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こうして模擬試合は静かに始まった


 アルフォンソとサラは、ミィちゃんを掃除婦さんに預ける。学園長先生にもよろしく言っておくから。とかなんとか言っていたが…


 まぁどっちみち明日登校したら確実に事情徴収から始まるだろうし、そこまで神経質に気にする必要もないだろう。


 ようやく状況が落ち着いたところで、先ほど見た光景の詳細をアルフォンソはサラに問いただす。


「つまり…サラの闘気量に目を付けた騎士先生が、自分で剣術を教えて平民の冒険者じゃなくて騎士団に入れたいから貴族にして、この王立学園にサラを突っ込んだってことか?まぁそこまでは分かったけど…なんでブルーバード家の養子になってるんだ?」


 「流石に上級貴族や中級貴族が平民の養子をとるわけにはいかないって。それにブルーバード家の当主の弟のカノウは、騎士団のギルの隊の事務職員で、独身でギルとは学生のころから親交があったからちょうどよかったんだって」


 サラが闘気を出すところを見てしまったとはいえ、さっきまで「なんであなたにそんなことベラベラ喋んなきゃきゃいけないの?」と言っていた少女とは同一人物とは思えないほど、ベラベラ喋ってくれる。


 そんなに”切り離し”の話題で、警戒心が和らいだのか?そもそもサラにとってアルフォンソは自分を助けてくれたヒーローのはずだ。心を開いても不思議じゃないと思うのは恩着せがましいだろうか。


「めちゃめちゃしゃべってくれるじゃん」


「だって…闘気出しているところも、ギルと喋ってるところも見られているし、そこまで知られて隠すのも悪いかなって」


 ――いやお前騎士先生といるとき俯いてずっと黙ってたじゃん――

 とは言わないでおく。


 それよりもアルフォンソは、ギルが惚れ込むサラの闘気の才能のほうが気になっていた。


「サラさん、この後暇ならさ、ちょっと剣術の模擬試合しない?木剣でさ。俺も剣術には少し覚えがあるんだ」


 先ほど気まずい思いをしていたとは思えないほど、アルフォンソは自然に、すらすらとサラを誘う。共通の話題というのはやはり強い。


 しかしそんなアルフォンソとは反対に、サラはやや微妙な表情をしていた。


「いや…確かにわたしに闘気の才能があるっ言うのは分かるんだけど。別に剣術好きなわけじゃないし」


 アルフォンソは振られてしまう。誘いを断られるのはなかなか心にくるものがある。相手が女の子だと余計に。


 頭を抱えていると、サラは更に言葉をつづけた。


「それに騎士団って、この国やこの街の貴族を守る仕事なわけでしょ。そんなの…」


 サラは、何かに憤っているかのように、こぶしを握り締め唇をかみしめている。


 考えてみればそうだ。アルフォンソはこの悲痛な思いをかみしめている少女を見つめる。


 彼女は今までこの国に差別され生きてきたはずだ。そして状況が変わった今でも、結局は心無い感情を向けられ、差別や迫害を向けられている。


 そんな奴らを守るために強くなってくれと言われているのだ。


 ――ふざけるなって話だよな。そりゃ騎士先生にはあんな態度になるわけだ――


 でもそんな彼女にこそ、やっぱり剣術をやってほしい。力をつけてほしい。


 アルフォンソは新しくそんな感情が芽生えてきた。


「別に騎士になれなんて俺からは言わないよ。たださ、今日いろんなことがあったからさ、モヤモヤ解消するために身体動かしたいんだよ。サラさんもイライラしてるみたいだし、思いっきり何かをぶっ叩けば気分変わるかもよ?」


 サラはまだ面白くなさそうな表情でアルフォンソを見つめている。


 「この近くに見晴らしのいい広場があるんだよ。授業が終わってない今の時間なら誰もいないだろうし、やっぱこんな時間に帰っても親とか使用人や侍女に怪しまれるだろ?時間つぶしだと思ってさ?」


 「まぁすこしだけなら…」


 とサラも折れてくれた。小声の「まだお礼も言えてなかったし」というつぶやきは、アルフォンソには聞こえなかった。




 王立学園の近くの広場に向かう際、他愛のない会話をした。


 サラのことばかり話させて申し訳なくなったので、今度はアルフォンソの話を自分から話しかけた。


 前世や転生のことはもちろん話せないが、アルフォンソになってからの家族のこと。


 厳格な父と、上の兄弟のこと主に気にかけアルフォンソにはあまり干渉してこない母。自分はほぼ侍女に育てられたこと。


 上の兄弟二人とはそこそこ仲は良いが、弟が優秀で困ると冗談交じりに言われたことがあることなど。


 母子家庭の一人っ子で育った三高優大のことを考えると、アルフォンの家族はだいぶにぎやかに思えてきた。


 サラも時折反応しながら、半年間送ってきた貴族の生活を踏まえての嫌味などを言ったりしてきた。


 そんな会話を続けながら広場に着く。


 授業を終えた、放課後の王立学園の生徒や、中央エリアに何かの用事できている子供連れとかが使うことが多い、公園のような見晴らしの良い広場だ。


 「サラさん、木剣持ってる?」


 「いや、もってない。てかカバンに入らないでしょ。あれ」


 まぁアルフォンソも木剣を持ち歩いたりはしないが。


「ここは剣術の実技試験の前になると学園の生徒のたまり場になったりするから。あそこに置き木剣結構あるんだよ。とってくる」


 アルフォンソは広場の隅にある木造の箱のふたを開け、比較的状態の良い木剣を2つ選び、サラに渡す。

 サラはため息交じりにそれを受け取った。


「そういやな顔するなって、難しく考えなくていいよ。暇つぶしの軽い運動だよ。余計なことは考えずに、純粋に剣術を楽しもうよ」


 「楽しむって…」


 少し困惑しながらも、サラはゆっくり剣を構えた。


 「まず闘気どのぐらい出せるか見せてよ」


 「その言い方だと、上からっぽくてなんか嫌」


 そうですか。まぁ熱が入ってムキになってくれば本気の闘気も見れるかもしれない。


 サラは闘気を出して半年、剣術の才能があるって言われも、騎士を目指すことには納得出来ていない。ギルから剣術の指導は受けているのだろうが、本気で剣術に取り組んでいるわけではないんだろう。


 だが、アルフォンソの見立てでは、サラは負けん気の強い感がある。


 同年代との、しかも憎き貴族との勝負になると、負けたくない思いとか出てくるかもしれない。

 「じゃあ最初は軽く、サラさんから攻めてきていいよ」


 リラックスした表情でサラを見つめ、アルフォンソもゆっくり剣を構えた。


「いいの?」

 とサラは聞き返す。


「いいよいいよ。初心者さんといきなり対等にやり合うつもりはないしさ、ストレス解消が目的なんだし、俺をシュトロだと思って思いっきりぶっ叩いてきなよ!」


「じゃあ」

 と控えめに言ったのち、サラは踏み込み、剣を振りかぶりアルフォンソに向かってきた。闘気はまとってはいなかった。


 ――最初は闘気なしですか、舐められているのか、恐る恐るって感じなのか…――


 まぁ、何度か受けてれば、もっと力を入れてくるだろあまり舐めないでいただきたいものである。


 こうして、アルフォンソとサラの初めての剣術の模擬試合は静かに始まった。

 

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