7、アルビノ
「心を読める?」
「そうそう、俺と同じクラスの七種千紘ってやつなんだけどさ」
七種宅への突撃訪問の翌日の昼休み。
柳楽と俺は駐輪場の隅の方で昼飯を食べながら、昨日の報告をしていた。
「…そんな人いたかなぁ…」
「いや、お前は違うクラスだから知らなくて当然だろ」
「…まぁ、そうだけど…注意しておいた方がいいかな…」
まだ納得がいかない様子の柳楽は、何か言いながら弁当のおかずを口にする。
そして何か思い出したかのように「あっ」と声を出して俺を見た。
「そういえば、今日の放課後暇?」
「いや、今日はちょっと無理かなぁ…」
最近色々ありすぎたから、今日くらいはゆっくりしたいと思っていたから嘘は言っていない。
「うん、大丈夫そうだね」
「うん?話聞いてたかな?」
「大丈夫。ゆっくりできるところでお話しするだけだから」
「あれ?柳楽の能力って心を読む能力だったっけ?」
「違うよ」
「おっかしぃなぁ〜?!」
そんなに俺ってわかりやすいかな?
やっぱり頭にアルミホイル巻いてこようかな…。
〜 7、アルビノ 〜
学校の近くの市役所を少し歩くと、小さな商店街がある。
雑貨屋、肉屋、眼鏡屋、八百屋、居酒屋なんかもあり、この辺だと一番盛り上がりを見せている場所だ。
夏になると七夕祭りがあり、冬になると雪祭りがある。
「大判焼きのカスタード二つね!」
「ありがとうございます」
よく晴れた放課後の昼下がり。
そんな商店街の店の一つで、柳楽が大判焼きを購入していた。
店を出て、紙袋の中から大判焼きを取り出すと、柳楽は一つ、俺に差し出して来た。
「はい」
「お、サンキュー。いくらだった?」
「別にいいよ。そんなに高くないから」
「いや、そういうわけにもいかないだろ」
「いいから」
そう言って有無を言わせぬ状態で、大判焼きをずいと押し付けて来た。
やっぱりこいつ、変なところで意地張るよな。
取り敢えず、柳楽から大判焼きをありがたく受け取ることにする。
それを確認した柳楽は、もう一つの大判焼きを頬張ると、表情はあまり変わらないが、心なしか幸せそうな雰囲気を漂わせた。
「それで結局のところ、用事はなんなの?」
「…んむ?ただ寄り道したかっただけだよ?」
「え、嘘だぁ〜絶対何かあるじゃん…」
「…麻月君は私をなんだと思ってるの…」
寧ろ何かないとおかしいだろ。
千桐の時も、ほぼ強制的に現場に連れて行かれた感じだし、今回も能力者関係で何かあるんじゃないのか?
そんな風に思っていると、柳楽は不満そうな顔をしてジトリと睨み付けてくる。
「私だって普通の女子高生だよ?知り合いと放課後に寄り道しちゃダメなの?」
「いや、そうは言ってないけど、普通に友達とか誘えばいいんじゃないのか?」
「…麻月君は友達だと思ってるんだけど…」
「え?そう?ありがとう…」
なんと、柳楽は俺を友達判定してくれていたらしい。
女の子と友達になれたよ!やったね!
「じゃなくてだな、クラスの仲良いやつとか誘えばよかったんじゃないかって事」
俺がそう言うと、柳楽は大判焼きを食べる手を止めた。
柳楽は俺を一度見て微妙な顔をしたかと思うと、視線を大判焼きに移し、じっとみつめる。
「…私、友達少ないから」
「え、絶対嘘」
「ほんとだよ」
そう言った柳楽の口調はいつも通り淡々としているが、少しだけ語気が強かった気がした。
雰囲気から察するに、嘘をついているようには思えない。
けど、コミュニケーションに問題があるわけでもないし、性格に問題があるわけでもない柳楽に友達が少ないという話が、どうも信じられなかった。
「私、こんなだから」
柳楽は肩上の自分の銀色の髪の毛を右手で広げ、左手の人差し指で自分の青色の瞳を指し、苦笑する。
「ん?」
「なんかね、髪染めたりカラコンしてると勘違いされて、不良だって思われてるみたい」
「え、それ天然なの?」
「そうだよ。アルビノって言うらしいんだけど、生まれつき色素が足りないんだって」
「へー…」
確かに、染めたにしては随分と綺麗な色をしているとは思っていたけど、まさか天然だったとは思わなかった。
「ん?天然なら天然って言えばいいんじゃないの?別に校則破ってるわけじゃないんだし、それなら不良として扱われないだろ?」
「何回も言ってるよ…でも、一度出た噂はなかった事にはならないんだよ」
「どゆこと?」
「みんなの中では私の噂が定着しちゃって、話しかけづらくなってるの」
「色がちょっと違うくらいでみんな大袈裟だな」
「第一印象は大事だからね」
「綺麗だろうが」
「…」
一本一本がキラキラと光って見えるような銀髪、透き通るような青い瞳。
ちょっと特殊なだけで、怖がる要素なんてどこにもないだろ。
そんな風に思っていると、柳楽がキョトンとした顔でこちらを見ている事に気付いた。
目を合わせると、ふっと小さく息を吐いて、苦笑した顔をこちらに向けてくる。
「…相変わらずだね」
「またそれか…」
俺が呆れ混じりに言うと、柳楽は何故か、逆に満足気な顔で大判焼きを頬張り始めた。
「ねぇ麻月君。次あそこのコロッケ食べようよ」
「え?まだ食うの?」
「もちろん」
数歩先に進みながら振り返り、柳楽は手招きをした。
その様は能力とか外見とか全く関係ない、普通の女子高生の様だった。
人は見た目で判断してはいけない。