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聖女の孫娘 2

「王宮まで足を運んでくださり、ありがとうございます、ユーリ様。アレックス、貴方もご苦労様でした」


フランチェスカ王女はにこやかに微笑みながら俺たちを出迎えてくれた。挨拶を交わし、最近のすっかり冬めいてきた寒さのことやお互いの近況などを話している間に、王宮の一流の使用人たちがてきぱきと華やかなティーセットを目の前に置き、香り高い紅茶や宝石みたいなお菓子を用意してくれた。


それらが整うと、使用人たちは静かに部屋から下がっていった。一人、また一人と仕事を終えた人から辞していき、気がつくと部屋に残ったのは俺たちを除くと、アレックスがいつも連れている侍従の男性一人と、フランチェスカ王女の側に常についている侍女一人、そしてメグとアリーだけになっていた。


あまりにも人が減った室内の様子に、メグたちは部屋に残っていて大丈夫なのかと不安になった。俺が思わず彼女たちの方にちらりと視線を向けると、隣に座るアレックスがそっと耳打ちをしてきた。


「ここからは我々の共謀を抜きにした会話になります。彼女たちは私とユーリ様のことを知っていますから、ここに残っていても問題ございませんよ」


どうやらフランチェスカ王女とアレックスが最低限の使用人以外を下がらせたのは、共謀抜き、つまり俺たちが仲が良いように振る舞う必要なく過ごせるようにするためのようだった。


二人の気遣いのお陰で一つ気にすることが減ったと思っていると、フランチェスカ王女が俺に声をかけてきた。


「ユーリ様、アレックスから話は伺いました。ご協力いただきありがとうございます。聖女様のお側にいることを許されたことで、彼の悩みも減ったと聞いています」


「いえ、この話は私にもメリットがありますので、お互い様です」


実際に俺の手紙を捌いているメグの手間もぐんと減ったと聞いている。アレックスに嫌みを言う貴族と、聖女を口説きにくる男。どちらにも俺たちの共謀作戦はかなり有効だったようだ。


「それであっても、彼を救えるのは聖女であるユーリ様だけだったのです。お心遣い、本当にありがとうございます」


前に会ったあのときも『彼を嫌わないでほしい』と言ったように、フランチェスカ王女はアレックスのことを本当に気に掛けているようだった。

前はどうしてそこまでアレックスを気遣うのかと思っていたが、聖女候補の筆頭だったフランチェスカ王女とアレックスは、彼が養子になってからかなり交流があったと先日聞いた。義父に恩を返したいという彼の考えを、王女様も知っていたのだろう。

フランチェスカ王女を見ながらそんなことを考えていると、横にいたアレックスも話に入ってきた。


「私からも改めてお礼を言わせてください。ユーリ様のおかげで、義父の顔を立てることができております。本当にありがとうございます」


「アレックス様、先ほども言いましたがこれはお互い様なのです。私も見知らぬ人からの手紙が減って助かっています。それにアレックス様からは、魔法のことなども色々教えていただいていますので、むしろお礼を言うのは私の方です」


「あのようなことでよければ、いつでもご相談ください。ユーリ様にお会いできるのであれば、私はいくらでも喜んで時間の融通をつけますので」


アレックスは整った顔を有効活用した笑みを向けながら、俺にそう言ってきた。外で見せる王子様モードのような対応に、思わず笑みがひきつってしまった。


「話自体はありがたいですが、今はそういうのは結構です」


「はは、本当にすげないですね、聖女様は」


そう言いながらも楽しげな声を上げたアレックスを見て、フランチェスカ王女もクスクスと笑った。


「ふふ、聖女様にかかれば王国随一と言われる貴方の容貌も形なしね」


そりゃどれだけ顔が整っていようが同性ですからと心の中で思いながら、俺は楽しげな二人に合わせて、笑みを浮かべておいた。




そんな共謀についての話が落ち着いたところで、アレックスが彼の侍従に視線を向けた。するとそれに応えるように、侍従は美しい装飾が施された小箱をこちらに持ってきて、俺の前に置いた。

この豪華な小箱の中身は、今日フランチェスカ王女に渡すアクセサリーだった。工房との細かなやり取りをしてくれたのも、仕上がった品物を受け取りに行ってくれたのもアレックスだったが、一応これは聖女から王女様へのプレゼントであるので、俺から手渡すことになっていた。


