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彼女はこの国で一番の騎士になれる才能がある 


 ギルとの会話を終えサラと合流するため、アルフォンソは擁護室に向かうための階段を降りると、降りた先で壁に寄りかかっていたサラが待ち構えていた。


「擁護室に行ったんじゃなかったのかよ」


 アルフォンソが突っ込みを入れると、サラは「だって…」と口を尖らせて言葉を続ける。


「擁護室には養護の先生がいるじゃない?なんて言って入るの?別に体調だって悪くないのに」


 普通に嘘でも体調悪いといえばいいのでは?とアルフォンソは思ったが、言葉には出さずに飲みこむ。


 さっきから思っていたが、サラという女の子はそういうところ不器用らしい。


「それに、教室のうわさが流れてきて、擁護室にいるとか言われるのは嫌。自分から戻るのはまだいいけど、逃げだした後、逃げた先で見つかるなんて屈辱」


 そう吐き捨てる良いに行った後。「ごめんね、めんどくさくて」と付け足した。


 「まぁ、そういう気持ち、わからなくもないよ。」


 そのあと、自分のめんどくささを謝る発言はガチで若干めんどくさい女の子感出てるけど。


「さっきからその……分かるよ。みたいなの…いや、まぁいいけど…。ほんとに帰るの?」


「まぁね。王立学園はうちの屋敷から歩いていけるんだ。ブルーバードの屋敷は北エリアの割と奥の方だよな、遠いだろ?どうやって来たんだ?」


 テレグリズリー家の屋敷は南エリアにあり、その中でも王立学園や王宮、その他国の主要施設が集まる中央エリアに限りなく寄っているところに建っている。


 王立学園は中央エリアの南側に位置するため、アルフォンソは歩いて20分ほどで学校に通えるのだ。


 つまり北エリアの子と一部の東西エリアの子は、馬車や魔力で走る魔道車で通学している。ちなみにゼラスも西エリアから中等部用に出力を抑えた学園指定の魔道車で通学している。


「今日はギルが馬車で送ってくれた。いらないって言ったんだけど、初日に編入生が通学用馬車に乗ったら目立つだろって。ギルと一緒に登校しているところ見られるほうが目立つってわかんないのかな」


 あぁ…とアルフォンソは天を仰ぎたい気持ちになる。


 泥盤街に差別意識が強かったシュトロだけじゃなく、なんで一部の女子たちがシュトロに交じって協力していた理由が分かってしまった。


 ギルは女子たちからの人気も高い教員だ。そんな人と見知らぬ女の子が一緒に登校しているところなんてみられたら……


――怖いよ~!女の子の嫉妬怖いよ~!”――


「やっぱすべての原因あの人じゃん!貴族にしたのも学校にいれたのも騎士先生だって言ってたし」

「まぁ…そういうことなのよ…」

「だからさっきはあんな態度悪かったのか?」


 アルフォンソ先ほどのギルとの会話のサラの様子を思い出し聞いてみる。


「それもあるけど…でもあたしにとっては生きる環境をくれた人でもあるしっ、ほかにもいろいろあるのっ!」


 サラは、そう言って強引に話を切った。確かにギルとサラの関係は複雑そうだ。


「とりあえず歩こうぜ。その辺の話も歩きながら聞くわ」

「なんであなたにそんなことベラベラ喋んなきゃきゃいけないの?」


 と、至極当然なツッコミをされ、ようやく二人は外へ向かって歩きだした。

 

 



「私たち、今日で初対面よね?」


 教室の窓から見えないようにしようと、昇降口で下駄箱から靴を取り出し、裏口から出ようと向かっていると、サラはおずおずと切り出してきた。


「そうだと思うけど。どうして今更?」

「まぁたしかに今更なんだけれどね、なんか距離が近いというか…なれなれしいというか。」


 それを言われるとアルフォンソも弱ってしまう。そもそもなんで助けたのか。なんで初対面でいきなりこんな距離近いのか。


 まさか「前世で自分もいじめられてて、勝手にシンパシー感じてました!」なんて言えない。


 何かいい話題がないかと思って考えていると、絶好の話題があったことにアルフォンソは気がついた。


「なんというか、違ってたらごめんなんだけど。サラさんあの時、”切り離してた”でしょ。心を無にするために、というか精神をさ…こう…身体と切り離して、自分を上から俯瞰してみている――みたいな感覚」


