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彼女を救うために 2

「メグが俺を刺した事件の首謀者だって?そんなこと、あり得る訳がないだろう!」


アリー相手に声を荒げても意味はないと分かりつつも、俺、佑利は自分の声を抑えることができなかった。メグがそんなことをするはずがない。そう思っていたのはアリーも同じようだった。


「私だってそう思います。でも、モングスト家の騎士が、そう言ってメグさんを無理やり連れていったって」


「は?教会の騎士も、騎士団もいたんだろ?何をしてたんだよ」


「少年の発言の真偽がその場では分からなかったから、少なくとも参考人として話を聞く必要はあったので、止めなかったようです」


『参考人』という言葉を聞いて、少しだけヒートアップしていた思考が落ち着いた。そうだ、メグはそんなことをしていない。話だけ聞かれたら、すぐに解放されるに違いないと思った。


「それで、今メグはどこにいるんだ?すぐに帰って来られるんだよな?」


俺は期待を込めて聞いたが、答えるアリーの表情は暗いままだった。


「メグさんは今、騎士団の詰め所にいるようです。今日は牢屋に入れられるので、戻らないと言われました」


「牢屋?どうしてメグがそんなところに?」


信じられず聞き返した俺に、アリーは大粒の涙を流しながらこう答えた。


「近々裁判にかけられるからだそうです。メ、メグさんを、ユーリ様を襲った事件の首謀者だとして裁くと、騎士が……」


そこから先は涙が出るばかりで、アリーは言葉を続けることができなかった。アリーの様子を見るに、どうやらメグは本当に首謀者として疑われているようだった。どうしてこんな事実無根なことで、メグが捕えられ、裁かれるのか。意味が分からなかった。


メグを助けるためにすぐにも動き出したかったが、どうすればいいのか、何からすべきなのか検討すらつかなかった。ただアリーのすすり泣く声を聞いていると、ノックの音と共に寝室のドアが開いた。


「ユーリ様、お気づきになられたのですね」


顔を出したのは、ロバートさんだった。彼は俺の体調をまず気遣ってくれてたが、今の俺はそれどころではなかった。


「ロバートさん!メグが!メグが捕えられたって!」


今にもベッドから飛び出しそうな俺を、ロバートさんはそっと制した。


「アリーから聞きましたか。私もその件で、つい今しがた騎士団の詰め所を訪ねてきたところです」


「話を聞いてきてくれたんですか?」


「はい、今回の件はあまりにも不可解でしたので」


ロバートさんが詰め所に行ってくれたと聞いて、俺は少しばかり胸を撫で下ろした。彼もメグがそんなことをする人ではないと知っている。きっとメグを助けようとしてきてくれたのだと思った。


「それで、メグはどうしていましたか?すぐに疑いを晴らして、帰って来れますよね?」


メグは罰せられるようなことは、何もしていない。そのため、俺は当然そうなるだろうと思っていたが、ロバートさんは苦い顔で答えた。


「それがどうも、騎士は少年の発言に信憑性があると言うのです。私は関係者に当たると言われ、詳しくは話を聞かせてもらえませんでした」


「そんな……」


僅かな希望も取り上げられたような気分だった。取り付く島もないのかと俯いていると、ロバートさんが上着から何かを出すのが見えた。何だろうと思っていると、彼はそれをアリーに差し出した。


「ところでアリー、馬車の御者が騎士団から預かった荷物の中に、貴女宛の手紙が入っていたそうですよ」


ロバートさんがアリーに差し出したのは、一通の手紙だった。

「今それどろじゃありませんけど」と呟きながら、アリーはその手紙を受け取った。差出人は、騎士団にいるアリーの恋人だろう。俺も本当にそれどころではないだろうと思っていたが、ロバートさんがじっとその手紙を見ていることに気が付いた。

