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悪夢廻り 【起危廻々編】  作者: jyot
起危廻々編
7/9

悪夢の力

──俺達は夜空の下を歩き出した。心地の良い風が背中を押して来ており、歩みは軽快だ。


キラキラ光る都会の街に二人の足音だけがこだまする。そんな非日常が少しだけくすぐったい。


彼女は時折、他愛もない話題を放って来て、それに俺は少しだけふざけながら答えた。まるで前から知人だったかの様に、彼女とは気軽に会話が弾んだ。


「そう言えば鈴鳴さんって、何でその布を巻いてるんですか?」


会話の勢いで、今まで聞けなかった事を尋ねる。デリケートな話題でも無かったようで、彼女の反応はあっけらかんとしていた。


「あぁ、これですか?これも言っておかないとですよね。廻さん、長鼻の人形に発砲した時、銃弾が止まってたの見ましたか?」


「見ましたよ。傘で殴ろうとした時も止められました。あれは一体……」


「あれは長鼻が持つ『(チカラ)』なんです。奴は身を守る為に、周囲を静止させる『力』を持ってるんですよ。あれがある限り奴に物理攻撃は通じません。」


「『チカラ』って、バトル漫画の異能力みたいな奴ですかね?」


「それです。かめはめ波と一緒ですね」


「いよいよ胡散臭いなぁ……」


包み隠さず感想を述べると、彼女は苦笑して首を傾げて見せた。夢の中は何でもありか。


「でもこの『力』、実は私達も使えるんですよ。」


「え!マジで!?」


俺は少し声が大きくなり、それは静まり返った街によく響き渡った。


それはアツいな。夢の中でくらいそうでなくっちゃ!


「マジですよ。私は耳がとても良くなる力を持ってます。」


「え、目は関係無いんですか?」


目を覆っているので、てっきり目に関する力かと思った。写輪眼みたいな……。


「いえ、これは力の副作用を抑える為にしてるんです……」


彼女は急に神妙なお面持ちになり、巻かれた布をそっと撫でた。


「副作用なんてあるんですね」


「大きな『力』には大きな対価を求められます。私は音だけで周りの状況を把握できますし、数キロ先の物音も聞き取れます。でもその『力』は大きくなればなる程、視力を奪っていったんです。」


彼女は不意に立ち止まり、両の手をぶっきらぼうに短パンのポッケへ突っ込んだ。


乱立する雑居ビルの合間を縫って、風が彼女の髪をさらって行く。俺は目を細めて、その光景を傍観していた。それはまるで映画のワンシーンのようで、非現実的だった。


「だから私はこの世界での光を捨てたんです。原理は分かりませんが、目を封じることで視力の低下が治まったんです。そうしてなきゃ今頃、私は失明していましたよ。」


対価を求められる『力』。この世界で言う異能は想像よりも危険で重たいものなのだろうか。


「『力』は使いようです。溺れても、そうでなくても自分の身を滅ぼすかもしれません」


「んー。でも、そもそも力ってどうやって使うんですか?」


力を使いたいという事ではなく、単純に疑問に思ったので聞いてみた。鈴鳴さんは気づけば歩き出している。


「さぁ、分かりません。人それぞれ違いますからね。直ぐに使いこなす人もいますし、ずっと自分の力が何か、分からない人もいます。結構、感覚的なものなんですよ。ただ廻さんは水曜日生まれなんで、『逃避』の為の力である可能性が高いですかね」


逃避?水曜日生まれ?俺って水曜日生まれだっけ?と言うかそもそも彼女に生年月日を教えただろうか。俺が首を傾げていると、鈴鳴さんは補足をしてくれる。


「水曜日生まれってのは、この街に初めて来た日が水曜日って意味ですからね。ここではそういう言い方をする事が多いから。」


どうやらこの世界では初めて来た日がそれなりの意味を持つようで、生まれた曜日によって『力』の種類に傾向が出るようだ。ひと月ごとに七人の新人が生まれて、それぞれに別の系統の『力』が発現するらしい。


「火曜日が満月だったから、廻さんは今月二人目の新人さんですね。」


と説明をされている最中、俺達は目的の店に辿り着いた。彼女は会話を途中で打ち切って、雑居ビル一階に構えられているセレクトショップに近づいて行った。


一切の躊躇無く、ガラス張りの入口に向かって拳銃を構え、発砲する。音を立てて崩れるガラスを横目に、彼女は強盗さながらに店内へ押し入って行った。


「……」


「廻さん。こっち」


目を丸くする俺に向かって、彼女は手招きをする。大丈夫なんだろうなこれは。


ガラスの溜まりを踏み締めて、俺は店内に侵入する。店内はショーウィンドウから見た通り、オシャレな衣類が間隔を空けて整列されている。


鈴鳴さんは比率的に少ないメンズコーナーで服を手に取っており、さながら息子に服を選ぶお母さんのたたずまいだった。


「ここに良さ気なのありますよ。でも私じゃデザインや色まで分からないので、自分で探してみて下さい」


どうやらここで動きやすい服や靴を調達するという事らしい。


「今更なんですけど、勝手にこんなことしても大丈夫なんですか?」


「はい。大丈夫ですよ。この世界の大抵の物は持って行っても問題ないです。現実には持って帰れませんが。」


器物破損に窃盗、いくら夢でもこれだけリアルだと気が引けるというものだ。


俺は彼女に言われた通り、無難そうなパーカーと短パン、スポーツシューズを選んで、試着室にて着替えた。今まで着ていたスーツは彼女の助言で、ここに置いて行く事にした。現実世界の物は失くしても戻って来るらしい。


「うん。動きやすそうで良いと思います!」


彼女はパンッと手を鳴らし親指を突き立てた。どうやら見えていなくても音の反響で、ある程度の外見を捉えられるらしい。もしかしたら試着室に入る意味もあまり無かったのではないだろうか。そう考えると少し、恥ずかしい。


俺達は店を後にする。そっと月明かりが目に染みて、目を細める。彼女は腰に手を当て、気持ちの良い夜風を一身に受けていた。


「さっ、行きますか!」


「ほい。次はどこ行くんです?」


「ホテルですね」


「……」


──ん?

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