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騒動と騎士団 2

目の前の騎士の言葉に、俺は固まってしまった。俺が変な反応をしてしまったばかりに、騎士団に連行されることになってしまった。


どうしたらいいか分からず、隊長にすがるように目を向けた。すると、彼は落ち着いたトーンで俺に言い聞かせるようにこう言った。


「大丈夫ですよ、貴女は何もやましいことはしていないのですから。それに、我々にはここで説明しづらい事情が確かにあります。騎士団の申し出に従うのがよいのではないかと思います」


「人も増えてきましたし、私も一度場所を変えるべきかと思います」


俺は詰め所に連行されるということに焦っていたが、隊長もメグもそれで問題ないと言ってくれた。その言葉で少し落ち着けた俺は、一呼吸置いてから騎士に向き直った。


「分かりました。事情を説明するためにも、詰め所に向かいます。案内していただけますか?」


「もちろんです。では私、ガーディスが、レディを我々の馬車へと案内させていただきます。広い馬車ではありませんので、護衛の方は別の馬車へとお願いします」


護衛と引き離されることを不安はあったが、隊長もメグも何も言わなかったので、俺は黙ってガーディスと名乗った騎士が差し出した手を取った。しかし、歩きだす前に、俺は彼に一つだけ質問をした。


「護衛については理解しましたが、侍女はどうなるのでしょうか?彼女たちは側においたままでも問題ありませんか?」


これは俺にとって、かなり重要なことだった。二人と別々にされるとなると彼女たちが心配だし、メグが付いてきてくれないと俺の声は男の地声に戻ってしまう。

緊張しながら返答を待つと、ガーディスは謝りながらこう言った。


「護衛の話を先にしたので、不安にさせてしまいましたね。淑女をお一人で騎士の馬車に連れ込むようなことはいたしません。侍女をお連れいただくのは、当然問題ございません」


俺の緊張を、彼はどうやら女一人で男ばかりの馬車に連れ込まれる不安と捉えたようだった。この先状況がどうなるか分からないし、メグたちと離ればなれにされないよう、俺はあえてその誤解を解かずにおいた。


「よかったです。知らないところで一人になるなど、不安で仕方ありませんので」


「そのような処遇はいたしませんので、どうかご安心ください」


普段は女性扱いされると何とも言えない気持ちになるのだが、今回ばかりは俺たちの助けになりそうだった。俺は大人しい女性に見えるように、遠慮がちに小さく頷いておいた。



俺とメグとアリーは、ガーディスに連れられ騎士団の馬車に乗った。教会がいつも手配してくれる馬車と違い、装飾より機能に重きを置いた馬車は、状況も相まって乗り心地の良いものではなかった。重い空気のまま馬車は進み、ほどなく騎士団の詰め所にたどり着いた。


詰め所は煉瓦造りの堅牢な建物であった。威圧感のある高い塀をくぐり、俺たちはガーディスの案内に従って詰め所の中を歩いた。

てっきり殺風景な取調室みたいな部屋に連れていかれると思っていたのだが、俺たち三人が案内されたのは、応接室のように見えなくもない部屋だった。

少し固いソファに座ると、ガーディスはしばらくここで待つようにだけ告げ、部屋を出ていった。


足音が遠ざかったのを確認してから、俺はドアの外にいるであろう見張りの騎士に聞こえないよう、声を潜めた。


「メグ、アリー、俺が迂闊だったばかりに、こんなことになって本当にすまない」


俺の謝罪に、彼女たちは小さく首を振った。


「あの騎士はユーリ様に目を付けていたようですから、どう対応しても結局ここに連れてこられたと思います。どうかお気になさらないでください」


「でも、俺が魔法を使ったから、こうなった訳だしさ」


「それはあの女の子を助けるためだったじゃないですか!私はあのユーリ様の行動が間違ってたとは思わないです」


「アリー、メグ、ありがとうな」


こんなところに急に連れてこられて不安もあるだろうに、二人は俺を気遣う言葉をかけてくれた。二人を守るために一緒にいなければと思っていたのに、むしろ助けられているのは俺の方だった。


「それより、これからどうするかですよ!まずはなるべく早くユーリ様が聖女であることを伝えないといけないですよね、メグさん」


「ええ、私もそう思います。恐らく向こうは教会の関係者だとは分かっているでしょうが、聖女様がいらっしゃるとは夢にも思っていないでしょうし」


「俺たち何も言ってないのに、教会の関係者って分かるのか?」


さっきガーディスに聞かれたのは、俺の行動に関することばかりだった。何か教会に関することを言ったかと思い返していると、メグが説明をしてくれた。


「護衛の方が持っている装備は、教会の騎士に支給されるものなのです。最初に我々を囲んだときに何人かの騎士が確認をしていましたので、恐らくそれぐらいは把握しているのではないかと思います」


「多分ユーリ様のことは、教会に預けられているどこかのご令嬢とでも思っているんじゃないですかね。本当にギリギリですけど、ここも一応貴族を迎えられる造りの部屋ですし」


