旅人の定め
「ケン殿ありがとうございます」
「こちらこそ泊めて頂きありがとうございます‥」
猪狩り2日目だ。
野次馬が少ないお陰で昨日より多く仕留められた。
本来なら一宿一飯のみの旅人であるが、依頼された以上御厄介になるしか無い。
村長や一部の村人からは信頼を得る事が出来た。
しかし快く思わない輩も少なくない‥
「ケッ!デカイ面晒すんじゃねー!!」
「血だらけのマグナムだろうよ!」
「早く出ていけ!」
通りすがりに悪態をつかれる事もしばしばだ。
尤も旅人は凶状持ちが多く否定は意味が無い。
自警団にしてみれば活躍の場を奪ったので面白く無いのだろう。
食卓にて。
「ケン殿、あまり気にせんでくれ」
「旅人ですからね‥」
「報酬は勿論出すからもう少し残ってくれないか?」
ゲインから提案される。
「お気持ちは嬉しいですが、渡世の義理に背きます。明日にでもタデ村を出ます‥」
「そうかい‥俺も元旅人だ。ご苦労様だ‥」
「せめて何かお渡し出来るかしら?」
エリーが気を遣ってくれる。
旅人には贈り物は無下に出来ないという掟がある。
これは相手側の好意を無駄にせずに立ち去るためだ。
「では奥様、猪の干し肉と旅の水を頂きたい」
「勿論よ、好きなだけ貰って!」
干し肉は旅人にとって貴重な栄養源だ。
日持ちする上に腹に溜まる。幸い肉が余りまくっているので迷惑にはならない。
頂く干し肉は以前に村で乾燥した物だ。
仕留めた肉は数日しなければ干し肉にはならない。
「ありがとうございました‥」
「気をつけてな」
カデナ村長に見送られて村を後にする。
数時間歩いたのちに異変に気付く。
誰かにつけられている。恐らくタデ村の自警団連中だ。悪さをしなかったとは言え旅人に変わりはない。
ここで村人を殺してしまえば仁義に背く。
しかしただ殺されるのを待つわけには行かない。
荒野がやや緑がかった場所に着いた。
枝葉もやや鮮やかになりつつある。後ろの連中に少しだけ脅しを掛けるか‥
振り返らずにパイソンを抜いた。
自警団も警戒している。
「やい!本性現したな!人殺し!」
「誰もいないからな!叫んでも無駄さ!」
ライフルやショットガンを握りしめて吠えている。
彼らの近くには丁度木が生えている。
「殺したきゃ殺せ!旅人に明日は無い!」
カチン‥バーン!
木の枝目掛けてマグナムを放つ。
勢いよく枝が吹き飛ぶ!
カチン‥バーン!バーン!
連続して破壊して行く。
「まだ弾は残ってる‥さぁ来い!」
「ヒエェ〜!!人殺し〜!」
連中は土煙をあげて逃げて行った‥
ちょうど良い場所だ。ここらで野宿するとしよう。
無宿渡世はとても冷たい‥