める前に買っておくのがベストだよ」

「了解。それで、どっちに賭けた方がいい?」

「賭けじゃなくて投資でしょ。まあ、決勝戦の勝敗が決まるまで、ギルド券を手元に取っておく気なら賭けだけど」

舞はとびきりの笑顔で話を続ける。

「拓哉は勝敗が決まるまで、ギルド券を保管しておくの? ちなみにギルドトーナメント勝敗が決まった翌日の取引所は混むよ?」

「うへー。俺も勝敗が決まる事前に売るかな。それでどっちを買う方がいいんだ?」

「拓哉が最後まで見届けるんなら、私としては、クイーンズ・トラストをお勧めしてたけど、勝敗が決まる前に売るのなら、どっちでもほぼ利益に大差は出ないよ」

「利益には差が出ない? なんで? 応援する人達もいるんじゃなくて?」

「う~ん。何て言うかな~? あの二大ギルドは、メンバーに男女偏りがあるでしょ? 同性を応援したい人もいれば、異性を推し的な感じで応援したい人もいるの。その結果、結局大差がないってこと」

俺は相槌を打ちつつ、舞の話を聞いていた。この感じだと本当にどっちでも良さそうだが、俺としては微々たる差でも稼ぎたい所である。舞に詳細を聞いてみる。

「ギルドトーナメントというくらいだから、対戦はトーナメント式?」

「そうよ」

「対戦するとなると、大手ギルドの方が有利なんじゃないのか? 小規模ギルドは参加しないのか?」

「規模の大きさ関係無しに、大抵のギルドは参加するでしょうね。公平平等の為に、一ギルド辺り参加者は三人と決まっているの。ギルドを作るための条件が、三人以上になっているから、その人数ならどのギルドでも参加出来るってことよ」

「順位が何位までだと、ギルド価が上がるとかってある?」

「ないわ。ただ、大穴ギルドがある程度勝ち残った場合は、多少はギルド価が上がるわね。大穴狙うよりも二大ギルドの方が、ギルド価は上がるから、他のギルドは気にしないほうがいいよ」

選択する必要なしか。それなら楽して確実に稼ぐことが出来そうだが、面白味には欠ける。そんなことを考え悩んでいる俺に、舞は一言呟いた。

「あんたの投資資金がなくなった場合、もう貸しませんので強制労働になるから」

それを聞いて俺は、二大ギルドのどちらかに投資しようと素直に思った。

食事を終えてレストランを後にした。告白の件はどこかで情報収集をすることにしよう。元の世界みたいにネットで調べるということが出来ないので、時間がかかりそうではある。ギルドトーナメントが終わってから、告白することにした。念を押して言わせて貰うと、決して臆したわけではない。


翌朝、朝食を食べ終わると、早速ギルド券を買いに、証券取引所に向かう。とりあえず、ギルド価掲示板でギルド価を確認する。ドラゴン・バスターズのギルド価が1368ジェニで、クイーンズ・トラストのギルド価は1375ジェニか。ギルド価がギルドの実力や人気と考えてみると、クイーンズ・トラストを買うべきかもしれない。同じ分だけ価格が上がるのならば、安い方をたくさん買うべきだが、舞の言うほぼ同じということは、差は出るはずである。それならば、人気があると思われるクイーンズ・トラストにしておくべきだと俺は考えた。

舞と二人で行列に並び順番を待つ。そして、俺の順番が来て、クイーンズ・トラストのギルド券を1454口買った。俺の後に購入している舞のそばで様子を見ていると、舞も同じ所を買ったようである。受付から離れると、舞は開口一番に変なことを言い出した。

「あんた、クイーンズ・トラスト買ったの? 女の子だから応援しようとしたんでしょう。スケベ」

軽蔑の眼差しをされつつ、思ってもいないことを言われた。いや、実は少しは思ったんだけど。推しで買う人がいるなら別にいいじゃないか。とは言わずに反論をする。

「いや、女の子だからじゃないよ。ギルド価で判断したんだ。ドラゴン・バスターズよりも少し高い。その分人気があるということだ。それなら、同じ分だけ両方上がるとも限らないから、上がりやすいと思われる方を買っただけだよ。それに舞もクイーンズ・トラストをお勧めしていたじゃないか」

「決勝戦までギルド券を手元に残しておく場合に、お勧めしただけよ……まあいいわ」

舞にジト目で見られた。どうやら、僅かに思っていたことを見透かされているようである。

「舞がどっちでもいいって言ったんだろうが」

とりあえず正論を述べて、濁しておく。

いよいよギルドトーナメント開催日。

俺たちはギルドトーナメントを観戦するために、並んでいる。列が進んで行き、舞がドッグタグを見せていた。俺も慌てて舞の真似をし、ドッグタグを見せて入り口を通り抜ける。

中に入るとコロッセオのようになっている。戦闘エリアと思われるところはそれなりに広さもあり、所々に人工的に作られた障害物がある。舞の後をついて歩きながら話しかける。

「さっき、入口の所でドッグタグを見せたのってなんでだ?」

「あー、ドッグタグを見せると入場無料なんだよ。ようするにギルドメンバーや投資家は、ある意味関係者だから無料だけど、ギルドに加入していなかったり、投資をしていない一般市民は入場料を取られるんだよ」

「……先に教えておいてくれよ」

「別に問題なかったでしょ? そんなことよりも席は前の方でいい?」

そんなことで片づけられてしまった。まあ、舞が楽しみにしているみたいだし、それと比較すれば些細なことだからいいかと思いつつ頷いた。

俺は席に着くと他の席を見渡す。どうも観客は少なめのようである。

「なんか観客が少ないけど、そんなに盛り上がるイベントには見えないんだけどな?」

「初日だからね。最初の方は実力差があって、試合が一方的に終わったり、逆に均衡しすぎて泥仕合みたいになってつまらない場合があるから。だから、投資家ももちろん、一般市民のお客さんは入場料を払ってまでは入らないの。でも、最終日は満席で盛り上がるわよ」

舞の説明を受けて、視線を戦闘エリアに戻す。両端に何か柱が三本立っている。それぞれ青と赤に分かれている。

「戦闘エリアの外にある、あの青と赤の三本の柱は何?」

「あれはダメージを肩代わりする魔道具だよ。戦闘エリアには障壁が張られていて、攻撃は外には洩れない。それで、障壁の中でダメージを受けて柱にあるカウンターが、最初は99あるんだけど、0になったら強制的に柱に引き寄せられて退場失格になるの。青は青組ギルドで赤は赤組ギルド」

「安全対策か」

「そういうこと。流石に街中で危険なイベントなんてやるわけないでしょ。まあ、障壁が破れる場合もあるかもしれないから、他の観客は後ろの方にいる人がいるんだけどね」

俺はそう言われて、観客席の前の方と後ろの方を比較する。確かに前の席が空いているのに後ろの方に人がいるのはそのせいか。

「え? じゃあ、ここにいると危ないってこと?」

「いや、平気なはずだよ。以前モンスタースタンピートが起きた時に、街一体に障壁を張ったんだけど、モンスターに破られたんだよね。でも、その破ったモンスターを倒したのがドラゴン・バスターズとクイーンズ・トラストだったわけよ。つまり、障壁を破ったモンスターよりも強い攻撃力があるから障壁が破れるのではないかという心配をしている人たちが、後ろの席にいるんだよ」

「いや、それ駄目じゃねーか!」

「障壁は、規模の大きさに比例して、壁の厚さも薄くなるからだよ。この程度の大きさなら障壁はかなり厚いよ」

そんなことを話していると、舞が戦闘エリアを指差して、俺の肩をトントンと叩く。

「あ、ほら。そろそろ始まるみたいだよ」

俺は指差された方に目を向ける。青組は戦士二人と僧侶一人。赤組は戦士二人と魔法使い一人。それを見た舞が予想を呟く。

「あ~、青組の負けだな」

俺は舞がメンバーを見ただけで、青組が負けと決めたのが分からなかったので、説明を求めた。

「魔道具の柱がダメージを肩代わりするって話をしたでしょ? ダメージを受けたら回復する前に柱のカウンターの数値が減ってしまうの。だから僧侶は戦力外。恐らくギルドメンバーが三人しかいなくて、頭数合わせで出場したんでしょうね」

それを聞いて俺は理解した。回復が不要だから攻撃力を高めて相手にダメージを与えるか、相手の攻撃に耐えられるように防御力を上げるべきなのだろうと。

あれ? でも、僧侶ならバフがありそうだけどな? その疑問も舞に尋ねた。

「僧侶ならバフがあるんじゃないのか? 障壁とかも張って防御力も高められそうだし」

「ゲームじゃないから僧侶のバフはないよ。どちらかというと戦士の身体強化があるから、それがバフね。それと確かに障壁は僧侶の人がかける呪文だけど、移動は出来ないし中からも攻撃は出来ないよ? 障壁が中から攻撃出来たら、戦闘エリアからの攻撃をこの席も受けるから」

そうか、この戦闘エリアも同じ障壁だったか。中からの攻撃が飛んで来るようなら、舞もこの席を選びはしなかっただろう。気づけよ俺。

そして、なんか僧侶が可哀そうになって来た。魔物討伐の時なら活躍しそうだけど、ギルドトーナメントだと足手まといにしかならないような気がする。そんなことを話していたら、試合が始まった。

両チームの戦士が突撃する。特に移動速度が速いとかは感じないけど、身体強化を本当にしているのか? そんなことを考えていると舞が俺の心を読んだように呟く。

「あの戦士四人は、身体強化を取得していないね」

「わかるの?」

「身体強化すると、まるでアニメの世界のように、早い動きが出来るよ。あれは普通の人の動きだね」

そんなものなのか。確かに初日は戦闘のレベルが低そうである。

お互いの戦士がぶつかり合い、鍔迫り合いをする。

僧侶はメイスを握りしめ、魔法使いに向かっていく。

魔法使いは詠唱をしている。魔法使いの詠唱が終わると、僧侶にめがけて火魔法を放った。たちまち僧侶は炎に包まれた。

青組の柱に目を向けると、三本の柱のうち、一本だけ数値の減少が続いている。どうやら持続ダメージを受けているようだ。

再び戦闘に目を戻す。

僧侶は苦し紛れに、魔法使いに対してメイスを振りかざすが、大振りになってしまった。その為、魔法使いに避けられた。

僧侶がよろけて態勢を立て直そうとする隙に、魔法使いは障害物に隠れた。隠れたと言っても観客席からは丸見えだが、恐らく戦闘エリアにいる僧侶には見えないのであろう。 

僧侶の全身を纏っていた炎が消えると僧侶はキョロキョロと魔法使いを探す。魔法使いの方は次の詠唱をしている。戦士四人の剣の打ち込みの音が激しいせいか、小声での詠唱なら場所はバレないようだ。詠唱が完了すると魔法使いは障害物から飛び出して、再び僧侶に火魔法をお見舞いする。すると再び僧侶は炎に包まれた。

