門前払い
こんな事もあるよね?
「ヤクザ者を泊める訳には行かない!!」
「この人殺しが!!敷居を跨ぐな!」
レイルウェイを後にして数日。
ひたすら歩いてやっとの事町に着いた。
しかし待っていたのは住民達の冷たい言葉ばかりだった。こんな事は何度もあった。初めの頃は泣きながら夜道を歩いたものだ。今では感情1つ動かない。
井戸番すら態度が悪かった。
水だけで3デルも支払った。
“セルロード”
ヤクザも保安官もいないのどかな町だ。
住民たちは治安を守る為に自警団を組織している。
日が暮れると酒場ですら店を閉める具合だ。
よそ者に対する徹底した態度で身を守って来たのだろう。町中にいながらも野宿する羽目になった。
井戸番から誰にも迷惑の掛からない土地を教えて貰い、リュックを下ろす。適当に枝を集めて焚き火だ。
乾燥スープとしけたパンを用意する。
飯盒に水を張り沸騰させる。
湯ができるまでにパイソンの手入れをする。
少し歩いただけですぐに砂だらけだ。
ブラシで軽く落としてから銃身内部や可動部をチェックする。問題無しだ。グリップには滑り止めの為に麻糸をぐるぐる巻きにしている。
マグナム弾を装填して腰に仕舞う。
熱い湯に乾燥スープを注いで枝でかき混ぜる。
しけたパンを千切って中にぶち込む。
そして素早くかき込む。
作法の要らない場所とはつまり危険地帯という事だ。
いつ襲われるか分からない旅人は食事をできるだけ素早く済ませる。段々と火が消えかかってきた‥
「キャーー!!助けて!!誰か!!」
女性の悲鳴だ。
無視していたが段々と声と足音が近付いてくる。
「旅人さん!!助けて!お願い!」
面倒この上ないが致し方ない。
「どうした‥?」
女は息を切らしながら話した。
「男が2人‥はぁ、はぁ‥追ってくるの!‥」
「町人に助けて貰えば良いでしょう?」
「誰も出てくれないの!!」
「何故そんな時間に歩いている?」
肝心な所で追手がやって来た。
「手間かけさせやがって!このアマ!」
「逃げらんねーぞ!アァ!!」
見るからにガラの悪い連中だ。
シャツやベルトがはだけている。
よく居るケダモノだ。
「あんたらこんな時間に出ても良いのか?俺はよそ者だが、2人とも旅人には見えないな‥」
「お願い助けて!!」
女は縋り付くがどうも怪しい‥
「旅人には関係無い!女寄越せ!」
「殺されたいのか?アァ!?」
その時女がガンベルトに手を掛けようとしているのを見逃さなかった!
瞬間、女を突き飛ばしてパイソンを抜く。
「世間様にもろくでなしがいたもんだな!!」
銃を突き付けられて固まる2人。
女は倒れながらもこちらを睨んでいる。
「町にズカズカ来やがって!人殺し!」
女が何か喚いているが無視だ。
「井戸番もグルだろう。正義面して旅人から追い剥ぎする連中がいると聞いたもんでね‥」
「ケッ!ずらかるぞ!」
「待て!!」
カチン!
ハンマーを起こして3人が固まる。
「井戸番まで案内して貰おうか?」
渋々3人は歩いた。
井戸番の自宅に着いた。
「開けろ!」
素直に家主は出てきた。
「これはこれは‥さぁ中へどうぞ!」
きっと窓から見ていたに違いない。
「中々の腕とお見受けした。無礼を許して欲しい。幾らかな?」
「その金品とやらも追い剥ぎで手にした物でしょうが?部屋を見ればわかる」
素人目には分からないが、旅人が荷物によく入れている火打石や乾パン、古びたナイフなどが並んでいる。
こいつらは下衆の極みだ‥
「元より門前払いなら結構!!町の外れで野宿しろだと?今度会ったらその時は容赦無く撃つ!」
声にドスを効かせて主張する。
案外ビビっている。女は腰を抜かしている。
今までは鴨ばかりだったのだろう。
疲れているが夜道は慣れた。
義理も人情の欠片もない町だ。さっさと出よう‥
月の明かりを頼りにしてセルロードを去る。
主人公は宿泊を断られましたが、空き地なら良いよと言われた為に町で野宿しようとしました。
水の確保と動物避けの為に近くにしたいと考えていたからです。
旅人を否定するのは勝手ですが、無闇な強奪や殺生が許せなかったパターンです。