 一緒に靴を持ちながら二人で歩いていたサラの足が止まった。表情を見ると本当に驚いたように固まっていた。動揺しているようだ。


 ――素だと結構表情変わる奴だよなこいつ――


 なんと返せばいいのか分からないといったような感じで、「いやぁ」と「あの…」を繰り返している。

「俺もそういうときあったからさ。なんとなく、そうなんじゃないかってさ。だからかな、他人事みたいな感じしないの」


 サラは静かに「そっか」とだけつぶやいた。


 そこからはしばらく会話が止まってしまった。


 ――気まずくさせてどうするんだよ!ほんと女の子の会話だけは一生かかってもうまくやれる気がしねーよ!――


 と心の中で頭を抱えてももう遅い。


 二人は裏口の扉を開け靴を履き、王立学園の教師などが使う裏門を目指した。


 外は相変わらず雲ひとつない晴れやかな青空で、昼食の時間から二時間ほどたった後という、一番気温の高くなる時間を迎えていた。


 ここは最悪天気デッキで会話をつなぐか、と考えていると、結局あの後一度も会話のないまま裏門まで来てしまった。


 「俺は歩いて帰るけど、サラはこの後どうする?北エリアの教養の馬車乗り場とか分かる?」


 サラは「うん」と頷く。サラの様子はずっと何かを言いたそうにしている。


 裏門を出て、少しの一本道を抜けると大通りに出て、このままいけばそこでサラとは別れるだろう。


 ――俺明日から友達いるか分かんないのに、サラと気まずいまま終わるのまずいよな――


 アルフォンソがそんな心配する中、意を決したようにサラは口を開いた。


 「さっきは優等生のいい子ちゃんだなんて、勝手に決めつけてごめんなさい。あなたのこと。何も知らないのに。」


 さっきの”切り離して”いる、の続きのことだろう。アルフォンソにもそういう経験があると思って、さっきの発言が申し訳なくなって、気まずい雰囲気で黙っていたのかもしれない。


 ――別にアルフォンソになってからは、実際そういう思いはしてこなかったけどな。そんな事気にしなくていいのに――


 逆にアルフォンソが申し訳ない気持ちになっていると。続けてサラがまた口を開く。


 「それと…さっきは助けてく」

 「きゃぁぁ!!!ミィちゃんが!だれかぁ!だれかぁ!」


 サラの言葉と重なるように学園の方から助けを求める女の人の声がした。


 こんな時間に何事だろうか。普通の生徒は今の時間は授業中のはずだ。


 サラと、どうする?とばかりの目配せをしたが、とりあえず二人で再び学園へと戻る。


 裏門をくぐり裏口近くまで行くと、声の主は学園の掃除をいつも担当してくれる掃除婦さんだっだ。


 ミィちゃんと呼ばれたそれは、下級魔物のシーフキャット。


 本来は大森林に住む下級魔物だが、見た目が愛くるしいため、人に慣らされた愛玩用もこの街には広まっている。


 その魔物は小柄ですばしっこくて、器用な魔物のはずなのだが、この学園で甘やかされて飼いならされたそれは、本来の姿とは似ても似つかないほどブクブクに膨れ上がっていた。