メグたちの話は、どちらも俺には想像すらついていなかったものだった。彼女たちと一緒にいて、助けられるのはやっぱり俺の方だとひしひし感じた。


「貴族のお嬢様と思われてるなら、ひどい扱いを受けることはなさそうだな。で、俺の話をするためにも、ひとまずガーディスが戻るのをここで待てばいいのかな?」


俺の質問に、アリーは口元に指を添え、少し考える仕草をした。


「こっちはそれでもいいんですけど、向こうのことを考えると早い方がいいと思うんですよね」


「向こうのため?どういうことだ?」


「だって知らなかったとはいえ、当代の聖女様をこんな部屋に閉じ込めて、放置してるんですよ。後でこちらが正式に抗議したら、あの人首が飛ぶんじゃないですか?」


「く、首?」


自分が普段呑気に過ごしているから忘れがちだが、そういえば俺はこの世界で中々重要な人物だった。


「まさか、それ、物理的な話じゃないよな?」


恐る恐る聞いた俺に、アリーはさらっと恐ろしいことを言った。


「ユーリ様が不当な扱いを受け、命の危機を感じたとでも訴えれば、可能性はなきにしもあらず?」


「訴えない!訴えない!てか、職であっても飛んでほしくない!」


「アリー、極論を言うものではありませんよ」


メグが短い言葉で、アリーをそう窘めた。そして、極論でよかったと胸を撫で下ろしていた俺に、こう声をかけてきた。


「ユーリ様、ガーディス様のお立場を考えるなら、早めに騎士団と話をするべきかと思います。私、この部屋の警備についている騎士と少し話をして参ります」


俺たちにそう言って、メグはドアの方に向かっていった。



メグがドアの外に立つ見張りに声をかけると、彼らは意外にすんなりとドアを開けて顔を出した。外にはベテランと若手の二人の騎士がいて、ベテランの騎士の方がメグに対応した。


早めに話をしたいため、俺たちをここに連れてきたガーディスを呼んでほしいと頼んだのだが、彼の返答はたった一言だった。


「我々はここで立哨を命じられており、持ち場を離れることはできません。申し訳ございませんが、担当の者が来るまで部屋でお待ち下さい」


この世界には、無線やケータイのようなものはない。ここから動いてもらえなければ、ガーディスを呼ぶのは無理だろう。

ベテランの騎士の固い態度から、俺は待つしかないかとソファに座り直したのが、なぜか側にいたアリーが入り口の方に駆けていった。


何事かと思っていると、アリーは先ほどまで対応していたベテランの騎士ではなく、彼の横で黙って立っていた若手の騎士に声をかけた。


「ねえ、貴方もしかしてケビン?カルロッサ地区出身のロイと同室のケビンでしょ?」


アリーの言葉に、若手の騎士、ケビンと呼ばれた青年は驚いた顔をした。


「え?な、なんで俺と先輩の名前を?」


「お前、任務に関係のないことを話すな」


ベテラン騎士がそう遮ったが、アリーは構わずケビンに話しかけた。


「やっぱり!ひょろっと背が高くて、癖のある赤毛で近所のサニアンにそっくりの顔、ロイに聞いていた通りね。私、アリー。ロイと同郷の彼の恋人。彼から聞いてない?」


思い当たるところがあったのか、彼はピクリと反応した。しかし、先輩に怒られた矢先だったので、彼はイエスともノーとも答えなかった。


「同室なら、ロイから私の話を少しは聞いていない?教会で私がどれだけ重要なお方のお側にいるかとか」


アリーのその言葉に、何かを思い出したのかケビンは目を見開き、そしてソファに座る俺を見た。その反応を見て、アリーが少しトーンを落とした声で畳み掛けた。


「知ってるなら、早く上の人を呼んでちょうだい。私たちが自分たちだけのためにこう言ってる訳じゃないの、分かるでしょ?」


ケビンは不安げに視線を彷徨わせた後、小さくこう聞いた。


「でも、そ、それなら、何故今まで騎士団に名乗られていないのですか?名前を名乗るだけなんて、すぐ済むことなのに」


先輩に睨まれながら言ったケビンの言葉に答えたのは、メグだった。


「多くの人がいた広場では、混乱をきたすとして名乗るのを控えました。そして、今日の我々は休暇中でしたので、すぐに身分を証明できるものは持っておりませんでした。正式に確認をするには教会へ問い合わせをしていただく必要があるので、きちんとお話しできる場が用意されるのを待っていたのです」


「ただ言ったところで、内容が内容だけに、すぐには信じてもらえないでしょ?」


二人の言葉に、ケビンは考え込むように目を瞑った。そして、意を決したような顔をして、ベテランの騎士を見た。


「先輩、この方たちの要望を聞くべきだと思います。あちらの方は、恐らく、大変地位の高いお方です」


「証拠は?」


「……ロイ先輩は嘘を仰る方ではありません」


ケビンがそう言っても、ベテラン騎士は表情一つ動かず、「私語は謹み、任務にもどれ」と言うだけだった。前を向いたまま立哨の体勢を崩すことすらなかったので、信じてもらえなかったかと思ったが、彼は小さな声でポツリとこう付け加えた。


「次の任務、お前、俺と交代しろ」


先輩からの突然の言葉に、ケビンは「え?」と驚きの声を上げた。しかしベテラン騎士が自分を睨むように見ていることに気付くと、「はっ!分かりました!」と彼は慌てて答えた。


「私は次は西事務所で事務の担当です。先輩は次、何の任務なのでしょうか?」


先輩の様子を窺うように、ケビンは恐る恐るといった様子でベテラン騎士に尋ねた。そんな彼に返されたのは、意外な答えだった。


「休憩だ」


「は?」


己の方に驚いた顔を向けるケビンの方は見ず、彼は淡々と続けた。


「あと五分でここの任務は交代だ。それが終わって、休憩中に何をするかはお前の勝手だ」


「あ!先輩……!」


ケビンの訴えは任務の放棄を認めるほど手放しで信用はされなかったが、嘘と切り捨てられることもなかったようだった。



五分後、ケビンは先輩に大きく頭を下げると、急いで廊下を走っていった。

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