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青と金

作者: 匿名希望

人生は選択の連続とは言うが、だとするとこれは私の人生にどれほどの影響を齎す選択なのだろうか。これからの自分を紡ぐ鍵となる選択は何があるのだろう。例えば私が今直面している大学入試。例えば産まれて一番最初に読む小説。もしかしたら、蝶が羽ばたくことで地球の裏で台風が起きるように、私がたい焼きを頭から食べるか尾から食べるかの選択をすることも鍵となるのかもしれない。私は人生を客観視できない。この物語の主人公は私なので当たり前だ。


私は芸大に行きたかった。これは高校三年生に初めて抱いた夢だった。特段家が厳しい訳でもなく、親には止められなかった。芸大を受ける選択をし、必死に一年間努力をした。結論から言うと私は芸大に落ちた訳だが、浪人か現在受かっている大学の経済学部に進学するかの選択を次は迫られることになった。親は浪人も許してくれるだろうが、私は夢の追い方を分からないでいた。親は口には出さないが家の経済は困窮している。浪人をして、もう一年間の予備校、芸大に落ちたら私立美大生になるか二浪目。リアリズムに則って思考することしか私にはできず、初めて対峙した夢に対しては最悪の場合ばかりが可能性を占めていく気がする。自分を必死に正当化して私は夢から逃げ普通の大学に行くことにした。結局私はレールから外れることもできず、それでもどこか異質な存在になりたいという傲慢さは兼ね備えている、ただの人間なのだと実感することになった。もしかしたらその傲慢さだけは周りとは違うのかもしれない。自分の卑しさだけがブクブクと大きくなる。頭でっかちになった私は未だに夢の追い方を分からないでいる。頭が重い。沈んでいく気がする。息が出来なくなる。私はもしかしたら別の物語の主人公に、取るに足らない選択として消費されるだけの存在なのかもしれない。


私は普通の大学の入学式に出席している。周りを見渡すと専ら騒いでるヤツらか、スマホをいじるヤツらかの二択であった。私は心底自分がこの大学に来てしまったことを悔いている。これは芸大との相対評価ではなく絶対評価による思考であると思う。式が終わるとすぐに私は家に戻る。デッサンは毎日一枚。昨年度決めた目標だ。私は夢をまだ諦められないでいた。ただこれは誰にも話すつもりはない。どうせ普通のヤツらには理解もできまい。いつものカルトンを使用する。木炭紙をのせ筆を走らせる。目の前にリンゴを置いた。細部までよく観察する。影の落ち方、ハイライトはどこに入っているのか。くぼみや細かな傷すら見逃さない。どこまでも、まるでリンゴの種から現在までの生の流れすら見透かしているような気分になる。描きあげた絵は黒一色なのに赤が見える。匂いすら感じられるようだ。リンゴの皮をむき、三日月状に切っていく。生の流れを見透かしたつもりだったが、絵を描き終えるまでこのリンゴを食べるとは思わなかった。


私はあれからも普通の大学に通っている。最初はサークルの勧誘などに慣れなかったが、次第に減っていき、周りも背景として私を消化するようになった。講義は退屈なものばかりだが、きちんと出席する。芸大に落ちた時の保険はまだかけているのだ。物理学の講義が始まった。重力についてだ。隣の席の見知らぬヤツが話しかけてきた。何か授業で分からないことがある様子だったが、私は彼らとは関わりを持ちたくは無いのでだんまりを決め込む。相手は私に話しかけたことを後悔している様子だった。講義が終わると私はキャンパスを移動する準備をする。先程のヤツがこちらを凝視している。わたしの毛穴まで見ているのではないか、と思うほど強く細部まで見ている。もはやそれは観察に近いのかもしれない。ヤツは観察に満足したのか友達らしき人のところに歩いていった。彼はこの後友達と何を話すのか、それをまだ知らないだろう。


私は3年後無事に卒業することが出来た。もっとも私にとっては無事と言えるのかは分からないが。就活も上手く行きそれなりに名のある企業には就けた。私はすっかり夢という存在すら忘れてしまっている。美術は趣味として鑑賞する側に回った。美術館に置いてある絵画はどれもおかしなヤツら描いた絵だろう。私には描けない絵であるのがその証拠だ。余談だが、私の出身大学はそこそこの名門だ。普通の大学よりも一線を画す頭の良さだと思う。

2作目となる青と金。読んで頂きありがとうございます。

私は正しいんだ!って我を通すのって自分を客観的に見れてない証拠ですよね。人生の1番のブレーキは人間関係だと思います。2番目は今のこの寒さです。行動する気を奪う、、

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