まさか、と思い、俺はアリーにこう頼んだ。


「アリー、その手紙、今ここで開けてくれ」


「え?ここで、ですか?」


アリーは戸惑いを見せたが、俺が真剣な顔をしていたからか、言葉に従ってくれた。

外はシンプルな白い封筒だったが、中からはアリーを思わせるような明るいオレンジで縁取られた便箋が出てきた。アリーがその便箋を広げると、ヒラリと一枚のメモがその間から滑り落ちた。それはとても恋人に言葉を贈るためのものとは思えない、何かの切れ端のような紙だった。


メモを拾い上げたアリーは、それに目を落としたかと思うと、勢いよくがばりと顔を上げた。驚いた表情をする彼女に、俺はこう言った。


「メグのこと、書かれているんだな」


「は、はいっ!でも、どうしてそれを?」


「ロバートさんがこんなときに関係のない手紙を持ってくるとは思えなかったからな」


俺の予想は正しかったようで、俺の言葉にロバートさんは小さく頷いた。


「アリー、貴女の恋人が筆まめな人で本当に助かりました。不自然に出された手紙であれば、モングスト家の騎士に握りつぶされていたかもしれません。ところで、メモには何と書かれていましたか?」


アリーは俺たちにも見えるようにメモをこちらに持ってきてくれた。


メモを書いたのはアリーの恋人のロイではなく、アレックスだった。彼は挨拶を省略する無礼を簡単に詫びた後、メグに起こったことを書いてくれていた。


アレックスのメモによると、メグは俺を刺殺しようとした事件の首謀者として拘束されているそうだ。メグ本人はもちろん否定をしている。しかし、あの少年が本来彼が知るはずもないメグの出自の話や、彼女の本名、そして母親の形見の指輪のことまで話したため、彼の供述は事実に違いないという声が騎士団の中でも上がっているらしい。

少年が言うには、メグは第二の聖女と呼ばれてからその地位を欲するようになり、聖女の座を奪い取るため俺を殺すよう彼に頼んだと言うのだった。教会内部の構造も熟知しているからきちんと逃がしてやるし、逃げ切った後は聖女の権限で教会内にポジションを用意すると言われたと話しているらしい。


「……あり得ない」


それがメモをみてまず思った感想だった。メグはそもそも聖女の立場など望んではいなかった。それに仮に俺を殺したところで、メグが聖女になれる訳ではないことは、教会に長くいる彼女ならよく分かっているはずだった。


「ロバートさん、もし俺が死んだら、誰か別の人が聖女になるんですか?」


彼は少し考えてから、俺の質問に答えてくれた。


「今までそのような前例は聞いたことがありません。それにユーリ様の場合、すでに守護結晶を満たす役割を終えられています。仮にユーリ様がいらっしゃらなくなっても、ここから新たな聖女を立てはしないでしょうね。儀式は聖女以外でもできますので。教会のことをよく知るメグも同じ答えを持つと思います」


「そうですよね。やっぱりメグがこんなことを言うとは思えませんよね」


知らない人が聞けばそれなりに筋の通った話に聞こえるかもしれないが、俺たちにはとても信じられない話だった。それに、このメモの内容には他にも気になるところがあった。


「……メグの出自を知る人は俺たちには以外にもいますよね。例えば、モングスト家の人間とか」


ロバートさんも同じ考えだったのか、彼は真剣な顔で頷いた。


「先ほど手紙を握りつぶされると申しましたが、現場に居合わせたからと言って、騎士団に混ざりモングスト家の騎士も何人か詰め所におりました。彼らは私が騎士団の詰め所にいた間、監視でもするように私についてきておりました。私は今回の件にあの家が関与している可能性が、非常に高いと思います」


モングスト家が関与していると聞いて、まず顔が思い浮かんだのはキャサリンだった。ジュリアスもろくでもない奴だったが、やつの願望はあくまでも『聖女を娶ること』だった。今回メグがこのまま罰せられたとしても、奴の要望が叶いやすくなる訳ではなかった。そうなると、やはりメグに並々ならぬ敵意を抱いていたキャサリンの方が疑わしく思えた。


