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騒動と騎士団 5

予約の取れない店だけあって、ケーキも紅茶も素晴らしい味だった。タルトの上に美しく盛り付けられた瑞々しいフルーツを食べていると、アリーが夢見るような表情でアレックスのことを語りだした。


「このお店の席を用意できるのもすごいけど、焼き菓子を買いに行ったって話を聞いただけで、ここの席を用意しようって思ってくださるのがまた素敵ですよね。さすが王都一の貴公子様」


「私たちが休めるように気を遣ってくださったのも、とてもありがたかったですね」


「わ!メグさんもそう思います?あの顔立ちで、さらに中身も完璧って本当に氷の騎士様は理想の王子様ですよね」


「確かに、すごい男だよな。あの顔で、あのスマートさだし、モテるのはよく分かった」


俺が同調すると、アリーはにまりとよくない笑みを浮かべた。


「ふふ、てことは聖女様と氷の騎士様は相思相愛ですか?」


「気持ち悪い表現をするな。そんな訳ないだろうが」


俺は心底嫌そうな顔をしたが、アリーはそこから真面目なトーンで話を続けた。


「悪くないと思うんですけどね、聖女様と氷の騎士様のラブストーリー。アレックス様は王太子の覚えもめでたい高位貴族だし、ユーリ様にあの通り好意を隠さないし、付け入る隙なしって感じに見えて」


「そう見えて何があるんだよ」


俺にはただ鳥肌が立ちそうな話に聞こえていたが、メグはアリーの言わんとすることが分かったようだった。


「ユーリ様には既にアレックス様という懇意にされているお相手がいらっしゃると見せることで、ユーリ様を狙う方々を牽制できるかもしれないということかしら?」


「そうです、そうです。そうしたら、あの大量のお誘いのお手紙も減るのかなと思いまして。アレックス様に勝てる相手なんて、この国にそうそういませんもん」


確かにあんなことを仕出かしたキャサリンの兄のジュリアスですら、いまだに俺にお茶会にと手紙を送ってくる。その他、聞いたことも会ったこともない貴族の男性からも、ひっきりなしに手紙や招待状をもらっている。俺が男であるとも知らず、誰もがあわよくば聖女の血を取り込みたいと躍起になっているのだ。


「でも、それが有効だとしても、他人の気持ちをそうやって利用するのはいい気がしないな」


向こうにも多少の下心はあるのかもしれないが、だからと言ってそれを利用していいというものではない。俺は断ったつもりだが、話はそんな単純なものではなかったようだった。


「でも、この店に来たとき、結構色んな人に見られてましたからね。ユーリ様とアレックス様のこと、すぐ噂が立つと思うんですよね」


「どういうことだ、アリー?今日の俺は聖女様の格好じゃなくて、お忍びだぞ。アレックスが女性をエスコートしたって噂は立っても、俺は顔が知られてないから相手までは分からないだろう」


「甘いですね、ユーリ様!」


ビシッと、アリーは俺に指を向けた。


「分からないから、すぐバレるんですよ。誰も見覚えがない女性で、地位の高いアレックス様が恭しくエスコートする相手。髪色は見られていますから、ユーリ様にたどり着くなんてきっとすぐですよ」


アリーの話が信じられず、俺は思わずメグの方を見てしまった。彼女は気まずそうに、でもアリーの意見を否定しなかった。


「貴族はお互いの顔ぐらいは大体把握しておりますので。アリーの推測は間違っていないと思われます」


「ええ、じゃあアレックスと俺の噂が立つってことか?アレックスが善意で案内してくれただけなのに?」


俺のその言葉を、追い討ちをかけるようにアリーが否定した。


「あのですね、ユーリ様。そんなのアレックス様は分かってたに決まってるじゃないですか。他の男性に手を退かせるために、わざとエスコートする姿を見せつけたんですよ」


「そ、そうなのか?」


「私たちをこの店に案内するだけなら、一緒に馬車に乗る必要も、この個室までわざわざエスコートする必要もないんですから。階段でも随分丁寧にユーリ様をエスコートしてくれましたよね?」


思い返せば、階段ではあの造りのいい顔に甘い笑顔を浮かべて、やたら丁寧に手を引かれた気がする。エスコート経験の浅い俺はあんなものなのかと思っていたが、そうではなかったようだ。


