尾行
「ケンの旦那!今日は俺も街に行きますよ!」
俺はマリと落ち合う場所を数カ所指定している。
銃砲店や雑貨屋などだ。しかもあまり客の来ない店の裏手でだ。何も無い時はすれ違い様に瞬きするだけだ。
今回は手下がついてきているので上手く切り抜けなければならない。そろそろマリとすれ違う。
「おい!飯盛!旦那は他の女に移ったぜ!来んな!」
なんとコイツから掛かってくれた。後は楽だ。
「うるさいね!頭に来るよ!」
マリはわざとらしく怒って瞬きをした。何か掴んだらしい。しかし今は手下を誤魔化すために敢えてスルーだ。
適当に街をぶらついて手下と賭場に戻る。
「旦那!すみませんでした!」
「何だいきなり?」
「てっきり誰かの差金かと思いました」
「そうか‥」
ここもグッと堪えて怪しまれないようにする。
あとは次の日にマリと落ち合うだけだ。
賭場に帰るとなんだか騒がしい。
「ケンの旦那!頼む!」
見てみると大柄な男が組員を素手で吹き飛ばしている。相手が武装しない限り銃は使えない。
賭場内で掟は絶対だ。破ればあらゆる信用を失うことになる。
相手は銃がない事を良いことに好き放題あばれている。組員も弱くは無いが劣勢だ。
仕方なく近づいて後ろから金的を喰らわす。
「グオッ!なんだ旅人!」
そこで足をそのまま引っ掛けて転ばす。
身長差でやりやすかった。
「今だ!!」
その後は組員にボコボコにされて男は帰った。
「また救われた。ありがとう」
ランダは完全に信用している。
言葉遣いもフランクになりつつある。
「渡世の義理です。お構いなく」
それから次の日は単独でマリに落ち合えた。
「何かわかったのか?」
「コレ‥」
手渡されたのはよくあるショットガンの弾だ。
「証拠なしに撃てば俺たちは終わるぞ‥」
「違うの!今まで気づかなかったのが馬鹿みたいにだわ。よく見て!」
2発のショットシェルは妙に軽い。
中身を分解してみると火薬や散弾の代わりに丸めた紙切れが2枚入っていた。内容を確認してみる。
1つは場所の名前。もう1つはメッセージだった。
“必ず仇を打て!”と。
2人してその場所に行ってみる。
痩せた土地に枯れ木が一本だけ生えている。
よく見ると目印みたいな物が見える。
軽く掘り出してみると箱が埋まっていた。
幸い中身は雨などで汚れないよう工夫がされていた。
中身を確認する。
そこにはマリの兄が生前に集めたアイアランド組の不正が書かれていた。そこには泣き寝入りしたであろう数々の案件が事細かに記されており、殺人や強姦と言った内容も含まれていた。
「どうしてこの証拠を?」
「兄が使っていた銃と弾は死んでからも遺品として持っていたわ。いえ、あの壺振り女から押し付けられたのよ!まさか自分から証拠を出すなんてね!」
この時俺は嫌な予感がした。
「マリ!伏せろ!!」
ズガーン!
1発の銃声が響いた。