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海の藻屑となり君と  作者: 風早 雪
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第5話 疑い

 それから海は産婦人科へと移された。核を入れられた覚えはないということ、同意はしていないということ。徐々に夫二人を疑う方向へと話は進んでいった。


「実はね、二人ともこの病院に来てるんですって。もし海さんがよかったら、話してみない?」

 産婦人科の女医は優しく問いかけた。

「勿論私も居るし、もし何かあったら隣の部屋にいるマッチョな看護師さんが食い止めてくれるわよ。」

そう言って笑いかけ、海は二人がこの診察室に入ることを認めた。


 それから海は酷く感情的になった。泣き喚いて、海を抱きしめる二人の胸を叩いたりもした。二人は海の頭を撫でて、肯定も否定もしなかった。


 それから海は一人カウンセラーの方へ移され、二人は産婦人科医の診察室へと残された。


 海は過呼吸気味になっていた。カウンセラーは海の手を握ってとんとんと優しく叩き、海のまとまらない話を「そうなのね、そういうことがあったのね、あなたはダメなんかじゃないのよ」と優しく聞いてくれた。


 一方診察室では、産婦人科医、隣の部屋から呼んだ筋肉質な看護師、そして海の夫二人での小規模で慎重な話し合いが行われていた。まず論点となったのは、なぜこのようなことをしようと考えたのかである。


 朔、修斗の二人は、決して海を苦しめようとしていたわけではなかった。ただ単に、赤ん坊が海の体に再度宿って、その子がもう一度産まれて、育てられたらそれで幸せだと思ったのである。そして海もきっとその子を第一子と同じ魂だと認識し、三人で幸せな家庭を築きなおせたら良いなと、そう思ったのである。


 二人の見解は同じで、そういった犯行に及ばなければならないほど傷ついた心を見抜けなかった責任を、医師と第一子出産に立ち会っていた看護師は感じていた。


 この世界では、核を同意なく入れることは犯罪ではない。マナー違反というだけで、犯罪ではないのだ。少子高齢化政策の、言わば汚点であり、現在もしばしば国会で論争が巻き起こっているが、とにかく子どもの数を増やさなければいけない、そこまで政府は追い込まれていると言って良いだろう。第二子以降であれば簡単に核を受け取れたのも、少子化対策の良くない甘さであり、それによって多くの望まれない命が誕生しているが、皮肉にも少子化は改善されつつある。


 その後も話し合いは進んだが、二人は一向に、新しい命は第一子と同じ魂ではないと認めなかった。つまり、二人とも何を言われようと、死んだ第一子と同じ子が新しく産まれ直すのだと信じて疑わなかったのである。



 時刻は十九時、病院の受診終了時間である。

 カウンセリング時間も十九時までであり、海は再び入院するか迷ったが、結局帰ることにした。話を聞いてもらい少し気持ちが落ち着き、夫と冷静に話し合いたいと思ったのである。


 二人の元に帰りたくない、そういった気持ちと裏腹に、海の一番信頼していて、側にいて安心する相手はやはり彼らであった。

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