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休暇 1

モングスト侯爵との面会も終わり、俺、佑利の聖女としての王族、貴族へ『ミラクル』をかけにいくノルマは終了した。他にも聖女の訪問を希望している貴族はまだ少数いるそうだが、今回の騒動もあり、ヨンハンス司教にお願いして残りは教会まで足を運んでもらうようにしてもらった。

そのため、俺は引き続き教会にこもり、結晶に力を注ぎ、魔法の練習をして、この世界のことを学ぶ毎日に戻っていた。

以前と同じルーチンに戻ったような日々だったが、ここ最近はそこに新しい光景が加わっていた。


「そう、お辞儀のときは手をこう揃えて。体を倒す角度はこれぐらいです。しっかり首を引いて、頭を下げます」


「こんな感じですか?」


「肩が丸まっていますね。少し胸を張るイメージで姿勢を正しくしてください」


「む、難しい」


そう、前に約束をしていたメグによる講座が開かれていたのだった。メグもアリーも気合が入っていて、メグは要点をまとめた手作りのテキストまで用意していた。

奮闘するアリーの姿を見ていて、俺は自分が王城へ行く前にメグにマナーを習ったときのことを思い出していた。すると、ちょうどその思考を読んだかのように、アリーが俺にこんな声をかけてきた。


「改めてユーリ様のすごさが分かりました。あんな短期間でお城へ行くためのマナーを習得されるなんて、本当にすごいです」


そう言ったアリーは、彼女にしては珍しくちょっとしょぼくれていた。はりきってマナーを学んではいるものの、俺がメグから習っていたときよりその進みが遅いことを気にしているようだった。

確かに、俺は今のアリーよりサクサクとメグからマナーを学んでいった。しかし、それは別に俺が優秀だからとかそんな理由からではなかった。


「マナーについては、元の世界と共通するところが多かったんだ。お辞儀とかは、マナーに厳しい仕事場で働く前にきっちり仕込まれたんだよ。俺は単に事前に身に付いてるものがあったから、早めに習得できただけだよ」


デパ地下のバイトに、繁忙期の短期の旅館のバイト、後はレストランウェディングのヘルプ要員。最近は衣食住が保証されているためそういう労働からは遠のいていたが、思い返せば生活費を賄うためのバイトの中で色々経験は積んでいた。そもそも異世界に行くことなど予想すらしていなかったが、まさかあれらの経験が異世界で役立つとは思っていなかった。

そんなことを考えていた俺に向けて、アリーは少しホッとしたような表情を見せた。


「ユーリ様は、あのとき初めて習った訳じゃなかったんですね」


「そういうこと。だから、焦らずアリーはアリーのペースでやればいいんだよ」


「はい。ユーリ様、ありがとうございます」


「新しいことを習得するって大変だもんな。俺も料理をサーブするときのルールとか、中々覚えきらなくて苦労したな」


「ユーリ様はお料理のサーブもできるんですか?」


バイトしていた頃のことを思い出しながらそう言うと、横からメグが驚いたようにそう聞いてきた。


「一応できるよ。紅茶は淹れられないけど、ワインは注げるぞ」


わははと冗談を交えてそう言ったのに、メグはこちらにキラキラした目を向けてきた。


「ユーリ様は本格的に勉学をされながら、更にお仕事までされていたのですね」


「そんな上等なもんじゃないよ。まぁとにかく、俺はアリーよりは経験があるってだけってことだよ」


「経験、そうですよね。やって覚えていくしかないですよね」


「そうですよ。焦らず一つずつやっていきましょう」


「はい!」と元気な返事をして、アリーはお辞儀の練習に戻っていった。



そんな会話をした翌日、昨日と同じく俺の休憩時間に彼女たちがマナー講習をしているときに、俺の部屋のドアがノックされた。予め来訪を聞いていたので、マナー講習を中断して出迎えようとした彼女たちを止めて、俺は自分で来客を迎えた。