「あのさ。魔法って避けられないの?」

「避けられないよ。絶対に避けられないというわけじゃないけど、魔法に多少の命中補正があるから追尾されるの」

炎に包まれた僧侶をよそに、戦士の戦いに視線を移す。

剣の打ち合いが続いている。たまに多少かする程度みたいだ。

僧侶が負けた場合、魔法使いも参戦するだろうから、舞が言う通り青組が負けることになるであろう。

案の定、僧侶の身代わりの柱はカウントが0になり、僧侶は障壁を突き抜けて戦闘エリアを強制退場させられた。

魔法使いはまた詠唱を始める。今度は障害物に隠れてはいない。味方の戦士二人が敵を抑えているから、安心して詠唱を出来るのであろう。

そして、また火魔法を相手チームの戦士二人に打ち込んだ。二人同時に炎に包まれる。

どうやら先ほど僧侶に使った魔法と違い、範囲攻撃魔法のようである。味方の戦士二人も一緒に炎に包まれている。

味方もダメージを受けないのかと赤組の柱に視線を移す。カウントが徐々に減っていっている。どうやらゲームのように範囲攻撃魔法は、敵と認識した相手だけがダメージを受けて、味方はノーダメージというわけにはいかないようである。

自分一人が生き残れば勝てるという戦法か? それなら初めから範囲攻撃魔法で攻撃すれば、戦士二人と僧侶の全員にダメージを与えられる気がしないでもない。範囲攻撃魔法の攻撃範囲外なのであろう。

両チームの戦士たちは炎に焼かれて苦しんでいる。何て非道な戦い方だ……。

事前に作戦を話し合っていて、覚悟が出来ていたのか、赤組の戦士が攻撃をする。青組の戦士はどんどん攻撃を受けている。そして、その二人も青組の柱に強制退場させられた。

青組の戦士二人を倒したら、範囲攻撃魔法は解かれた。

その様子を見て、舞に質問をする。

「魔法で焼かれたり、剣で切られたりすると、痛みとかってどうなっているの?」

「痛みは受けたダメージの分だけ感じるようになっているわ。実践に近い戦いね」

それを聞いて俺はぞっとする。炎に焼かれながら剣で斬りつけられるとか、とんでもなく地獄の苦しみだな。この前の、暴落の件で俺が負けていて冒険者になっていたら、こんな辛い目に合うのか。そりゃ、舞も心配するよな。などと考えていたら、次の試合が始まった。

何試合も繰り返し行われたが、あまり熱狂してみるような戦いはなかった。

そして、ギルドトーナメントの初日が終わった。初日は第一グループステージだけであった。ギルド数が多かったために、丸一日かかった。

ギルドトーナメント二日目が始まる。二日目からシード枠にいたギルドも、参加していく。

トーナメントツリーを見ると、どうやら今日からファニー・フェアリーズも、参戦するようである。

ファニー・フェアリーズのギルド券は、既に売ってしまっているが、初めて投資をしたギルドでもあるので、情は移っている。勝って欲しい所である。

流石に二大ギルドの株価が上がるとわかっていながら、ファニー・フェアリーズに投資をするほど酔狂ではないが。

入口から昨日と同じ席に辿り着く間に、ファニー・フェアリーズの噂を小耳に挟んだ。

なんでも、ファニー・フェアリーズが詐欺師ギルドを捕らえたとしての評価が、このシード枠に反映されたらしい。あくまでも噂なので、どこまでが本当なのかは分からない。もし、その噂が本当なら、共同で捕獲をしたギルドもシード枠に入っているのであろう。

他の観客席を見ると、初日よりも席が埋まっている。身なりが良い人が多いので、恐らく投資家であろう。

戦闘エリアに視線を戻すと、昨日とは広さが大分広くなっている。しかも人工的な障害物が、より複雑になり、まるでダンジョン内をイメージして作られているように、迷路になっている。だが、通路の幅はそれなりにあり、戦うことは可能そうである。

そして、何やらマルチモニター画面のようなものがある。

「舞、あのマルチモニター画面のような物って何?」

「あんたが今言った通りよ。まさにマルチモニター画面。試合に出る人が装備する魔道具があるのだけど、その魔道具は装備している人の視界を映すの。それをマルチモニター画面で観客も見られるようになるってわけね」

「あー、そっか。ダンジョンだと壁が多くて試合が見られないからか」

「そういうこと」

いよいよ二日目の試合、最初の対戦が始まる。青組と赤組をそれぞれ見ると、青組は大盾を装備したタンクらしい人と、戦士が二人。赤組は戦士二人に軽装な人が一人。職業が何か分からない。俺は舞に解説を求めた。

「青組の大盾の人は、間違いなくタンクね。仲間を守ることに専念するんだろうね。赤組の軽装の人は、職業なんだろう? 考えられるのは、盗賊か斥侯ね」

盗賊という職業もあるのか。いや、ゲームだとあるけど、現実世界ではあってはいけない職業じゃないの? なんてことを考えてしまう。斥侯というと罠を解除したり、罠を仕掛けたりする人か? そこの所も舞に聞いてみた。

「斥侯って偵察みたいな感じ? 罠に関連する職業なイメージがあるんだけど」

「そうね。まあ、他の人の一歩先を進んで、罠がないかとかを確認する人ね」

俺はその言葉を聞き、再び考える。ダンジョン。斥侯。これらを考えると戦闘エリア内に罠が仕掛けられている可能性がある。そこの解説も求めようとしたけど、何でも前もって知ってしまうと、驚きが半減してしまいそうなのでやめておくことにする。でもまあ、気づいた時点で半減したかもしれない。

戦闘が始まり、俺は斥侯と思われる人のモニター画面を見た。ダンジョンを慎重に進んでいる。時には手に持っているショートソードを辺りにかざしてみたり、壁をつついたりしている。

罠を確認している時点でどうやら斥侯のようである。それと同時に新たな疑問もわいてきた。盗賊も罠を仕掛けたり、見破ったり出来そうだけど、その辺の違いはどうなんだろう?

「舞、盗賊と斥侯の違いって何? 盗賊も罠を仕掛けたり、見破ったりするのが得意そうだけど」

「私もわからないわ。そもそも盗賊という職業がなぜ正式にあるのかすら、理解できないもの」

どうやら舞も同じ疑問を持っていたらしい。

俺は視線を舞から斥侯のモニター画面に戻した。

少しすると、突然壁から多数の槍が飛び出してきて、通り道を塞ぐ感じになった。斥侯でなかったら串刺しになっていただろう。飛び出した槍はまた元に戻って行き、壁は何事もなかったように槍が出てきた穴は塞がった。斥侯は引き返して、他の道を進む。

青組に斥侯がいないので、どうやって攻略するのか気になり。青組のマルチモニター画面を見る。

戦士二人はタンクの後をついて歩いているようだ。先頭のタンクは普通に歩いている。すると突如床からごっつい無数の針が飛び出してきた。だが、重装備で身を固めているタンクには、ダメージを受けている様子は見られない。チラッと身代わりの柱のカウンターを見るが、ダメージを受けていないようである。そうすると、青組が有利な気がしてきた。戦士もタンクも攻撃をするが、斥侯は攻撃のイメージがない。あったとしてもせいぜい低威力の攻撃であろう。この戦闘している人の視界を観客がVRで観れていたら、さぞスリルを感じられたことであろう。しかし、残念なことにこの世界にはVRはないようである。

そして、やっとのことで青組と赤組が遭遇した。戦闘開始である。と思ったのだが、赤組が後退を始めた。それを追う青組。戦わないのは不利だから態勢を整え直すのか? などと考えていると、先頭で追いかけているタンクが通った所の床が急に光った。するとたちまちタンクが拘束される。どうやら魔道具のトラップらしい。俺はモニター画面に視線を向けたまま、舞に質問をした。

「あれって魔道具のトラップだよね? アイテムの使用って禁止はされてないの?」

「アイテムの使用は禁止されてないわ。ギルドの実力を測るイベントでもあるから、なるべく全力を尽くせるルールになっているの。普段の討伐とかでも魔道具を使ったりするから、実戦に近い形になっているのね。まあ、回復薬系は用意しておいても役には立たないけどね」

舞の言う通り、確かに回復系アイテムは役には立たないであろう。身代わりの柱が全部ダメージを吸収してしまうのだから。僧侶にとっては、安全装置の身代わりの柱が裏目に出てしまうのであろう。

そして魔道具か。決して安くはなさそうだけど、ギルドの評判を上げるために購入したのだろうか? などと考えていると赤組の戦士二人がタンクを無視して、青組の戦士に向かって行った。タンクはどうするのだろうと思っていたら斥侯が相手をするようであった。

でも、斥侯の攻撃でタンクにダメージが通るとは思えない。斥侯のモニター画面を見ていると、ショートソードをしまって何やら取り出したようであった。斥侯の視線に移るのはダガー。ダガーでどうやって倒すんだ? と頭の上に疑問符を浮かべていると、斥侯は握りしめたダガーを、拘束から逃げようとしているタンクの関節部分に突っ込んだ。するとタンクは余計に暴れ始めた。

暴れ始めたタンクから少し距離を取り斥侯が見守っている。何が起きたのかと、青組の身代わりの柱を見る。するとタンクの柱と思われる物のカウンターが減っていく。俺の考えだと、ダガーが刺さっているための持続ダメージか、刃先に毒でも塗ってあって毒による持続ダメージであろう。

タンクはそのままカウンターが0になり、障壁の外へと強制退場させられた。俺にとっては予想外であった。まさか防御力ガチガチのタンクを、攻撃力が低い斥侯が倒すとは思ってもいなかった。

実際に初日の戦闘エリアだったら、斥侯は罠を仕掛けることが出来なくて負けていたであろう。どうやら実力だけでなく、運も問われる戦いのようだ。

青組は残るは戦士二人。だが、赤組の戦士二人が押され気味に感じる。斥侯が投げナイフで牽制をする。青組の戦士たちはタンクよりも軽装備なので、狙える隙間が多い。飛んでくるナイフを剣で弾いていると、段々と赤組の戦士の剣撃を受け始める。

普通の場合なら、投げナイフのダメージよりも、剣で攻撃を喰らう方がダメージを受けるので、投げナイフは無視したいところだが、タンクがやられたのを目の前で見たので、毒を意識しているのであろう。毒を喰らえば、まともに動けなくなるかもしれない。そうすると尚更、剣撃を受け続けることになる。結局この後は、ジリ貧で青組が負けた。