「なぁ、メグ、アリー、これってどうにかならないのか?」


心のどこかでダメだろうと思いつつも、すがるように彼女たちを見た。

するとメグは無言でそっと視線を逸らし、アリーはにこりと笑顔を浮かべた。


「明日には噂が王都中を駆け巡りますよ。諦めてこちらもそれを利用する方が得策だと思いますよ?」




人気の店で文句なしに美味しいケーキを食べたのに、聞かされた話のせいで後味は何とも言えないものになってしまった。俺のそんな気持ちは、店を出る前に支払いをしようとしたら、「お代はアレックス様より頂戴しております」と店員に返されたことにより、さらに膨れ上がった。

何も聞かされていなければ、男前はこんなところまでスマートなんだなとただ感心できただろう。しかし、知ってしまった今ではその手管に震えるばかりだった。


そんな複雑な心境を抱えたまま、俺たちは今度こそ教会への帰路に着いた。教会に到着すると、ロバートさんが急いでやって来て、俺たちを出迎えてくれた。どうやら騎士団との話がロバートさんの元に届いていたようで、心配をしてくれていたらしい。

事の顛末を伝えるため、俺はロバートさんを俺の部屋に迎えた。今日の広場での出来事や騎士団とのやり取りを、メグが説明してくれた。


「詳細が知れて安心しました。しかしユーリ様、あまり無茶はなさらないでくださいませ。するなら、せめて事前に我々にご相談をしてください」


ロバートさんからは、諦めのようなお説教をもらってしまった。でも確かにキャサリンのときも、今回も勝手に走り出したのは他ならぬ自分なので、俺は大人しくお説教を受け入れた。


そうして今日の外出の話が一段落したところで、ロバートさんが俺に一通の手紙を差し出した。


「ユーリ様、こちら、例の件でお手紙が届いております」


『例の件』と響きが気になったのか、メグとアリーがちらりとこちらを見た。そんな彼女たちと違い、ロバートさんが何を指しているか理解している俺は、差出人を確信しながらその手紙を受け取った。手紙の裏面には、俺の予想通りの人物の名前が書かれていた。


それは、フランチェスカ王女からの手紙だった。



その手紙には、ロバートさんが『例の件』と表現した俺がフランチェスカ王女に頼んでいた件について話をするために、俺のもとを非公式に訪れると書かれていた。手紙で指定されていた三日後にフランチェスカ王女を迎えるため、俺は準備をお願いした。


王女様を俺の部屋に迎えることとなったため、準備はメグとアリーを中心に進められた。特にアリーは、ロバートさんが俺に言った『例の件』が気になっていたようだが、俺がその話題に触れないのを見てか、詳細を聞いてくることはなかった。


彼女たちに何も話さぬまま、フランチェスカ王女がやってくる日を迎えた。当日の昼過ぎ、最低限の人員と共に、俺の部屋に王女様がやってきた。

今回は非公式の訪問のため、フランチェスカ王女はかなりシンプルなドレスを着ていた。しかし、その程度では彼女の王族としての風格は霞んではいなかった。

そこにいるだけでその場を支配する、そんな雰囲気をまとった王女様は、優雅な笑みを俺に向けた。


「お久しぶりですね、聖女ユーリ様。またお会いできて嬉しいわ」



俺の部屋のソファをすすめ、簡単な挨拶を終えると、フランチェスカ王女は側に仕えていた侍女に目を向けた。視線を受けた侍女は頭を下げ、他の使用人と共に静かに部屋から下がっていった。


「メグたちも、呼ぶまで控え室で待っていてください」


事前に伝えた通り、メグたちにも部屋から下がるように頼んだ。メグは少し心配そうな顔でこちらを見たが、その後すぐに頭を深く下げ、隣の控え室に下がっていった。

メグが隣の控え室にいても、このぐらいの距離なら声を変える結晶に魔力が届くことは事前に確認した。それでも少し不安に感じるのか、俺は無意識に首もとのネックレスに触れていた。


「時間も限られておりますし、早速ですがあの件についてお伝えましょうか」


そんな俺の仕草を気にすることなく、フランチェスカ王女が早速、今日ここに来た理由である『あの件』について切り出した。



「お願いされていたキャサリン侯爵令嬢のことについて、お話ししますわ」

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