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プロローグ

プロローグ




  自分の肉体は魂とは切り離されていて、本体である自分の魂は肉体から少し離れた上の方から自分の肉体を見下ろしている。


 そんな夢の中にいるかのような浮遊感。学校に来ると、そんな現実感のない、自分に起きていることがすべて他人事のような感覚になる。


 自分のことを笑うやつらも。


 動揺しているふりをして、何もしてくれない奴らも。


 哀れんで、冷ややかな目線を送る奴らも。


 そして自分のことをバイ菌扱いして、何しても許されると、好き勝手に直接的な危害を加えてくる奴らも 。


 そしてそんな奴らに、悪意と嫌悪を向けられている自分も。


 空中から見た別の世界の出来事だと認識する 。


 そんなことをしても、この地獄のような状況からは逃れられないのだが、今思うと、こんな理不尽から正気を守るための、自分なりの防衛策だったのかもしれない。






 教室に入るなり、突然右から飛んできた衝撃で壁際のロッカーに打ち付けられ、うずくまり倒れている少年。三高優大は、覇気のない表情で目の前のこの状況の元凶を見つめていた。




 どうやら、優大が教室に入った直後を狙って、目の前のこのガタイの良い少年が、扉の横から助走キックをかまして来たようだ。ダイ菌がどうの、足が腐っていくだの、悪意に満ちた表情で周りにいる取り巻き達と大げさに笑っている。


 端から見たら異様なこの光景も、優大にとっては特別な状況ではない。


 教室に入るなり、いきなり理不尽に蹴り飛ばされることも。


 ダイ菌と、このクラスでしか存在を聞いたことがない細菌のような名前で呼ばれて気持ち悪がられるのも。


 その状況を周りが笑い、哀れられたり見なかったことにされるのも。


 若干14歳の彼にとってはいつも通りの日常だ。


 原因を一瞥したのち、優大は何事もなかったように立ち上がり自分の席に向かう。


 無表情に、無感情に、淡々とした足取りで自分の席に着く。


 なぜか使い終わった後のような少しだけ乾いたウエットティッシュが二枚机の上に置いてあったが、これも日常。


 手際よく、カバンから持ってきた小さなビニール袋を取り出し乾きかけのそれを突っ込み、再びカバンにビニール袋を戻した。


 身体に残る鈍い痛みを無視し、机に突っ伏し目をつぶる。


 何も気にしていない、平気だ。と全身で周りにアピールをしているかのように、 1つ1つの行動が自然体だった。


 ふと誰かが、その背中をたたく。けどこれは友好的なものじゃない。


 合図だ。


 つい最近新しく始まった、ダイ菌遊びと呼ばれるもの。



 予鈴のチャイムが鳴るまでに、優大の背中に触った人から、彼らには見えているらしいダイ菌と呼ばれるものを、爆弾回しのようにして回す遊び。


 予鈴がなった時、最後にダイ菌がついていたやつが感染患者になるのだという。


 そんなことを始めた彼らを背に、優大は黒板の横にある時計を見る。


 あと3分で予鈴が鳴る。今日は誰が感染患者なんだか。


 またどこか他人事な思いで目を閉じ、予鈴の時間を待った。


 教室という名の、この狭い箱の中で、自分以外の歯車は周り続けている。


 どこにも噛み合うことなく、止まっている歯車は1つだけ。


 そんなイメージを思い浮かべながら、今日も三高優大は心を切り離した。

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