 屋根に上り、そこから近くの木に移っていたようだが、その重さゆえに木の枝が今にも折れそうになっていた。ほかの場所に移る身軽さも持ち合わせているようには見えない。


「ねぇ…あの子…」

「あぁ…これ落ちるぞ」


 普通のシーフキャットなら何の問題ないだろうが、確かにこのミィちゃんならばこれは命の危機かもしれない。


 助けたほうがいいか、一応学園長もこいつのこと可愛がっていたし、サラの方も見ると明らかにアルフォンソよりも心配している。


 どうやらかわいいものが好きなようだ。この学校の人間なんかよりはよっぽど好感度高いかもしれない。


 「仕方ない…助けるか」


 アルフォンソはカバンを置き、ミィちゃんが下りられなくなった木の方に駆け出す。


 そしてそこから時間もたたず、乗っていた頼りない木の枝が折れてしまう。


 ミィちゃんは「ぶにゃぁ!!」と間抜けさも孕む悲痛な声で枝と一緒に落下する。


 「やば…こうなったら!」


 アルフォンソは枝が落ち、一刻を争う状況になったことを確認したところで、身体に闘気をまとい身体能力を向上する。


 ――闘気をまとって踏み込めば間に合う!――


 闘気をまとっての踏み込みは、剣術の基本の攻撃の動きだ。


 アルフォンソが物心ついた時から、何度も何度も繰り返し行ってきた。身に沁みついた動き。


 ――このまま滑り込め!――


 全くお騒がせな学校のマスコットだ。アルフォンソは落下しているミィちゃんの位置をもう一度確認して、手を伸ばし滑り込み救出の態勢に入る。


 そこでアルフォンソは自分の隣にも、もう1つの人の気配があることに気づいた。


 ――え?隣に人?なん…で――


 そして隣の人の気配はアルフォンソと同じ、手を伸ばし滑り込んで、アルフォンソよりも早く、ミィちゃんを手に収めて抱え込んだ。


 一瞬のうちに、裏口付近の校舎で砂浜の旗取り競争みたい二人で滑り込む形になった。


 しかし旗の代わりの大柄な愛玩魔物を手にしたのは、アルフォンソではなかった。


 「よかった!君大丈夫?ケガはない?」


 見ると、先ほどまでアルフォンソの隣にいたサラが、木から落下したミィちゃんを抱えて安堵しているところだった。


 「ア…アルフォンソも大丈夫?同時に飛び出して危ない形になっちゃったね。任せればよかったんだろうけど…つい」


 「いやまぁ…そんなことはいいんだけど…」


 そんなことがどうでもよくなるぐらい、アルフォンソは今の状況に困惑していた。アルフォンソは枝が折れた瞬間、闘気を使って、あのミィちゃんの救出に入った。


 そんなアルフォンソよりも、一瞬早く、サラはこの愛玩魔物を掴み、抱え込んだのだ。つまり。


 「サラ、なんだよ…この闘気量…」


 サラをよく見ると、闘気をまとっていた。しかも訓練されつくした、大人の騎士でも上位クラスの闘気量を身にまとっていた。


 中等部の女の子にしては破格な量だ。


 闘気をまとえる量は、身体機能と同じように、鍛えれば鍛えるほど、まとえる量も増えていく。

 ただ、その才能によって個人差と上限がある。


 努力で伸ばすことができるが、才能が結局最後はものをいう、身体能力と同じようなものなのだ。


 「あぁ、これね。まだコントロールはうまくできないんだけど…」


 そうサラは気まずそうに言って、身体にまとった闘気を収めた。


 そして少しの沈黙の後。


 「これがね、あたしが今こんなことになっている理由なの。生まれつき闘気の量が人より多いんだって。闘気なんて使ったの、半年前が初めてなんだけどさ。それをたまたまギルに見られてて」


 あぁ、なるほど。そういうことか。アルフォンソは、こんな平民の女の子が今貴族になって、貴族の中でもえりすぐりの能力の高い子が集まるこの学園に通っているのか。謎が解けていく。


 「平民街で冒険者になっても、立派な剣士として生きていけるだろうけど…」


 サラは1つ1つ言葉を確認するようにアルフォンソに語っていく。


 「ギルに言われたの。私の元で剣術を学べば、この国で最強の騎士にしてやれるって。」


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