3.紳士な男子生徒
「…」
それから、3ヶ月後。ユーサはメジューサの校門にいた。
あの時の話し合いから、ユーザに対し母はメジューサの話など少しもしなかった。なんならその日に、友人と遊びに行こうかと考えていたほどである。初めの数日は、びくびくしたものの1ヶ月も経てばそんなことはすっかり忘れていた。
だが、昨日の夜寝る前に、母から1言、言われた。
「明日、予定あるから早めに起きなさい」
その当時ユーサは面倒臭いと思っていた。ちなみに、この時母はメジューサに行くとは言っていない。内心面倒臭いと思いつつも、親戚と会うのかな?おっ小っ遣い〜と思っていたユーサ。
心底びっくりした。と後々語る。
ちなみに移動手段は、馬車だ。
このタイメート王国は、交通産業の発展が著しい。そのため庶民などでも馬車が使えるのだ。しかし、交通産業の発展が著しいとは言え、普段からほいほい乗れるものではない。遠出の時に、よく馬車を使うのだ。
今日だって、馬車を使った。ユーサは住んでいる場所から遠くに親戚がいる。だから、きっと親戚の家に行くのだろう、そう思っていた。
…そう思っていたのだ。
実際に馬車に乗って、さっそくユーサは昼寝を始めた。
激しい揺れの中、いい天気の日に昼寝とは、庶民にとっては気持ちのいいものである。快適な睡眠の後ユーサが目を覚ますとそこは、見知らぬ学校の校門の前だった。
「おっお母さん…!?こっここは!?」
おどおどしながら聞くと、母は能天気に言った。
「メジューサよ〜あっ学校説明会始まっちゃう!…ユーサは適当にぶらぶらしてて!14時に正面玄関待ち合わせね!」
ユーサの母は小走りで校門をくぐっていった。
何も説明もなく…だ。
ユーサはメジューサの校門で1人ぼーっとしていた。
「ううぅ…どうせ入学しないしっ…」
ぷいっとユーサが校門から目を背けると一つの看板が目に入った。そこには魔術魔法研究科という文字が刻まれている。
『魔術魔法研究科
新入生募集中です』
言ってはいけないかもしれない。だがユーサは辛気臭せぇ、と考えていた。
「やぁ、この看板を見ているのかい?」
ぼーと、何気なく看板を見ていると、男から話しかけられた。
「ふぇ?…あっいやっ入学するかも決まってなくて…ですね…はい」
「本日はご家族と?」
「はっはい…母は今保護者説明会に…」
そっと顔を覗くと、高身長の男子がいた。メジューサの学生だろうか。
顔はユーサの望む、端整な顔立ちではないが、そこら辺の男子生徒とは比べ物にならない。
ユーサが見たことがあるのは、血縁関係のあるもの、田舎にいるそこら辺に転がっている芋男である。
ユーサもよく「こら男子!」と怒鳴ったものだ。
しかしどうだろう?この目の前の男はとても親切ではないか。とても。
たとえユーサの理想に届かなくても、顔が整っていると、見惚れてしまうものだ。
「そうだ、僕らの科を見ていかないかな?」
「うへぇ…?あっえっとぉ…」
そんなにいきなり誘いますかぁ…!?と思いつつも、ユーサは悩む。
ユーサが言葉を濁していると、不意に母の言葉を思い出した。
適当にぶらぶらしていいと言っていた。ならここはついていくべきだろう。
そもそも、人を勝手に連れてきたんだから、こっちだって勝手にしていいじゃないか。
暇だし。
「うっ…はっはい」
「そう、よかった」
男子生徒は、手を向け道案内をしてくれる。
すごい。この人紳士だ…と思いつつ、これが俗に言う『エスコート』ってやつか…とも思っているユーサ。見惚れているように見れるが、見惚れているわけではない。そもそも、ユーサの好みではないのだ。
断じて違う。違うのだ。
ユーサが悶々と考えている間に、12時の鐘が鳴っていた。