しかし、それを証拠付けるものは今のところ何もなかった。


「手がかりは、あの少年になるのかな。彼が誰で、モングスト家、いやキャサリンと接点があったか調べられますか?」


この時代には防犯カメラのようなものは、もちろんない。難しいかもしれないがやるしかないと思っていると、ロバートさんは重々しく首を横に振った。


「調べることはできます。しかし、それでは時間がかかりすぎます」


「え?どういうことですか?」


聞き返した俺に、ロバートさんは残酷な事実を告げた。


「裁判が行われるのは、明後日なのです。そこまでに証拠を提出できなければ、このままメグは罪に問われ、処刑されることになるでしょう」


「えっ?」


俺とアリーが揃って驚きの声を上げた。アリーは近々裁判があるとは言っていたが、彼女もこんなにすぐだとは思っていなかったようだ。


「そんな。いくらなんでも急すぎる。なんとかならないんですか?被害者の俺が、聖女が問題ないって言いますから、その裁判止められないんですか?」


「モングスト家が主体となって聖女様を害する前代未聞の事件だと煽り、早急に裁判をするよう求めているようです。結界を構築する儀式が近いこともあり、反対の声は少ないようです。今回の件を非難する声がかなり大きいため、いくらユーリ様がおっしゃられても裁判を止めることはできないと思います」


「俺でダメなら、フランチェスカ王女に頼めばいいのか?」


俺は必死に訴えたが、ロバートさんが俺の言葉を肯定してくれることはなかった。


「先日の件はあくまでも個人間のトラブルでした。しかし、今回は公の裁判です。フランチェスカ殿下は明確な証拠もないままに片側に肩入れし、裁判を止めることはなさいませんでしょう」


それでも俺は、悪あがきをするのを止めることができなかった。


「なら、聖女の特権で何とかならないのか?聖女は罪に問われないって確か言ってましたよね?それをメグにも適用できないのですか?」


自分でも無茶苦茶なことを言っていると、自覚はしていた。けど、例え微かな可能性でも、手を伸ばさずにはいられなかった。


「ユーリ様、聖女様の特権が適用されるのは貴方だけです。それよりはユーリ様がメグの減刑を願う方が現実的かと思います。そうすれば、命までは奪われないでしょう」


ロバートさんの提案が現実的だとは分かっていた。分かってはいたが、到底受け入れることはできなかった。

俺は必死に考えた。方便でも屁理屈でも何でもいい、メグを救う方法を模索し続けた。


俺は聖女と呼ばれていても、何も奇跡は起こせない。それであっても、俺は彼女を救いたかった。暗い牢で一生を過ごさせることが精一杯だなんて、認めたくなかった。


俺が何も言わなくなったので、俺たちの間に重い沈黙が落ちた。それがどれぐらい続いただろうか。眩しかった西日が消え、辺りが暗くなってきても、俺はメグを救う可能性を探し続けた。


そうして諦めずにいた俺に、ふと一つの考えが浮かんできた。正直とんでもなく無謀で、かなりの賭けになるが、実現不可能ではないアイデアだった。


それには多くの人を巻き込む必要があった。たくさん迷惑もかけるだろうし、失敗する確率も高かった。でも、そこには確かにメグを救える可能性があった。


目を閉じ、一度大きく息を吸い込んだ。迷いは残っていた。けれどそれを振り切って、俺は腹をくくった。


顔を上げ、ロバートさんとアリーの顔を見た。俺の顔つきの変化に気が付いたのか、二人とも真剣な表情になった。そんな二人に、俺はこう宣言した。



「今から二人には聖女の名のもとに命令をする。無謀な作戦だが、反論は許さない。悪いけど、俺の無茶に巻き込まれてくれ」

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