真実
後日、保安官事務所から賞金の手渡しが行われた。
本来なら旅人を取り締まる側がこのような事はしないがレッドサンでは例外だ。
「ありがとう。これは私からの気持ちだ」
賞金2000デルに追加で300デル程渡された。
「旅人の分際で受け取れません。ましてや保安官からは‥」
「本来なら私が捕まえれれば良かったんだ。これはその詫びとでも思ってくれ!」
ミュラーはそう言って渡してきた。
「ありがとうございます‥」
暫くは金に困らない。かなりの大金だ。
だが奴の事が引っかかる‥
「アイツはどうなるんですか?名前すら知らない」
「一応取り調べたが名前はベン。年齢は分からないがああ見えて18から20くらいだろう。話す前に身なりを整える事すらままならなかったからな。凶器のライフルマークや銃剣の刺し傷が適合次第、銃殺だろう」
名前を知れたのはデカい。
ダメ元で探ってみるか‥
この時俺が何故ここまで動いたのかはイマイチ分からない。しかし境遇に同情があったのは確かだ‥
昨日通った道をもう一度歩いてみた。
分かれ道で例の農夫にまた会った。
「なぁ親父さん。この辺りで年若いベンという男を知ってるか?」
農夫は一瞬顔を引き攣った。
「えっ?あ、あぁ誰から聞いたんだい?」
物凄くアタフタしている。
それから昨日の出来事を話した。
そして農夫は顔色を変えてこう話した。
「旅人さん‥家まで来てくれるかい!」
トマト農場の片隅にそれなりの家があった。
畑面積が広いので小さく見えるだけかもしれない。
居間に案内されて話を聞く。
「この写真を見てくれ!」
取り出した古い写真には若い夫婦と農夫、それに見覚えのある少年が写っていた。
「この子がベンだ‥何から話そうか‥」
農夫は語った。
10年程前の事件だ。
ベンの親子の家に押込み強盗が来た。時刻は夕飯時。
ガンベルトを付けた犯人が銃を乱射して両親は殺された。食卓には夫婦と仲の良かった農夫が大量のトマトをお裾分けしていた。
ベンに向けても乱射したが、擦り傷な上にトマトの赤で血と勘違いした犯人はトドメも刺さずに帰って行った。
「何故そこまで詳しい‥?」
「待て旅人、全て話す‥」
それから銃声を聞いた近隣住民が保安官事務所に通報した。聞きつけたミュラーが捜査したがベンだけが見つからず、犯人も行方不明のままという。
「親父さん‥ベンの居場所を知っていたんだな?」
「‥あぁ」
ベンは声を押し殺しながら長い夜道を歩いて来たという。犯人にも見られなかったのは奇跡か。
その日から口すら聞けないほど変わってしまったベンを匿っていたという。
少し落ち着いてきた頃には事件は街中に広まっていた。当然ベンの捜索願いも出た。
「ベンはやたらと保安官事務所とトマトを嫌がってな‥なんとか聞いてみたんじゃ‥」
トマトに関しては銃撃のトラウマで返り血などと混同したのだろう。畑を見るだけで癇癪を起こすので違う作物を植えている離れの小屋に住まわせた。
暫くしてベンがポツポツ話し始めた内容はこうだ。
「トウチャン‥ミュラー‥コロサレタ‥」
聞いて呆れる。法の番人が強盗殺人か!
リドラ大陸はそもそも保安官が足りないせいでヤクザやらに頼らざるお得ない治安だ。
役職に胡座をかいている奴も少なくない。
「ベンから聞いてとても事務所には連れて行けなかった‥それから2月後に隙を見てベンは飛び出した‥探そうにも誰にも言えなくてな‥」
「そうか‥用事がある‥世話になったな親父さん」
「待ってくれ!ワシも証言台に立つ!ベンは生きる為に復讐の為に仕方なく!‥」
「法を操る奴が犯人じゃどうしようも無い!仮にミュラーを裁けてもベンの罪は消えない‥」
「じゃあどうすんだい!旅人!!」
それから農夫を残して俺は出た。