壺振り女
野宿を繰り返し暫く歩いた。
荒野の砂埃も影を潜め始めた。町が近い。
これまでの町より賑わいがありそうだ。
「旅人!賭場へ寄って行きな!」
「かたじけない‥」
“ベーガスシティ”
町というよりは街だ。ここは賭博や酒の販売で利益を上げているらしい。都市部から過疎地域の丁度中間に位置している。その為旅人や商人がひしめいている。
こう言った地域は治安が悪いか、取り締まりが厳しいかのどちらかだ。
早速、賭場の客引に案内してもらう。
まずはこの街の親分に挨拶だ。
一際デカい屋敷の前に待つ事数分。
扉の前にはアイアランド組の文字が光る。
「親分、お連れしました!」
「ご苦労!行ってよし!」
客引は元に戻った。
いつものように仁義を切る。
「シール領ノイツ村のケン•シャイダーと申します」
「アタイはベーガスの賭場で飯を食う女さ‥ジル•アイアランドだよ‥遊んでいきな‥」
見た目は細く背が高い女だ。
歳は30半ばくらいか?
姉御肌な印象を受ける。切れ長の目は整った顔立ちと合わさり女優か何かかと錯覚する。
髪は肩よりやや長く赤い羽織りがよく似合う。
旅人にとって数少ない娯楽と収入である博打。
当然好き嫌いに関わらずお邪魔する。
「隣失礼します‥」
「おう」
長テーブルに十数人が座れる椅子がある。
既に客がおりかなり窮屈に感じる。
背もたれなどはなく後ろ側には組員数名が見張りをしている。テーブル中央付近には女親分のジルと采配係が2人並んでいる。
「さぁアタイの店にじゃんじゃん金を落としておく
れ!!」
ジルは掛け声と共に赤い羽織りを勢いよく脱いだ。
白シャツと肌を隠すサラシを巻いている。
さらにシャツをめくって右上半身が露出する。
‘薪石賭博’
ルールは単純だ。
壺振りがダイスカップに2つのサイコロを入れる。
出た目の合計が偶数(薪)か奇数(石)かを客が賭ける。最も普及した博打だ。
ジルが壺を振る。
俺は薪に賭けた。さてどうなるやら。
「ピン6の石!」
不味いな。ついてない。
「さぁさぁまだ夜は長いよ〜!」
ジルの掛け声で采配係が札を回収して行く。
再びサイコロを振る。
「薪!!」
「石!石!」
客も段々とヒートアップしてきた。
負けたり勝ったりだがキリの良い所で引き上げなければならない。次の目が出れば暫く金に困らない。
「薪‥」
壺を開いた。
「サン5の薪!」
よし帰ろう。この辺りは旅人も泊まれる宿があるはずだ。久しぶりに手足を伸ばせる。
「それでは失礼します‥」
立ち上がり会計係に札を渡す。
「旅人、もっと遊ばないかい?」
口調は優しいが目がギラギラしている。
この辺りはヤクザに対して掟がある。
「楽しませて頂きました。コレを」
そう言って儲けた金額の一部を返す。
何割返すかは決まりがない。
しかし少なすぎては生かしてもらえない。
「へへっ!旅人、夜道は心配要らね〜よ」
帰る前に長テーブルに寄る。
「皆さんで酒でも飲んでください」
「ありがたいね〜!」
儲けの半分程は賭場に落としてきた。
だがこれは身の安全を保証する手段だ。
商人や町人など堅気の連中には必要無いが、旅人はこのような作法をしなければ生き残れない。
組員からガンベルトを返してもらい宿に入った。