俺の部屋にやってきたのはロバートさんだった。事前にお願いしていた外出の件について調整がついたため、彼はその話をするために俺の部屋にやってきてくれたのだった。


「ユーリ様、お話をいただいておりました外出の件ですが、三日後にお休みをお取りいただけることになりました」


「本当ですか。色々調整してもらって、ありがとうございます」


「いえ、お礼には及びません。それと、こちらはヨンハンス司教からです。街中での簡単な注意点が書かれたものと、あとはお願いされていたものが入っております」


そう言ってロバートさんは、お金の入った封筒を渡してくれた。元の世界でいうところの五万円ぐらい分を準備してくれると言ってくれていたので、それが入っているはずだ。これで、ちょっとしたものぐらいならメグやアリーに奢ることができるだろう。


「ありがとうございます。司教にもお礼をお伝え下さい」


そうして用件を終えたロバートさんを見送ると、待ち構えていたかのようにアリーが俺に話しかけてきた。


「ユーリ様、お休み取られるんですか?」


「ああ、守護結晶の方も順調みたいだから、休みをもらうとこにしたんだ」


前にメグたちと休みが取れたら街へ出掛けたいという話をしていたので、その前提で色々と準備をした。しかし、彼女たちにも都合があるだろうし、改めて俺は彼女たちにその話を持ちかけた。


「前に街に行けたらって話をしてただろ。もし二人がよかったら、三日後一緒に街に行かないか?俺はこの辺のことはさっぱり分からないから案内してくれると助かるな。お礼に昼飯代は俺が出すからさ、美味しい店も教えてくれないか?」


話すや否や、アリーが飛び付くように返事をしてくれた。


「はい、はーい!行きます!行きたいです!オススメのお店に案内しちゃいます!」


続くようにメグもこう言ってくれた。


「私もご一緒させていただきたいです。あまり流行りのお店などには詳しくありませんが、街中の案内ぐらいはできると思います」


ちょっとだけ以前の話が社交辞令だったらどうしようかと心配していたが、それは杞憂だったようだ。二人から快諾がもらえたため、三日後の予定は無事決まった。


「なら、決まりだな。護衛の人は付くらしいけど、この街の中ならどこに行ってもいいと許可はもらってるんだ。昼飯をどこかで食べて、後はアリーが前に出してくれたあのいいクッキーの店は行きたいと思ってる」


「パティスリー・ガロンヌですね!お任せください!あと、お昼は何かご希望はありますか?」


「うーん、この街の名物とかがあれば食べてみたいかな」


俺がそう答えると、メグとアリーは早速相談を始めた。


「名物というと、やはりパイ包みになるかしら?」


「そうですね。それなら街中の食堂からちょっといいレストランでもメニューにありますよね。色々種類があって、選べるお店がいいですかね?」


「そうね。それがいいかも。ユーリ様、何か食べれないものや、苦手なものはありますか?」


「今のところ出してもらってる食事の中では特にないよ。あんまり辛すぎるとかでなければいけるよ」


「それなら、中央広場から少し貴族街に向かったところにあるパイ包みの専門店など、いかがでしょうか?」


「あそこなら下町ほど騒がしくもないし、パイ包みの種類も多いから、ちょうどいいかもしれませんね」


俺はこの街のことについてはほぼ知識がないので、彼女たちの意見が合致したのであれば、それに異を唱えるつもりはなかった。


「じゃあそのお店に行こうか。案内は頼んでもいいかな?」


「もちろんです」

「お任せください!」


この世界に来てからというもの、基本的に教会で過ごしているし、教会から出ると言っても行き先は決まっていて、馬車で目的地までまっすぐ連れていかれるばかりだった。なので、窓から街中の様子は見れていても、そこに足を踏み入れたことはなかった。

けれど、今回は護衛付きだけど、自由行動ができる。きっかけはメグやアリーにお礼をしたいというところだったけれど、俺も旅行に行くときのようなワクワクした気持ちになっていた。

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