そして、戦いは進んで行き、ファニー・フェアリーズの出番になった。どうやら赤組のようである。ギルドメンバーは戦士二人に、魔法使いと僧侶が一人ずつだったが、参加するのはやはり戦士二人に魔法使いらしい。対して青組の対戦相手はタンクに斥侯、それに魔法使い。バランス的には青組の方が良さそうだが、攻撃の決め手になるのが魔法使いしかいないので、勝てそうな気がしないでもない。

試合開始後、ファニー・フェアリーズは剣や杖で壁や地面を確認しつつ、進んでいる。たまにトラップが発動すると、来た道を戻り他の道を進んでいる。

一方で対戦相手は斥侯がいるのでトラップを外している。外しながらも新たに仕掛けをしているかもしれない。

そしていよいよ両チームが遭遇した。戦闘を開始するかと思ったが、ファニー・フェアリーズは逃げ出した。それを対戦相手のメンバーが追いかけようとするが他のメンバーが引き留める。ファニー・フェアリーズが何か作戦があると読んだのであろう。

対戦相手はタンク、斥侯、魔法使いの順番に進み始めた。ファニー・フェアリーズに斥侯がいないことから、追いかけても罠がないので、前方から奇襲攻撃を受けると考えたのであろう。ファニー・フェアリーズのマルチモニター画面を観る。メンバーが通路の両側の壁から覗いていた。やはり待ち伏せて奇襲するようだ。だが、一人だけ走っている。どこに向かっているのだろう? と思っていると、待ち伏せをしていた他の二人の方で戦闘が始まった。

マルチモニター画面から目を離して、戦闘エリアに視線を向ける。お互いに魔法を撃ち合っている。

対戦相手側の魔法使いと斥侯はタンクを盾にしてじわじわと進んでいる。ファニー・フェアリーズは壁を盾にしつつ、魔法使いが魔法を撃ち込んでいる。

しばらくすると突如、斥侯が背後から一撃で倒された。何があったのかと思ったら、どうやら一人だけ別行動をとっていた戦士が背後に回り込んで、相手戦力を削りつつ挟み撃ちにしたようである。

魔法使いは慌てて魔法を放つ相手を背後の戦士に向けた。タンクは前後を挟まれても片方しか防げない。背後は魔法使いに任せて、前方の敵を急いで倒すために進んだ。

背後に回った戦士は素早く壁に隠れると、反対側にいた戦士がタンクめがけて向かって行く。タンクは攻撃で吹き飛ばされないように脚を踏ん張る。だがそれが裏目に出たようであった。

戦士はタンクを攻撃する振りをして、横を通り過ぎていく。そして魔法使いに渾身の一撃を放った。対戦相手の魔法使いも斥侯も強制退場になり、残るはタンクのみ。前後を塞がれ態勢を整えることもままならないタンクは、戦士二人と魔法使いの攻撃を受けて、とうとう身代わりの柱のカウンターが0になり、強制退場となった。ファニー・フェアリーズが勝利した。

俺は何となく愛着のあったギルドなので思わず拍手をしてしまった。その拍手に釣られたのか、他の観客たちも拍手をしていた。舞も拍手をしつつ俺の顔を見た。

「あんたの好きな女の子たちが勝ってよかったね」

その言葉を慌てて訂正する。

「いや、俺の好きな子ではない。俺の好きな子は……いやいや、いないよ」

危うく自爆して告白する所だった。こんな雰囲気の無い場所で告白はないだろう。

 その後も特に大したトラブルもなく、ギルドトーナメントは試合が順調に進んで行った。

 再び、ファニー・フェアリーズの出番になった。なんと対戦相手は、マーガレットギルドとは。リーダーが、真面目系美少女のギルド対天然系美少女のギルドの戦い。

 ファニー・フェアリーズのリーダーが、マーガレットギルドのリーダーに、何やら話しかけている。マルチモニター画面のスピーカーから、会話が聞こえてくる。

「アリア、今度こそ負けないよ!」

「いや~、今度もエミーちゃんに勝たせてもらうからね~」

 どうやらこの二つのギルドは、以前にも戦ったことがあるらしい。そして、意外なことに、アリアと呼ばれる天然系のリーダーがいるギルドの方が、勝っているということに、驚きを隠せない。

 以前戦った時のことは俺の予想だが、恐らくファニー・フェアリーズは戦士二人に魔法使い一人。マーガレットギルドは、人数が三人しかいないために、自動的に戦士二人と僧侶一人の組み合わせであろう。僧侶は戦力にならないと思っていたが、状況次第では戦力になるのであろうか?

 不思議に思いつつ、戦いの始まりを見守る。アリアと呼ばれた少女は、大きめのメイスを装備している。

 ファニー・フェアリーズの強さは、デスサイズ・マンティスを討伐する所を見ているので、想像はつく。軽々と倒していた時点で、かなり強いギルドであると想像するのは容易だ。

 一方で、マーガレットギルドを見学させて貰った時は、鉱石の採掘をするという依頼内容であった。その際に、魔物と戦う所を見ていない。確かにその大きめのメイスを、自分の側に置いて、つるはしを持って採掘をしていた。ちゃんと仕事ぶりを見ていなかったが、意外と仕事が出来る子なのか?

 その疑問の答えを教えてくれるように、戦闘が始まった。

 なんということであろう。僧侶であるアリアは、戦闘が始まった途端に、障害物を破壊しながら、真っ直ぐに相手チーム方面に進んで行く。その様子から見て、身体強化のバフもついていそうである。リーダーをやっているだけあって、戦士二人より強いみたいだ。いや、みたいではなく、今までの試合で見ていた本職の戦士よりも、バフを差し引いても破壊力はダントツである。その姿は僧侶というよりも、バーサーカーである。

 どんどんお互いの距離が近づき、とうとうエミーの前に立ちはだかった。エミーは他の戦士二人に、アリア以外の相手をするように指示した。恐らくエミーの仲間の戦士二人では、アリアの相手にならないのであろう。

「倒させてもらうよ! エミーちゃん!」

 アリアが勝利宣言をして、エミーに立ち向かう。

 エミーも身体強化を使ったのか、回避速度が上がった。だが、身体強化の能力はほぼ同じくらいのようで、回避と防御をすることが精いっぱいだ。防御をしても、後方に弾き飛ばされている。魔法の詠唱をする余裕がなさそうである。

 アリアの戦いぶりを見て思う。僧侶というと賢そうなイメージがあるのだが、アリアの場合は、なんという脳筋な戦いぶりであろう。だが、その脳筋な戦いぶりのおかげで、エミーに反撃の隙を与えないように思える。

 職や戦闘場所の相性というよりも、性格の相性的に、エミーの方が不利なようだ。アリアは考えるよりも、野生の本能で戦っている。障害物が迷路状になっているにも関わらず、エミーの所に真っ直ぐ辿り着けるというのは、もう人間業とは思えない。

 エミーはなんとか回避しながら、呪文の詠唱を完了させる。そして、攻撃魔法をアリアに放った。攻撃魔法は命中補正が多少あるため、エミーの思惑通りにアリアに命中した。そして、炎に包まれた。

 だが、炎に包まれたアリアは、一切ひるまずに、追撃をしている。野生の勘が炎をどうにかするよりも、術師を倒す方が良いと判断したのであろう。

「本当にバーサーカーか?」

 俺はその異常に感じる戦いぶりに、思わず呟いた。

 そして、とうとうエミーはアリアに倒されて、強制退場となった。

 アリアは次のターゲットに目を向ける。

「アリアが来るぞ! 逃げるぞ!」

アリアの仲間であるはずの、戦士二人がそれに気づき、今現在戦っている相手の戦士二人に背中を向けて逃げ始めた。

仲間から信頼があるのかな? 俺は誤解してそう思っていました。

だが、その考えは間違えていた。またもや対戦相手に向かう途中で、邪魔な障害物をメイスで破壊していく。

対戦相手の戦士も身体強化をして戦っていたが、アリアの攻撃を防御しても、派手に後方へと吹き飛ばされている。

逃げた仲間の戦士二人は、アリアの攻撃に巻き込まれない為でした。実践のように痛みを感じるのなら、アリアの攻撃を受けると、本当に死にそうな痛みを感じそうである。

「本職の戦士よりも、力が強いのか?」

 俺は、もしもアリアの攻撃を、俺が受けたらどうなるのかと想像すると、思わず顔がひきつる

 そして、アリアは対戦相手の戦士二人を軽々と倒して、トーナメントを勝ち上がった。

 その後も対戦は進んで行き、マーガレットギルドの次の対戦。相手は更に上のシード枠にいたクイーンズ・トラスト。クイーンズ・トラストの選手は、三人とも戦士である。

 隣で一緒に観戦していた舞が、俺に話しかけてきた。

「ねえねえ、マーガレットギルドのアリアって女の子。凄い強かったね。とても僧侶とは思えないよ。見学の時に接した感じだと、のんびりした子に見えたけどね」

「本当だな。次は二大ギルドの片方の、クイーンズ・トラストだろ? ひょっとしたら、勝っちまうんじゃないか?」

 だが、舞は否定する。

「いやー、それはないんじゃないかな? 私が前回のギルドトーナメントを見た時は、クイーンズ・トラストのリーダーが出場していたけど、今回はサブリーダーがメインで出て来たみたいだから、リーダーが出るほどでもないと判断したんじゃないかな?」

「リーダーとサブリーダーで、強さってそんなに違うものなのか?」

 俺は冒険者の強さが不思議で聞いてみた。化け物並みに強いと思って試合を観戦していると、更に化け物以上に強い者が出て来ている。

「まあ、ギルドによってそれぞれ差はあるけど、二大ギルドの場合だと、サブリーダーとリーダーの強さの差は次元が違うね」

「ふーん」

 俺はそう言い、戦闘エリアに視線を戻す。戦闘エリアで両ギルド選手が準備をしている。

 そして、対戦は始まった。

 戦闘開始早々、クイーンズ・トラストのサブリーダーは動かない。剣を地面に突き刺し、両手をその剣の柄に置いている。他の戦士二人が、マーガレットギルドに向かって行く。

 今現在、三対二で人数的には、マーガレットギルドが有利である。

 アリアは前回の戦い同様に、障害物の迷路を破壊しつつ、確実に対戦相手の戦士二人の方向に向かっている。対する相手の戦士も、迷路を普通に進み、アリアに接近している。

 そして、アリアが相手の戦士二人に出くわした。その時のアリアの表情を、マルチモニター画面で見ると嬉々としている。マジでバーサーカー……。

 相手の戦士は身構えた。そして、アリア一人を相手にしても押され気味な所に、マーガレットギルドの戦士も追いついてきた。その戦いの戦力差はさらに広がり、アリアは対戦相手の戦士二人を倒した。