事前の打ち合わせの内容を思い出しながら、俺はフランチェスカ王女に声をかけた。


「フランチェスカ殿下のお誕生日が近いと伺いましたので、心ばかりですがプレゼントを用意いたしました。受け取っていただけますでしょうか?」


実際は王女様からお願いされたものだが、形式上このように言うようロバートさんからアドバイスされていた。


「まぁ、ユーリ様。ありがとうございます。お気持ち、大変嬉しく思いますわ」


フランチェスカ王女からそう返事が返ってきたので、俺は後ろに控えていたアリーに目配せをした。それを受けて彼女は緊張した面持ちで、俺の前に置かれていた小箱をそっと持ち上げた。そして、同じく前に進み出ていたフランチェスカ王女の侍女にその小箱を手渡した。

小箱を渡すだけといえばそれだけなのだが、王女様の目の前に立つのだから相当緊張したのだろう。俺の後ろに戻ってきたアリーは、口元がきゅっと力んだままであった。


そうして手渡された小箱は、侍女の手を経てフランチェスカ王女に渡された。王女様が細い指で小箱を開けると、そこには俺が魔法を込めた結晶を中心に据えた豪奢なネックレスが鎮座していた。

アクセサリーに詳しくない俺が見ても、フィリップス工房に展示されていたものとは段違いに高価なことが分かるネックレスだった。メインの結晶の周囲は細かな宝石で縁取られて、レースのような細かな模様を描いていた。


「まぁ素敵。私の目の色に合わせて青色の宝石をあしらってくださったのね。早速着けてみてもいいかしら?」


言われて見てみると、結晶の周りの宝石はフランチェスカ王女の瞳の色にそっくりであった。


「はい、ぜひ着けてみてください」


俺がそう答えると、いつの間にか白い手袋を着けたフランチェスカ王女の侍女が、ネックレスをそっと王女様の首に飾った。


それまで気づいていなかったが、今日のフランチェスカ王女のドレスやイヤリングなどはこのネックレスに合わせられていたようだった。ネックレスを着けると、最後のピースがはまったかのように、彼女の全身がぴったりと完成したように感じた。


恐らく事前にアレックスがデザインなどを伝えていたのだろうけど、俺はそんなことが必要だとは夢にも思っていなかった。やはり貴族とは住む世界が違うと、改めて思わされた。


そんなことを考えていると、横に座るアレックスが俺をフォローするようにこう言った。


「言葉をなくしそうになるほど、とてもお似合いですよね、ユーリ様?」


要らないことを考えていて、フランチェスカ王女に声を掛けそびれてしまっていた。俺は内心の焦りを隠しながら、アレックスの言葉に続いた。


「はい、とてもお似合いです。華やかなフランチェスカ殿下の雰囲気にとてもよく合うと思います」


「ありがとうございます、ユーリ様。私もとても気に入りましたわ。素敵なプレゼントをありがとうございます」


お世辞抜きに、豪奢なネックレスはフランチェスカ殿下にとても似合っていた。ほとんどお膳立てをしてもらったのだが、素敵な品物を贈ることができて本当によかったと思った。


フランチェスカ王女も本当に気に入ってくれたのか、ネックレスを手にとって眺めてくれていた。そのときに彼女の指が真ん中の結晶に触れたのを見て、俺はもう一つ伝えなければと思っていたことを思い出した。


「フランチェスカ王女、『ミラクル』の魔法を使われたらまたご連絡をください。魔力の補充を行いますので」


結晶に込めた魔力は魔法一回分だった。そのため、無くなったら補充しますよと気軽に伝えたつりもだったのだが、俺の言葉を聞いた瞬間、フランチェスカ王女とアレックスが信じられないものでも見るような目で俺を見てきた。何かやらかしたかと焦りながら二人を交互に見ていると、表情をすぐに戻したアレックスが説明をしてくれた。


「ユーリ様、『ミラクル』の魔法は使うために込めていただいたのではありません。そもそも『ミラクル』の魔法は、簡単に使うような魔法ではありません。聖女様のみが使える、祝福の光なのですから」


「私だけが使える魔法なのは存じておりました。でも、結晶に魔力も込めたので、使うのだとばかり思っておりました」


最近は『ミラクル』をかける機会が減っていたので忘れかけていたが、そういえばこの魔法は効能はないがありがたがられる魔法だった。入れとくだけで使わないのかと納得しかけたそのとき、フランチェスカ王女が小さな声でこう聞いてきた。


「ユーリ様は、私が『ミラクル』を使ってもいいとお考えなのでしょうか?」


声こそ控えめであったが、彼女の目は真剣そのものだった。むしろ鬼気迫るような何かすら感じられた。

これは彼女にとっては重要な質問なのだろう。そう思ったので、俺は誤魔化すことなく俺の考えを答えることにした。


「はい、特に問題ないと思います。この世界で『ミラクル』が特別なのは存じておりますが、私にとっては光が出る魔法の一つですから」

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