2.無理!
冬が来て、一周回って少し雪解けが始まった頃、学校から帰ってきたら、母に呼び出された。
「話があるから、リビングにいて」
だそうだ。
正直に言って怖いし恐ろしい。
もしかして、科学のテストが10点満点中3点だったことだろうか。
そしたら大変だ。点数がバレたらその日はもうない。
今すぐにでも聞いてテストの点数を誤魔化さなければ。
ユーサがそんな物騒なことを考えていると、台所にいる母にこう言った。
「おっお母さん?もっもしかして科学のテストのこと…?」
「はい?テストなんてあったの?」
あっやべ、ユーサはそろーと母から顔を背けた。
もう嫌だ。部屋に戻っていいだろうか?
色々なヘマを起こしたユーサに、更に母から一言追加があった。
「まあ、後で話を聞くから安心しなさい」
今、母からテストの結果を聞くような発言が聞こえたが、気のせいだろう。
…そう思いたい、そう思わせてくれ…と誰もが願うだろう。
しかし、安心して欲しい。少なくともユーサのような点数を取る者はいない。
「うへぇ…はっはぁい…」
それにしたって、いつもの母ならまず最初にテストの点数を聞くはずだが、いつも以上に重大な話があるのだろうか。
絶妙な雰囲気に、ユーサが椅子に寝っ転がると、母が来るのが見えた。母が手を拭きながら、リビングに来る。
そして、ユーサの目の前に座ってこう言った。
「ユーサ、貴女メジューサに入学なさい」
「え?」
突然の命令に戸惑うユーサ。しかし、ユーサが戸惑うのも無理はない。
ユーサの母が言ったメジューサは、アシュレット王国で唯一、魔術と魔法の教育をしている専門学校だ。
しかし、一般的には才能がある庶民で、特待生に相応しい実力だとしても、魔術専門学校__バレイテ、行くのが普通だ。
国内で一つしかない学校とならば当然のこと、エリート中のエリートしか集まらない。
しかしユーサの母はそんなエリート学校に行けというのだ。
ユーサはレイットと訓練をしたあの日から、約1年半が経っている。同じ頃に学び出した者は水球が槍に変わっている。それでも、もうそろそろ、成長を遂げているのだろう…と思うだろう。
しかし、ユーサとては、まだ水球を2mまでに飛ばすのが限界だ。何故か。それは単純明快だ。魔術の訓練をサボっていたのである。
つまるところ、ユーサがにはメジューサに行くほどの実力がついていないのだ。そんなユーサにメジューサに行けと言うのだ。
ユーサは母の精神状態又は頭の中を心配した。ユーサは心配そうな顔で我が母を見つめる。心配しているユーサだが、ユーサは母に対して、「魔術の訓練してくる〜」と、言っていた。自分の能力を心配して欲しいところである。
ユーサの母はそんな視線をすらりとかわし、こう言った。
「ほら、レイットさん。今年度からメジューサの教員として働くことになったでしょう?」
そう。ユーサの訓練を手伝っていた講師のレイット。今年度からメジューサで教員をやることになったのだ。
レイットは「当然の結果ですよ」と鼻を高々にして喋っていたとかなんとか。
そのため、昨年度でユーサの専属の講師を辞めることになったのだ。
「まぁ、別に監視いないし…」
ユーサはそう言い訳をして、魔術の勉強をさぼっていた。
ユーサが嫌な予感を感じ、顔をしかめる。
「魔術と魔法の専門学校に行ったら、理解力も上がるし、直接レイットさんからまた教え
てもらえる!一石二鳥!」
そう言って母は手を叩いてニコリと笑った。
こういう時に限って嫌な予感が当たるのはやめてほしい。 そもそも最近は魔術の勉強、訓練をさぼっていたのだ。魔術の訓練などレイットと最後に訓練したきりなような…
魔術などレイットと最後に訓練した時の、実力のままだろう。
否、実力は確実に下がっている。
レイットに聞かれたら、もれなく3ヶ月付きっきりの魔術の特訓コースが、始まるだろう。
ユーサは色々な意味で、メジューサに行きたくない。
「無理ぃ…」
「まあなんとかなるでしょ〜」
誰か。この能天気な母を止めてくれ。
と思っていたし、絶対にユーサは地の果てまで追いかけられてもメジューサには行かない。行きたくない。とも思っていた。
そう、この時ユーサはそう思っていたのだった。