 その様子を見て俺は舞に言う。

「なんか、アリアが凄い活躍をしているんだけど。本当にクイーンズ・トラストのサブリーダーには勝てないのか?」

「あの程度だと、マーガレットギルドは負けるわね」

 あと一人しかいないのに、どれだけサブリーダーは強いんだか……。

 そして、いよいよ対決。サブリーダーが地面に刺した剣を引き抜く。すると、戦士二人をあっという間に倒してしまう。

 アリアは驚きもしないで相手と向き合う。まるで野生の本能が、目を離してはいけないと警鐘を鳴らして、そう行動しているかのように見える。

 そして、互いに打ち合う。アリアは大きめのメイスで、サブリーダーは片手剣。アリアは最初から身体強化全開だが、サブリーダーの方は、相手に合わせて調整でもするかのように、打ち込み速度が上がっていく。みるみるうちに、アリアは防戦一方の苦戦を強いられる状態になった。それを見て、隣で舞が呟く。

「勝負あったわね」

 その言葉の後、アリアは倒されて、強制退場となり、マーガレットギルドは敗退した。

 今日の分のギルドトーナメントの戦いは終わり、観客は帰って行く。俺たちも家に帰った。

 そして、夕食時。

「ギルドトーナメントの最初の頃は、あまり盛り上がらなかったけど、後半になるほど白熱した戦いになるんだな」

「でも、アリアさんがあんなに戦えるなんて思わなかったね。見学した時にはなんかのんびりしているんだもん」

「舞はアリアさんの戦いを見たことはないのか?」

「マーガレットギルドは新興ギルドだから、ここ最近できたギルドじゃない? 私は見たことないよ」

 食事をしながら、今日のギルドトーナメントの話題で、俺と舞も白熱した。そして、明日は更にレベルの戦いになることを楽しみにして、眠りについた。

翌朝、朝食を食べている時に、舞と二人で話をして、ギルドトーナメントの決勝戦が明日なので、今日中にギルド券を売ろうということになった。明日の朝に売ればいいと思ったが、どうやら明日も賭け事として買う人が増えるらしい。ギルド証券取引所の混雑が予想される。食事を終えて食器を洗い終えると、舞が言うには今日も混むだろうから早く行こうとのことだ。

早速ギルド証券取引所に向かった。中に入ると舞の言う通り、いつもよりも人が大勢いて賑わっていた。受付の方からは売りを注文する言葉よりも、買いを注文する人が多い。もちろん買いを注文している人たちは、ドラゴン・バスターズかクイーンズ・トラストのどちらかだ。横目で見ながら内心で、こいつらギャンブラーだなーなどと思いながらギルド価掲示板に足を運ぶ。

クイーンズ・トラストのギルド価を見ると、1783ジェニまで上がっていた。これは売りだな。早速受付の行列に並ぶ。列がいつもより長いせいでなかなか進まない。普段投資をしないような恰好をした人も、列に並んでいて混んでいる。流石一大イベントである。その為か臨時受付も開いている。舞が俺の前に並んでいて、クイーンズ・トラストのギルド券を全部売っている。そして、舞の番が終わり、俺の番が来た。

「クイーンズ・トラストのギルド券を全部売りで」

そう言って、ドッグタグを係員に渡す。

「かしこまりました」

そして、ドッグタグを魔道具にかざして処理をしている。処理が終わると返してきた。

「お待たせしました。259万2482ジェニになります」

俺は取引を済ませると受付を離れた。うーん? マーガレットギルドの時よりも利益は低いな? でも、確実に利益を得られたのだから、いいことなんだろうけど、俺の金銭感覚が投資家らしく狂ってきたか? そんなことを思いつつ、舞の所に戻った。

「なあ、あとドッグタグのお金を、アイテムボックスの方に移すにはどうしたらいい?」

「うん? 何か買うの? お金を下ろすのは冒険者ギルド組合、商業ギルド組合、ギルド証券取引所。それに各出張所で出来るよ?」

各出張所とは両ギルド組合とギルド証券取引所の出張所のことであろうか? とりあえず下せる場所にいるようなので、詳細を聞く。

「受付でドッグタグを渡して出金をお願いするんだよ」

また並ぶのか……先に聞いておけばよかった。俺は舞に断りを入れてもう一度並ぶ。そして、ドッグタグから俺の口座IDに送金処理をして貰った。それから再び舞の所に戻る。

「お金を下ろすんだったら、先に聞いてよね~。二度手間になって時間取られちゃったじゃん」

翌日、ギルドトーナメント決勝戦が始まる。早速、俺たちも場所取りをするために行列に並ぶ。今までは最前列に座っていたが、舞の解説によると戦闘エリアでの戦いが激しくなるので、観客を守るための障壁が壊れる可能性もあるとのこと。

そのため席は真ん中あたりを確保するのがいいらしい。え? 戦闘エリアの範囲なら障壁の厚さがあって大丈夫って話じゃなかった? まさか厚みのある障壁すら破るほどの攻撃力があるのか? 不安を感じつつ、会場に入るために並んでいる人たちの列で、気持ちが焦る。入り口はドッグタグで入る人と、入場券を購入して会場に入る人達が居る。もちろん入場券も買うことになる人は、二度の行列にならばなければならない。それほど決勝戦は盛況である。少しずつ進む列にヤキモキする。いい席が取れなかったらどうしようと。

ここまで盛り上がるほどの決勝戦なら、いい席で見たい。中に入ると舞に腕を引かれて急いで席を確保する。

確保は出来たのだが、舞が無意識に俺の腕を掴んだことが照れ臭い。確保した席に二人で座る。これほど賑わっているとデート気分を否めない。まるで映画や観劇を見るためのデートをしているようだ。

観客が全員席に座る。立ち見はないので席が埋まり次第入場が終わりとなる。いよいよ決勝戦が始まる。俺が戦闘エリアに目を向けると、普通に武道大会でもやるような石畳の地面だが、範囲は今までで一番広い。解説担当の舞さんに聞いてみる。

「何で広いうえに平坦なんだ? 今までは障害物とかあっただろ?」

「ああ、それはね、今まではギルドメンバーの内で、三人だけ選んで戦っていたけど、ドラゴン・バスターズとクイーンズ・トラストが直接対決の場合、お互いにギルドの人数が多いでしょ? 両ギルドとも三人ではなく、出せる範囲で同じ人数を出して対戦するの。まあ、他のギルドが決勝に勝ち進んできた場合は通常ルール通り三人なんだけどね。両ギルドの力を誇示するためらしいよ? それに人数が多い乱戦の方が盛り上がるしね」

「なるほどね」

納得しつつ戦闘エリアの方を見る。選手が入場してきたようである。身代わりの柱の数を数えると、各三十本はありそうだ。入場してくる選手に目をやると様々な職種がいるようだが、何の職種かもわからない人もいる。戦士と魔法使い、僧侶に狩人くらいならわかるが、あとは全然見当もつかない。中には一般市民が紛れ込んだのか? と思うような服装の人もいる。

決勝戦の戦闘エリアはダンジョン形式ではないが、マルチモニター画面が採用されている。迫力ある戦闘を観客が体感できるようにするためのパフォーマンスであろうか?

そして、いよいよ戦いが始まる。両者の前衛職が敵を目指して走り出す。後衛は弓を射たり、魔法の詠唱を開始している。

流石に二大ギルドと謳われるだけあって、実力が均衡している。その均衡を破ろうとするものが、お互いの陣地にいる。

ドラゴン・バスターズには短髪で赤い髪をした真紅の鎧を身に纏う男は、大型の剣を難なく振り回している。その真紅の鎧の男が、どんどんと対戦相手を倒していく。

一方で、セミロングで金髪の女性は、白銀の鎧を纏い、まるで聖騎士のように見える。剣も片手剣だが、素人の俺でもその剣の凄さが分かる。希少か唯一無二の武器であろう。

美しさに思わず見惚れてしまうが、横に座っている舞の殺気を感じた気がして、そっと舞の顔を見た。普通に観戦していたので、いつもの俺の被害妄想だったようだな。その白銀の女性も、対戦相手の前衛を次々と倒していく。俺から見ると、真紅の鎧男と白銀の鎧女の二人はお互いに真っ先に潰した方が良い相手に見える。

だが、二人は他の前衛職を次々と葬って行く。素人と実践を経験して生きていた冒険者とは考え方が違うのかな? と思いつつ解説席の舞さんに、説明してもらう。

「なんであの真紅の鎧男と白銀の鎧女は、お互いに戦わないの? 真っ先に潰さないと、次々に前衛職がやられちゃっているじゃん。前衛をどんどん潰していくのが基本的な戦い方?」

その問いに舞はにまにましながら答える。

「あ~、両チームのリーダーね。あんたの言う通り、本来なら味方の前衛が倒されるのを防ぐのだけど、これには理由があってね」

舞が話を勿体ぶる。だが、やはり俺の考え方は間違っていないようだ。前衛が潰されるのを防ぐのと同時に、前衛を潰す相手を倒してしまえば戦いは楽になるはずだ。そう考えていたら舞がやっとそれを両者が行わない答えを教えてくれた。

「あのギルドのリーダー同士が恋人なんだよね。流石に恋人を攻撃はしづらいよね」

「そういうことかよ?」

確かに恋人同士だと攻撃しづらい。先に攻撃しようものなら後からグチグチと言われかねない。試合に勝って勝負に負けるみたいな?

そんなことを思いつつも戦闘エリアに視線を戻す。前衛の人数が減るということ自体が減ってきている感じである。恐らく前衛の弱い人が倒されて、それなりに強い人が残り始めたのであろう。未だに両者互角という感じである。

前衛職の人数が減ったことにより、後衛職の魔術師や狩人も攻撃を受け始めた。流石に接近戦だと前衛職に分がある。前衛職が先に全滅するかと思っていたけど、お互いの後衛職が先に全滅した。

そして、前衛職だけのガチンコ勝負である。戦士は剣、それに斧や槍を振り回すものもいる。タンク役もいるようだな。盾を二枚装備している者もいるようだが、それって意味あるのか? 良く分からない職も見てみる。斥侯と新人の戦士とかかな?

斥侯はベテランで回避が上手いが、攻撃力に欠ける。新人と思われる者はいかにもという感じで、ぎこちない動きで剣を振るう。よくこの中盤まで生き残れたな? 案の定、新人と思われるものが、後衛に続いて脱落していく。斥侯はかなり回避が上手い。意外と戦力になるのかもしれない。だが、これだけの混戦だと、罠まで張る余裕はないであろう。

お互いのギルドメンバーは、徐々にふるいにかけられていくように、人数を減らしていった。お互いのメンバーが五人くらいまで減った所でリーダーたちは、前衛職を狩るのをやめた。

そして、お互いに威嚇するように相手を見る。いや、自分の恋人と見つめ合っているのか?

