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シュトロ・スカルワームの機嫌を損ねるわけにはいかない

「おーっす!アル!今年も同じクラスだといいなっ!っと」


 王立学園の中等部に向かう途中、アルフォンソは親しげにアルと呼びかけられた声のほうを向いた。

 そこには、紺色のブレザーに白いシャツ、そして灰色のズボンと王立学園の制服に身を包んでいる、焦げ茶色のウェーブがかった癖毛で、やや細く鋭い目つきをした見慣れた少年が肩を組んできていた。


 ゼラス・シャシャーフ。


 代々治癒術に優れた下級貴族シャシャーフ家の出で、中等部1年生の時におなじクラスだった。


 いわゆる悪友タイプで真面目さよりもふざけた態度が目立つ奴だ。


 優等生タイプとして生きてきたアルフォンソにとっては完全に波長が合うタイプではないのだが、何かと一緒に行動する時が多くなり、今では何ともなしに自然に一緒に行動するようになっていた。


 いわゆる腐れ縁という奴なのだが、悪い奴では無いし、ゼラスの柔軟さや柔らかい態度にはアルフォンソ自身何度も救われている。 

 

「そうだなぁ!ゼラス!宿題見せてくれる奴いなくなっちまうもんなぁ!」

 

「言うなよっ、今回はちゃんとやってきたって、てか他人の、ましてやお前の魔術理論のレポートなんかみても参考にして自分のレポート作るなんてできねーよ」


 まぁ今回は新学期の宿題なのでレポートである。こればかりは自分でやるしかない。


「アルこそいいのかよ?俺とクラス離れたら、秘蔵のお宝本見れなくなるぜ。お前の大好きな黒髪美女のグラb…んモクググッ!」


「ばっ!声でけーよ!俺の優等生のイメージが崩れたらどう責任取るんだ!」


 アルフォンソは、慌ててこの狐目野郎の口をふさいだ。


 幸い周りには誰もいなかったようでアルフォンソは安堵の息を漏らした。


 口を塞がれた本人は今だにモグモグと何かを訴えようとしている。


 謝罪なら聞いてやらんでもないとアルフォンソが口の拘束を解いたのもつかの間。


 「アルのムッツリスケベなイメージがオープンスケベになぶひぃ!!」


 最後まで言い終わる前に脇腹をつついてやるとゼラスは間の抜けた声を上げ飛び上がった。


 まぁ、前世の記憶持ってるし、精神年齢は実年齢より高いはずだから、多少はね。


 そんな他愛もない会話を並べながら、中等部の校舎に向かう。


 前世の世界の某クラフトゲームでは初心者脱却の証といわれそうな、レンガ調の、駅とも城にも類似する学び舎につくと、昇降口前にはいつもは存在していない掲示板が置かれていた。


