表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/89

騒動と騎士団 4

俺にクッキーを贈ることを約束したアレックスは、早速部下を呼び寄せ、パティスリーのことなどいくつか指示を出していた。

俺としてはこれでお礼とお詫びの話は終わりにしたかったが、やはりアレックスたちはクッキーだけでは引き下がってくれなかった。彼らの態度を見るに、受け取らないと却って迷惑になりそうであったため、メグにも相談し、最終的に騎士団には俺個人にではなく教会へ寄付をしてもらうことで決着した。

今回は誰が悪いという話ではないので、お詫びとかを個人で受け取りたくなかっただけなのだが、その俺の提案をアレックスや騎士たちはさすが聖女様だと感心していた。その誤解を解きたい気持ちもあったが、色々ありすぎて俺にはもうそんな気力は残っていなかった。俺は曖昧な笑みで、彼らの反応を受け流した。



そうしてようやく全ての話し合いが終わったため、俺たちはやっと騎士団の詰め所から解放されることになった。別々にされていた護衛の人たちとも無事合流し、帰りの馬車の準備が整うのを待っていると、アレックスが俺たちの側にやってきた。


「帰りの馬車の準備が整いました。ご案内いたします」


彼はそう言うと、自然な所作で俺の前に手を差し出した。

既視感のある光景に、俺は思わず固まりそうになってしまったが、エスコートを断る理由を咄嗟には思い付けなかった。そのため、俺は観念して、でもなるべく触れる面積が少なくなるようにして彼に手を預けた。


内心かなり警戒をしていたのだが、今回は馬車に乗る前にアレックスに何かをされることはなかった。ホッとしたのも束の間、俺たち三人が馬車に乗った後、何故か護衛の人ではなくアレックスが同じ馬車に乗り込んできた。


訳が分からず思わず彼の顔を見たが、彼は何も言わず、御者に馬車を出すよう合図を出した。


「この後、少しお時間をいただくことはできますでしょうか?」


馬車が動き出してすぐ、アレックスは俺にそう聞いてきた。確か今日は一日休みのはずなので、時間的には問題はないはずだ。確認するようにメグを見ると、俺の代わりに彼女が答えてくれた。


「夕方、六の鐘ぐらいまでであれば時間はございます」


「そうですか。では、もしよろしければ教会に戻られる前に甘いものでも召し上がりませんか?あのような場所に長くいては、お疲れになったでしょう。この先に、私のおすすめの店があるのです」


早く教会に帰りたい気持ちもあったが、折角の外出の締めくくりが騎士団の詰め所というのも味気ないように思えた。それに、メグもアリーも詰め所では気を張っていたように見えたので、彼女たちの気分を変えてあげたいとも思った。


「ありがとうございます。お言葉に甘えようかと思うのですが、メグもアリーもそれでいいですか?」


「私は問題ございません」


「ユーリ様、私もメグさんと同じくです」


二人からも同意を得られたので、俺たちはアレックスの提案に乗ることにした。



街の南寄りにあった詰め所から緩い坂を登り、馬車は貴族街に近づいていった。しばらく進み、先ほどの広場から見えた図書館だという大きな建物の近くで、馬車は緩やかに停止した。


再びアレックスに手を取られ、馬車から降りると、目の前には小さな洋館があった。決して大きくはなかったが、建物も庭も隅々まで手入れが行き届いていて、例えるならリゾート地にある高級な別荘のような雰囲気であった。

俺はここが何の店かすら分からず、綺麗な造りに感心していたのだが、最後に馬車を降りてきたアリーが、ひゃっと声を上げた。

振り返ると、アリーが興奮を隠しきれない顔で、俺に小声でこう言った。


「ユーリ様!ここ、あの店です!前に言ってたあの、パティスリー・ガロンヌのカフェです!」


そういえば、あのクッキーを食べた日、アリーがそんな店の話をしていたような記憶があった。


「えーっと、確か貴族でも中々予約の取れない店という?」


アリーに小声で返したつもりだったが、その言葉に返事をしたのはアレックスだった。


「少々伝がありまして、席を用意してもらったのです。パティスリーの方のお菓子がお好きなのであれば、こちらの店も気に入っていただけるかと思いまして。さ、ユーリ様、中へどうぞ」



アレックスに促され店の中に入ると、店員がやってきて俺たちを二階の個室へと案内してくれた。

その店員に案内される最中も、アレックスは俺の手を離してはくれなかった。甘ったるい笑顔を俺に向け、ちょっとした段差ですら気にかけ、割れ物でも扱うがごとく丁寧に俺をエスコートしてくれた。


いたたまれないエスコートの末たどり着いた個室は、アンティークな家具が置かれ、高級感がありつつも温かな雰囲気を醸し出していた。

椅子を引かれ、飴色に磨かれた机につくと、そこに席が三つしか用意されていないことに気がついた。立ったままのアレックスに視線を向けると、彼はにこやかな笑顔のままこう言った。


「淑女の集まりに男が混じるのは、無粋というものですので。皆さまにゆっくり気を休めていただくためにも、私はここで失礼したいと思います」


ここでもアレックスの前で聖女ぶり続けなければならないのかと思っていたので、正直この申し出はありがたかった。


「これは私からの個人的なお詫びだとでもお考えください。ユーリ様たちに楽しんでいただければ、私にはそれで十分でございます」


「お心遣いに感謝します、アレックス様。この店を一度訪れてみたいと思っていたので、大変嬉しいです。ありがとうございます」


俺が感謝を伝えると、彼は笑みを一層深めた。


「では、私はこれで失礼いたします。どうぞごゆっくりお過ごし下さい」


そう言うと、アレックスは青いマントを翻し、退室していった。



アレックスが手配してくれたのか、店員はオーダーした料理をサーブし終わると、すぐに部屋から下がっていった。護衛も扉の外に待機していたので、部屋の中は俺たち三人だけとなった。


他の人の目がない場所で、店のおすすめだという紅茶を一口飲むと、その温かさに緊張していた神経が緩むのを感じた。ほっと息を吐いた俺の隣で、さっきまでは大人しくしていたアリーが、はしゃいだ声を上げた。


「はー、夢にまで見たガロンヌのケーキ!見てくださいこの輝き!見てるだけでも幸せになりますよ」


彼女も詰め所では緊張した顔をしていたが、憧れのケーキを前に明るい表情を見せた。


「見てるだけで十分なら、アリーの分も俺が食べてやろうか?」


「ダメ、絶対ダメです!そればっかりはいくらユーリ様でも許されません!」


まるで俺の私室にいるようなやり取りに、思わず表情が緩んだ。大はしゃぎしているアリーはもちろん、パッと見はそう変わらないが少し肩から力を抜いたメグの姿を見て、俺はここに連れてきてもらってよかったなと改めて思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