その間に他の前衛職が互いにぶつかり合う。流石にここまで生き残っただけあって接戦が続く。戦力が均衡しているので一対一の戦いとなり、見ごたえのある戦いになった。乱戦だと何が起きているのかよくわからないうちに倒されている奴もいたしな……。

槍使いが槍を振り回して、自分の懐に入り込まれないようにしている。片手剣を持った相手は攻撃に転じてくる槍を見事にさばいている。

気が付くと、俺は握りしめた手に汗をかいていた。決勝戦だけを見に来る人がいるというのも納得できる。まさに白熱した戦いだ。

少し目を離したすきに槍使いが振り回していた槍が止まった。いや、片手剣を持った女性に止められたのだ。片手剣使いはそのまま剣の刃を槍に沿って滑らせた。そして、槍使いに斬撃を加えた。槍使いはまだ倒され切っていないようで強制退場には至らなかったが、それを確認した片手剣の相手は追撃を行った。槍使いは態勢を立て直す間を与えられずに倒された。

それぞれのリーダーはそれでも動かない。まさか談合とかしてないよね?

槍使いを倒した片手剣の女性は、他のメンバーの加勢に加わった。その相手は二刀流の男性で、その男性と戦闘していたのは、両手剣の女性だった。両手剣の女性は防戦一方だったが、加勢が来てくれたことにより、少しは攻撃に転じることが出来るようになったが、片手剣ほど小回りが利かないので、やはり二刀流相手だと両手剣は辛いようだ。二刀流の男性が持つ武器は小太刀。普通の剣よりも少し小さいので、小回りが利く。片手剣の女性が戦闘に加わって二人がかりで攻撃しても、簡単にさばいているように見える。

そして一瞬の出来事。両手剣の女性が吹き飛ばされた。何事かと思ったら蹴りを腹に喰らったようだ。どうやら二刀流の男性は、体術の心得も持ち合わせている。

片手剣の女性は驚いた顔で、蹴りで吹き飛ばされた女性の方に視線を向ける。だが、それは一瞬のことであったが、二刀流の男性はその隙を見逃さなかった。

剣を握る利き手の手元の狙い、武器を落とした。女性はすぐさま下がるが、相手が前進して間合いを詰めてくる方が早い。やむを得ず女性は両腕を顔の前で交差させて防御態勢に入るが、二刀の小太刀により切り刻まれて強制退場した。

吹き飛ばされた両手剣の女性は立ち上がろうとするが、俺の予想以上にダメージが通っていたらしく、足を震えさせている。そこへ、二刀流の男性がとどめを刺した。

他の選手に目をやると片手剣同士の戦いを行っている。かなり激しい戦いだ。技量がまったく同じで、まるで能力がお互いカンストしているのでは? と思うくらいに激しい。

そこへ先ほど勝利した二刀流が援護に向かう。

しかし、近づくと二刀流の男性はダメージを受けて退場した。なんだ? 闘気とか覇気とかそんな感じか?

素人にも分かるようにアナウンスが入り、マルチモニターの一画面が超スロー再生される。

二人の片手剣使いが戦っている。その後の出来事を知るために、じっとモニター画面を注視すると、二刀流の男性がそこへ接近していく。ここまではわかる。その後が悲惨であった。

敵味方関係なしに超スピードで動く片手剣で切り刻まれている。まさか味方からの攻撃にもダメージを受けるとは……。

だが、考えてみるとそれもそうか。当然の結果だ。味方からの攻撃でダメージ判定を受けなかったら、味方の背後からレイピアで味方事刺して手数を増やすことも出来てしまう。

不正が出来ないようになっているのであろう。その二人はなかなか決着がつかず、攻守交代を繰り返している。

他の所に視線を向けると、こちらでも片手剣同士の戦いをしていた。片手剣を使用している人が多く感じるが、使い勝手が良いのであろうか? その片手剣使い同士の戦いは女性がなんとか勝利した。

するとその勝利した女性が戦域から離脱して後退する。残りは戦闘が均衡している片手剣使いと、真紅の鎧に包まれたドラゴン・バスターズのリーダーに、白銀の鎧に包まれたクイーンズ・トラストのリーダーだ。

真紅の鎧男が動き出すと、白銀の鎧女も動き出した。そして剣を抜刀して、いきなりのつばぜり合い。そこから斬撃の打ち合いとなった。激しい攻防だが、先ほどの実力が拮抗している二人ほど凄くは見えないな? なぜだ? 解説の舞さんに伺う。

「ああ、リーダーじゃない方はサブリーダーだね。リーダーの右腕でお互いにライバル視しているんだよ。結構犬猿の仲らしいよ? もうお互いに身体強化の魔法まで使っているから、魔法が先に切れた方の負けになるんじゃないかな?」

「戦域を離脱した人は何?」

「戦域を離脱した人は、今戦っている四人に割り込んでも、自分では巻き込まれるか足を引っ張るだけと思ったんだろうね。生存しておけば、敵に攻撃してダメージを与えるチャンスが来るかもしれないしね」

なるほどね。お互いに強さが互角ならば、勝ち残ったとしてもボロボロで次に戦う余力はないかもしれない。戦域を離れて安全な所にいれば、そのボロボロになった敵にとどめを刺すチャンスが来るかもしれないし、自分は体力の回復が出来る。

先ほどのサブリーダーたちの均衡が崩れ始めた。女性側の魔力が切れたようだ。サブリーダーの女性がとどめを刺される前に、先ほど戦域を離脱していた者が、助けに入る。二人がかりの方が、自分の生存確率も高いタイミングだからであろう。だが、思惑通りにはいかなかったようだな。

クイーンズ・トラストのサブリーダーと片手剣使いは、ドラゴン・バスターズのサブリーダーが身体強化した状態のままでの斬撃を受けた。斬撃を受けた二人は強制退場になった。

生き残ったサブリーダーが、リーダーに加勢するかと思ったが、戦闘エリアの障壁から抜け出してリタイアというよくわからない終わり方をした。

「なあ、舞。あのサブリーダーの男はなんでリタイアをしたんだ?」

「分かってないな~。これから恋人同士のダンスが始まるのに、そこに割り込むのは無粋ってものでしょ」

舞が人差し指を立てて、チッチッと口を鳴らした。ダンス……と言えば聞こえはいいが、殺し合いでしょ? まあ、言いたいことはわからなくもないが、恋人を斬るってどんな気持ちで挑んでいるのだろうな。俺なら死なないとわかっていても、舞を斬る気にはならないな。恋人になってはいないが、俺は妄想の中で考えた。

リーダー二人の戦いを見ていると、お互いの斬撃がどんどん加速していく。身体強化を使い始めたようだ。加速するほどに剣がお互いの身体をかすり始める。その数は増えていき、段々と目に見える傷が増えてきた。

だが、その二人の表情は楽しそうで、まるでダンスを踊っているかのように微笑んでいる。結構な時間踊っていた。いや、戦っていた。あまりに見惚れる光景だったので踊っていたと表現してしまった。

だが、そろそろフィナーレのようである。お互いに肩で息をしている。恐らく次の一撃が最後となるであろうと思い、俺は固唾を飲みこむ。

同時に二人が相手に向かって行った。そして交わる剣。その時、真紅の鎧に身を包んだ男性の剣が折れた。技量は互角でも武器に差が出たようである。

だが、リーダーとしても、恋人に対してもかっこ悪い所を見せたくないのであろう。体術で立ち向かおうとするが、残念なことに白銀の鎧を着た彼女にとどめを刺されて強制退場した。

勝敗が決まると、会場からは歓声と拍手が沸き上がる。俺たちも拍手をした。すると舞が俺の方を見て話しかけてきた。

「ね? 最後の日が一番盛り上がったでしょ?」

「そうだな。舞踏会の素晴らしいダンスを見ているように見惚れたよ」

「でしょ! わかる? いいよね~、ロマンチックだったよね~」

舞はロマンチックなことが好きと、脳内にメモをしておいた。

 そしてギルドトーナメントは、クイーンズ・トラストの優勝で幕を閉じた。


翌朝になり朝食を食べている。

「舞、この世界に情報屋ってあるのか?」

藪から棒に聞いてみた。

「突然何の話?」

「いや、この世界で知りたいことって、元の世界みたいにネットで簡単に調べるってことが出来ないじゃん? ちょっと調べたいことがあるんだよ」

「ふーん、まあ情報屋ならあるみたいだよ? どこにいるかまでは知らないけど。あと図書館で調べることもできるよ。何を調べるの? 私で教えられることなら教えるけど」

追及されて俺は目を泳がせる。舞に関することなので、本人に聞くわけにはいかない。

「いや、ちょっと人には言えない」

「娼館とかの場所を調べる気でしょ? スケベ!」

娼館もあるのか。気にはなるけど今回の目的は違う。いや、今回はではなく、今後も娼館は行かないからね? 俺は慌てて否定する。

「いや、そんなところに行かないよ。むしろそんなところがあるなんて、今初めて知ったくらいだよ!」

舞に白い目で見られる。俺の株価は暴落したようだ。

やっぱりこの前レストランで告白するべきかもしれなかったが、俺の後ろにいた二人の女性が騒がしかったしな。とても告白の雰囲気ではない。おかげで、意外な情報は手に入った。ただし、レストランで食事という高い授業料を払う羽目にになったのだが……。

「とりあえず、図書館の場所を教えてくれない?」

「……まあ、いいけどね」

あまり良さそうな表情に見えない。

舞はリビングの椅子から立ち上がると、メモ帳とペンを持ってきて、地図を書いてくれた。

書いてくれている地図に目をやると、どうやらメインストリートから外れた所にあるようだ。図書館って言うと、結構メインストリートに面したところにありそうだけど、そうでもないのか? いや、元の世界でも中央図書館みたいな大きなところは、メインストリートにあった気がするけど、分館は小道とかにあったりもしたかもしれない。

舞が地図を書き終わると、俺に手渡してきた。俺のことを白い目で見たままだが……。俺は地図を服のポケットにしまって。食器を洗う。そして、舞に一言告げる。

「俺、今日は図書館で調べものがあるから出かけてくる」

「はーい。いってらっしゃいませ」

完全に機嫌が悪い。舞の為に調べものに行くんだけどな。いや、俺の為か。

舞が書いてくれた地図を見ながら図書館に向かう。そして辿り着いた。

豪華な作りで年季が入っている。まるで国立図書館のようである。入りづらいが自分の頬を両手でバシバシ叩いて、気合をいれて中に入る。

扉を開けるが静まり返っている。そういえば、朝早くに来てしまったけど、開館しているのであろうか? 開館時間がどこかにないかと入口に戻り周辺を見渡す。

案内板が目についた。案内板を見ると開館時間は朝の六時から夕方の五時までと表示されている。

どうやらギルドやギルド証券取引所が活動していると思われる時間に開館しているようだ。

まだ利用者はいないようなので、疑い深く思わずこっそりと覗き込む。早めの時間に来たせいか人の気配はしない。恐る恐る入って行く。するとカウンターに司書の人と思われる女性が座っていて目が合った。