 どうやら内容は新クラスの発表の掲示のようだ。


 運よく今は周りに誰もいない。じっくり見れそうだ。


「どう?」


 ゼラスが早々にアルフォンソに結果を問いかけてくる。


 ――いや自分で見ろよ。そういうところだぞ、お前の成績がいつまでたっても微妙なのは――


 と内心ぼやきながらも、クラス発表の掲示をに目を通す。


 アルフォンソは1組、ゼラスも1組だった。なんやかんやほっとする。


「同じクラスだってよ」


 精一杯声色を崩さず告げると、ゼラスがニッと笑ったような様子で「よろしくなっ!」と肩を叩いてきた。


 アルフォンソも隣の背中をポンと叩き返しながら、引き続き目を通す。


 他にも1年の時に会話の多かったクラスメイトの名前なんかを確認して、ゼラスにも伝えていく。


 ある程度目を通し、最後にもう1つ、大事な上流貴族の名前を改めて確認していく。うちの学年60人中全員で7人おそらく4人と3人に振り分けられる。


 1組はレクネン、アレク、シュトロの3人。


「シュトロこっちかー」

「シュトロこっちかー」


 思わずハモッってしまい、お互い吹き出して笑ってしまった。


 今までアルフォンソにクラス表を見てもらっていたゼラスも、流石に上級貴族の振り分けは気なって確認していたようだ。


 シュトロ・スカルワーム。


 端的にいうと、うちの学年では一番”位”が高い上級貴族家系の当主の子で、しかも魔術の天才で勉学もできるときた。


 要する彼の機嫌を損ねてはいけない。もし彼に目をつけられてしまったら、それだけで学園内で生きにくくなってしまう。


 去年、シュトロはアルフォンソとは隣のクラスだった。


「笑いごとじゃないんだけどな」


 ゼラスがつぶやき天を仰ぐ。


 まぁ2分の1。こうなることはアルフォンソも考えていた。


 上級貴族との関係で学園生活が変わってしまうことは、ここでは別にアルフォンソだけの問題ではない。


 シュトロ相手にもうまくやってやるさ。


 アルフォンソはこの1年に対する決意を改めて固め、新たな学校生活に向けて、昇降口へとしっかりと一歩踏み出していった。

 




「そういえばアルさぁ、フローラってどっちだったっけ?」


 クラスを確認し終えて、新たな教室に向かっている最中、ゼラスが1年生の時のクラスメイトの女子の組み分けをアルフォンソに問いかける。


「フローラ?なんで?」


 質問の意図がわからない風でさらに疑問形で返す。


 お前まじか……と言わんばかりの微妙な表情を浮かべるゼラスであるが。


 アルフォンソとてこの質問の意図がわかっていないわけではない。


 だがここはあえて、今年も鈍感系で行くことにする。


 だって惚れた腫れたはトラブルしかうまないから。




 2年1組と書かれた表札のある教室に入ると、既に結構な人数が集まっていた。


 教室全体の雰囲気が今日から始まる新学期にむけて、どこか落ち着かない雰囲気を漂わせている。


 剣術や魔術の合同実技や、休み時間に廊下ですれ違っていたりと、全員顔見知りの面々ではあるが、教室のにいるメンバーがいつもと違うだけで浮足立つものがあるのだろう。


「モドとニコラスはっ…っと。まだきてないみたいだなぁ」


 ゼラスは1年のころよくつるんでいたクラスメイトを探しているようだ。アルフォンソも周りを見渡してみる。


 アルフォンソの登校で教室の雰囲気がやや変わっている。成績優秀者である彼はこれでも一目置かれている影響力のある生徒で、少しばかり目立つ。


 ふと、アルフォンソにとっては長い付き合いである白髪のボブカットの少女と目が合った。その口元は「よろしく」と言っているように見えた。


 ボブカットの彼女は、パッとうれしそうな表情を浮かべ、アルフォンソに向かって小さく手を振る。


 そのしぐさに、若干揺らぎそうな心を抑えながら、アルフォンソはあくまで平静にその少女に手を振り返した。


「お…フローラはこっちなんだな。幼なじみ同じクラスでおめでたいこって…お前ほんとは分かってただろ」


「いやガチで見てないって。いやわざと見ないようにしてた」


 アルフォンソはフローラに聞こえないように声量を抑えて否定した。

「お前なんでも器用にできる癖に女子との付き合い全然うなくないよな」


 そういいながら、はぁ、と呆れた表情でゼラスは首をふる。


 ――フローラ・ベルアベハは多分俺に好意がある――


 そんなことはアルフォンソにだって分かっていた。


 それでも彼は彼女の行為を受け止めれずにいた。


 恋愛に関しては前世で経験してない。


 今まで前世の経験を生かして頑張ってこれたが、こと恋愛に関しては、現世の経験は大分マイナスに働くだろう。だから慎重に彼女の気持ちには応えていかなきゃいけないのだ。


 決してアルフォンソは自分の勘違いを恐れているわけではない。

 

