表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

死にゆく月の花

作者: ブルング


 ここは、この国で最も輝いている場所。人々はこの場所を"月の花"と呼んだ。



 ありとあらゆる美しい人がここに集まっては、毎夜毎夜美しく咲き誇る。だから月の花。



 そんな舞台に、彼女は足を踏み入れた。



 オーバーオールを着た、なんともみすぼらしい彼女は、工具箱を片手に壇上に上がった。



 彼女はあたりを見渡して、深く息を吸い込んだ。



 深く深く、足りない何かを満たすかのように、めいいっぱい肺を膨らませた。



 彼女の夢はこの場所に立つことだった。子供の頃から頑張って、頑張って、そして……挫折した。



 彼女はただの整備員でしかなかった。決して表には出てこられない、決して誰の目にも止まることのない、負け組だった。



 彼女の頬を、気づけば大粒の涙が伝っていた。決して声を上げることもなく、ただ静かに、涙が流れ落ちていった。



 彼女は俯く。工具箱を握る手に力が籠る。ギリギリという金属の音があたりに響く。



 彼女は俯いたまま、仕事に取り掛かった。



 酷使された照明のフィラメントは黒く焼けこげて、もうまともに動かなかった。



 何度も人を乗せてせり上がったであろうステージの歯車は、すり減って空回りしていた。



 音響反射板は、劣化してうまく音を反射できていなかった。



 彼女はその全てを器用に修理していく。それら全ては、瞬く間に機能を取り戻し、かつての輝きを取り戻していく。



 彼女はため息をついた。目の前の装置たちは、皆輝いているというのに、自分は……どうなのだと。



 彼女はステージの真ん中に立つ。真っ暗な舞台の上で、静寂に包まれた観客席を眺める。




       彼女は大きく息を吸った。




        ライトが彼女を灯す。





    ライトの熱気で、彼女の額から汗が流れる。





      彼女は覚悟を決め、歌い出した。





 彼女の歌声は、壁で乱反射し、増幅されてあたりに響く。


 

  美しく、優雅で、そして……悲痛な歌だった。



 ステージはそんな彼女を慰めるように、ゆっくりと動き出す。



 彼女の姿は、あまりにも美しすぎた。たとえ踏み潰された花であろうとも、たとえその姿を人前で披露することが無かろうとも、そこに咲いた花は、あまりにも美しく、儚いものだった。



 その姿は、誰にも見られることはなかった。だけど……その姿はこの舞台で一番輝いていた。









 皆さんこんにちは。ブルングです。


 今回は夢破れた少女をイメージして物語を書いてみました。


 楽しんでいただけたなら嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