「おはようございます」

「おはようございます……えっと、もう開館していて利用できるのですよね?」

「はい。どうぞご自由にご利用下さい。初めてのご利用ですか?」

「ええ、まあそうです」

「図書館で本を読むときは問題ありませんが、借りる場合はドッグタグで借りることが出来ます。十日間無料で借りることが出来ますが、それ以降になりますとドッグタグから貸出料金が引かれます」

ドッグタグで借りるのか。でも、ドッグタグの残高を0にしておいたらお金を引かれないのではなどと考えていると、まるで心を読まれたように追加説明をしてきた。

「ドッグタグの残高が0の場合は、残高がマイナスに膨らんで行きます。ある程度マイナスになると借金の取り立て屋が、貴方の住んでいる所に取り立てに行きます」

それを聞いてぞっとした。俺がこの世界に来る羽目になったきっかけでもあるトラウマ級の話だからである。

とりあえず説明してくれたお礼をしてどんな本があるかを見に行く。背後から、どうぞごゆっくりという声が聞こえてきたが、怖い話を聞かされたのであまりごゆっくりはしたくない気分ではある。

本はジャンルごとに本棚に分けてあるようだった。その辺は、日本の図書館と変わらない。とりあえず、地図の本棚を探してみる。すると地理学という本棚があった。その本棚に目をやると世界地図のようなものがあった。

それを手に取って見て、今更ながらに大事なことに気づいた。ここってなんて名前の国で、なんて名前の街なんだ? 俺はどうしようと迷った。

普通、自分が住んでいる国や街の名前を知らない奴がいるか? 冒険者なら国の名前を知っていても、街の名前を知らないことはあるか? いや、元々住んでいる冒険者は知っているだろうし、用事があって来ている冒険者も当然知っているであろう。

司書の女性に、この国と街の名前を聞くのは怪しまれる。

何かあって警察みたいな組織に捕まっても、異世界から来たから知らないんです。では通用しないであろう。

何かヒントがないかと、俺は本の表紙と裏表紙を確認した。本の貸し出しを行っているのなら、元の世界のように、なになに図書館みたいな感じで、図書館の名前が書かれているはずだ。すると裏表紙に、図書館の名前と紋章のような物があった。

『レヴィウス図書館』と書いてある。図書館が分かれば、各国の街の図書館の名前を、ローラー作戦で潰していけば見つかるか? などと気の遠くなるような作業に気が滅入る。

とりあえず手に取った世界地図で国を確認する。八つの国があるようだ。そして、その八つの国の地図を手に取り、世界地図の方は戻す。その後、八つの地図の本を持って、テーブルに置いた。俺も椅子に座る。

それから一冊ずつ順番に探し始める。地球と違って国の数は違うが、土地は各国広大である。探すのに苦労するかもしれない。いや、土地は広くても街は地球よりも少ないな。これなら思っていた以上に楽だな。

……などとたかをくくっていました。レヴィウス図書館は見つけたが、なんかおかしい。

俺が今まで見て歩いた地形と合わないし、舞の地図とも違っている。どういうことだ?

俺は血ナマコになって探す。だが、それでも何かがおかしい。地図が古いのか? 地図がいつの時代の物なのか、どこかに書いてあるかと思い、その本を探してみる。発行日が書いてあるが、一年くらい前のようだ。

一年でそんなに大きく変わるものなのか? と思いつつ、再度確認する。やはりおかしい。

俺はそのまま本を置いて、また地理学の本棚に行く。そして、地域史の本を手に取り、テーブルに戻った。

地域史には街の発展状況が書いてある。その地域史に目を通していくが、昔とほぼ変わっていない。

頭を悩ませつつ俺は、ある可能性を考え付いた。それは『レヴィウス図書館』という名前が他の国にもあるということだ。むしろ、それくらいしか原因が考えつかない。

俺は他の国の地図も探し始めた。しばらく探すことどれだけの時間が経ったであろう。

俺の予想通りにレヴィウス図書館が他の国にもあった。まったく紛らわしいんだよ。

二個目に見つけたレヴィウス図書館の周辺の地図を確認する。ギルド証券取引所もあるし、俺の記憶の中の地図とも、舞が書いてくれた地図とも一致している。そして、フレイム・シェフズのレストランも書いてある。この国のこの街で間違いないであろう。国の名前は『アシュナーズ』で、街の名前は『レイトレス』となっている。

せめて国と街の名前は舞に聞いてくるべきだったと、猛烈に反省している。

現在の場所が分かった所で、精霊の丘の場所を調べる。地図を見るがそれらしいところはない。

他の用済みの七冊を返して、代わりにアシュナーズとレイトレスの地図を探しに本棚に行く。アシュナーズの地図はあるが、レイトレスの地図は見当たらない。

街を地図にするほどでもないのであろうか? とりあえずアシュナーズの地図を全部持って席に戻る。

『精霊の丘』というぐらいだから、丘の上にでもあるのだろうか? 等高線地図を見て、山ではなく丘を探してみる。山と丘の判断境界線が分からないけど、小さい山とでも思っておくか。いくつか目星をつけていく。

大きくて有名な山と思われるところは名前が書いてあるが、小さい山は名前すらない。

たまに名前がある所もあるが、そもそもの話、『精霊の丘』が正式名称なのか、俗称なのかすらもわからない。

受付カウンターに行き、司書の人に複写をするような魔道具がないかを聞いてみた。当然のごとくないらしい。まあ、魔道具のコピー機があったら、魔道具のカメラも作る技術があるであろう。

仕方なく受付カウンターの片隅で、メモ帳とペンを販売していたので、大きめのメモ帳とペンを買った。図書館で調べものをしてメモをするのが普通の世界なのだろうか。

等高線地図を見ながら、メモ帳に大雑把な図を描きうつす。下手だけど俺にだけわかればいい。そして等高線地図を映し終えたら、馬車の路線図が描かれている本を確認する。

近場だと馬車は出ていないようであるが、そこそこ距離があると馬車はあるようだった。

自分がメモした大雑把な図に、路線図も書きこんでいく。出来上がった自作地図を見て悩む。

乗合馬車よりも、チャーター・キャリッジを一日貸し切りにして、行動する方がいいかもしれない。路線図以外も行けるかもしれないし、待ち時間がない分、時間の節約も出来る。もちろん乗り継ぎでかかる費用の節約にもなる。ただし、乗合馬車を一回乗っただけで『精霊の丘』に辿り着けるなら話は別だが……。

いや、お金の問題ではないな。気持ちの問題だ。気持ちの問題というのはもちろん舞のことを好きという気持ちに対して、時間もお金も惜しまないというスタンスである。

調べていた本を、全部元の本棚に戻して、図書館を出た。

そして早足で馬車乗り場に急いだ。冒険者達がチャーター・キャリッジを全部借りてしまったら、あとは乗合馬車を使うことになってしまう。

馬車乗り場に着いた。

「チャーター・キャリッジを借りたいんだけどある?」

その言葉に一人の初老のおじいさんが反応した。

「はいよ。わしが出せるけど、どうする?」

初老のおじいさんを見て悩んだ。何を悩むかだって? それはおじいさんというイメージが、のんびりと歩くイメージがあるので、馬車ものんびりしそうだからだよ。一応他の馬車を確認する。失礼な話ではあるが。

「他の馬車はないのかな?」

「他はさっき全部出発したよ」

おじいさんだけが残っているようだ。やむを得ない。うん、きっとベテランだろうと俺は自分を慰める。

「じゃあ、借りようかな。お願いします」

俺は馬車に乗り込んだ。そしておじいさんに俺が描いた地図を見せる。

「この目印の所を順番に周って行ってほしいんだけど」

「どれどれ……ほう、登山でもするのか?」

「いや、『精霊の丘』って知っている? そこに行きたいんだけど」

「今まで五十年くらい御者をしているけど、聞いたことないね?」

「そっか……じゃあ、探すから順番に周って下さい」

馬車が揺れる。ガタガタ揺れる。おじいさんの御者歴が長いせいか、馬車も年季が入っている。今までのチャーター・キャリッジで一番ひどい乗り心地だな。

しばらく揺られて具合が悪くなりつつ横になる。だが、横になる方が頭に衝撃が直接受けるので、余計に脳が揺さぶられて具合が悪くなったので結局座った。

まずは一番近場の小さい山に着いた。俺は馬車を降りると両手を両ひざにあてて、顔を下に向けて体調を整えた。

馬車に乗っているのもしんどい。歩いた方が良かったかと考えもするが、これから小さい山を上り下りして確認する作業もあるので、そんなに歩いて移動する体力もない。

とりあえず、おじいさんに待っているようにお願いをして、小さな山を登っていく。

小さな山は木が少なくて見晴らしはいい。登りながら周りの景色も確認する。登山中に魔物の存在を思い出したが、この辺りにはいなさそうなので、そのまま登ることにした。

結構登ったのに、わざわざおじいさんの所に聞くために戻る気にはならない。息切れをしつつやっとのことで頂上に辿り着いた。

だが、頂上は何も見当たらない原っぱになっていた。

そしてレストランで女の子たちの話を聞いた感じだと、恐らく精霊の丘は人気スポットなのだろう。しかし、ここには誰もいない。いきなり当たりを引くことはないと想定内ではあるが、それでもがっかりした。

山頂の岩場に腰を下ろして休憩をする。休憩がてらに、そこから見える周囲の景色を眺めた。

もしかしたら、ここから他の山の上とかに、精霊の丘らしきところが見えないかと思ったからだ。

だが期待は裏切られ、それらしきものは見えなかった。

下山しておじいさんの馬車に乗り込む。次の丘というか山というか分からないけど、探すことを続ける。

次の丘は小さくて下からでも頂上の様子が見える。人気がないのでここでもないと次に移動した。

次の場所は、そこそこに標高のある山である。登っていくとかなり疲れた。途中で真っ直ぐの木の枝を拾ったので、それを杖にして登り続ける。

山頂に着くと、展望台と思われる柵があった。人が来る観光地かもしれないと辺りを見渡すが、誰もいない。寂れた観光スポットのようである。柵を見ても結構ボロボロになっており、ロマンチックの欠片もありゃしない。