 ゼラスと駄弁っている間にも、次々と残りのクラスメイト達が登校してきている。


 1年の時よく話していた、モドやニコラス。そのほか他の前同じクラスだった男子。


 そして、1年の時は隣のクラスだった、新しいクラスメイトも次々と登校してくる。


 徐々に集まってきている人だかりにアルフォンソとゼラスも交じり、挨拶を交わす。


 成績なら上級貴族にも引けを取らない、中級貴族の中では1番の成績優秀者。


 おそらく上級貴族と中級下級貴族の間を取り持つ顔役になるだろう。と周りから見込まれてるアルフォンソには、多くの生徒たちが話しかけてきた。


 これも1年生の時の努力の成果を表すものなのでアルフォンソにとっては心地良い。


 どうやら、今年同じクラスになる上級貴族の三人はまだ登校していないようだか……。


 そんなことを考えていると。


「キャ!…なにこれ…。魔法陣?なんで床に魔法陣が?」


 女子のグループの近くに突然魔力の気配と光が現れ、そのあと当たりの教室の床に魔法陣が出現した。


「これ、転移魔法陣だな…。でも…なんで。」

「それまじか?アル。」


 ゼラスが少し興奮と高揚の混じった声で聞き返してきたのでアルフォンソはうなずいた。


「おーい!それ転移魔法陣だってー!あぶないからはなれろー!」


 ゼラスが女子たちに声をかける。合法的に女子に良い格好が出来てあいつも嬉しかろう。


 最も、そんなこと言っていられないような危険な状況にならないとも限らない。

 教室に転移魔法。普通ならあり得ない状況。教員を呼びに行くか?不審者の可能性。てかセキュリティは?そんな簡単に。


 教室が緊張感と、非日常な光景に騒がしくなる。アルフォンソも緊張感で身構えた。


 冗談じゃない。大事な学校生活初日に何かあってたまるか。


 そんなことを考えていると。徐々に転移魔法を使った張本人が姿を現した。


 人影は3人。アルフォンソと同じぐらいの少年。ここまで確認できると、多くの人が察しをつけることができた。


「なんだ。シュトロたちか」


 ゼラスが残念そうにつぶやいた時には、転移はほぼ終えられていて、3人の姿は完全に確認できるようになっていた。


「やった…成功だ。場所指定の転移魔術。しかも3人も。校門付近から教室までと距離はまだ短いが。さすが僕!天才だ!」


 息を切らして喜びをあらわにしているシュトロと。流石だ、天才だと、名いっぱいよいしょしているレクネン。そして転移に少し臆していたのかほっと息を吐いているアレク。


 このクラスの上級貴族様たちが、まさかの転移魔術での重役登校である。


 それに続く形で教室も一気にざわつく。それもそうだ。この世界における転移魔術は数ある魔術の中でも最高難易度。それを若干中等部2年で成功してのけたのだ。しかも3人同時。


 さすがのアルフォンソも少し驚いていた。


 家柄が一番よく、高難易度の転移魔術も成功させるほどの圧倒的な魔術の才能を持ち、新学期初日に、こんな派手な登校を堂々とやってのけてしまう。


 ついでにきれいな金髪で体系もスラっとしてて、顔だちも整っている。


 1年の時もそうだったのだろうが。今の瞬間。このクラスの長がシュトロ・スカルワームで確定した。


 いよいよこいつとうまく付き合っていかないといけない。


「俺等も天才上級様達を出迎えてやろうぜ」


 とゼラスもシュトロ達のもとに向かい始めた。上級貴族達のご機嫌取りの大切さをあいつもよく分かっている。


「天才…か。」


 アルフォンソも物心ついた時から、それこそ文字どおり、思考がまとまるようになっていた生後8か月ぐらいの時から魔術に触れてきている。


 魔術の勉強をしてきた年齢はここにいる誰よりも早いはずなのだ。


 フローラも周りの女子たちに混ざり、シュトロもとに集まっている。表情までは遠くて読み取れない。


 はぁとため息をつきながらも、気持ちを切り替える。

 アルフォンソも級友の偉業をたたえるために笑顔を張りつけ、シュトロの元へ向かっていった。

整理したものです。再投稿のような形になり、申し訳ございません。

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