表と裏
「昨日はご苦労様です。ケン殿、どうか楽にして下さい」
「ではお言葉に甘えて」
助太刀の礼としてランダに歓迎されている。
旅人用の質素な飯では無く豪華な品々が器に盛られている。牛肉の厚切り煮込みや高級酒など様々だ。
食事を組員に囲まれながら摂る。
ランダが時折話しかけてくる。
「その腕なら百人力です。どうですか‥暫く草鞋を脱いで行きませんか?ジルの姐御にも話は通しますよ」
「お褒めの言葉ありがとうございます。しかし一端の渡世人がおいそれと世話になれません」
「ケン殿、組員含めて遠慮はいりません。金子もそれなりに‥」
「充分頂いております。一つ条件を呑んで頂けないでしょうか?」
「何でしょう?酒や女はいくらでも‥」
「実は旅の途中、マリという飯盛に会いまして。中々に気に入りました。寝泊まりは女の宿からで如何でしょうか?」
まるで例の事件など知らずにマリに惚れているかのような流れを作った。下手に隠すより楽だからだ。
その瞬間、ランダ含め組員たちの表情が強張った。
だが下手に説明しては不利になる為濁している。
「ハハっ!あんな程度の悪い女より良い娼婦をご紹介しますよ、ハハハ!」
「ケンの旦那、まずはお近づきに一杯‥」
手下もなんだかぎこちない。
「マリをご存知で?」
「え?えぇまぁ偶々‥それより何か頼まれてはおりませんか?奴は嘘ばかり吹き込むホラ吹き女で有名で‥」
早くもボロが出てきたな。しくじればランダはジルから勘定どころでは無い。出入が制限されるかどうかはわからないが、敢えて乗ってやるか。
「名残惜しいがランダの親分さんにお任せします。一言別れだけさせて下さい」
「それは良かった!さぁ祝杯だ!!」
パァッと明るくなって宴会が始まった。
その後はマリに落ち合う場所などを伝えて別行動になった。
次の日からランダの賭場で用心棒として格別の扱いを受ける事になった。当てがわれた女は悪くない為抱いた。しかし酒はなるべく断るようにしている。
そうこうして2、3日過ぎた頃‥
「兄貴、あの旅人なんだか怪しい。暇な時は見回りしているが、目的がありそうだ」
「どうした怖いか?そんなに気になるなら後でもつけるか?ただし無礼があればお前はクビだ!」
「信じて下さい!兄貴!」
しょうがないと言い、ランダは了承した。
その会話をコッソリ聞くことが出来た。
案外早く見つかるかもな。
こうして証拠集めの1週間は過ぎた。