また馬車に戻った。御者のおじいさんは情報がなくて悪いねと謝ってくるが、別におじいさんは悪くない。俺はその気持ちをきちんとおじいさんに伝えて、次の目的地に向かうことをお願いした。

次の所に行くと山の麓に別の人が使用している、チャーター・キャリッジが止まっていた。

今度こそはと思い、期待しつつ馬車から飛び降りた。そして登る前に、その馬車の御者に話しかけた。御者の小太りのおじさんに話しかける。

「こんにちは」

「こんにちは。あんたも魔物討伐かい?」

「魔物討伐? この山は魔物が出るんですか?」

「ああ、結構頻繁に魔物が現れるよ。今日も討伐依頼を受けたギルドが、山の中に入って討伐をしているよ。あんたは魔物討伐じゃないのか?」

「はい。魔物討伐ではなく、私用で『精霊の丘』を探しているんです」

「精霊の丘? 聞いたことないな」

「観光スポットらしいんですけど、この山の上にあるとかってことはないですか?」

「ないない。あり得ないね。この山は魔物が巣くっているからね。一般人が入れるところじゃないよ」

小太りの御者が否定した。それもそうか。

レストランの帰り際、席を立って会計に向かうときに、女の子たちは普通の子たちに見えた。そんな普通の女の子が魔物の現れる所に辿り着けるとは思えない。いや、彼氏が強いとか? 彼氏が強いとしても、この山の討伐はギルドが受けている。ギルドが活動しているのならば、最低でも三人は戦っていることになる。一人で戦うほど強いとも思えない。

小太りのおじさんに情報のお礼を言って、乗って来た馬車に戻り、次に移動する。

だが、夕方近くになっても分からなかったので、諦めて帰ることにした。馬車の中で俺がしょんぼりしていると、御者のおじいさんが声をかけてきた。

「精霊の丘と言っていたかの? マリーなら知っているかもしれないから、聞いておいてやろうか?」

「マリーさん? 知り合い?」

「ああ、若い女の子で御者をやっている。女の子のお客が多くて、マリーの馬車を利用するから、何か知っているかもしれない」

「お願いします!」

俺は希望の光が見えてきたような気がして即答した。

「じゃあ、帰ったら聞いておくから、明日の午前にでもまた来なさい」

「はい!」

僅かな希望が見えてきた。レストランの噂話をしていたのも若い女の子。男性にはわからない女性特有のネットワークがあるかもしれない。俺は喜びつつ家に帰る。だが、喜んでいられたのも家の中に入るまでだった。家に入ると不穏な空気が漂う。

「た、ただいま」

「おかえり。思ったよりも遅かったね? 何していたの?」

「いや、図書館でこの世界のことを勉強していただけだよ?」

「……ふーん、その割には靴が泥だらけだね?」

舞が白い目で手厳しい追及をしてくる。白状してしまいたくなるほどの威圧感だが、ここで心を折るわけにはいかない。

「あ、ああ、勉強の合間に散歩とかをしていたから、泥で汚れたのかな?」

苦しい言い訳だな。舞と二人で街中を歩いていた時に、靴が泥だらけになるような場所はなかったのだから。

「あっそ」

舞は追及をやめてくれたようだ。ついでに威圧もやめてくれるとありがたいのだが。

お通夜のような夕食を済ませて、俺は食器を洗い、部屋に逃げ込んだ。


翌朝、ハーブの水やりをやって、朝食の準備をする。舞も起きてきた。何事もなかったように挨拶をしてみる。意外と舞も気にしていないかもしれない。

「おはよう」

笑顔で挨拶をした。対して舞は睨みつけるような目で、挨拶をしてきた。

「……おはよう」

今日も空気が重かった。

だが、この重い空気の中で、更に重くなるようなことを、俺は舞に言わないといけない。

その言葉を口にする。

「き、今日も図書館に勉強しに行ってくるから」

その言葉を聞いた舞が睨みつけるようにジーッと見てくる。仕方がないじゃん! 言えないよ。舞を喜ばせたいためのサプライズなのに、舞に不信感を持たれちゃっているよ!

今日の朝食の空気は、お通夜よりも重い。まるで最後の晩餐をしているようだ。

舞も俺も食べ終わると、俺は急いで食器を洗う。そして、いってきますとだけ言い残して、逃げるように馬車乗り場に出かけた。

馬車乗り場に行く途中、念のために舞の尾行がないかとびくびくと後ろを確認して警戒を怠らずに向かった。

幸いなことに舞の尾行はないようだった。うん、舞はなんだかんだ言って、ちゃんとプライバシーを尊重してくれるようだな。ほっとしていると馬車乗り場が見えてきた。

昨日のおじいさんを探す。名前を聞いておけばよかった。しばらくするとおじいさんが出て来て馬車の準備をしようとしていた。おじいさんに近寄り挨拶をする。

「おはようございます」

「ああ、おはようさん。マリーを呼んでくるからちょっと待っていておくれ」

少し待つと、おじいさんがマリーさんと思われる女性を連れて来てくれた。今の世界の俺よりも年上のようだが、元の世界の俺からしたら年下に見える。

「おはよー。精霊の丘のことを知りたいんだって?」

「マリーさんは知っているんですか?」

「まあ、知ってはいるよ。若い女の子たちと、その子たちの好きな子を連れて行っているからね」

「今日って行けますか?」

「夜に行くのを希望でしょ?」

「そうです」

「じゃあ、今日のお客はすぐ済むから、その後は念のために空けておくよ。ただ、送ったら帰りは徒歩で帰って貰うことになるからね。流石にその時間帯は待っていることが出来ないよ」

「わかりました! お願いします!」

俺は家に戻った。舞の姿はリビングにはなかった。舞の部屋の扉をノックする。

「舞、今日の夜なんだけど、一緒に出掛けること出来ないかな?」

舞が扉を開けて不審げな顔をして、俺を見つめる。

「出かける? どこへ?」

「それはサプライズということで」

「サプライズか~。ひょっとして調べものってその為?」

急に舞がいつも通りの態度になった。いや、いつも通りよりも浮かれている気がする。気のせいかもしれないけど。

「ああ、何も言えなくて舞を心配させたかもしれないけど、すまなかったな」

舞は首を横に振る。

「ううん。私をサプライズで、どこかに連れて行ってくれるためでしょ? 私こそごめんね?」

「いや、わかって貰えればそれでいいよ」

なんとか舞のご機嫌が直って良かった。

そして、今日は予定の時間まで街中を散策したり夕食の食材を買ったりした。早めに夕食を食べて、馬車乗り場に向かった。

馬車乗り場に着くとマリーさんを指名した。

早速舞と二人で馬車に乗り込む。

馬車は今まで乗った馬車よりも、乗り心地が良い。お客は女性が多いということと、御者も女性なので、繊細な作りになっているのかもしれない。

馬車に揺られながら、御者のお姉さんに、舞と俺の三人で会話をした。

御者のお姉さんは、精霊の丘に行くお客さんで慣れているせいか、ありがたいことに精霊の丘に行くとは口にしなかった。

しばらくすると精霊の丘付近と思われるところに辿り着く。

おじいさんと回った所ではないけれど、近い場所に精霊の丘はあるようだ。どうやら見当違いの場所を探していたみたいだ。

御者のお姉さんの話だと、この先は馬車が入れないので徒歩で行くとのことだ。道なりに行けば迷わないらしい。

馬車を降りると運賃を払ってお礼を言い、馬車を見送る。

馬車の姿が見えなくなると、舞と俺は丘に目をやる。高さ的には丘と言えば丘だが、山と言えば山という高さである。二人で丘を目指して歩き出す。

舞と俺が精霊の丘の麓に辿り着く頃には、夜になった。

夜の方が見ごたえがあると話に聞いていたからだ。すると舞の頬が紅潮している。ひょっとして精霊の丘の噂話を知っているのであろうか。なんか俺も恥ずかしくて顔が熱くなってきた。動揺を隠して俺は舞に上に登ろうと促す。舞は無言のままこくりと頷いた。

丸太と土で作られた階段を登っていく。この世界に慣れてきて体力もついてきた気がするけれど、舞のレベルとはまだほど遠い。かっこ悪い事に、俺の方が先に息が切れてきた。

階段の途中で休憩が出来る東屋がある。俺は東屋で休憩しようと提案し、舞はそれを受け入れてくれた。舞にグダグダにへばっている所を見せたくはなかったので助かった。

俺たちは木のベンチに座り休憩する。

灯は魔道具のランタンが、東屋の各柱に設置してあるだけだ。

今の所、他に人が来ていないので、望まなくてもいい雰囲気が出てしまう。でも、その雰囲気は、目的地にたどり着くまで取っておかなければならない。とりあえず今はいい雰囲気をぶち壊すことにする。

「舞、この前ギルドトーナメントがあったじゃん? そういう投資で稼げそうなイベントって他にも何かあるの?」

舞は動揺を隠せないまま質問に答える。

「そ、そうね。収穫祭とかは農家ギルドのギルド価が上がるわね。あとは王族や貴族の社交界シーズンとかだと、服飾ギルドや装飾ギルドなんかもギルド価は上がるわよ」

動揺しているのは話し方で分かるが、薄暗いので表情までは読み取れない。

「へー、そうなんだ。それっていつ頃?」

俺も内心で動揺はしているが、隠しつつ質問を続ける。

「収穫祭は秋だからもうすぐね。社交界のシーズンは春頃だからまだ先だけど」

収穫祭は秋か。まあ、実りの秋と日本でも言っているくらいだし、この異世界でも同じなのだろう。社交界は投資のことはともかく、社交界自体に俺たちも関係することがあるのであろうか?

「社交界って王族や貴族だけ? 俺たちにも何か関係してくるの?」

「私達には直接は関係してこないわ。ただ、社交界シーズンに、王族や貴族の人が移動することが増えるから、バザールが大々的に行われるわね。まあ、お祭りを楽しむ程度かな?」

「バザールっていつも売買しているようなもの以外で、何か特別なものを売っていたりするの?」

「王族や貴族向けの高級商品が多く出るわね。もちろん一般市民も買っていいのよ」

それを聞いて想いをはせる。告白が上手くいったら、舞に婚約指輪を贈るか? いや、サイズのことを考えると、装飾ギルドでオーダーメイドの方がいいかもしれない。

その前にバザールで販売する指輪のデザインを見るだけ見て、参考にして婚約指輪を作るのもありかもしれないな。

でもなー、春まで待ちきれない気もする。

そして、少しの休憩を終えると再び歩き出す。小さな山の頂上が見えてきた。

そこはランタンの明かりが所々を照らしている。見づらいが花園のようである。花園の入り口には『精霊の丘』と書いてある木で出来た看板がある。

精霊の丘は、花園に石畳で出来た小道が、ランタンの明かりでほんのりと照らされており、ぐるりと円形に一周している。そして円形の小道から十字の道が中心に伸びており、中心には小さな円形の広場があるようだ。

舞は無言になったまま何もしゃべらない。俺は舞に話しかける。

「舞、一周回ってみて、あの十字路の真ん中の広場に行ってみようよ」

「……うん」

舞は緊張しているようだ。大丈夫。俺も緊張しているから。などと緊張しすぎて良く分からない思考になっている。

歩いているが辺りに人気がない。流行りの観光スポットと思っていたのだが……。

ぐるりと一周しながら、二人で花園の花を覗き込むが、せいぜい花の形くらいだけで、色までは分からない。

緊張しているせいか、花園の小道を一周するのはあっという間に終わった。

いよいよ十字路を通って、中央の小さい広場に向かう。

俺はこれから口にする言葉に緊張して、ごくりと生唾を飲みこんだ。そして、中央に辿り着くと舞と向き合う。ランタンの明かりで舞の表情が見える。舞もかなり緊張しているようだ。俺は両手で舞の両手を握りしめた。舞も真剣な表情で俺の方を見つめている。俺は舞に、自分の気持ちを告白する。

「舞……あの、話があるんだ」

「な、なに? どうしたの?」

俺は舞の質問の答えを口にする。

「俺、舞のことが好きだ! 俺の彼女になってくれ。その……け、結婚を前提に!」

すると精霊の丘の花園が、一面光り輝く。

サラマンダーとノームの精霊たちが沢山出てきた。それを見た俺たち二人は驚いた。

告白の答えを聞きたくて舞の方に視線をやると、舞は目を大きく見開いて周囲の光景に驚いているようだ。

急かさずに舞をそのまま見つめる。すると舞も驚きから気持ちを取り戻したのか、俺に視線を戻して返事をしてくれた。

「はい……よろしくお願いします」

舞の目の淵には涙が溜まっていた。

すると次は、シルフとウンディーネの精霊たちが沢山出てきた。辺り一面がおびただしい数の精霊たちに埋め尽くされた。

舞は急ににやにやとする。その理由が分からないので聞いてみる。

「なんで急に、にやにやしているんだ?」

「精霊の丘のことを知っているでしょ? こんなにサラマンダーとノームが出てくるほど、私のことが好きなんだね?」

舞がにやにやしている理由が分かった。確かにレストランで後ろの席の子たちが話をしていた。確か男が愛する分だけサラマンダーとノームが出て来て、女が愛する分だけシルフとウンディーネが出てくるって話だった気がする。思い出して急に俺の顔が熱く火照る。

俺もムキになって反論する。

「舞もシルフとウンディーネが沢山出ているじゃないか!」

「女の子にそういうことを言うのはどうかと思うけどな~? デリカシーないな~」

舞も頬を赤く染めて、微笑みながら言った。二人でしばらくその光景を目にするが、やがて精霊たちも自分たちの住処に帰って行ったようで、先ほどの幻想的な景色が嘘のように静まり返った。

「精霊たちも帰ったようだし、私達も家に帰ろうか」

「そうだな」

舞はもういつも通りの感じだな。俺も極度の緊張から解放されてリラックスしている。

先ほど握りしめた両手の片方だけ繋いだままで、精霊の丘を下っていく。途中で舞がまたにやにやしつつ聞いてきた。

「ちなみにいつから私のことが好きだったの?」

「いじわるだな。舞と日々を過ごしていて、段々と好きになった。毎日が楽しかったし、幸せだった。お返しに聞くけど、舞はなんで俺を受け入れてくれたの?」

「女の子にそれを聞いちゃうかな~? まあ、私も拓哉と一緒で毎日が楽しかったし、それにデスサイズ・マンティスに襲われそうになった時に助けて貰って、頼もしくて実はドキッとした」

「そっか……」

あの頃から意識して貰えていたということが嬉しくて、心の中で反芻する。

「じゃあ、家族が増えた時の為に、二人でもっと稼がないとだね」

「家族って? え? あ!」

俺は思わず顔を赤くして狼狽える。俺の考えを察したように、舞も顔を赤くして、俺を叱りつける。

「変なことを想像するなー!」


***


【舞視点】

拓哉に誘われてついてきたけど、ここって精霊の丘じゃない? 拓哉はここに来てまだそんなに月日は経っていないのに、精霊の丘のことを知っているのかな?

も、もしかして、これから告白されるの? そう考えると思わず頬が熱くなる。私がそんなことを考えていると拓哉は上に登ろうと言ってきた。頭が混乱してきた。

告白されるなら嬉しいけど、そこのところどうなんだろう? とりあえず頷いておいた。

何しに行くの? なんて聞く勇気がないよ。気まずいというか恥ずかしいというか複雑な心境で、丸太と土で作られた階段を登っていく。拓哉について登っていくが、なんか拓哉の呼吸が荒くなっている。もちろん疲労による息切れだろうけど、狼に変身するなんてことは無いよね?

階段を登っていくと東屋が見えてきた。拓哉が東屋で休憩をしようと言ってきた。やっぱり登り疲れていただけだね。拓哉が木製のベンチに座ると、私もベンチに座った。少しだけ離れて……。

東屋の柱に設置してあるランタンが、拓哉の顔を照らす。汗をかいていて、どことなく緊張したような趣き。人気はないし薄暗い所に男女二人きり。何かが起こりそうだが、起きて欲しくないような、起きて欲しいような。

そんなことをモヤモヤと想像していたら、拓哉が投資の話をしてきた。ほっとしたような気持ちとは裏腹になんとなく殴りたい衝動を発したがそれを抑えた。とりあえず拓哉の話に合わせる。

「そ、そうね。収穫祭とかは農家ギルドのギルド価が上がるわね。あとは王族や貴族の社交界シーズンとかだと、服飾ギルドや装飾ギルドなんかもギルド価は上がるわよ」

思わず動揺が言葉にも出てしまった。拓哉は気づいていないのか話を続ける。鈍いなー。

「へー、そうなんだ。それっていつ頃?」

収穫祭が秋にあることと、社交界のシーズンが春頃ということを教える。そのまま話が続くみたいだけど、早く本題に入ってくれないかなー? 心臓がずっとバクバクしていてもたないよ。

いや、ここは『精霊の丘』なのだから、頂上に着いてからが本題のはず。ひょっとして精霊の丘の噂を知らない? ここで告白とかしないでしょうね?

休憩を終えて拓哉が登ろうと言ってくる。私は黙って拓哉について行った。

すると頂上に辿り着いた。頂上には花園がある。そして、その花園を囲むように石畳の小道。

小道に囲まれた花園の中心には小さな広場があった。どうやらここが噂の場所のようだ。辺りを見渡すと木の看板には『精霊の丘』と書いてある。緊張がMAXになってきた。そんな時に拓哉が声をかけてきた。

「舞、一周回ってみて、あの十字路の真ん中の広場に行ってみようよ」

私は緊張のあまり、小さな声でうんと頷くことしかできなかった。辺りを見渡すけど人気がない。期待と恐怖が入り乱れる。期待はもちろん告白されることである。恐怖は自分の勘違いではないかということだ。

毎日ほぼ一緒に過ごしているのに、拓哉が精霊の丘の噂をどこで知ること出来たであろうか? そんなことを考えていたら、一周は終わってしまった。拓哉が十字路に進んで行くので私も一緒に進んで行く。

中央の小さい広場に辿り着くと拓哉は私と向き合った。そして拓哉の両手が私の両手を包み込む。拓哉が何かを真剣な気持ちで言おうとしていることは伝わって来た。それをきちんと聞こうと思い、私も拓哉の顔を見つめる。

「舞……あの、話があるんだ」

「な、なに? どうしたの?」

私は精霊の丘の噂話を知らないふりをして、聞き返してみた。拓哉が言葉の続きを口にした。

「俺、舞のことが好きだ! 俺の彼女になってくれ。その……け、結婚を前提に!」

すると精霊の丘の花園が光り輝く。噂通り、サラマンダーとノームの精霊たちが現れた。しかも沢山。

聞いた話しでは多いほど、好きという気持ちが強いと耳にしていた。告白されるだろうとは覚悟していたが、ここまで精霊が沢山出てくるとは思ってもいなかった。しかも結婚を前提にと言ってくれた。結婚まで考えるほど好きになってくれていたのなら、この精霊の数も納得できる。

私はこの光景に唖然としていたが、冷静を取り戻した。拓哉に返事をしなくては。拓哉の目を見て告白の返事をする。

「はい……よろしくお願いします」

思わず嬉しさで目頭が熱くなった。するとシルフとウンディーネの精霊たちもたくさん出て来て祝福してくれている。照れ隠しににやにやしながら、拓哉にちょっといたずらなことを言った。

「精霊の丘のことを知っているんでしょ? こんなにサラマンダーとノームが出てくるほど、私のことが好きなんだね?」

拓哉がムキになって反論してきた。そんなところが子供っぽく感じるが、そんな拓哉でも嫌いではない。むしろやり取りが心地良くて好きである。

「舞もシルフとウンディーネが沢山出ているじゃないか!」

「女の子にそういうことを言うのはどうかと思うけどな~? デリカシーがないな~」

茶化しつつも図星を言われているので、顔が熱くなってくる。恐らく真っ赤になっているだろうね。

やがて精霊たちも消えていき、幻想的な景色とロマンチックな時間は終わった。

拓哉の本題の『儀式』も終わったことだしそろそろ帰ろう。

「精霊たちも帰ったようだし、私達も家に帰ろうか」

「そうだな」

そして、私達は手を繋いだまま雑談をしながら家に帰った。


***


俺と舞は、結婚をした。相変わらず投資の日々である。

それから十五年後。商業ギルド組合に登録してギルドを作った。ギルドを作るには、三人以上が必要である。投資に興味を持ってくれた長男が、快く加入してくれた。

残念なことに長女はまだ、ギルドに加入できる年齢ではないし、興味もあまりないらしい。

建物や内装、それに必要な魔道具などは受注生産をお願いして準備した。もちろん、二人が今まで投資して増やした資金の一部を使ってだ。

店の準備も出来上がり、いよいよ開店である。

事前に宣伝のビラを説明しつつ回ったし、詐欺でないことは商業ギルド組合にもきちんと話し合いをしてある。

そして、いよいよ開店の時間になった。窓の外を覗くと行列が出来ていた。

そして、俺と舞は顔を合わせて頷き、両開きの扉を開く。

「「いらっしゃいませ。ファンドマネージャー投資信託ギルド、開店します!」」

次に目指すは、この産声を上げたギルドを上場させることだ。

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